洪水に対する再保険制度が実現−自然大災害保険基金(1)−

(タイ)

バンコク発

2012年04月06日

今後の大洪水に備え、政府による自然大災害保険基金が設立された。大洪水以降、保険会社が洪水保険付与に消極的な中、政府が公的保険制度を設けることで事業者などに保険を提供する。日系産業界が2011年11月にタイ政府に要望していた。2回に分けて経緯や内容を報告する。

<洪水発生以降、企業資産は事実上無保険状態に>
政府は3月28日、首相官邸で自然大災害保険基金(NCIF)の発足式を開いた。式典には、インラック首相のほか、キティラット副首相兼財務相、ウィラポーン復興戦略国家建設委員会(SCRF)委員長、アーコム国家経済社会開発庁(NESDB)長官、同基金の委員長となったタイ工業連盟(FTI)パユンサック会長、同基金に参加する損害保険会社54社が出席した。同基金による洪水保険が損害保険会社54社を通じて、一般世帯、中小企業、大企業に販売される。

インラック首相と自然大災害保険基金に参加する損害保険54社

11年10月以降、大洪水は中部アユタヤ県、パトムタニ県、ノンタブリ県に広がり、特に工業部門に甚大な被害を与えた。これにより、損害保険会社と再保険会社の保険金支払いが巨額に上り、これら保険会社も大きな損害を被った。日本の損害保険3大グループは、12年2月中旬時点での大洪水による損害額は、再保険回収後のネットで4,473億円に上る見込みと発表している。そのため、損保会社と再保険会社は、タイの洪水に対するリスクの高さから、災害保険のうち洪水については、新たな保険の引き受けには後ろ向きだ。

洪水発生以降、多くの企業が1月に保険契約を更新したが、保険会社から洪水は「免責」、または「支払限度額の10%または3,000万バーツ(1バーツ=約2.6円)のいずれか低い方」などといった厳しい条件が提示されていた。そのため企業の設備などの資産は、洪水に対してほぼ無保険状態を余儀なくされている。1ヵ月後に雨季が迫るにもかかわらず、企業資産を保全できていない状態だ。

<ウィラポーン委員長が基金設立に奔走>
洪水発生以降、保険会社が今後の洪水保険に対して「ネガティブな姿勢になっている」ことが徐々に顕在化、日系産業界は「保険が付けられなければ、今後の設備投資に大きな影響を与える」と懸念していた。そのため、ジェトロとバンコク日本人商工会議所幹部は11年11月14日、首相官邸にSCRF委員長に指名されたばかりのウィラポーン元副首相を訪ね、「日本政府の地震再保険制度を参考に、公的再保険制度を設けるべきだ」との項目を含む、洪水からの復旧・復興に関する要望書を提出した。その上で日系産業界は、将来の洪水に対する政府のコミットメントを求めた。

以降、ウィラポーン委員長は自ら渡欧して再保険会社に今後の洪水対策を説明、理解を求めたり、また公的再保険制度を構築・導入するため日本など各国の制度を比較・検討したりするなど、自ら先頭に立って自然大災害保険基金設立に奔走した。

(助川成也、シリンポーン・パックピンペット)

(タイ)

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