楽観論が大勢だが、信用不安対策も

(ポーランド)

ワルシャワ発

2008年10月15日

世界的な金融不安や北米・西欧市場の景気低迷に対して、金融当局の反応は冷静・強気だ。当局の見解によると、国内の経済・金融システムは健全で、淡々と「ユーロ導入」の準備を進める、という。中央銀行は市中銀行間の流動性を高める「信用不安対策パッケージ」を発表したが、これはあくまで外生的要因による信用収縮(クレジット・クランチ)への対策だと説明している。しかし、西欧市場での販売低迷でオペルが生産調整に動くなど、実体経済への影響も出始めている。

添付ファイル: 資料PDFファイル( B)

<金融当局は強気の姿勢崩さず>
ポーランド国立銀行(NBP、中央銀行)は2008年10月10日の声明で「現在のズロチ・レート水準(添付資料の図1参照)は、国内経済の実勢を反映していない。国内経済は安定しており、金融部門も健全である」と異例の発表を行った。これに先立って、ヤツェック・ロストフスキ財務相も09年度予算をめぐる下院での審議の中で「国内経済は、世界的な金融不安に端を発する悪影響に対して例外的に強い(exceptionally resistant)」との見解を示している。また、ロストフスキ財務相は「わが国はフィンランド、スロバキアと並んで、今回の金融不安に最も準備の整った国である」とも発言している。

こうした金融当局の強気なスタンスの背景には「今回の金融不安でユーロ導入(トゥスク首相は11年を目指す、と発言)を阻害されたくない」との考えが見え隠れする。ユーロ導入の前提条件となる5基準(a.消費者物価水準、b.財政赤字、c.公的債務残高、d.外国為替レート水準、e.金利水準)で、a.とd.以外の基準は既にクリアできており、為替レートは7月まではユーロに対しズロチ高基調を続けてきていた。現在の最大の関心は「消費者物価水準の安定」に集まっている。ロストフスキ財務相は米国や西欧の景気減速で「原材料価格の高騰が収まれば、ユーロ導入にとってはむしろプラスだ」とも発言している。

預金者保護の観点では、既に野党から「銀行預金保証法」の改正案(EUでの合意に対応して、最高預金保証額を2万2,500ユーロ(1ユーロ=約137円)相当から5万ユーロ相当に引き上げ)が提出されているが、本格的な審議はこれからだ。また、トゥスク首相は、カチンスキ大統領が10月10日に提案した金融不安対策に関する緊急首脳会談についても、10月23日以降に開催を延期する方針を示唆している。「緊急」首脳会談が1週間以上も先延ばしされた格好で、静観しようとする政府のスタンスを物語る。

主要メディアも、多くが金融当局の姿勢を認めており、その楽観論を批判する記事もほとんどない。もっとも、失業率の急速な改善など、堅調な国内経済を考えると、こうした反応も理解できる(2008年9月3日記事参照、添付資料の図2参照)。

<信用収縮の回避策も準備>
とはいえ、NBPは10月13日、ポーランド銀行協会(ZBP)とともに緊急記者会見を開き、財務省とポーランド金融監督委員会(KNF)と協議の上、「信用不安対策パッケージ」を明らかにした。この中で、特に「市中銀行間の流動性を高めること」を重視して、a.国内金融市場の活性化、b.ズロチ・外貨市場の流動性確保、c.中央銀行と市中銀行の連携強化、の方針を示した。これは、外生的な要因で市中銀行から中央銀行への資金シフトが進んだ場合に、中小企業・個人への融資が抑えられる信用収縮(クレジット・クランチ)を回避する狙いがある。

ただ、NBPの分析によると、現在、国内の不良債権比率は、不動産ローン市場で1.1%、非金融部門市場でも4.8%と低い水準にある。NBPとしては、今回の「信用不安対策パッケージ」で予見的な対策を明示しつつ、あらためて「国内金融システムの健全性」を強調した格好だ。

現実には、ポーランド南部のグリヴィツェ(添付資料の図3参照)で乗用車生産(アストラ、ザフィラなど)を行っているオペル(GMグループ)が20日間の生産停止を発表するなど、西欧経済減速の影響も出てきている。西欧市場での販売低迷を理由に、グリヴィツェ事業所の生産能力は日産約700台とされ、約1万5,000台の減産となる見通しだ。

(前田篤穂)

(ポーランド)

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