市場の関心は金融危機から実体経済の先行きに

(ユーロ圏、EU)

ブリュッセル発

2008年10月20日

欧州各国政府は10月13日に銀行支援策を相次いで発表したが、株価にはっきりした上昇気運は見られない。景気後退への懸念が原因とみられ、関心は金融危機から実体経済の先行きに移行しつつあるとの報道が目立つ。経済指標の悪化、消費意欲の減退、企業業績の下方修正が報告されるなど、欧州経済の先行きは厳しさを増しているとの見方が多い。

<ユーロ圏首脳、公的資金注入などに合意>
主要7ヵ国財務相・中央銀行総裁会議後の10月12日、ユーロ圏15ヵ国首脳は英国のブラウン首相、欧州委員会のバローゾ委員長、欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁も加わる緊急首脳会議をパリで開いた。

各国首脳らは公的資金による金融機関への資本注入、銀行間取引の政府保証などに合意し、共同行動計画を採択した。同会議を主催したフランスのサルコジ大統領は「われわれは自信を持つことができ、また持つべきだと欧州全諸国の国民に伝えたい」と発言し、不安の払拭(ふっしょく)に努めている。

欧州産業連盟(ビジネスヨーロッパ)のセリエール会長は「首脳会議は、ECBやその他の中央銀行の緊急利下げに続き、欧州の経済通貨同盟を強化する上で重要だった。われわれはこうした行動が信頼を回復させ、企業と家計の支出が回復するよう期待する」と行動計画を評価した。

また、ビジネスヨーロッパは10月13日に発表した声明の中で、特に銀行間取引の凍結解除に向けた政府保証、公的資金による金融機関への資本注入、市況に応じたECBの柔軟な流動性供給などの政策手段の重要性を強調した。

<各国政府が次々に銀行支援策を発表>
欧州各国政府は10月13日、銀行支援策を相次いで発表した。ドイツのメルケル首相は4,000億ユーロ(1ユーロ=約137円)の銀行間取引の保証を行うとともに、1,000億ユーロを金融機関への資本強化に拠出すると発表した。

フランスのサルコジ大統領は3,200億ユーロを銀行貸出の保証、400億ユーロを金融機関への資本注入に拠出すると発表した。英国政府は主要な3行の経営悪化を救うために370億ポンド(1ポンド=約176円)の資本注入を行い、政府が主要な株主となった。

スペインとオーストリア政府は類似の緊急銀行支援と金融システムの安定化策を発表した。イタリア政府は、銀行が新たに発行する期間最大5年間の債券を2009年12月31日まで保証すると発表、また銀行の資金借り入れにおける最低担保を引き下げた。イタリア銀行は最大400億ユーロの銀行債務を国債と交換する予定である。

オランダの通信社ANPは、オランダ政府も銀行融資において2,000億ユーロを保証すると報じた。

<11月にも「新ブレトン・ウッズ会議」>
欧州理事会(EU首脳会議)が10月15〜16日にブリュッセルで開催され、金融危機への対応に関する包括策を採択した。その中で、12日に開催したユーロ圏15ヵ国首脳らによる緊急首脳会議で合意した共同行動計画を支持し、金融機関の破綻回避、預金保護など金融システム安定化に向けた対応方針を確認した。

特に、欧州委員会は10月1日、銀行などの自己資本に関する指令(資本要求指令)の改正案を金融危機の再発防止に向けた中期的な対応として発表した。改正案は、大口エクスポージャー(金融資産のうち市場の価格変動リスクにさらしている資産の割合)の管理改善、国境を越える銀行グループの監督、銀行資産の換算方法、流動性リスク管理、証券化商品の改善などを挙げている。

また、欧州委は預金者の信用を補強するため、預金の保証水準と払い出しにかかる時間を改善する計画を発表。ルクセンブルクで開催した財務相理事会(ECOFIN)は10月7日、預金保証額を現行の最低2万ユーロから5万ユーロに引き上げることに合意した(2008年10月8日記事参照)

一方、フランスのサルコジ大統領は、第2次世界大戦後の国際金融体制を定めたブレトン・ウッズ会議を引き合いに出し、新たな枠組みを協議するための「新ブレトン・ウッズ会議」を早急に開くよう提案した。会議は早ければ11月にニューヨークで開かれる見通しである。

<09年のユーロ圏の成長率は0.2%と予測>
しかし、株式市場にはまだ活気が戻っておらず、市場の関心は金融危機自体から実体経済の先行きに移行しつつあるとの報道が目立つ。

国際通貨基金(IMF)の最新の経済予測(08年10月)によると、09年のユーロ圏の実質GDP成長率は0.2%となっている。フランスが0.2%、イタリアがマイナス0.2%、アイルランドがマイナス0.6%、英国もマイナス0.1%と見込まれている。

欧州自動車工業会(ACEA)の10月15日の発表によると、9月のEUにおける新車登録台数は前年同月比マイナス8.2%の大幅減となった。ACEAは声明(10月14日付)で「市場環境は悪化しており、金融危機が自動車業界を直撃している。(金融危機が)日々の業務や新型車開発に必要な資金を調達する上で重荷になっている」とし、金融危機が自動車メーカーの投資に直接の影響を及ぼしていると指摘した。各国政府に対し、金融危機を早急に沈静化させ消費者の信頼感を回復するための措置をとるよう求めている。

会計大手のアーンスト・アンド・ヤングの発表によると(10月12日付)、英国の上場企業が7〜9月の第3四半期に発表した業績下方修正は111件に上り、第3四半期の数字としては01年以来で最も多かった。同社は「(企業収益の)最悪期はまだこれから」と話しており、今後、金融危機が企業収益にさらに悪影響を及ぼす可能性があると指摘する。

(清水幹彦)

(EU・ユーロ圏)

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