海外における日本産食材サポーター店認定制度

日本食材サポーター店インタビュー えん藤

出汁から始まる本物の和食が米国で新たな 和食ファンを育てる

(インタビュー日:2025年12月15日)

所在地:ラスベガス(米国)

ラスベガスで本物和食を貫く

えん藤は、カウンターを軸に個室も備えた隠れ家的な割烹である。料理長でありオーナーでもある遠藤氏は米国での料理人人生をシアトルに始め、ニューヨークを経てラスベガスへ渡った。景気変動で職を失う苦い経験を経ても、ラスベガスで料理を続けるために独立を選び、現在は1号店のAburiya Rakuをはじめ4店舗を率いている。寿司(SUSHI)が日本食の代名詞として広まる中で、寿司を安易に提供することを避け、あえて寿司に頼らない「本物の和食」を自らの料理で表現する道を選んだ。そしてラスベガスという世界中のスターシェフや美食家が集まる環境が、遠藤氏の料理を支持している。派手な演出よりも、器や料理で、その夜にしか出会えない和の体験を届ける。観光客が多い都市でありながら、常連も抱え、毎回料理長の“おまかせ”に委ねる信頼が店の空気をつくる。静かに熱い一軒である。

出汁から始まるおまかせの構成

えん藤は固定のメニューを設けず季節や仕入れによって構成を変える「おまかせ」が基本である。コースは削りたての鰹節や利尻昆布で引く一番出汁から始まる。利尻昆布と最低3年熟成させた本枯節を0.1ミリ単位で削り、塩を加えずに旨味の厚みを示し、それは以降の椀物や焼き物の基準点になる。醤油や塩は料理に合わせて複数を使い分ける。例えば、コースで自家製豆腐を提供する際は、抹茶塩、柚子の出汁醤油など段階的に味を重ねて“違いがわかる食べ方”を提案する。また、醤油も6種類ほどを使い分け、刺身には甘口系を軸に火入れや割りでまろやかさを調整し、熟成タイプや料理ごとに使い分ける。こうした繊細な違いを体験した客は、「もう違いを知る前には戻れない」と口にすることがある。常連客が前回と同じ食材に出会っても役割を変えて別の景色をつくり、毎回違う驚きを残す。

日本産食材に賭ける理由

日本産食材を扱う理由は、遠藤氏の「本物の和食を提供する」という信念に直結している。米は新潟県産「雪椿」を使用し、和牛や水産品、醤油、塩、鰹節、昆布に加え、酒造りに用いる湧水を出汁に取り入れるなど、水に至るまで日本の要素を組み込む徹底ぶりである。一方、日本産青果物は輸入規制の壁があるため、基本的にはロサンゼルスの日系農家から厳選し使用している。日本産食材の調達の現実は、求めるものほど手に入りにくいという矛盾に尽きる。米国では成分表示や原材料管理など輸入に際し厳格な基準が求められるためだ。遠藤氏は年に数回日本を訪れ、新たな食材を探し続けている。まだ米国に流通していない食材の場合は、生産者や商社と直接対話を重ね、輸入規制に沿った表示や仕様へ調整することで、適法な形での導入を進めている。時間と手間を要する工程ではあるが、日本の食材を正しく海外へ届けるために欠かせない取り組みだと遠藤氏は考えている。

観光都市であるラスベガスの特徴

ラスベガス経済は観光依存度が高く、展示会や大型イベントの有無によっても街全体の消費が大きく左右され、外食産業も例外ではない。近年は宿泊費の上昇等を背景に、観光需要が鈍化する局面も見られ、観光客中心の立地では、季節や景気に業績が直結する構造が避けられないのが実情である。しかし、ネバダ州全体でみると近年は生活コストの高騰を背景に、カリフォルニア州やハワイ州からの移住者も増加している。 一方で、えん藤の顧客はスターシェフレストランや高級ホテルのレストランの従業員など約九割はローカルの米国人であり、観光需要の直接の影響は限定的であり、観光都市でありながら地域に根差した営業を続けている点が特徴である。旅行者に依存するのではなく、日常の延長として通い続ける客との関係を築くことが、安定した基盤を生んでいる。こうしたローカル層の存在が、えん藤の継続的な挑戦を可能にしている。

体験が育てる日本食市場

近年、えん藤を訪れる顧客の中にも、訪日時に味わった和食の記憶をきっかけに、同様の体験を求めて来店する者が少なくないそうだ。こうした体験を重ねることで、味の背景にある技術や素材への関心が育まれていく。遠藤氏は、日本人以外には味の違いが分からないと妥協するのではなく、厳選した日本産食材を仕入れ、最適な技法で調理した料理を実際に体験してもらうことが市場を育てると語る。説明や演出だけに頼るのではなく、本物の和食をそのまま提供する姿勢こそが、理解を深める近道だという考えである。そして、違いを知った客が新たな担い手となり、次の理解者を生み出す循環が広がっている。同店は昨今SNSでの発信にも力を入れているが、これは店の熱心なファンである常連客が自ら発信を手掛けたいと申し出たことがきっかけだという。今後ますます「本物の和食」の広がりが期待される。

(掲載日:2026年3月19日)

えん藤
(702)981-7383
5040 W Spring Mountain Rd, Las Vegas, NV 89146
https://www.instagram.com/endo.lasvegas/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます