FBTの非課税範囲を見直しへ

(オーストラリア)

シドニー発

2012年02月09日

政府はフリンジ・ベネフィット税(FBT)の非課税範囲の見直しを検討している。例えば、駐在員に支給される住居手当の非課税措置を撤廃するとしており、ケースによっては企業負担が駐在員1人につき5万オーストラリア・ドル(豪ドル、1豪ドル=約83円)程度増えるとの見方もある。7月1日から実施が予定されており、外資系企業の活動に影響が出ることも予想される。

<財政黒字に向けた歳入確保策の1つ>
オーストラリアは主要先進国の中でも順調な経済成長を遂げてきた一方、金融危機後に実施した景気刺激策により政府の財政は赤字になっている。

労働党政権は2012/13年度(12年7月〜13年6月)以降、財政の黒字化を図ることを公約しており、11年11月29日に発表した中間経済・財政見通し(MYEFO)では、財政支出の見直しに加えて、向こう4年間で6億豪ドルを超える歳入を確保するなどして、公約の実現を図るとしている(2011年12月14日記事参照)

MYEFO発表と同日、ウェイン・スワン財務相は10月に実施された税制改革フォーラムでの議論を踏まえて、遠隔地勤務手当(LAFHA)に対するFBTの非課税範囲の見直しを発表している。

同相は、国税当局によると、税控除されたLAFHAの合計額は04/05年度の1億6,200万豪ドルから10/11年度には7億4,000万豪ドルに増加しており、収入の多い企業の幹部や外国人労働者に同制度の悪用が懸念されると述べている。しかし、今回の見直しは、財政の黒字化に向けた歳入確保の一環とみる向きが多い。

現在、FBTの非課税範囲として認められるLAFHAは、職務上、通常の居住地を離れて生活することを余儀なくされ、従業員が追加的に経費負担を被ることに対して、雇用者が補償として支払う手当を指しており、住居費や食費などが該当する。企業がLAFHAとして支給した場合は、FBTの適用を受けて雇用者の負担となり、個人の所得税の対象外になっている。

<非課税は国内に住宅を所有する駐在員に限定>
同相は、今回の見直しのポイントとして、以下の2項目を挙げている。

○一時居住者の税額控除は、常時利用可能な住居を国内に維持している場合に限り、業務上必要な宿泊費に対して引き続きFBTの控除(非課税)対象として取り扱われる。
○個人レベルでは、法定額を超えた宿泊代や食費について、これを証明できる状態にしておかなければならない。

外資系企業の駐在員は一時居住者に該当するが、今回発表された新たな制度が実施されると、駐在員が賃貸している住居費を雇用者が手当として支給した場合には、従業員の所得税申告に含めて課税され、雇用者が従業員の私費の立て替えや支払いをした場合には、FBTの下で全額課税されることになる見込みだ。

また食費についても、現在は、税務当局が毎年発表する通達に基づき、家族構成によって月額の食費控除額が決められているが、新制度が実施されると、食事手当として支給した場合は個人所得税が増える見込みだ。

<外資系企業の駐在員が激減するとの予測も>
日本や欧米系の企業は企業活動に重大な影響が出るとして、この方針を見直すよう要望している。政府は、具体的な制度設計と法案を、3月ごろにも発表するとみられる。

新制度は12年7月1日から実施が予定されている。駐在員の住居に対する課税について、アジア太平洋諸国では軽減措置や非課税措置を取っている国が多いといわれている。今回、政府が外資系企業の負担を増やす可能性の高い措置を発表したことで、オーストラリアへの投資が見直されるばかりか、既に進出している外資系企業の駐在員が激減して、企業活動に深刻な影響が出るのではないかと懸念する声も出始めている。

(込山誠一郎、ラーイッチ・ピーター)

(オーストラリア)

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