ブラジル向け自動車、無関税枠の企業配分を発表

(ブラジル、メキシコ)

メキシコ発

2012年05月08日

経済省は4月30日、3月に合意されたブラジルとの自動車協定の改定に基づく、3年間の一時的な無関税枠の企業別配分を公示する政令を公布した。各企業の配分は、メキシコ自動車工業会(AMIA)が関係者間で調整した結果を採用している。2年目と3年目の割り当てについては、現時点でブラジルに自動車を輸出していなくても今後自動車を輸出する計画を持つ企業に配慮し、一定額の割り当てを留保するかたちになっている。

<業界の意向踏まえ各社に配分>
メキシコ、ブラジル両国政府は3月19日、両国間で2002年に締結され、03年に発効したラテンアメリカ統合連合(ALADI)経済補完協定(ACE)55号附属書IIの第4次改定議定書に署名し、3年間限定の完成車関税割当の設定、完成車に関する原産地規則の改定(域内付加価値比率の引き上げ)に合意した(2012年3月19日記事3月23日記事参照)。

同改定議定書は3月26日付官報で公示され、3月19日から遡及(そきゅう)適用されている。経済省は、ブラジル政府と合意に達する3月19日までに船積みされ、同日以降にブラジルに到着した自動車に対するブラジル側の特恵関税適用を確保するため、3月26日付官報でそれまでに船積みされた分をカバーする、12年度(12年3月19日〜13年3月18日)の暫定的な割り当てを公示した。

そして今回、4月30日付で省令を公布し、12年度の割り当ての残りに加え、13年度と14年度の企業別配分を公示した。

企業別の年間割当額をみると、日産が3億2,898万ドルで最も多く、フォードが2億6,414万ドル、フォルクスワーゲン(VW)が2億6,404万ドル、クライスラーが2億5,683万ドル、ゼネラル・モーターズ(GM)が2億2,658万ドル、ホンダが1億551万ドルと続く(表1参照)。

表1  ACE55号附属書II第4次改定に基づく無関税枠の企業別配分額

割当額の配分比率は、過去のブラジルへの輸出実績(企業別割合)やメキシコ国内での生産実績(企業別割合)とは一致していない。双方の実績に加え、各社の今後の対ブラジル輸出計画なども考慮し、業界内で調整したものと思われる。経済省は4月30日付官報公示省令の前文で、4月25日付でメキシコ自動車工業会(AMIA)から各企業への配分についての提案書を受け取ったことを明らかにしている。

なお、配分を受けている企業の中には、通常の「自動車」(乗用車、小型トラック)をメキシコで製造していない企業も含まれている。ボンバルディア・レクリエーショナルプロダクツ(BRP)は、カナダのボンバルディアのレクリエーション部門が投資家グループに売却されて独立した企業で、全地形対応車(ATV)などレジャー用自動車を製造し、ブラジルにも一部輸出している。

BMWは現在、メキシコでは完成車生産を行っていないが、メキシコ州トルーカ近郊で輸入車を防弾車に改造する施設を持ち、一部はブラジルにも輸出している。EDAGもドイツ資本の製造エンジニアリング会社で、メキシコでは防弾車への改造などを行っている。

<13年度以降は新規参入者に一定枠を留保>
自動車協定の第4次改定の第2条によると、12年度から3年間、相互に関税が撤廃される関税割当の総額は、12年度は14億5,000万ドルだが、13年度は15億6,000万ドル、14年度は16億4,000万ドルに拡大される。ただし、今回、各企業に配分した金額の合計は13年度、14年度とも14億5,000万ドルのままだ。

公示された経済省令の第8条によると、13年度の残り1億1,000万ドル、14年度の残り1億9,000万ドルは、対ブラジル輸出事業への新規参入者に配慮して、現時点で留保されている。経済省は12年11月15日までに13年度の留保枠の配分方法を、13年11月15日までに14年度の留保枠の配分方法を官報公示する。

留保枠の配分には、既に割り当てを受けている表1の企業に加え、現在メキシコ国内で工場を建設中で、操業開始後はブラジル向けに輸出を計画しているマツダのような企業も参加できる。ただし、配分を受けるためには、今回公示された経済省令の第2条に記載された以下の4つの条件のうち、いずれかを満たす必要がある。

(1)関税分類(HS)コードで8702(バス)、8703(乗用車,ATV)、8704(貨物自動車)を年間最低で4万台以上製造している。
(2)03年12月31日付官報で公示され、09年11月30日付で一部改定された「完成車製造業の競争力強化および自動車国内市場開発支援のための政令」第4条に規定された「小型自動車生産企業」として登録されている。
(3)12年4月30日付官報公示省令の発効日に、HSコードで8702、8703、8704を年間最低4万台以上製造するための投資を実施中。
(4)少なくとも過去2年間に、同経済省令第1条に記載された自動車(ATVを含む乗用車および小型トラック)を輸出した実績を持つ。

<12年はクライスラーも対ブラジル輸出を開始>
12年第1四半期(1〜3月)のAMIA加盟企業の対ブラジル輸出(表2参照)をみると、日産の輸出台数が前年同期比約3倍の2万4,383台に増加し、全体の45.6%に達している。フォードも2倍以上になっており、これら2社の増加が目立つ。全企業合計でみても約2.5倍になっている。

表2企業別の対ブラジル自動車(大型バス・トラック除く)輸出台数

12年で特筆すべきことは、前年まで輸出実績がなかったクライスラーが対ブラジル輸出を開始したことだ。3月までに1万20台を輸出しており、12年第1四半期は日産に次ぐ対ブラジル輸出企業となった。

3月19日に合意された自動車協定の改定に基づき、12年度の無関税輸入は14億5,000万ドルまでとなる。過去3年間の通関統計の1台当たりの平均輸出単価(1万6,272ドル)から推定すると、無関税輸入枠は11年実績の6割程度(9万台弱)になると推定されるため、それを上回る分については、35%の関税がブラジル側で課されることになる。この関税障壁により、今後の対ブラジル自動車輸出の減速は避けられないだろう。

(中畑貴雄)

(メキシコ・ブラジル)

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