問題解決にイノベーションを(カナダ)
住宅コスト高騰に挑む(2)
2026年3月2日
カナダでは、住宅コストが高騰。この問題に対処するため、連邦政府や州政府が規制やインセンティブを講じている。一方、住宅コストの抑制には、迅速かつ大量の住宅供給を可能にする建設技術や生産性の向上が欠かせない。
本稿では、こうした住宅分野のイノベーション促進に向けた産官学での取り組みや連邦政府の支援策を紹介する。また、スタートアップを中心にする企業トレンドや投資について解説する。
資金調達ラウンドが減少する一方、投資は堅調
プロップテックコレクティブ(当地不動産業界の技術革新を目指す非営利団体)の調査によると、2025年に当地不動産テック系スタートアップ(SU)企業が調達した資金の総額は、約4億5,000万カナダ・ドル(約518億円、Cドル、1Cドル=約115円)だった。資金調達のラウンド数は30件。過去5年間で最も多かった2021年の50件を境に、減少傾向にある。もっとも、2024年からは、件数・調達額ともに改善した(この年は資金調達が難航し、約2億7,500Cドルにとどまっていた)。また、SU企業が調達した資金の中央値は300万Cドル。不確実性の高い経済下でも堅調な投資動向がうかがえる。その背景には、住宅供給を国家レベルで向上するための取り組みや、GDP比で20%超を占める不動産・建設分野への期待がある。
当地には、不動産に特化した世界の機関投資家上位100社のうち、11社が拠点を置く。このことも、資金調達する上で強みの1つになっている。
また、アーリーステージのSU企業向けリソースも豊富だ。当ステージを対象にしたベンチャーキャピタル(VC)は、複数ある。具体的には、アレート(alate)やグランドブレイクベンチャー(GroundBreak Ventures、GV)、ベンチュロン(Venturon)などだ。さらに、インキュベーターやアクセラレーションプログラムが100以上存在する。
不動産テックエコシステムで建設分野のイノベーションが進む
(1)住宅、(2)商業ビル、(3)建設分野に分類される不動産テックのうち、直近で調達額の大きかった建設分野のSU企業は、表のとおり。カナダでは2030年までに、建設業で26万人が引退するといわれる。これは、当該業種の労働人口全体の22%に当たる。連邦政府の目標達成(住宅建設棟数の倍増や供給スピードの改善)には、建設分野のイノベーションの促進が不可欠だ。例えば、労働力不足を補う生産性向上や省人化労働力不足を補う生産性向上や省人化が課題になる。
大規模投資を受けたSU企業の共通点は、建設分野が抱える課題に対し、最新技術を用いてソリューションを提供していることだ。不動産テックエコシステムでは近年、これがトレンドになっている。建設技術や資材のイノベーションが加速しつつあり。既述のプロップテックコレクティブの2024年調査で不動産テックに占める建設分野のSU企業の割合は16%だったところ、2025年には21%に増加した。
| 企業名 | 設立年 | 本社所在地 | 事業概要 | 調達額 |
|---|---|---|---|---|
| カーボンアップサイクリング(carbon upcycling) | 2014年 | アルバータ州カルガリー | 廃材を使用して、建設用低炭素セメントの製造。 | 1,800万ドル |
| ギアテック(GIATEC) | 2010年 | オンタリオ州オタワ | コンクリートの品質試験やモニタリング機器の製造。 | 1,750万Cドル |
| オーグメンタ(Augmenta) | 2018年 | オンタリオ州トロント | AIを使用した、建築図面の作成ソフトの開発・販売。 | 1,440万Cドル |
| ブリックアイ(brickeye) | 2014年 | オンタリオ州トロント | 建設現場管理のデジタルプラットフォームの開発・販売。 | 1.000万Cドル |
出所:各社ウェブサイトなどからジェトロ作成
例えば、モジュール住宅(注1)やパネル工法、オフサイト建設を専門とする企業が大きな注目を集めている。こうした手法を採ると、天気に左右されず、屋内で建設作業の多くを完了できる。その上、工期短縮が可能だからだ。中でもモジュール住宅は、従来工法と比較して20~50%の工期短縮が可能だ。建設工程の管理や作業員の安全性向上に資する技術を開発し、労働生産性の向上に取り組む企業も存在する。
建設分野の脱炭素化は、ビルド・カナダ・ホーム(BCH)も推進している。BCHは、アフォーダブル住宅(注2)の建設を目的に、連邦政府が2025年9月に設立した機関で、建設工程での温室効果ガス(GHG)排出量の20%削減を目標に掲げる。それだけに、廃材の再利用や低炭素素材の開発など環境に配慮した製品を扱う企業への期待も高い。
人工知能(AI)の導入も、SU企業の飛躍に大きな役割を果たしている。例えば、トラックス(Trax/生成AIを用いて建築基準に関するチャットボット機能などを開発)は、既に300以上の自治体で製品をパイロット導入した。自治体が住宅を供給する上で、建築許認可手続きの停滞がしばしば障害になる。このような製品の活用は、当該手続きの迅速化に大きな役割を果たすだろう。
それだけではない。省人化の文脈でも、AIの活用が進む。プロミスロボティクス(Promise Robotics/AIプラットフォームの下、ロボットを用いて建設作業を自動化・オフサイト化を行う事業者)は、カナダで最大の住宅メーカーのマタミーホームズ(Mattamy Homes)との協業を発表した。同社の技術を活用すると、従来工法と比較して60%の工期短縮が可能になる。目指すのは、生産性向上とコスト削減だ。
連邦政府が取り組む住宅イノベーション支援
当地の不動産テックエコシステムは、有望なSU企業と充実した民間のリソースを中心に拡大している。連邦政府は、積極的な支援でその成長を下支えしている。支援対象は幅広い。技術・アイデアの実証から商用段階の建設プロジェクトに及ぶ。
実証段階で支援した例として、「ハウジングサプライチャレンジ」(2020年~2024年)を挙げることができる。この支援では、住宅分野で課題になる5領域(「住宅データ」「開発前プロセス」「北方地域」「建設工法」「建設容量とスピード」)に対して、民間企業や自治体、高等教育機関などから課題解決につながるプロジェクトを募集。採択した企業・団体に、プロトタイプの作成や実際のプロジェクト実施のため補助金を支給した。5領域あわせて、応募は994件に上った。その結果、127団体を採択している。
「ソリューションラボ」でも、実証段階での支援を講じた。同プログラムでは、国家住宅戦略の重点領域(注3)に該当する住宅問題の解決を促すアイデアを募集。採択に至った団体は、実証事業が最大で18カ月可能になる。特徴は、ワークショップ型の仕組みだ。さまざまな協力(専門家の助言やパートナーの資金提供など)を得ながら進めることができる。この実証事業を経て、アイデアの実用化を目指すことになる。2025年は、12件の採択を発表した(AIを用いた未利用地の土地活用や、オフサイト建設を用いたアフォーダブル住宅など)。
商用段階の支援としては、アフォーダブル住宅イノベーション基金(AHIF)や先端製造住宅建設チャレンジ(AMHC)がある。
AHIFは、2017年から実施してきた。要件(プロジェクトの革新性や、供給する住宅の金額など)を満たした場合、企業・団体に補助金を拠出する。特徴は、建設技術や土地利用計画にとどまらず、住宅の建設・維持にかかる資金調達・運営支援なども対象にしていることだ。2017~2021年に実施された第1期では、2億527万Cドルを拠出。住宅1万4,545棟の建設を支援した。現在は第2期として、4億720万Cドルの予算で、2028年までに住宅を1万800棟以上建設することを目標にしている。
AMHCでは、連邦政府が50億Cドルを助成する。支援対象は、300万Cドル以上1,500万Cドル以下の事業だ。「建設数の増加」「建設コスト削減」「GHG排出量削減」に貢献するプロジェクトを募集する。2025年には、12件を採択した。多くを占めるのが、建設ロボットやマスティンバー(注4)の活用、オフサイト建設に関連する案件だ。導入技術や建設する住宅の種類に応じて、プロジェクト費用の一部に補助を供与する。
さらに、賃貸用アパート建設融資プログラム(ACLP)では、連邦政府予算5億Cドルをプレハブ工法や革新的な住宅建設手法に対する低金利融資に充当する予定だ。
産官学連携の住宅アクセラレーションプログラム
連邦政府は、住宅分野のイノベーション促進に特化したアクセラレーションプログラムの設立にも乗り出している。
2025年1月には、トロント都市大学(TMU)発のインキュベーション施設DMZに、センター・フォー・ハウジングイノベーション(Centre for Housing Innovation/CHI)を設立した。その設立にあたり、連邦政府は350万Cドルを拠出。GV(VC事業者)やシビックアクション(都市課題の解決に取り組む非営利団体)など、産業界とも緊密に連携している。こうした点も、当該プログラムの大きな特徴だ。
CHIは、1期6カ月間のアクセラレーションプログラムを4期運営する(第1期は、2025年4月~9月)。対象になるのは、住宅分野のSU企業で、自社の製品や技術を確立した上で、ビジネスの拡大を目指す企業だ。プログラムでは、(1)事業戦略・計画を策定したり、(2)パイロットプロジェクトの協業先や資金調達先を探したりする手法を提供する。6カ月にわたるプログラムの間、採択企業はDMZのオフィススペース(トロント中心部)を使用することができる。
同プログラムの担当者によると、支援企業間で共通のワークショップやグループディスカッションを課すことはない。むしろ、各企業の事業目標にあわせ、オーダーメイドの内容になっているのが特徴という。40人以上の専門家が対応するメンタリングも、各企業のニーズに応じ回数やタイミングを調整可能だ。連邦政府が支援するプログラムのため、政府機関や自治体とのコネクションを持つことも強みだ。

第1期のプログラムには、7社を採択した(いずれも、モジュール住宅・プレハブ工法、AIによる土地評価ツール、シェルター内での高層建築技術などに特化した企業)。GVなどと連携し、総額500億Cドルの資金調達を実現した。そのほか、これまでにパイロットプロジェクトを3件組成している。
当地には住宅イノベーションの促進に必要な民間のリソースが充実している。その素地に加え、連邦政府による手厚い支援が成長を支えている。換言すると、連邦政府自ら、産業界や学術機関と連携し、住宅供給拡大につながる技術やアイデアの発掘・育成に力を入れるのが大きな特徴といえる。
住宅供給には、さまざまな産業分野やステークホルダーが関わる。そのため、それぞれで技術の革新や新たなアイデアが必要だ。優れた技術やアイデアをもつ限り、企業や自治体などの別を問わない。業種や規模に合わせて、幅広く支援の窓を開いている。
支援手法も多様だ。「ハウジングサプライチャレンジ」「ソリューションラボ」では、実証段階で支援。「AHIF」「AMHC」は、技術を商用化済みのプロジェクトに向けて構築した。一方、ビジネスの拡大を目指すSU企業に特化して、CHIを設立するなどしている。
住宅コストの高騰に、国家一丸となって取り組むカナダ。政府による需給のコントロールで改善の兆しが見えつつある中、BCHによる住宅建設にも期待が集まる。 幅広い支援を軸に加速する住宅イノベーションがその追い風となれるのか、今後の動きに注目したい。
- 注1:
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住宅は、住居の主要部分をあらかじめ工場で製造し、建設現場でそれを組み立てて完成させることがある。そうした建築方法を用いる場合、モジュール住宅と呼ぶ。
- 注2:
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BCHは、収入金額の30%未満で居住できる物件を「アフォーダブル住宅」と定義している。
- 注3:
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国家住宅戦略では、「特に必要としている層のための住宅」「コミュニティー住宅の持続性」「先住民族のための住宅」「北方地域のための住宅」「持続的な住宅のコミュニティー」「住宅供給の均衡化」を重点領域に設定している。
- 注4:
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マスティンバーは、複数の木材(板材など)を組み合わせ、強度を向上させた大型木質部材。この部材を活用することで、木造建築の大型化や高層化が可能になる。
住宅コスト高騰に挑む
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- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部米州課
小谷田 浩希(こやた ひろき) - 2022年、ジェトロ入構。企画部国内事務所運営課を経て、2025年から現職。






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