政府の輸入制限措置に苦慮−輸入事前審査には多少改善も−

(アルゼンチン)

サンパウロ発

2012年05月02日

輸入事前審査制度が2012年2月に導入され、政府の曖昧な審査基準による運用で輸入が滞り、企業は対応に苦慮している。また、以前からの非自動輸入ライセンス制度は、政府が貿易収支黒字の確保、輸入品の国産代替化を実現するために、企業側との交渉材料にしているケースもあるようだ。

<輸入事前審査の基準が曖昧>
輸入事前審査制度の導入(2012年1月17日記事参照)で、現地日系企業をはじめ現地で輸入ビジネスをする企業の間に混乱が広がっている。4月に入り、一部の日系企業からは「2月当初の混乱と比較すると、少しずつ活路が見いだせるようになってきた」との声も出てきた。ただし、日系企業が直面している輸入規制は、輸入事前審査制度と非自動輸入ライセンス制度の2つがあり、その両方の問題が根本的に改善されたわけではない。

輸入事前審査制度は、商品を輸入する際に、輸入に関する事前供述書(DJAI)を提出し、審査を経てから輸入許可を得るプロセスだ(注1)。しかしその審査にも公共歳入連邦管理庁(AFIP)によるものと、国内商業庁によるものの2つがある。いずれも輸入企業が申請してから最大72時間で審査結果が出ることになっているが、保留扱いで10日間審査期間を延長することが認められている。また申請内容に関して当局からクレームがつくこともあり、審査をパスするまで時間がかかる。特に国内商業庁の審査は、「審査の基準が曖昧」(アルゼンチン輸入業者協会)なため、輸入企業は対応に苦慮している。

報道や関係者の話によると、多くの企業は一連の審査で輸入を認めてもらうため、商業流通を所管する国内商業庁のモレノ長官と直接交渉する機会を持っているという。その際、各企業単位で輸出入の金額を均衡させる計画書の提出が求められるようだ。また、現地報道によると、自社で輸出製品を持ち合わせていない場合、コミッションを支払い、別の企業の輸出取引のインボイスを援用する「偽装輸出」によって、輸入を認めてもらう企業もあるという。

<貿易収支の増減が輸入審査に影響か>
一方、輸入事前審査制度を通じた輸入審査の厳しさの度合いは、貿易収支見通しの増減によって変化するとの指摘もある。現地報道によると、モレノ長官は、12年7月までには審査が緩和されるとの見通しを語ったという。その傾向を裏付けるように、国家統計センサス局(INDEC)は、3月の貿易黒字が10億7,700万ドル、前年同月比で約2.1倍になったと発表した。

黒字額増加の要因は、政府の規制で輸入額が抑制されたことと、一次産品の国際価格の上昇に連動して輸出額が増加したことだ。3月の輸出額は62億7,600万ドル(前年同月比2%増)、輸入額は51億9,900万ドル(8%減)だった。

輸入業者の業界団体、アルゼンチン輸入業者協会(CIRA)は、アルゼンチンに拠点を置く会員企業に対して、輸入取引の諸問題の解決に向けたアドバイスを行っている(注2)。同協会幹部はジェトロのインタビューに対し、政府との直接的な対話を通じて、政府と輸入企業双方にメリットのある結論を出せるよう努力していると話した。また、日本企業が抱えているトラブルも、輸入代理店側から協会にコンタクトがあれば、一緒に解決に向けて取り組めるのではないか、と語った。

<非自動輸入ライセンスの審査も行政が裁量>
一方、進出日系企業などは、輸入事前審査制度よりも非自動輸入ライセンス制度を問題視しているようだ。例えば、AFIPや国内商業庁による輸入事前審査が認められても、この非自動輸入ライセンスを貿易庁が認めないため、通関できないケースが散見される。貿易庁は11年12月の第2次フェルナンデス政権発足と同時に創設され、それまで産業省の管轄だった非自動輸入ライセンス発給の権限を引き継いでいる。

輸入に制約を設ける政府の狙いは、一定の貿易収支黒字の確保もさることながら、輸入代替による国産化の推進だ。非自動輸入ライセンス制度の審査基準も輸入事前審査と同様、行政当局の裁量に委ねられているところがある。

日系企業だけでなく、在アルゼンチン米国商工会議所(AMCHAM)や韓国の大韓貿易振興公社(KOTRA)の現地事務所関係者も「輸入制度に問題がある」という認識は一致している。ただし、AMCHAM関係者は、現在の状況を批判するだけでは、建設的な関係をアルゼンチンで築くことができないとして、既に導入されている制度をベースに改善案を提案するなど、アルゼンチン政府と対話を行っていると話している。

(注1)輸入事前審査制度にかかわる手続きは、AFIPのマニュアル(PDF、スペイン語のみ)が公開されている。
(注2)アルゼンチン輸入業者協会(CIRA)のコンタクト先は次のとおり。
住所:Av. Belgrano 427 P.7(C1092AAE), Buenos Aires, Argentina
電話/FAX番号:+54−11−4342−1101
ウェブサイト:http://www.cira.org.ar

(紀井寿雄)

(アルゼンチン)

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