金融安定化に向け中期的な制度改正が狙い−銀行の自己資本に関する指令の改正案−
ブリュッセル発
2008年10月08日
欧州委員会は、銀行などの自己資本に関する指令の改正案を、金融危機の再発防止に向けた中期的な対応と位置付けている。改正案では、指令に基づいて各国が実施措置をとるまで、少なくとも2年の猶予が与えられることとなっており、現在の金融危機を解決するものではないが、現状より金融が安定することを想定し、金融市場への信用と金融機関の耐久性の強化を目指している。
<改正案は今の危機を解決するものではない>
欧州委員会は、10月1日に発表した(2008年10月3日記事参照)銀行などの自己資本に関する指令〔資本要求指令(the Capital Requirements Directive):2006/48/ECおよび2006/49/EC〕の改正案について「改正案は今後の資本規制に関する枠組みの強化を目的としており、現在の金融危機を解決するものではない」との見解を示している。
欧州委は、金融危機に対し短期と中期の2つの対応があるとする。短期的には、これまでどおり欧州中央銀行(ECB)と各国中央銀行が流動性の問題に、加盟国政府が構造的な問題に、それぞれ対応する。
中期的には、欧州委が金融危機の再発を防止するための規制枠組みの強化を継続する。各国は2010年1月31日までに国内で実施措置をとり、将来的には現状より金融が安定することを想定し、そうした時期に金融市場への信用と金融機関の耐久性を強化することを目指す。
<銀行は限度を超えた融資を制限される>
改正案はまず、大口エクスポージャー(金融資産のうち市場の価格変動リスクにさらしている資産の割合)の管理の改善を挙げ、銀行は限度を超えた融資を制限される。国境を越える銀行グループの監督、銀行資産の換算方法、流動性リスク管理、証券化商品に関する改善も挙げている。
特に大口エクスポージャーの管理について、流動性が危機にあるときに貸し付けを引き締めることは正しい対応かとの疑問に対し、欧州委は「銀行もリスクを負っており、銀行が他行に負うエクスポージャーを制限するのは急務である」、「大口エクスポージャーを能動的に管理する必要があると考えるが、小規模銀行、協同組合銀行、貯蓄銀行といった金融機関の資金調達と投資オペレーションなどの業務を過度に制限しないアプローチを採った」と説明する(注1)。
預金保証制度については「EU内の銀行へのすべての預金は指令(注2)により最低2万ユーロまで保証されており、一部の加盟国ではこれを上回る額を保証している」とした上で、「加盟国政府が困窮に陥った銀行を安定させるため、迅速に対応した事実が重要である。加盟国政府の最重要事項は預金者の保護である」と強調した。
<預金保証額を最低5万ユーロに引き上げ>
さらに欧州委は、預金者の信用を補強するための一層の改善、特に預金の保証水準と払い出しにかかる時間を改善することにしていたが、ルクセンブルクで開催した経済・財務相理事会(ECOFIN)は7日、預金保証額を最低5万ユーロに引き上げることで合意した。
10月に入りアイルランドやドイツで全額保証を導入する動きが先行したため、経済・財務相理事会で検討することになった。この決定を受けて、ベルギー政府は最低保証額を2万ユーロから10万ユーロに引き上げることを決定した。
なお、銀行などの自己資本に関する指令の改正案は、金融安定と金融機関そのものを対象とするため、預金保証制度は直接扱っていない。預金者の権利については、預金保証制度指令の改正を通して、強化する予定である。
(注1)とりわけこれら中小銀行にとっては、エクスポージャーを分散することは必ずしも容易ではないことから、指令改正案では、大口エクスポージャーの上限を自己資産の25%か1億5,000万ユーロかどちらか高い方とし、中小銀行のために後者の基準を導入している。
(注2)預金保証制度に関する指令 1994/19/EC(Directive on Deposit Guarantee Schemes)
(清水幹彦)
(EU)
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