鉄鋼製品の輸入規制に関する大臣規程を発布

(インドネシア)

ジャカルタ発

2009年03月05日

政府は、2月1日から施行した密輸防止のための5分野の輸入規制に続き、鉄鋼製品202品目を対象とした輸入規制を商業大臣規程として2月18日に発布した。鉄鋼製品は、先の5分野の輸入規制が対象とする完成品(一部、電気電子の部品を含む)と異なり、それを利用する製造業や建設業にも影響が出ることが懸念される。施行は4月1日となっているが、まだ実施運用のための総局長令などは制定されておらず、例えば登録の手続き、船積み前検査をするサーベイヤー指名、適用除外対象などが明確でないため、日系企業からも早急の対応を求める声が出ている。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<鉄鋼業界は過剰在庫、稼働率急落で大量解雇、倒産の危機に直面>
密輸防止のための5分野の輸入規制は、2008年10月末に発表された政府の緊急経済対策パッケージの1項目として09年2月1日(既製服は1月1日)から施行されている(2009年2月23日記事参照)

イドリス工業相は08年末から、国内市場の保護策として化粧品、セラミック、鉄鋼、省エネ電球、携帯電話、自動車部品(スパークプラグとフィルター)、二輪車の7分野にも輸入規制を拡大すべきだと発言していた。ただし、セラミックは緊急輸入制限(セーフガード)、省エネ電球は国家基準(SNI)の順守義務化、携帯電話は前述の5分野の輸入規制の対象となっているなど、既にほかの手段で実質的に輸入が規制されていることから、政府としては鉄鋼だけを輸入規制の追加対象に認めたと説明している。

しかし、熱間圧延鋼板や亜鉛合金メッキ鋼板は、別途、工業大臣規程により、SNI順守義務がそれぞれ5月、6月から課せられることとなっており、それだけに、今回の鉄鋼輸入規制の決定には、国内鉄鋼業界が直面している厳しい状況がうかがわれる。

統計局のデータでは、08年の鉄鋼の輸入額は前年比2.1倍の116億4,000万ドル(輸入量1,220万トン)と急増しており、特に、銑鉄や鉄スクラップなど鉄鋼一次製品(HS72)が98%増の約83億ドル、熱間圧延鋼板(HRC)や冷間圧延鋼板(CRC)など鉄鋼製品(HS73)が2.45倍の33億5,000万ドルとなっている。これについて、インドネシア鉄鋼業協会は、生産輸入業者の投機目的による在庫の積み増しが輸入増加に拍車をかけたと説明しているが、一方で、数年前から国内の鉄鋼消費量が拡大する中、生産能力の増強が追いつかず、結果として輸入依存度が高まったとの指摘もある。

国内の鉄鋼在庫は、08年末の60万トンから、2月中旬時点で、国内鉄鋼年産能力の約半分に相当する250万トンまで拡大し、鉄鋼業界の稼働率は08年半ばの85%から現在は20〜40%に急減している。業界は、このままでは年内に20万人の解雇が行われ、さらには、国内の鉄鋼関連100社が次々に倒産しかねないと、政府が強力な対策を実施するよう陳情しており、今回の決定も、政府が危機感を募らせてのこととみられる。

<対象鉄鋼品の輸入は登録業者だけに限定>
今回制定された商業大臣規程(2009年第8号)は、熱延コイル/板、冷延コイル/シート、メッキ鋼板、溶接パイプ、ワイヤーロッド、型鋼など202品目を対象とし、09年4月1日から施行され、10年12月31日に終了する(添付資料の1参照)。商業省によると、本規程発布の狙いとして、a.健全な貿易および国内市場の構築を促進し、鉄鋼輸入分野の助長的な事業環境と行政秩序を構築する、b.トタン、鉄筋コンクリートなど、インドネシア国家規格外の鉄鋼製品から消費者を保護する、c.関税分類番号(HS)の乱用などの違法な輸入を削減する、を挙げている。

規制内容は、鉄鋼製造輸入業者(IP)と鉄鋼登録輸入業者(IT)に限り鉄鋼の輸入を許可するとし、IP/ITの登録、積荷港での船積み前検査、3ヵ月ごとの輸入実績報告を求めている。ただし、本規程は、5分野の輸入規制と異なり、荷揚げ港の指定はない。

IP/ITの定義は、以下のとおり。

○鉄鋼製造輸入業者(IP):総局長から大臣名義の認定を受け、自らの生産ニーズのためだけに、鉄鋼製品を自ら輸入する承認を受けた鉄鋼製造業者と鉄鋼製品を利用する製造会社
○鉄鋼登録輸入業者(IT):総局長から大臣名義の決定を受け、鉄鋼製造輸入業者のステータスを持たない製造業者に供給するために鉄鋼製品を輸入する会社

<商業省への申請には、工業省からの技術的な判断が必要>
IP/ITの登録は、商業省外国貿易総局長に以下の書類を添付して申請し、不備がなければ受理後7営業日以内に決定される。登録の有効期間は1年間で、延長が必要。

(1)輸入業者番号(API):
a.鉄鋼製造輸入業者の場合、製造輸入業者番号/限定輸入業者番号(API−P/API−T)
b.鉄鋼登録輸入業者の場合、一般輸入業者番号(API−U)
(2)会社登録証(TDP)
(3)納税者番号(NPWP)
(4)通関登録番号(NIK)
(5)物品の種類、物品分類/関税分類/HS10ケタ、数量、仕向け港を含む1年間の物品輸入計画(RIB)
(6)工業省金属・機械・繊維・その他の産業総局長(以下、「産業総局長」)による技術的な判断書

なお、(6)のとおり、商業省への申請には、工業省の産業総局長による技術的な判断書が必要とされている。これについて、2月27日付で制定された産業総局長規程第4号で、下記の項目について工業省に申請する必要があるとしている(添付資料の2参照)。

○鉄鋼製造輸入業者(IP):
(1)製造輸入業者番号/限定輸入業者番号(API−P/API−T)
(2)会社登録証(TDP)
(3)納税者番号(NPWP)
(4)通関登録番号(NIK)
(5)生産プロセスの中で鉄鋼材料を利用する、工業事業許可(IUI)、投資調整庁からの投資承認書、または投資拡張承認書、または工業登録証(TDI)
(6)商業大臣規程No.08/M-DAG/PER/2/2009の添付に番号のある物品の種類、物品分類/関税分類/HS10ケタを含む、1年間の物品輸入需要計画(RKIB)
(7)生産能力、生産計画、1年間の生産に必要な原材料
(8)2年以上生産している場合、過去2年間の生産と原材料輸入実績報告

○鉄鋼登録輸入業者(IT):
(1)一般輸入業者番号(API−U)
(2)会社登録証(TDP)
(3)納税者番号(NPWP)
(4)通関登録番号(NIK)
(5)SIUP(商業許可証)またはインドネシア事業分類(KBLI)54420(金属・金属鉱石の輸入商業)
(6)商業大臣規程No.08/M−DAG/PER/2/2009の添付1−203番にある物品の種類、物品分類/関税分類/HS10ケタを含む1年間の物品輸入需要計画(RKIB)
(7)1年間の販売用の原材料需要、鉄鋼製造輸入業者のステータスを持たない製造業者の名前と住所
(8)鉄鋼製造輸入業者のステータスを持たない製造業者との販売契約または十分な印紙を張り付けた表明書
(9)2年以上輸入をしている場合、過去2年間の販売と原材料輸入実績報告

<JIEPAに基づく鉄鋼の輸入は適用除外だが、対象品は不明確>
関係者にとって最も関心の高い適用除外については、第9条に「本大臣規程は、インドネシア共和国政府と他国政府との鉄鋼の輸入に関する規定を含んだ2国間条約に基づく鉄鋼の輸入には適用されない」とある。ジェトロが商業省と工業省に確認したところ、日本インドネシア経済連携協定(JIEPA)が該当するという答えだったが、適用除外対象については、JIEPAによる特恵税率が適用されるすべての鉄鋼品(商業省)、JIEPAの特定用途免税制度(USDFS)の登録証明書取得者が輸入する鉄鋼品(工業省)と見解が分かれている。これについては、商業省外国貿易総局長規程を準備中であり、その中で明確にするという。

また、最も影響の大きい船積み前検査については、第5条第5項に検査を必要としない場合が以下のとおり規定されている。

(1)自動車・同部品、電気電子・同部品、造船・同部品産業分野の鉄鋼製造輸入業者の輸入する鉄鋼
(2)政府による輸入関税肩代わり便宜(BM−DTP)に基づく輸入の技術的検査または検証を既に受けて輸入する鉄鋼
(3)自由貿易地域、自由港、保税地域の産業のために輸入される鉄鋼

自動車や家電の製造業者が直接輸入する場合は、船積み前検査が不要とされているが、最終使用者がこれらの製造業者であったとしても専門商社などが輸入する場合は適用除外とならない。また、上記(2)については、具体的にどのような便宜が該当するか明確となっておらず、この運用についても外国貿易総局長規程を待つ必要がある。

本規程が施行されるまで1ヵ月もない状況だが、運用に必要な規程はまだ出そろっておらず、日系企業からは、当地の港に到着したが荷揚げできない状況になることを嫌い、鉄鋼製品の輸入を一時見送ることを検討しているとの声も出ている。日本からの鉄鋼は、国内の製造業にとって欠くことのできない部材であり、その輸入が滞ることで、結果として、稼働率の低迷、労働者の解雇など国内経済への悪影響につながることが懸念される。国内産業活性化という本規程の目的を考慮した、政府による早期の対応が強く望まれる。

(桑山広司)

(インドネシア)

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