地域金融機関への公的資本注入で再編加速か
ニューヨーク発
2008年11月11日
経営が悪化していたナショナル・シティー、ソブリン・バンコープなど大手地域金融機関が、他行に買収されることになった。公的資本を申請した金融機関がその一部を救済買収資金に充てる動きもみられ、多発する金融機関の倒産と相まって、金融再編が加速しそうだ。一方、上下両院からは、金融安定化法の趣旨にかんがみ、公的資本を融資拡大以外の用途に使うべきでないとの意見が出ている。オバマ次期大統領は、合併などに伴う経営者への高額退職金は許されないという立場だ。
<ナショナル・シティーを同業PNCが買収>
貯蓄貸付組合(S&L)大手のソブリン・バンコープ(ペンシルバニア州)が10月13日、スペイン最大の銀行サンタンデールへの身売りを発表した。これを皮切りに、金融再編の主役は、大手商業銀行・投資銀行(2008年10月31日記事参照)から地域金融機関へと移ったようだ。
10月24日には、全米第10位(注)の銀行ナショナル・シティー(オハイオ州)が、同14位のPNCフィナンシャル(ペンシルバニア州)に買収されることを公表した。ナショナル・シティーは、08年第3四半期(7〜9月)決算で5四半期連続となる赤字を出すなど、業績不振に陥っていた。「ウォールストリート・ジャーナル」紙によると、同社は公的資本注入プログラムへの参加を政府に拒絶され、身売りを余儀なくされた。
買い手のPNCは、金融安定化法の下で77億ドルの公的資本注入を申請している。これによってナショナル・シティーも間接的に公的資本を受け入れるかたちとなる。また、PNCは公的資本注入により統合後の自己資本比率(Tier1)約10%を確保できると見込んでいる。PNCの会長兼最高経営責任者(CEO)ジェームズ・ローア氏は「いかに財源を確保するかがカギとなっている中で、強固な預金基盤を持つことが重要だと考えている」と、ナショナル・シティー買収の意義を述べた。
連邦準備制度理事会(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)、通貨監督庁(OCC)、貯蓄金融機関監督局(OTS)の4政府機関は、10月20日に同声明を発表し、金融安定化法に基づく公的資本注入プログラムへの多くの金融機関の参加を呼びかけた。上場金融機関の申請は11月14日が期限切れで、大小さまざまな地域金融機関が手を挙げている(表参照)。申請額も100万〜数十億ドルまで幅広い。なお、同プログラム第1弾の参加9行に対する政府出資は、10月28日に実施された(PDF)。
<公的資本の用途制限を求める声も>
ポールソン財務長官は声明で、公的資本注入プログラムの目的は「金融機関に対する信頼を増すことと、金融機関がより自信を持つことだ」と述べ、公的資本が融資の拡大につながることへの期待を示した。その一方、テレビ番組のインタビューで、金融機関の買収は金融システムにとって良いことだという考えも表明している。金融機関の一部は、公的資本を買収資金に充てる方針だ。「ニューヨーク・タイムズ」紙は「(金融機関同士の)買収を否定するわけではなく、返済能力のない相手に融資をすべきだと言っているわけではない」としながらも、「政府が公的資本を使って金融機関同士の買収を促進させようとしている」とみて批判的だ。
民主党を中心とした有力議員からは、「公的資本を融資拡大という本来の趣旨以外の用途に使わないよう制限すべきだ」という声があがっている。ペロシ下院議長(民主党、カリフォルニア州)らはポールソン長官に、公的資本を受け入れた金融機関の多額の役員退職金支払い(ゴールデン・パラシュート)を禁止するよう求める書簡を送った。次期大統領に決まったオバマ上院議員も選挙戦の中で、こうした退職金は許されないという立場を取っていた。
また、下院金融サービス委員会のフランク委員長(民主党、マサチューセッツ州)は、公的資本を買収資金に充てたり、配当支払いなどを行うのは金融安定化法の趣旨に反するという意見だ。シェロッド・ブラウン上院議員(民主党、オハイオ州)も「プログラムに参加する金融機関が、国税を使って健全な銀行を買収することのないよう強調すべきだ」とポールソン長官に訴えている。
ナショナル・シティーと同じオハイオ州を本拠地とする、第16位のフィフス・サードと第17位のキーコープは、ともに第2弾の公的資本申請が受け入れられた。このうちフィフス・サードは、10月31日に破綻したフロリダの地銀フリーダム・バンク(総資産2億9,000万ドル)の事業を買い取った。2008年に入り破綻した金融機関は、S&L最大手ワシントン・ミューチュアルを含め17件で、90年前後に年間数百件のS&Lが破綻した「S&L危機」以来では最も多い水準となった(図1参照)。
07年後半から、住宅ローンに加え商業用不動産ローン、クレジットカード、商工ローンなどでも延滞が増加し(図2参照)、特に体力のない地域金融機関は疲弊している。今後、地方の中小金融機関の多くが買収や破綻に直面し、勢力図が大きく塗り替えられそうだ。
(注)順位は08年6月末現在の総資産に基づく(2008年10月14日記事参照)。以下同じ。
(森棟彩奈子)
(米国)
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