急増を受け対中輸入を牽制−中国製品の波及によるアジア各国市場への影響(2)−

(インド)

ニューデリー発

2009年02月20日

中国製品の輸入が加速度的に増えている。2008年には輸入全体に占める割合が10%を超え、国内市場でますます存在感を高めている。世界景気の後退で、輸出や国内消費が伸び悩む一方、輸入は拡大を続けているため、政府は国内産業保護を目的に、中国製品を意識したとみられる輸入抑制措置をいくつも発動している。しかし、対象製品には鉄鋼など日本の主要輸出品目も含まれているため、関係する日系企業は政府の動きを注視している。

<対中輸入は5年で10倍に>
中国からの輸入は近年、輸入全体の伸びをしのぐ勢いで増えている。過去5年間の年平均成長率(CAGR)は50%を超えており、輸入額は5年で10倍以上に膨らんだ。08年は1月〜9月で既に前年1年間に比べ55%増の271億ドルに達した。輸入全体に占める中国製品のシェアは11.4%まで上昇し、対中輸入はさらに加速の度合いを強めている(図参照)。07年には、中国が米国を抜き、インドにとって最大の貿易相手国となるなど、貿易面での中国の存在感は群を抜いている。

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対中輸入を製品分類別にみると、電子製品が対中輸入全体の約3割と圧倒的に多い。電子製品は08年1〜9月に76億3,610万ドルを輸入しており、当該製品の輸入全体に占める中国製品の割合も37.6%と高い(表参照)。国内産業の発展の遅れから、テレビや携帯電話などの部品・材料の多くは中国やASEANからの輸入に頼っているのが現状だ。次に多く輸入されているのは、発電や農業分野の設備が含まれる非電気機械類、鉄・鉄鋼製品、有機化学品で、当該製品の輸入に占める中国製品の割合はそれぞれ、16.5%、23.4%、23.9%と高い。

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一方、輸出をみても、中国は米国、アラブ首長国連邦に次ぐ3番目の相手国となっている。しかし、投資面では、農業機械のマヒンドラ・マヒンドラ、風力発電のスズロン・エナジーなどインドからの大型対中投資と、ハイアール、ファーウェイ、ZTEなど中国企業による電気電子・通信分野でのインド投資が増えてはいるが、急拡大する貿易関係に比べるとそれほど活発ではない。

<輸入ライセンス制の導入や独自工業規格の適用で牽制>
世界経済が急激に冷え込んだ08年第4四半期には、インドの輸出額は3ヵ月連続でマイナス成長となったにもかかわらず、輸入額は10.6%(10月)、6.1%(11月)、8.8%(12月)(いずれも速報値)の伸びと拡大を続けている。内需は減速しているため、国内市場に供給される国内製品と輸入製品とのバランスが大きく崩れたと考えられる。

こうした事態を受けて、政府は、輸入が急増したいくつかの製品について、アンチダンピングやセーフガードなどの措置だけでなく、輸入ライセンス制度やインド工業規格(BIS)などの適用といった保護主義的な動きをみせている(2008年12月9日記事参照)

アンチダンピングを除くと、政府は「特定の国をターゲットにしていない」と主張しているものの、対象となっている製品のほとんどについて最大の輸出国は中国であり、中国製品の過剰流入を牽制していることは明らかだ。日系鉄鋼商社の幹部は「日本企業は高級鋼材に特化しているところが多い。政府がターゲットとしている安価な中国製の鋼材は、主に欧米のトレーダーが輸入している」という。

矢継ぎ早に発動されてきた輸入抑制措置だが、当該製品の需要回復や各国政府、業界からの要請を受け、早くも撤廃されるケースも出始めている。BISを管轄する消費・公共配給省は2月10日、鉄鋼製品11品目のBIS適用を1年延期する通達を出した。また、そのうち建設用の鉄棒とワイヤ、ブリキ、熱延ロール鋼の3品目をBISから除外すると発表した。さらに、熱延ロール鋼とともに輸入ライセンス制が導入された12品目のうち、車用バンパー(HS87081090)、鉄鋼製チューブ・管(HS7304)のライセンス制が撤廃されたほか、カーボン・ブラック(HS28030010)もCIF価格が1トン当たり8万ルピー以上であることを条件に輸入が自由化された。

<中国製玩具を輸入禁止に>
商工省は1月23日、中国製玩具(HS番号9501、9502、9503)の輸入を6ヵ月間禁止する通達を発表し、即日発効させた。通達は輸入禁止の理由を明らかにしていないが、政府は、中国製玩具に有害物質が含まれている可能性があるという保健・司法当局の訴えを受けて発動した「暫定措置」だとしている。ナート商工相は「通商関係悪化は望んでいない。経済的な意図はなく、国民の健康を守ることが目的だ」と言い、WTOへの提訴も検討している中国側とは対話による解決を探っている。

しかし、通商法の専門家は当地メディアに対し「全面的に輸入を禁止するための明確な証拠と、同等の品質基準が国内製品にも課されていなければ、WTOは中国の訴えを認めるだろう」と分析する。また、玩具生産者協会のラジ・クマール氏は「政府の措置を支持している。しかし、組織がしっかりしている玩具メーカーは先進国の規格にも準拠する製品を生産しているが、大多数の小規模生産者には難しいだろう」と述べ、中国製品の輸入禁止に伴い、玩具に関する安全基準が強化されれば、国内産業にも影響が出ると心配する。

インドの玩具市場は約250億ルピー(500億円)と見積もられており、うち中国製の玩具は国内市場の約60%を占めるといわれる。輸入玩具に占める中国製品の割合は、約90%とほぼ独占状態で、08年1〜9月には前年同期に比べ37%増えている。

(河野敬)

(インド)

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