被災地の蔵元などが自慢の日本酒をアピール

(米国)

シカゴ発

2011年05月31日

ジェトロは5月12日、在シカゴ日本総領事館、日本酒輸出協会と共催で、中西部地域では震災後初となる食のプロ向けの日本酒輸出促進イベントを開催した。福島第1原子力発電所の被災による影響が心配されたが、当地の業者は日本酒市場への明るい見通しと、日本食を積極的にプロモーションすることへの期待を表明した。

<53銘柄を試飲>
今回のイベントは、シカゴの有名料理学校ケンドールカレッジで行われ、シェフ、レストランオーナー、バイヤー、料理学校生徒ら約140人が参加した。久枝譲治・駐シカゴ日本総領事が日本産品の安全性に関するメッセージを伝えた後、「酒サムライ(注)」のジョン・ゴントナー氏が日本酒の特徴、製法、分類などについて講義した。また、当地の有名シェフ柳橋隆氏が、米国内でも手に入る食材を使って、日本酒と合う創作料理を披露した。

ハマチとチーズなどを生ハムで巻き、たまりじょうゆとオリーブオイルを加えた創作料理を披露する柳橋氏

参加者はその後、東北の南部美人(岩手県)、奥の松酒造(福島県)を含む日本の9つの蔵元と米国の8輸入・卸業者が出展した53銘柄を試飲した。出展者は「いわゆるBtoB(企業間取引)の場になり、ビジネスの拡大につながる」、「日本酒に対する知識が豊富な参加者が多く、反応が良かった」と話していた。

「シェフに頼まれて料理に合う日本酒を探しに来た」と語る日本食店オーナーも来場

<米国の日本酒市場は今後も拡大の見込み>
イベントに出展したシカゴの酒類卸業者「テンジン」のエリック・スワンソン氏はジェトロの取材に対し、「近年、米国の日本酒市場は拡大を続けてきた。原発被災にもかかわらず11年も日本酒市場は拡大する」と語った。同氏は、日本酒の販売促進にはシェフやサーバーなどの日本酒知識の向上が不可欠で、「日本の蔵元が米国で実際に試飲会を開催することは、食関係者の反応を知り、また、食関係者の日本酒の理解向上のためにも重要だ」とも話している。

また、出展したニューヨークの日本酒輸入業者は「現在、日本では国内消費が落ち込んでいるので、一部の蔵元は輸出に意欲を持っている。EUや東アジア近隣諸国では原発問題のため輸入規制が厳しいが、米国ではこれら諸国に比べると当局が冷静に対応している。その面からも有望な市場といえる」と指摘する。

日本酒輸出協会の松崎晴雄会長は今回のイベントに関し、「国内市場が停滞し、かつ震災の影響で閉塞的な状況の中、今までにも増して海外での販路拡大が必要だという危機感が大きい。また、原発被災による風評被害が広がりつつある中で、実際に現地で製品をアピールすることで消費低迷を防ぎたいという思いもあった。このように大変な時期であればこそ、前向きにイベントを開催し、日本酒を現地でPRすることが大きな使命だと考えている」と語る。

ゴントナー氏は生産者が米国でイベントを行う意義について、「(原発の被災の中でも)『われわれは元気で、良質の製品を作り、そして米国のバイヤーを顧客として大事に思っている』というメッセージを顧客に伝えることができる」と語っており、今後の日本産食材の米国展開を考える上でのヒントになるだろう。

講演するゴントナー氏

<原発に関し適切な情報提供を求める声>
イベントに参加した食関係者に対して、原発の被災に関してどのような意識を持っているかと聞いたところ、消費者に対する適切な情報提供や、日本産品の安全性の確保を求める意見が多かった。今後とも、米国の消費者や食関係者に対し、官民一体となって、正確で迅速な情報提供を行うことが必要だといえよう。

(注)「酒サムライ」とは、日本酒や日本の食文化を世界に広めるため、日本酒をこよなく愛し、その魅力を発信する人に対して日本酒造青年協議会が贈っている称号。現在までに外国人を含め26人に贈られている。

(古城大亮)

(米国)

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