若年失業者の雇用促進策を強化
パリ発
2011年08月19日
若年失業者の雇用促進策について法整備が進められている。促進策の主要項目である「見習い追加税」の変更を盛り込んだ「第1次補正予算法」や、見習い訓練生の受け入れ先の拡充やステータスの向上、研修生の保護などを盛り込んだ「交互教育の発展と経歴の保護のための法律」がそれぞれ7月末に公布された。2011年に入り減少を続けていた失業登録者数は5月、6月と増加しており、政府は雇用対策の早期実施を目指す。
<訓練生受け入れ義務比率を引き上げ>
サルコジ大統領が3月1日に発表した若年失業者の雇用促進策(2011年3月11日記事参照)の主要項目である「見習い追加税」の改正が盛り込まれた「2011年第1次補正予算法」が7月29日、公布された。政府は3月1日の雇用促進策で、企業に対する見習い訓練生(注1)の受け入れ義務比率を総従業員数の3%から4%に引き上げると発表している。
見習い追加税は、従業員250人以上の企業で見習い訓練生の受け入れ数が義務数に達しない場合、一律に賃金総額の0.1%が課されているが、改正後は、訓練生の数が従業員数の1%未満の企業は賃金総額の0.2%(従業員2,000人以上の企業は0.3%)、同1〜3%の企業は0.1%、同3〜4%の企業は0.05%になる。
ただし、11年7月6日の労使合意に基づき、同税の適用については免除期間を暫定的に設定している。12年1月1日〜15年12月31日まで見習い訓練生の受け入れ率が3%を超え、かつ、a.受け入れ数が前年に比べ10%以上増えている場合、またはb.業界全体で10%以上の見習い訓練生の増加を見込む協定を締結して順守している場合、見習い追加税を免除する。
改正による増収分は、見習い訓練生を4%以上受け入れる企業に支給する奨励金の財源とする予定だ。
<受け入れ先の拡充とステータスの向上図る>
一方、若者が働きながら学ぶ「交互教育」による労働市場への取り込み強化と、研修生の保護を目的とする「交互教育の発展と経歴の保護のための法律」が7月28日、公布された(施行日は7月31日)。現在60万人が「交互教育」による職業訓練を受けているが、政府はその数を100万人に増やすよう見習い訓練生の受け入れ先の拡充を目指す。
その具体策として、従来の一般企業だけでなく、新たに人材派遣事業者、個人も見習い訓練生と見習い雇用契約を締結できることにした。また、「2人の雇用主が1人の見習い訓練生と契約することも可能」としており、建設工事関連企業などの季節労働で見習い訓練生を雇用できるようになった。
さらに、見習い訓練の最低年齢の「満15歳」を、日本の中学校に相当する中等教育機関(コレージュ)を修了していることを条件に「年内に15歳を迎えること」に引き下げた。誕生日が9〜12月に到来する場合、従来は9月の新学期の見習い訓練の開始に間に合わず、翌年9月からの見習い訓練とされていた。しかし、今後は、中等教育機関を修了していれば14歳でも9月から見習い訓練を受けられることになった。
受け入れ先の拡充だけでなく、見習い訓練生のステータスの向上も目指す。15〜26歳未満の見習い訓練生は収入が少ない一方で、学生としての恩恵も受けていない。生活の向上を図り、見習い訓練生の立場をもっと魅力的にするため、見習い訓練生は研修機関から「職業学生証」を交付され、学生用の食堂や住居などの利用時に大学生と同等の特典を受け、学生割引を享受できるようになる。
政府は見習い訓練生の対象範囲を広げることで失業者の削減を狙っているが、野党・社会党は「研修開始年齢の引き下げは16歳までの義務教育に抵触」し、「人材派遣や季節労働に見習い訓練生の門戸を開くことは、逆に見習い訓練生を若い時から(収入面で)不安定な状況に置く」と批判している。
<研修生の保護も強化>
また、政府による若年失業者の雇用対策は、見習い訓練生だけでなく、大学などの高等教育機関を卒業しても就職が困難になっている研修生にも及ぶ。「交互教育の発展と経歴の保護のための法律」は、労使の合意に基づき、研修生の保護についても規定している。高等教育の単位取得に義務付けられている研修制度を利用することで、研修生を採用して正社員と同様の労働に従事させながらも正式に雇用しない企業が多い。
この打開策として、研修生の「研修」の内容を「企業の常設ポストで通常業務を行うものであってはならない」と明記している。また、「研修生の同一企業での研修期間は就学年度の6ヵ月を超えてはならない」、「同一ポストに研修生を続けて採用する場合は、直前の研修生の研修期間の終了日から、その研修期間の3分の1に相当する期間を経てからでなければ次の研修生を採用できない」とも規定している。
<5月、6月と雇用情勢が悪化>
労働・雇用・厚生省の研究・調査・統計促進局(DARES)の発表によると、11年に入って減少を続けていた雇用局(POLE EMPLOI、日本のハローワークに相当)への失業登録者数が5月、6月と増加している(図参照)。6月の登録者数は前月比1.3%(3万3,600人)増の272万4,000人と悪化した。ベルトラン労働・雇用・厚生相は「11年第1四半期の実質GDP成長率0.9%に比べると(第2四半期の)成長率が落ち込んでおり(注2)、雇用状況は厳しい」としつつ、「雇用に向けてできるだけ早くすべての具体策を実施する必要がある」と発表している。
(注1)中等教育機関の卒業者を「見習い訓練生」、高等教育機関の卒業者を「研修生」と呼んでいる。
(注2)具体的な数値については、ベルトラン労働・雇用・厚生相は言及していない。国立統計経済研究所(INSEE)によると、11年第2四半期の実質GDP成長率は0%。
(奥山直子)
(フランス)
ビジネス短信 4e4cc059a1dd8