1〜9月期の経済成長率、1ケタに減速−世界経済の変調が響く−
北京発
2008年10月21日
国家統計局は10月20日、2008年1〜9月期における中国のGDP総額を20兆1,631億元、実質成長率を9.9%と発表した。世界経済の減速を受けて輸出の伸びが低下したことなどが背景にあるものとみられる。なお、7〜9月期の成長率は、9.0%と大幅に鈍化し、四半期ベース(速報値)では05年第4四半期(9.9%)以来の1ケタ成長となった。
<四半期ベースでは約2年ぶりの1ケタ成長>
成長率を四半期ごとにみると、第1四半期(1〜3月)は10.6%、第2四半期(4〜6月)は10.1%、第3四半期(7〜9月)は9.0%と、第3四半期の成長率は、第2四半期に比べ、1.1ポイント低下し、1ケタ成長となった(図1参照)。
1〜9月のGDPを需要面からみると、消費の伸びが拡大する一方、世界経済の減速を受けて輸出の伸びが鈍化し、外需が減少している。
消費動向を示す社会消費品小売総額は、前年同期比22.0%増の7兆7,886億元と、伸び率は前年同期比で6.1ポイント上昇した。うち都市部では同22.7%増の5兆3,165億元、農村部は同20.6%増の2兆4,721億元となっている。
投資面では、全社会固定資産投資額が同27.0%増の11兆6,246億元と、伸び率は前年同期比で1.3ポイント上昇、08年上半期と比べても0.7ポイント上昇した。うち都市部の投資は同27.6%増の9兆9,871億元、農村部の投資が同23.3%増の1兆6,375億元となっている。産業別では、第一次産業への投資は同62.8%増、第二次産業は同30.2%増、第三次産業は同24.8%増となっている。中でも、第一次産業への投資は同21.7ポイントも伸び率が上昇した。また、地域別では、中国政府が推進する「中部振興戦略」に関連し、中部地域への投資は同35.4%増と、東部地域(同22.7%増)、西部地域(同29.5%増)の伸びを上回っている。
なお、対内直接投資額(実行ベース)は、同39.9%増の744億ドルとなっている。ただし、社会消費品小売総額と全社会固定資産投資額の伸びはいずれも名目ベースであり、物価上昇を加味すれば、特に投資の実質的な伸び率は前年同期を大きく下回っているものとみられる。
貿易面では、貿易総額が同25.2%増の1兆9,671億ドル、うち輸出が同22.3%増の1兆741億ドル、輸入が29.0%増の8,931億ドルとなっている。輸出の伸びが同4.8ポイント低下したことにより、貿易黒字額は1,810億ドルと同47億ドル減少した。
GDPを供給面からみると、第一次産業以外の伸び率は前年同期比を下回った。産業分野別では、(カッコ内は前年同期における増減ポイント)、第一次産業が同4.5%増の2兆1,800億元(0.2ポイント増)、第二次産業が同10.5%増の10兆1,117億元(3.0ポイント減)、第三次産業が同10.3%増の7兆8,714億元(2.4ポイント減)となった。
第二次産業のうち、工業生産増加額(付加価値ベース)の伸び率は同15.2%増と、前年同期の伸び率を3.3ポイント下回った。9月単月では11.4%と鈍化傾向が強くなっている。
「21世紀経済報道」紙(10月20日)では、権威のある専門家の指摘として「工業生産増加額が19%前後であれば経済成長は11%程度、16%前後であれば10%程度になる」との見方を紹介している。内需の減少を受けて国内生産が減速しており、このことが年初から30%余りの伸びが続いていた輸入が8、9月に減速した主因と見る向きもある。
農業関連では、08年の夏季収穫穀物の生産量は前年比2.6%(507万トン)増の1億2,041万トン、早稲の生産量は前年比6.2万トン増の3,158万トン、秋季収穫穀物も政府が耕作面積の拡大および単位収穫量の増加に政策の力点を置いていることから、増産が見込まれている。これにより、穀物の生産は5年連続豊作の見通しである。
なお、肥育豚の生産は、現在回復過程にあり、豚・牛・羊・家きん類の生産量は引き続き増加している。
消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同期比7.0%と、前年同期(4.1%)を2.9ポイント上回ったものの、08年上半期(7.9%)を0.9ポイント下回った。都市部でのCPI上昇率は6.7%、農村部は7.7%だった。月別でみると、9月の上昇率は4.6%と、2月の8.7%をピークに低下傾向にあり、5月以降は5ヵ月連続で前月を下回っている。品目別では、食品価格が同17.3%と依然として高いものの、第1四半期(21.0%)、上半期(20.4%)と比べ、明らかに落ち着きをみせ始めている。なお、商品小売価格が同6.9%、工業品出荷価格が同8.3%、原材料・燃料・動力購入価格が同12.4%それぞれ上昇した。
マネーサプライをみると、9月末現在のM2は同15.3%増の45兆3,000億元と、伸び率は前年同期比で3.2ポイント低下し、政策目標である16%の伸び率を下回った。また金融機関における人民元の預金残高は08年初と比べ3兆4,803億元増の29兆6,477億元、各種貸出残額は同6兆5,601億元増の45兆4,942億ドルとなっている。
都市住民1人当たりの可処分所得(1〜8月)は同7.5%増(実質)の1万1,865元、農村住民1人当たりの現金収入は同11.0%増(同)の3,971元と、農村住民の収入の伸び率が、都市住民を上回った。これにより都市住民と農村住民の所得格差は2.99倍(07年は3.33倍、08年上半期は3.17倍)と、わずかながら縮小している。
<国際金融不安が中国経済に与える3つの影響>
国家統計局の李暁超スポークスマンは記者会見し、米国発の国際金融不安が中国経済の先行きにいくつかの不利な影響を与えるとして、注目すべき問題として以下の3つを指摘した。
(1)直接投資(FDI)受入への影響:改革開放以来、特に00年以降、FDIは急速に伸びており、中国経済の発展に非常に大きな役割を果たしてきた。しかし、金融危機により世界の流動性が減少しており、中国のFDIにも影響が及ぶと考えられる。
(2)輸出への影響:これまで輸出の増加が、経済成長に大きく寄与してきた。07年のGDPに占める輸出割合は37.5%と高く、金融危機による影響で世界経済が停滞すると、輸出が伸び悩み、成長率に大きな影響を与え得る。
(3)投資者および消費者への心理的影響:金融危機が投資者、消費者の心理に与える影響は大きく、中国も例外ではない。
その一方で李スポークスマンは、中国はこれらのマイナス影響を抑える能力と基礎があると述べ、その背景として国内貯蓄率が高く、資金の出所も安定しており、内需を拡大できる余地が大きいことなどを挙げた。加えて、アフリカ諸国向けの輸出や資源国経済の発展などにより、中国の輸出先にも開拓の余地があること、財政政策、貨幣政策、産業政策など政策措置による対応も可能であることなどを指摘した。
10月17日に開かれた国務院常務会議では、輸出増値税の還付率引上げにつき提議され、輸出型の中小企業、特に労働集約型の輸出企業が置かれている困難な状況を緩和することが議論された。中小企業は就業や税収面においても重要な役割を果たしており、具体的な政策措置の実行により、これら中小企業を救済することが話し合われた。
<成長重視か、インフレ抑制か>
第3四半期の経済成長率が9.0%と、大幅な減速となった。北京のある有力エコノミストは「7月の国務院常務会議で経済の安定した比較的速い発展の保持、および物価の急速な上昇の抑制をマクロ調整の主要課題とするという、『一保一控(1つの保持と1つの抑制)』が方針として掲げられたが、まだ十分な政策効果が出ていないため、第4四半期はさらに成長率が落ち込む可能性がある」と指摘、08年通年の成長率がさらに落ち込む可能性を示唆した。
9月のCPIは4.6%と、政府目標である4.8%を下回り、現状ではインフレ懸念はかなり後退しつつある。10月9〜12日まで開催された中国共産党第17期中央委員会第3回全体会議(三中全会)のコミュニケにもインフレに関する指摘は見当たらない(2008年10月17日記事参照)。また、李スポークスマンもCPI値の低下は、原油の国際価格をはじめとする資源価格が下降傾向にあることに加え、マクロ経済政策の効果が表れた結果だと指摘している。
今後、中国政府は経済成長の大幅な減速を防ぐため、公共事業の拡大などによる固定資産投資の増加といった景気刺激策を打ち出してくるとの見方がある。
しかし、同エコノミストによれば「中国政府の中には成長率が8%になっても中国経済には問題はなく、インフレ抑制が最も重要である」とし、依然としてインフレを強く懸念する意見があるという。成長を犠牲にして引き続きインフレ抑制に力点を置くのか、それとも「経済成長の保持」に軸足を移すのか、現時点において中国政府の政策の方向性はまだ固まっておらず、同エコノミストは、年内に開催される中央経済工作会議で、この論争に結論が出されるものとみている。
(清水顕司)
(中国)
ビジネス短信 48fd3b8934bc0