電気製品の規格審査を厳格化−輸入品流入防止を目的とした保護主義的な動きか−

(タイ)

アジア大洋州課

2009年03月03日

2008年秋口から、薄型テレビなどのAV機器や、これらに組み込まれる電池パックなどについて、工業省傘下のタイ工業標準局(TISI)の規格審査で、認可が非常に得にくい状況が続いている。09年1月末には、TISIは審査をさらに厳格化する規定を発表、日系企業の間に困惑が広がっている。輸入品の流入防止を目的とした保護主義的な動きの可能性もある。

<AFTA規制緩和の代わりに規格審査が厳格に>
ASEAN自由貿易地域(AFTA)の原産地規則は08年8月、これまでの「域内原産比率(RVC)40%以上」から、「関税番号変更基準(CTC)」との選択制へ移行した(2008年8月12日記事参照)。これまで日本や韓国、台湾製パネルを調達し、ASEAN域内で組み立てていた薄型テレビについては、パネル部分の付加価値が全体の7割以上を占めていることから、RVC40%を満たすことが難しく、AFTA適用対象外だった。

しかし、08年8月の原産地規則の改正によって、薄型テレビもAFTAの適用が受けられるようになった。ブラウン管(CRT)と薄型テレビとが共存していた国内市場では、関税低減に伴う薄型テレビの低価格化で、テレビ市場が一気に拡大するのではと期待された。しかし、輸入品の規格審査で、08年秋口から認可が得にくい状況が続いており、日系AV機器メーカーは出鼻をくじかれた。

<早期の認可取得に向け努力>
多くの日系企業はTISIの規格審査で、これまでおおむね3ヵ月以内で認証を取得していた。しかし今回は新たな資料の提出を求められるなど、認可に6ヵ月以上もかかったケースも出ている。例えば、従来CB(認証機関)レポート提出だけで認証を取得していた企業でも、各検査仕様とその出荷検査データや、製造工程図、製造用機器のリスト、計測器の偏りを正す較正(キャリブレーション)レポートなどまで要求されたという。

そのため、企業戦略に合わせた機動的な新製品の投入ができず、投入したころには市況が軟化してしまい、利益が薄くなる懸念が出ている。

日系AV機器メーカーは、東アジアに張り巡らせた生産ネットワークを活用し、最適生産・最適調達体制を築いてきた。そのため、影響は日本製品だけでなく、中国、タイ、マレーシア製品にも及んでいる。企業は、認証取得迅速化対策として、a. CB証明書・レポートを申請書に添付したり、b.試験の省力化を目指して複数の製品を一括で申請したり、c. TISIから既に認証を受けている部品を使用する、などの対応をとっている。

CB証明書は、IEC電気機器安全規格適合試験制度(IECEE)で承認された各国国内認証機関(NCB)が、国際規格(IEC規格)に基づいて電気機器の試験を実施、当該規格の適合を示すものだ。本来、CB証明書を提示することで、タイ側の電気機器安全認証手続きを簡略化できることになっている。現在、IECEEには51ヵ国の認証機関が加盟しているが、今回は関連しているすべての国が参加している。そのため、企業の中にはTISIに対し、IECEE制度の対象品目の拡大を求める声もある。

<日タイEPAの相互承認(MRA)では対応できず>
07年11月に日本とタイとの間で経済連携協定(JTEPA)が締結されたが、第6章「相互承認」第62条の一般的義務として、適合性評価結果の受入れについて明記している。MRAは、輸入ライセンス取得期間の短縮、適合性評価手続きのコスト削減などに寄与するものと期待されている。

締結前は日本製品をタイ市場に投入する場合、新製品のサンプル1〜2セットをあらかじめタイ側適合性評価機関(CAB)に送り、タイ側安全基準に対する適合性評価証明書を取得して、市場に輸出、供給していた。JTEPA締結により、タイ政府の指定を受けた日本側適合性評価機関(CAB)に新製品サンプルを送り、タイ側安全基準への適合性評価が可能になった。

しかし、MRAでの対応には限界がある。まず、日本側が出す適合性評価の対象品目は19品目(注)だが、テレビは対象外である。次に、日本側CABになるには、タイ政府の指定を受ける必要があるものの、現在までに指定を受けているCABはなく、その結果、MRA利用実績もない。将来的に日本製品はMRAにより関連部品での適合性評価結果が受け入れられたとしても、日本以外の国については当然のことながら対象外となっている。

この問題に対し、タイ政府に対する働きかけも行われている。電子情報技術産業協会(JEITA)は、2月上旬にアピシット首相訪日に合わせて来日したポンティワ商務相や電子・電気関連業界関係者との懇談会で、この件について問題提起を行った。

<TISIが新規定発出>
TISIは1月26日付TISI-R-PC-01(03)で新規定を発出、即日発効した。新規定では、工場監査、発注書(PO)通知、出荷ごとの申請・審査について手続きを変更した。まず工場監査については、これまで監査結果が「優良」であれば2年ごとであったが、原則1年ごとに短縮された。TISI担当官は工場監査について、「過去の監査結果は適用外となり、再監査が必要」としている。次に、輸出国企業に対し発注書を発行する場合、TISIにその旨通知することを義務化している。手続き上、最も煩雑になる可能性があるのは審査だ。これまで、TISIから認可を取得した製品は、以降の審査は不要だった。新規定では出荷のたびに輸入品の審査・承認取得が必要になる。

これら規格審査の長期化、厳格化は、輸入品の流入防止を目的とした保護主義的動きととらえられる可能性がある。タイはASEAN議長国として、地域をリードしていく大きな役割を担わねばならない。であれば今回の措置が保護主義的なものではないことを説明する責務があろう。

一方、日本はMRAの見直しによって問題解決を図れる可能性がある。現在は、対象が19品目と少ないこともあり、日本側CABはJTEPAに基づく指定CABになるメリットを見出せていない。対象品目を拡充し、日本側CABがタイ政府より指定を受けることで、今回だけでなく、今後のタイ側規格審査厳格化や規則変更に影響を受けにくい体制を構築することができる。

(注)一方、タイ側の日本への輸出については115品目。

(助川成也)

(タイ)

ビジネス短信 49ab895da96f0