スイス・フランの高騰で住宅ローン世帯に打撃

(ポーランド)

ワルシャワ発

2008年10月28日

金利水準の低いスイス・フラン建てで組まれる住宅ローンが人気だったが、金融危機でズロチに比べスイス・フランが高騰し、ローン負担を抱える世帯に打撃を与えている。また、国内で複数の製鉄所を経営するアルセロール・ミタルは、建設(建材)需要の低迷に伴う生産調整に踏み切った。住宅建設関連では「ポーランドだけは大丈夫」という「デカップリング論」は、修正を迫られている。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<「消費マインドは堅調」との楽観論は吹き飛ぶ>
国内の景況先行きについては、政府・中央銀行を中心に、形を変えた「デカップリング論」(もともとは、米国経済と世界経済の非連動性を指す)が最近まで優勢だった(2008年10月15日記事参照)。米国経済と欧州経済の連動性が明らかになると、今度は西欧と中・東欧の非連動性、西欧とポーランドの非連動性、そしてポーランドの企業と消費者の非連動性が言われるようになった。西欧市場への輸出を中心とする加工貿易型産業は、西欧での景気後退で影響が出ているが、内需主導型産業や消費マインド自体は堅調に持続する、との楽観論である。

しかし、こうした楽観論を吹き飛ばしかねない事態が住宅市場で現れている。住宅ローンは外貨建てで組まれることが多く、その比率は2008年8月時点で60.6%に上る、とポーランド国立銀行(NBP、添付資料の図1参照)はいう。特にポーランドよりも金利水準の低いスイス・フラン(以下、CHF)建てローンは人気が高かった。ところが、金融危機に伴う混乱で、ズロチに対するCHFの価値が急騰した(7月31日の1CHF=1.9596ズロチが10月24日には1CHF=2.6917ズロチまで上昇、添付資料の図2参照)。現在のCHF(対ズロチ)の価値は04年12月当時の水準で、わずか3ヵ月で4年前のレベルに逆戻りした。円ベースに例えれば、2,000万円あった借金が3ヵ月後に2,700万円に膨らみ、このほかに金利も負担する、という事態となった。

住宅金融大手のオープン・ファイナンスの発表によると、ワルシャワでの同社の融資利用者のローン残高は世帯平均で約45万ズロチ(約1,800万円)に達し、返済期間(平均)は35年に及ぶ。現時点で国内では、信用収縮(クレジット・クランチ)は表面化していないが、住宅需要については楽観できず、国内の消費市場も急速に冷え込むことが懸念されている。

<建材の需要減で製鉄業も減産>
クラクフ、カトビツェなどで製鉄所を操業する国内最大手のアルセロール・ミタルは「既に欧州の主要顧客の在庫は満杯に近い」として生産調整に踏み切っている。同社はその理由として、自動車(鋼板)に加えて、建設(建材)の需要減を挙げている。西欧市場の停滞に伴う生産調整は既に乗用車などで明らか(2008年10月15日記事参照)になっているが、鉄鋼産業にも波及してきた。同社では、こうした生産調整は、ウクライナやカザフスタンの事業所の稼働にも影響すると話している。

同社はポーランドで国営製鉄所の買収をはじめ、既に9億2,000万ユーロを投資している。08年9月18日には、8,000万ユーロの追加投資を発表したばかりだったのに、金融危機で冷や水を浴びせられた格好だ。

NBPは、今後、スイス国立銀行(SNB)との間で、事態の打開に向けた協議を開始するものとみられている。

(前田篤穂)

(ポーランド)

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