日米関係の重要性を再認識−シカゴで震災復興セミナー−

(米国)

シカゴ発

2011年07月14日

シカゴ日米協会は7月6日、シカゴ連邦準備銀行で東日本大震災からの復興をテーマにしたセミナーを開催した。セミナーでは、講師の浅利秀樹・在米日本大使館公使、眞銅竜日郎ジェトロ・シカゴ事務所長らが、東日本大震災で再確認された日米関係の重要性、被害を受けたインフラやサプライチェーンの回復状況、震災後の日本でのビジネスチャンスについて講演した。セミナーにはシカゴの金融、法律、貿易関係の企業関係者らを中心に約80人が参加、現地メディアから入手しにくい日本の情報に耳を傾けた。

<米国からの多大な支援に謝意>
セミナーは「Road to Recovery − Challenge and Opportunity」と題し、復興への課題とこれからの日本でのビジネス機会について情報を提供した。

在米日本大使館の浅利公使は、各国の支援の中でも、米国からの多大な支援に感謝の意を表明した。在日米軍の救援活動「Operation Tomodachi(トモダチ作戦)」による貢献、これに対して被災地の住民が砂浜に書いた「Arigato」という感謝のメッセージ、クリントン国務長官の訪日時に出された「日本はビジネスや観光の面で安全だ」とのメッセージを紹介した。

同公使は、震災後の日本は引き続き世界の主要プレーヤーとして活躍すると強調した。6月21日に開催された日米の外交および防衛担当相による「日米安全保障協議会」(2+2)で、日米同盟の重要性を再確認したことにも言及した。さらに、日本はアフガニスタンとイラクで、米国に次いで世界2位の国際援助を実施している国であることに言及。貿易関係では、APECをはじめとする経済統合に向けて日本も積極的に進んでいくことを強調した。

このほか浅利公使は、高速道路、新幹線、空港などの各種インフラが速やかに回復した状況や、日本経済は11年末には震災前の水準まで回復するとの見通し、輸出食品の安全性の確保、原子力発電所被災の収束への取り組みと今後の電力確保、復興構想会議の提言を中心とする政府の取り組みなどを幅広く紹介。米国の歌手レディ・ガガが訪日した際、日本への観光は安全だとアピールしたことも紹介した。

講演する浅利公使。右は眞銅ジェトロ・シカゴ事務所長、左はセミナー司会の山本真理弁護士

<節電や高齢化対応が今後大きなビジネス機会に>
眞銅ジェトロ・シカゴ事務所長は、自動車部品のサプライチェーンの問題について、「回復は当初、11年10月から12月ごろと見込まれていたが、予想を上回るペースで進んでおり、大幅に前倒しになる」との在米自動車関連企業経営者の見方を紹介した。

また、震災後の自粛ムードが被災地に二次的な経済被害をもたらしており、東北の蔵元「南部美人」の久慈浩介氏が、消費こそ復興につながると動画サイトYouTube(ユーチューブ)に掲載したメッセージを紹介。5月には「南部美人」や福島県の「奥の松酒造」をはじめとする日本各地の9つの蔵元がシカゴを訪れ、震災後では中西部で初めての日本酒輸出促進イベントを実施したことなど、海外市場に挑戦を続ける日本企業の取り組みを紹介した(2011年5月31日記事参照)

さらに、今後日本では節電が重要になる中で、短期的には発光ダイオード(LED)や太陽光パネルなどの節電技術、長期的には太陽光パネルをはじめ再生可能エネルギーへの投資機会が増加すると強調。また、高齢化対応の観点から、被災地の心のケアにも活躍している癒やしロボットの「パロ」をはじめとするサービスロボットが今後、日本では重要なビジネスチャンスになると強調した。

<マイナスイメージを一掃するブランドマーケティングが必要>
デュポール大学政治学部のキャサリン・イバタ・アレンズ准教授は、地震発生時に東京に滞在していた自身の経験、激しい揺れにもかかわらず倒壊した建物がなかったこと、日本人の落ち着いた行動などを紹介。また、震災後の日本で早期にインフラが回復した状況に触れ、「インフラが回復しながらも、日本に対する世界のマイナスイメージが残っているのはブランドマーケティングの問題」と指摘。ユニクロが世界の有名人と協力して行っている日本復興に向けたTシャツキャンペーンで、日本のマイナスイメージを前向きなイメージに変える努力をしている事例を紹介した。

<電力不足に対する懸念の声も>
セミナーでは、眞銅所長が震災後、神戸にリチウムイオン電池関連部品の生産拠点を設けたベルギー企業ユミコアのマーク・グリンバーグ社長のインタビューを紹介。「日本市場の重要性から震災後も投資を続けた」という同氏の発言を、日本への投資を続ける外国企業の生の声として紹介した。

セミナー参加者からは「原発の運転停止などで、日本の電力需給に不安が生じる恐れがあるのではないか」との質問が寄せられた。浅利公使は「官民挙げて15%の節電を目標に努力を続けており、電力不足に陥る恐れは少ない」と説明し、シカゴのビジネス関係者の理解を求めた。

セミナーを主催したシカゴ日米協会の馬場光國事務局長は「シカゴ日米協会の会員企業には日本との取引がある米国企業が多く、震災後の日本の状況について正確な情報を得たいという要望が特に強かった」と語る。米国では当初、被災地の悲惨な状況がトップ扱いで報道されたが、米国のリビア攻撃参加後はほとんどみられない。こうした中で、今回のセミナーは震災後の日本の経済状況だけでなく、日米関係の重要性や今後のビジネスチャンスまで幅広くカバーしており、参加者からは正確で詳細な情報提供を評価する声が多く聞かれた。

(古城大亮)

(米国)

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