目標達成への道のりは前途多難−新政権の「聖域なき改革」・財政再建(2)−

(スペイン)

マドリード発

2012年05月17日

政府の緊縮財政措置の発表が相次いだが、財政再建の目標達成は困難との見方が強い。ドイツ国債との利回り格差(スプレッド)は政権交代以降、最大の400ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)を上回って推移し、マクロ経済も2012年第1四半期に景気後退入りが確認されるなど、見通しが悪化。国際金融市場からの圧力が再び強まっている。連載の後編。

<市場と欧州当局からの圧力が背景に>
12年4月に入り、政府は次々に財政再建策を発表している(2012年5月16日記事参照)。それにより緊縮財政の全体像がようやく明らかになってきた。この背景には、国際金融市場からの激しい圧力があった。11年末の単独過半数政権の発足以降、欧州中央銀行(ECB)による長期リファイナンスオペ(LTRO)で国債を安定発行しつつ、毎週金曜日の閣議で財政措置や構造改革を次々に決定してきたラホイ政権だったが、2月末に行われた2回目の入札終了後、潮目が変わり始めた。

ECBが3回目入札の実施については様子見の構えに転じ、3月初旬にラホイ政権が欧州当局との事前調整なしに12年財政赤字目標の1.4ポイント緩和を一方的に発表したことで、スペイン国債(10年物)のドイツ国債との利回り格差(スプレッド)が悪化し、7ヵ月ぶりにイタリア国債のスプレッドを再び上回るようになった。最終的にEU経済・財務相(ECOFIN)理事会との間で0.9ポイントの目標緩和が合意されたが、経済財政政策のかじ取りに定評のある民衆党(PP)政権とは思えない、稚拙な立ち回りが国際的にクローズアップされる結果になった。

さらに、総選挙の前倒しや自治州選挙といった政局を理由に、従来より半年遅れて発表された12年予算案は、歳入面で隠し財産の申告など不確実性の高い措置に頼っており、財政再建が不安視される自治州に関する措置も明確に示されていなかった。

市場はこれを受け、「政府は財政再建への取り組みの手を緩めた」と判断、景気後退入りという弱含みの経済も不安視され、ドイツ国債とのスプレッドは一気に100bp近く上昇、4月上旬から400bp台で推移している。政府はこうした圧力の下で「これまでも状況が非常に悪いことは警告してきており、今に始まったことではない」と反論しつつも、自治州の医療・教育支出の100億ユーロ削減という緊縮措置の積み増しを急いだ。

<財政赤字目標の達成は困難との見方が大勢>
ルイス・デ・ギンドス・フラード経済・競争力相は、13年には「(国債費を除く)プライマリーバランスは黒字化する」と自信を示すが、緊縮財政の相当部分を、景気に左右されやすい歳入の増加に頼っているため、財政効果の不確実性は高い。11年の財政赤字が大幅に拡大した最大の原因は、まさに国内外の予想以上の景気悪化による歳入減だった。今後の見通しも決して明るくなく、財政赤字目標の数値どおりの達成は困難との見方が強い。

2回のLTRO実施で12年の国債発行予定の約半分を消化できたのと引き替えに、厳しい緊縮財政を迫られるスペインは、「実質的なIMF管理下にある」といわれることもある。介入を回避できているのは、ひとえに有権者に選ばれた強い政権があるという政治的強みによる。

欧州委員会、ECBとIMFはスペインの財政再建の取り組みを評価している一方で、ECBはここ2ヵ月ほどスペイン国債の買い支えを行っていない。ドラギECB総裁は「スペインの改革取り組みに疑念を差し挟む余地がないため」と述べるが、国内ではこうした支援措置の不在を、ECBの無言の圧力と受け止める向きもある。

EUではフランスの大統領交代をきっかけに、厳格な緊縮財政路線から成長戦略との両立へと転換しつつあり、欧州委は各国のマクロ経済の状況によっては個別に赤字削減ペースを緩和する可能性も検討している。とはいえ市場での信認回復を通じた国債発行コスト削減を最優先とするスペイン政府としては、今後も財政改革への強い取り組み意思を示し、財政赤字目標に少しでも近づく努力を続けざるを得ない。ラホイ首相は「スペインの政治的安定は市場に安心をもたらすことができる。困難な目標ではあるが、確実に財政再建を進めるための時間はまだある」と意欲をみせる。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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