洪水被災工業団地の投資恩典拡充−法人税減免など投資呼び戻し策−

(タイ)

バンコク発

2012年04月06日

タイ投資委員会(BOI)は、洪水で被災した工業団地への新規・拡張投資を対象に、法人税減免を中心に投資恩典を拡充する。被災地域の投資が落ち込んでいることが背景にある。工業団地防水壁工事の進展、自然大災害保険基金の発足に加え、本措置の3本柱で、被災工業団地に投資を再び呼び戻すのが狙いだ。

<被災地域への投資に最大限の投資恩典を付与>
BOIは3月28日に本会議を開き、パトムタニ県とアユタヤ県で洪水で被災した7つの工業団地のうち、6つの工業団地での投資プロジェクトに対し、期間限定で法人税免税などの投資恩典を拡充することを決めた。

パトムタニ県で今回の恩典拡充の対象になるのは、ナワナコン工業団地とバンカディ工業団地。これらの工業団地はバンコク市内から車で約40分と近く、これまで第1ゾーンとして投資恩典が最も薄かった地域。これまでの恩典は、機械輸入関税50%減免(ただし関税率10%未満のものは除く)、法人税免税3年間。ただし、法人税免税額の上限は土地と運転資金を除いた投資額の100%までだった。

今回、機械輸入関税は10%未満のものでも免税に、また法人税免税をBOIが付与する最長の8年間にするとともに、免税の上限額を1.5倍に拡大した(表参照)。

一方、第2ゾーンのアユタヤ県で今回の恩典拡充の対象になる工業団地は、ロジャナ工業団地、ハイテク工業団地、バンパイン工業団地、サハ・ラタナナコン工業団地。なお、ファクトリーランド工業団地はBOI投資奨励を受けた工業団地ではないため、今回の投資恩典拡充の対象外になる。従来、第2ゾーンは、機械輸入関税50%減免(ただし関税率10%未満のものは除く)、法人所得税は14年末までの申請であれば7年間、法人税減免額の上限は、土地と運転資金を除いた投資金額の100%までだった。

今回、機械輸入関税を完全に免税にし、かつ法人所得税免税は第1ゾーンと同様8年間だが、同期間経過後もさらに3年間にわたり50%の減税措置が受けられる。

これらの恩典を享受するには、12年末までにBOIに対して投資プロジェクトを申請する必要がある。ただし、通達はまだ出されておらず、さかのぼって適用されることになろう。

BOIの洪水被災工業団地での投資恩典拡充概要

<被災工業団地の投資回避に危機感>
政府は、11年10月25日の閣議で、洪水被災企業支援と経済復興のため、BOIが緊急提案した、a.被災した非奨励企業による同一県への投資、または被災した地域以外への新規投資に対する投資奨励、b.被災していない非奨励企業、または新規参入企業による新規事業、もしくは拡張投資に対する投資奨励、について承認した。しかし、実際にこれらの措置を実行するには、BOI本会議の承認を得て、告示化する必要がある。

被災企業による投資については、法人税減免額が投資額を超えない条件が付いている被災企業について、再投資する場合は8年間の法人税免税の恩典が付与される。ただし、投資先が被災事業地と同じ県の場合は、法人税減免額の上限は土地と運転資金を除き、既存の投資額も含め投資額の150%まで、他県の場合は100%まで、となる。

また、法人税減免額に制限がない企業の場合、残り期間と合わせた年限は8年を超えないことを条件に、法人税免除期間を3年間追加する。一方、法人税免除期間が5年以上残っている場合は、その残余年数に応じて法人税免税終了後の50%控除期間を調整する。これは、BOI本会議議長を務めるキティラット副首相名で12年2月23日に通達され、11年12月29日にさかのぼって適用された。

一方、洪水被害を受けていない非奨励企業、または新規参入企業による国内での新規事業、もしくは事業拡張に対する優遇措置については、「新規投資がタイを回避、インドネシアなどほかのASEAN諸国に流れる」というBOIの強い懸念から閣議承認されたものだ。そのため当初は、どの地域に投資しても8年間の法人税減免恩典を付与し、さらに投資地域によって法人税50%減税を複数年付与する案だった。

しかし実際には、多くは洪水懸念が残るアユタヤ県やパトムタニ県への投資を避け、洪水リスクが少ないチョンブリ県やラヨーン県など東部地域を選好する傾向が表れているものの、タイへの投資件数、金額自体は現在までのところ落ち込んでいるわけではない。12年1〜2月の外国企業によるBOI投資申請は、件数ベースで188件、金額で822億200万バーツ(1バーツ=約2.6円)と前年同期(144件、428億6,800万バーツに比べ)に比べて大きく伸びており、BOIの懸念は杞憂(きゆう)にすぎないと楽観視する向きもある。

これまでBOIの投資恩典は、特に製造業の中でも付加価値が低く、輸出競争力を失いつつある分野にまで免税措置を付与して投資を奨励していた。そのため財務省などは「財政状況が厳しい中、投資恩典の無秩序なばらまきは財務規律の悪化を招く。BOIの投資奨励対象分野を絞るべきだ」として見直しを迫った。BOIの奨励業種見直し中に大洪水が発生し、同作業がいったんは中断した経緯がある。そのためBOIは今回、被災県のパトムタニ県、アユタヤ県の工業団地に絞って投資恩典を拡充することを決めた。

<被災工業団地に投資は戻るか>
洪水で被災した工業団地は、サハ・ラタナナコン工業団地を除き、防水壁工事を開始している。5月ごろに雨期が始まるが、工業団地側は洪水の懸念が高まる雨期末期の9月ごろまでの工事完了を目指す。

また、政府はBOI本会議と同日、自然大災害保険基金を創設した(2012年4月6日記事参照)。洪水発生以来、被災地では洪水保険に加入できないなど企業資産が「丸裸状態」だったが、同基金によって支払限度額の30%までは付保することができるようになった。被災地域の洪水対策と保険による資産保全、そして今回の投資奨励恩典拡充の3本柱で、新規投資を被災地域に呼び戻し、電子部品・電気機械を中心とする産業集積を再び活性化させることを狙っている。

(助川成也)

(タイ)

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