ロシアの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2024年のGDP成長率は4.3%の伸びを記録、前年並みの水準を維持。
  • 西側諸国は2次制裁も含め経済制裁を強化した。ロシアも対抗措置を追加・継続し、日本を含む「非友好国」企業にとって厳しい環境が続く。
  • 対内直接投資は3年連続の引き揚げ超過。
  • 日本の対ロ貿易は輸出入ともに減少。在ロ日系企業の撤退や縮小も続いた。

公開日:2025年8月20日

マクロ経済 
大幅な伸びが継続、名目GDPは過去最高を記録

2024年のロシア経済は、実質GDP成長率が4.3%と、前年(4.1%)並みの水準を維持した。名目GDPは初めて200兆ルーブルを突破し、2020年比で約2倍に拡大した。

鉱工業生産は前年の伸び率を0.3ポイント上回る4.6%増となった。製造業(8.5%増)が伸びを牽引した。特に、前年に引き続き金属製品(35.3%増)、コンピュータ・電子・光学機器(28.8%増)、輸送用機器のうち自動車およびトレーラー(16.5%増)が顕著な伸びを示した。

一方で、鉱業は振るわなかった。0.9%減となり、前年(1.0%減)に引き続きマイナスだった。アレクサンドル・ノワク副首相によれば、鉱業のうち2023年以降生産統計の公表が停止されている原油生産量については、前年比2.8%減の5億1,600万トンと、2年連続でマイナスとなった。原油生産が低迷したのに対し、天然ガス生産は2年連続の大幅なマイナス成長から一転し、8.7%増とプラスに転じた。これは、ロシアと中国を結ぶ天然ガスパイプライン「シベリアの力」を通じた中国への供給増や、安価を背景としたEU向け輸出の一部回復、さらにウズベキスタンなどの新規市場への輸出が本格化したことが主因とみられる。また、経済の好調による国内需要の増加も天然ガス生産の拡大を後押しした。

農業生産は第2四半期まではプラス成長を維持していたが、第3四半期にマイナスに転じ、通年では3.2%減となった。5月の霜降や夏場の干ばつなどの気候条件のほか、現場での人材不足、設備や技術の不足、物流コスト増などが大きく影響した。

固定資本投資は7.4%増を記録した。前年の伸び率(9.8%増)と比べると若干低下したものの、高水準を維持した。伸びが顕著だったのが製造業向けで、前年の伸び率を1.4ポイント上回る19.0%増となった。製造業の中でもコンピュータ・電子・光学機器向けが54.9%増と特に好調だった。底堅い軍需が成長を後押ししたとみられる。そのほかコンピュータソフト開発への投資の伸びが5年連続で2割を超えた。西側企業の撤退などに伴い外国製品・技術へのアクセスが制限される中、IT分野は政府が積極的に推進する輸入代替政策のもと、輸入品から国産品への置換が進む産業の1つである。鉱業向けの投資はプラスを維持しつつも、伸び率は前年の9.1%から5.9%に低下した。

小売売上高は7.2%増となった。伸び率は前年に比べ0.8ポイント低下したものの、旺盛な消費が高成長を支えた。消費の原動力となっている実質可処分所得の伸びは前年より1.2ポイント高い7.3%だった。消費者物価上昇率は前年12月比で9.5%となった。中央銀行はインフレを抑え込むために前年に引き続いて政策金利の段階的な引き上げを実施してきた。にもかかわらずインフレの勢いは収まっておらず、上昇率は前年実績を2.1ポイント上回る結果となった。

財政赤字は3兆4,720億ルーブルと、3年連続の赤字となった。赤字額は増加した一方で、GDP比は1.7%と、前年より0.1ポイント低下した。ミハイル・ミシュスチン首相は、経済の多角化が進んだ結果、石油ガス以外の機械製造や建設、農業、サービス分野などでの歳入が増えたためとしている。

表1 ロシアの主要経済指標(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年 2024年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 △ 1.4 4.1 4.3 5.4 4.3 3.3 4.5
階層レベル2の項目最終消費支出 0.1 6.5 5.2 6.3 5.3 5.0 4.4
階層レベル2の項目総固定資本形成 7.4 7.8 6.0 9.4 3.9 7.9 4.5
階層レベル2の項目財・サービスの輸出 n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. n.a.
階層レベル2の項目財・サービスの輸入 n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. n.a.
鉱工業生産 0.7 4.3 4.6 5.4 4.2 2.9 5.7
農業生産 11.3 0.2 △ 3.2 1.9 1.4 △ 2.6 △ 8.6
固定資本投資 6.7 9.8 7.4 14.8 8.7 5.7 4.9
貨物輸送 △ 2.3 △ 0.6 0.5 0.9 △ 0.5 0.6 0.9
小売売上高 △ 6.5 8.0 7.2 10.4 7.5 6.1 5.5
実質可処分所得 4.5 6.1 7.3 6.0 8.9 11.1 4.1
財政収支のGDP比 △ 2.1 △ 1.8 △ 1.7 △ 0.7 △ 0.6 2.3 △ 6.9

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。財政収支のGDP比は、連邦政府ベース。
〔出所〕連邦国家統計局、財政収支のGDP比のみ統計局および財務省資料からジェトロ作成。

貿易 
アジアのシェアがさらに増加

連邦税関局によると、2024年のロシアの貿易(通関ベース)は、輸出が前年比2.0%増の4,339億2,400万ドル、輸入は0.8%減の2,830億300万ドルだった。貿易黒字は前年と比べ109億900万ドル増え、1,509億2,100万ドルとなった。

連邦税関局はウェブサイト上で2022年2月分以降の貿易統計の公表を停止した。2023年3月に一部統計の公表を再開したが、大分類での品目別および地域別の輸出入額のみにとどまっている。

品目別でみると、輸出では原油や天然ガスを含む鉱物製品が前年比1.4%増となった。ノワク副首相のエネルギー業界誌への寄稿や現地報道によると、原油輸出量は2億4,000万トン(2.4%増)、ガス状の天然ガスは1,190億立方メートル(15.6%増)、液化天然ガス(LNG)は472億立方メートル(4%増)だった。輸入は食料品・農産品が特に増えた。中国から食肉、ベトナムから魚介類、ウズベキスタンやアゼルバイジャンから野菜や果物の輸入が増加した。

表2 ロシアの品目別輸出入 [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
食料品・農産品(繊維を除く) 43,088 42,629 9.8 △ 1.1 35,230 37,702 13.3 7.0
鉱物製品 260,417 264,082 60.9 1.4 5,566 4,479 1.6 △ 19.5
化学品・ゴム 27,240 27,593 6.4 1.3 55,723 53,467 18.9 △ 4.0
皮革・同製品 141 190 0.0 35.2 1,200 1,021 0.4 △ 14.9
木材・パルプ製品 9,857 10,115 2.3 2.6 3,363 3,205 1.1 △ 4.7
繊維・同製品・靴 1,747 2,300 0.5 31.6 19,156 18,095 6.4 △ 5.5
貴石・金属および同製品 60,029 63,652 14.7 6.0 19,218 17,939 6.3 △ 6.7
機械・設備・輸送用機器、その他の物品 22,771 23,363 5.4 2.6 145,822 147,096 52.0 0.9
合計 425,290 433,924 100.0 2.0 285,278 283,003 100.0 △ 0.8

〔出所〕連邦税関局

地域別でみると、欧州や米州との貿易額が減少し、アジアおよびアフリカとの貿易額が増加した。

表3 ロシアの主要地域別輸出入 [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
欧州 85,897 68,394 15.8 △ 20.4 78,531 73,074 25.8 △ 6.9
アジア 306,025 329,204 75.9 7.6 187,643 191,177 67.6 1.9
アフリカ 21,153 24,264 5.6 14.7 3,355 3,471 1.2 3.5
米州 12,080 11,881 2.7 △ 1.7 15,031 14,758 5.2 △ 1.8
オセアニア 7 6 0.0 △ 22.2 166 123 0.0 △ 26.2
合計(その他含む) 425,290 433,924 100.0 2.0 285,278 283,003 100.0 △ 0.8

〔出所〕連邦税関局

ロシアの貿易を相手国側からみると、中国の対ロシア輸出額は前年比3.7%増の1,155億6,975万ドル、輸入額は0.5%増の1,283億1,843万ドルだった。輸出では乗用車と自動車部品、輸入では原油、LNGを除く天然ガスが増加に寄与した。ロシアのガス最大手ガスプロムによると、天然ガスパイプライン「シベリアの力」を通じて2024年にロシアから輸出された天然ガスは310億立方メートルで、前年の227億立方メートルから約4割増加した。

インドの対ロシア輸出額は21.3%増の49億2,202万ドル、輸入額は8.9%増の660億154万ドルだった。輸出ではサーバやノートパソコンといったコンピュータ関連機器が特に増加した。これらの品目は西側諸国により対ロ輸出規制対象になっているが、インド企業が米国企業製サーバをロシアに輸出したと報じられた。マレーシアからインドを経由して供給されたとみられている。輸入は原油が増加に寄与した。

EUの対ロシア輸出額は17.3%減の315億5,080万ユーロ、輸入額は29.1%減の360億90万ユーロだった。輸出入ともほぼ全ての主要商品別で減少した。

ガス不足のため2023年10月からロシア産ガスの輸入を開始したウズベキスタン向け輸出が伸びた。2024年の同国向けガス輸出量は56億立方メートルと前年比4倍以上に増加した。

ロシアは西側諸国による金融制裁を回避するため、友好国との貿易決済で自国の通貨ルーブルや相手国通貨を使う比率を高めている。アレクセイ・オベルチュク副首相は2025年4月の上院本会議で、2024年のこれら通貨による決済の比率を79.8%と報告した。2020年は25%だった。中国とは95%を超え、ロシアを除くユーラシア経済連合(EAEU)加盟国(ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギス)とは93%、インドとは90%だった。

西側諸国はロシアの戦費調達につながる資金源を断つため新たな制裁を導入している。EUは2024年6月に採択した対ロ制裁第14弾の中で、ロシア産LNGをEU域内で第三国向けに積み替えることを禁止した。「アークティックLNG2」などロシアで建設中のLNG開発事業に対する新規投資や製品、技術、サービスの提供も禁止した。

米国は11月、海外との天然ガス取引の際に決済を担うロシアのガスプロム銀行を制裁対象に加えた。ただし日本企業が参画する「サハリン2」プロジェクトに関するものは例外とされた。米国の措置を受けてロシア政府は12月、ガス代金支払いの要件を緩和し、ガスプロム銀行以外の銀行を通じての支払いを認めた。

連邦税関局は2022年2月以降、ウェブサイト上で詳細な貿易統計を公表していないが、ウェブサイトでの公表後しばらく経ってから発行される「ロシア連邦貿易通関統計年鑑」に国別、品目別の統計が掲載されている。現時点で最新版の2023年版によると、同年の中国のシェアは輸出総額の2割、輸入総額の4割を超えた。輸出では、過去にエネルギー資源の主要輸出先だった欧州諸国に代わり、インド、香港、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプトなどが上位10カ国・地域に入った。輸出入ともに「友好国」の存在感がさらに高まった。

表4-1 ロシアの主要国・地域別輸出 [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB)
2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 98,704 106,840 25.1 8.2
インド 30,932 51,382 12.1 66.1
トルコ 54,029 45,874 10.8 △ 15.1
ベラルーシ 22,061 23,431 5.5 6.2
カザフスタン 18,782 17,045 4.0 △ 9.2
韓国 18,971 11,941 2.8 △ 37.1
香港 2,506 9,804 2.3 291.3
アラブ首長国連邦 8,679 9,781 2.3 12.7
ウズベキスタン 6,116 6,656 1.6 8.8
エジプト 5,344 6,390 1.5 19.6
日本 12,156 5,341 1.3 △ 56.1
合計(その他含む) 591,791 425,290 100.0 △ 28.1

〔出所〕連邦税関局

表4-2 ロシアの主要国・地域別輸入 [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸入(CIF)
2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 85,961 120,971 42.4 40.7
ベラルーシ 22,227 24,017 8.4 8.1
ドイツ 16,521 13,350 4.7 △ 19.2
カザフスタン 9,603 11,466 4.0 19.4
トルコ 8,344 10,059 3.5 20.6
イタリア 9,426 9,020 3.2 △ 4.3
韓国 7,543 8,067 2.8 7.0
米国 8,094 6,353 2.2 △ 21.5
インド 4,395 5,402 1.9 22.9
フランス 6,445 4,621 1.6 △ 28.3
日本 4,351 3,683 1.3 △ 15.4
合計(その他含む) 255,491 285,278 100.0 11.7

〔出所〕連邦税関局

通商政策 
強まる経済制裁と、差別関税などのロシア側対抗措置

西側諸国は対ロ経済制裁を一層強化し、それに呼応してロシアも追加の対抗措置を導入した。ウクライナ侵攻から2年が経過した2024年も、西側の制裁とロシア側の対抗措置、ならびに風評リスクにより日本を含む非友好国(ロシア政府、ロシアの個人および法人に対して非友好的行為を行う国・地域)企業のロシアでの活動は困難な状況が続いた。

EUは6月、第14弾となる対ロ制裁を採択し、ロシア国内で広く使われている送金システムの使用禁止のほか、特定の船舶がEU域内港湾にアクセスすることなどを禁じた。米国も同月、大規模な制裁を発動し、事実上、農業と医療分野以外のすべての品目のロシア向け輸出に制限をかける輸出管理措置を講じた。同時に米国はロシアとベラルーシの300以上の事業体と個人を「特別指定国民(SDN)」に指定した。この影響は大きく、非友好国のみならず友好国の金融機関も、2次制裁への懸念から、ロシアからの被仕向送金(受け取り)の拒否や、内部審査を厳格化した。日系企業の活動にも影響があった。日系企業からはロシアから中国に商品代金を送ろうとしたが、中国側で断られたといった声が聞かれた。

また、ロシアは2022年12月に非友好国からの輸入に対する差別関税を導入し、以降、期限の延長や品目の追加を実施してきた。2024年7月27日には非友好国からの輸入に対する差別関税の対象を拡大した。これを受け、例えば日本を含む非友好国産砂糖菓子などの税率が引き上げられた。1リットルあたり0.1ユーロに引き上げられていたビールの関税は、2025年1月1日から同1ユーロと、10倍に引き上げられた。

西側諸国による制裁への対抗措置の中で、ロシアに進出する外国企業に特に大きな衝撃を与えたのが、5月23日に署名、施行された大統領令第442号「米国による非友好的措置によりロシア連邦およびロシア連邦中央銀行が被る損害の補償の特別手続きについて」である。これは、米国が米国内で凍結しているロシア資産を接収し、ウクライナ支援に活用した場合、ロシア側もロシア国内の米国資産を接収し、補償する特別措置を定めたものだ。ロシアの在外凍結資産の活用は米国のみならず、EUや日本を含むG7の場でも議論されているところであり、米国以外の国にも適用され得るルールの土台ができあがったという点で外国企業の心理に影響を与えた。10月には非友好国企業が撤退に当たってロシア事業を売却する際の条件を厳格化した。

欧米諸国との関係が悪化する中、ロシアは中国やグローバルサウスなどとの関係構築に力を入れている。3月の大統領選挙で5度目の当選を果たしたウラジーミル・プーチン大統領は5月、就任後初の外遊先として中国を公式訪問した。習近平国家主席との首脳会談の後に開催された記者会見の場でプーチン大統領は2023年の2国間貿易が過去最高の2,400億ドルに達したことを紹介し、中ロの経済関係強化の成果を強調した。7月にはインドのナレンドラ・モディ首相とモスクワで会談した。81の項目から成る両国首脳の共同声明の中で、2030年までに両国の貿易額を1,000億ドルに増やす目標が設定された。

ロシアは近年BRICSの枠組みも重視している。10月にロシア西部の都市カザンで開催されたBRICS首脳会議で、ロシアは議長国を務めた。会議では新たに、加盟国に次ぐ立場にあたる準加盟国に相当し、加盟国との経済協力や会議への参加に対する権利を持つ「パートナー国」の制度を創設することが決まった。多国間主義の強化を図るうえで、グローバルサウスの結束力を高める狙いがあるとみられている。

対内・対外直接投資 
西側企業撤退の中、印・ベトナムなど友好国企業が進出

ロシア中央銀行の直接投資統計(国際収支ベース、ネット、フロー)によると、2024年の対内直接投資は81億7,598万ドルの引き揚げ超過だった。3年連続で引き揚げ超過となった。2024年末の対内直接投資残高は前年末比22.9%減の2,582億6,905万ドルだった。2024年の国・地域別、業種別の統計は昨年に引き続き公表されていない。

ロシアがウクライナへの侵攻を開始した2022年2月24日以降、西側諸国の企業は相次いでロシア市場からの撤退、およびロシアにおける事業・資産を整理すると表明しているが、2024年もその傾向は継続した。

フランスのダノン(Danone)は、2024年5月にロシアのバミン・アール(Vamin R)にロシア事業の売却が完了したことを発表した。2023年7月、大統領令により同社がロシアに保有するロシア法人の株式が一時的に国有化されていたが、2024年3月に売却のための承認を当局から取得した。フィンランドの冷暖房機器メーカーであるプルモグループ(Purmo Group)は9月、ロシア事業をロシアの投資会社に売却したことを発表した。デンマークのカールスバーグ(Carlsberg)もダノン同様、保有するロシア地場ビールメーカーのバルチカ(Baltika)の全ての株式が一時的に国有化されていたが、当局の承認を得たうえで、12月にバルチカの従業員2名によるマネジメント・バイアウト(MBO)の形で全株式を売却することで合意した。

西側企業が撤退を進める中、ロシアに投資を行う「友好国」企業も存在する。インドのユーフレックス(UFlex)は2024年4月、モスクワ州のストゥピノ・クワドラト特別経済区に、2つ目となる工場の建設を完了し、稼働開始した。ベトナムのTHグループは5月、沿海地方で酪農複合施設の建設を開始した。複合施設には1万2,000頭の乳牛の飼育施設、飼料用農地、牛乳加工工場などが集まり、「牧草から牛乳まで」の閉鎖型生産チェーンを構成する。また、同社は2025年5月、カルーガに牛乳加工工場を開設した。ロシア国内市場への供給のみならず、BRICS諸国への輸出も見込んでいる。バシコルトスタン共和国開発公社および同共和国のアルガ特別経済区管理会社によると、ベラルーシの1AKグループは、2024年12月に同特区の入居者として登録された。21億ルーブルを投じ、バッテリー用のセパレータ工場の建設を計画している。

2024年の対外直接投資は1億6,877万ドルだった。昨年から98.4%減と大幅に減少した。同年末の対外直接投資残高は前年末比13.7%減の2,722億5,423万ドルだった。国・地域別、業種別の統計は発表されていない。

表5 ロシアの対内・対外直接投資 [国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
項目 2023年 2024年 2024年末
残高
金額 金額 伸び率
対内直接投資 △ 10,045 △ 8,176 258,269
対外直接投資 10,706 169 △ 98.4 272,254

〔出所〕ロシア中央銀行

表6 ロシアから撤退を発表した主な企業の事例
業種 企業名 国籍 時期 金額 概要
金融 HSBC 英国 2024年2月 非公表 同社は、2022年にロシア事業をロシアのエクスポバンクに売却することで合意していた。2024年2月に当該取引についてプーチン大統領が承認、売却が完了した。
産業用ガラス AGC 日本 2024年2月 非公表 同社は、ロシアのニジェゴロド州およびモスクワ州の建築用ガラスなどの製造、販売を行っていた2社を譲渡し、ロシア事業からの完全撤退を発表した。
食品 ダノン(Danone) フランス 2024年5月 非公表 2023年7月の大統領令により、同社が保有するロシア法人の普通株833億株が一時的に国有化された。2024年3月にロシア事業をロシアのバミン・アール(Vamin R)に売却するための当局からの承認を取得したと発表し、5月に売却完了とロシア市場からの完全な撤退を発表した。
ファッション HUGO BOSS ドイツ 2024年8月 非公表 同社は、2024年の年次報告書で、ロシアの子会社の売却プロセスが完了したことを報告した。複数の報道によると、売却先は同社の卸売りパートナーであった百貨店のストックマンで、取引条件は公開されていない。買収企業のロシア企業「ストックマン」は、2014年にフィンランドの所有者からロシア企業に売却されている。
冷暖房機器 プルモグループ
(Purmo Group)
フィンランド 2024年9月 非公表 同社は2024年9月にロシアの投資会社に同社のロシア事業の売却を報告した。同社は、2023年4月に別会社とロシア事業売却に係る契約を締結していたが、当局からの承認プロセスが長期化したことで交渉終了となった。2023年時点で、同社のロシア事業は、グループ総売り上げの3%を占めていた。
日用消費財 ユニリーバ
(Unilever)
英国 2024年10月 非公表 ロシアの化粧品・家庭用洗剤メーカーのアルネストに、ロシア(国内の4工場含む)およびベラルーシでのビジネスを売却。アルネストはユニリーバ製品のOEM製品を含め、長期にわたり協力関係にあった。
飲料 カールスバーグ
(Carlsberg)
デンマーク 2024年12月 22億5,800万デンマーククローネ 2023年7月の大統領令により、同社が保有するロシア地場ビールメーカーのバルチカ(Batika)のすべての株式が国有化されていた。12月にロシア事業の売却処理を完了し、売却合意の一環として、カールスバーグ・アゼルバイジャン、カールスバーグ・カザフスタンの株式を取得した。

〔出所〕各社発表、現地政府発表および報道などから作成

表7 ロシア政府の管理下に置かれた事例
業種 企業名 国籍 時期 金額 概要
給湯器 アリストングループ
(Ariston Group)
イタリア 2024年4月 2024年4月、大統領令により同社のロシアにおける子会社「アリストン・サーモ・ルス」は一時的にガスプロム・ビトビエ・システムの管理下に置かれた。2025年3月、この措置が無効化され、全株式の所有権・管理権を回収した。
家電 ボッシュ(Bosch) ドイツ 2024年9月 2024年の年次報告書によると、同年9月に現地子会社ボッシュ・テルモテフニカを売却した。2024年4月、大統領令により子会社BSH ビトビエ・プリボリがガスプロム・ビトビエ・システムの管理下に置かれた。「ストロイテリストボ・イ・インベスチツィ」、ボッシュ・レックスロス、ロバート・ボッシュの子会社3社の株式100%を保持している。

〔出所〕各社発表、現地政府発表および報道などから作成

表8 「友好国」企業が進出した事例
業種 企業名 国籍 時期 金額 概要
包装用フィルム ユーフレックス
(UFlex)
インド 2024年4月 25億7,000万ルーブル モスクワ州投資・産業・科学省の発表によると、インドのユーフレックス・グループは、ストゥピノ・クワドラト特別経済区に、6.5メートル幅のキャストポリプロピレン(CPP)フィルムの工場の建設を完了、工場が稼働した。年間の製造量は1万8,000トン。100人の雇用創出を見込む。
酪農 THグループ ベトナム 2024年5月 非公表 2024年5月、ロシアの沿海地方において、1万2,000頭の乳牛飼育施設および乳製品工場を含む酪農複合施設の建設を開始した。1日当たり生乳生産量は250トンの予定。報道によると投資額は190億ルーブル。
同社は2025年4月、カルーガ特別経済区にロシア最大級の生乳工場を開設した。生産量は1日あたり500トン。今後拡張のため第2期の投資が計画されており、カルーガ州政府によると同計画も含めた総投資額は130億ルーブル。
建設 豊尚農牧装備(FAMSUN Group) 中国 2024年5月 非公表 同社はダゲスタン共和国のマハチカラ港に穀物ターミナルを建設する予定。貯蔵容量は年間150万トンを見込む。2025年3月の同社発表によれば、同社とマハチカラ港は、ターミナル建設のための機器供給に関する協力協定を締結した。
建材 ベラルーシ・セメント会社
(Belarusian Cement Company)
ベラルーシ 2024年6月 20億ルーブル サンクトペテルブルク国際経済フォーラムの場で、モスクワ州ナロ・フォミンスク市での建設資材の生産・物流拠点の設立に関する協定を同州政府と締結。2030年までにプロジェクトを実現し、投資額は20億ルーブル、100人の雇用創出を見込む。
バッテリー部品 1AKグループ ベラルーシ 2024年12月 21億ルーブル アルガ特別経済区にバッテリー用のセパレータ製造工場の建設を予定する。2024年12月に、同経済特区への入居資格を取得した。工場建設コストは21億ルーブルで、80人の雇用創出を見込む。

〔出所〕各社発表、現地政府発表および報道などから作成

対日関係 
対ロ輸出入ともに減少、中古車輸出、鉱物資源輸入減が寄与

日本の財務省「貿易統計(通関ベース)」をドル換算すると、2024年の日本の対ロシア輸出額は前年比24.2%減の21億6,700万ドル、輸入額は22.8%減の57億2,600万ドルだった。輸出はウクライナ侵攻に端を発した日系各社のロシア向け出荷の停止、日本政府による追加の輸出禁止措置が影響した。

主要輸出品目である自動車の輸出額は20.7%減だった。台数ベースでみると乗用車は6.3%減の19万9,085台で全てが中古乗用車だった。新車は侵攻以降、自動車各社のロシア向け出荷停止が続いている。中古乗用車は、日本が2023年8月に対ロ制裁の対象品目に中古車を含む排気量1,900cc超の自動車を加えたことが影響し、輸出が減少した。自動車の部分品は6,700万ドル(10.2%増)だった。

一般機械は83.0%減、うち主な輸出品目だったポンプ・遠心分離機は大幅に減少し600万ドル(95.3%減)だった。2023年4月に導入された輸出禁止措置で、油圧ショベル、特定のボイラーやポンプなどが対象に加わった。原動機は2,900万ドル(34.8%減)だった。建設用・鉱山用機械(94.3%減)、荷役機械(99.0%減)も大幅に減少した。

輸出禁止措置の対象外の一部品目は増加した。医薬品を中心に化学製品が1億3,300万ドル(21.1%増)、食料品は5,000万ドル(97.8%増)だった。

輸入では、主要品目である液化天然ガス(LNG)が12.3%減の36億5,500万ドルだった。石炭は75.6%減の1億9,900万ドルと大幅に減少した。LNG、石炭の輸入量は、それぞれ7.3%減(568万トン)、64.7%減(123万トン)だった。前年に5,300万ドル(12万キロリットル)あった原油および粗油は全減した。

非製造業を中心に対ロ直接投資が減少

日本の財務省の国際収支統計をドル換算すると、2024年の日本の対ロシア直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は前年比20.3%減の5億7,100万ドルだった。主に非製造業の減少が影響した。業種別にみると、非製造業全体で16.7%減の5億5,300万ドルとなった。金融・保険業が前年比15.3%減の1億1,000万ドルとなったが、卸売・小売業は56.0%増の9,800万ドルとなった。製造業では主に輸送機械器具が96.9%減の100万ドルで、製造業全体では65.5%減の1,800万ドルだった。

2024年末の対ロ直接投資残高は41億4,200万ドル(前年末比12.8%減)となった。業種別では、主に非製造業が減少し、37億1,200万ドル(10.6%減)だった。卸売・小売業16億8,700万ドル(10.0%減)、金融・保険業8億3,500万ドル(10.7%減)の減少が影響した。製造業は4億2,900万ドル(27.5%減)だった。主に輸送機械器具1億3,500万ドル(44.7%減)が影響した。直接投資の内訳をみると、収益の再投資が増加した。ロシア国外への送金が困難なため、ロシア現地子会社が利益を本国に送金せず、内部留保したものとみられる。親会社から現地子会社への融資などを含む負債性資本も増加した。現地企業の株式取得やその他の資本拠出金を計上する株式資本は減少した。

在ロ日系企業の撤退や事業停止が続く

日本の主な対ロシア経済制裁をみると、輸入では2024年2月に主要国と協調してロシア産原油の上限価格制度順守を強化する措置を導入した。3月にロシアに対する関税における最恵国待遇の撤回措置を1年間延長した。輸出では4月にロシアの産業基盤強化に資する物品の輸出禁止措置の対象品目に自動車用エンジンオイルなどを追加した。10月に発足した石破内閣では、ロシア経済分野協力担当大臣の設置が見送られた。

ロシアによるウクライナ侵攻の影響をうけ、在ロシア日系企業は事業停止や撤退が続いた。ガラス大手のAGCは2024年2月、ロシアのニジェゴロド州およびモスクワ州の建築用ガラスなどの製造、販売を行っていた2社の譲渡を完了し、ロシア事業からの完全撤退を発表した。譲渡金額は非公表とした。同月、プーチン大統領はDMG森精機のドイツ子会社が所有するウリヤノフスク工作機械工場に政府管理下に置く大統領令に署名、即日施行した。自動車部品メーカーのハイレックスコーポレーションは6月、ロシア子会社を清算し、ロシア事業から撤退した。

ジェトロが2024年9月に実施した「海外進出日系企業実態調査(ロシア編)」によると、2024年の営業利益見込みは、2013年度の調査開始以降、最悪となった前年度からやや改善したが、「赤字」と回答した企業の比率が47.5%と最も大きかった。今後1~2年の事業展開について、「第三国(地域)への移転、撤退」が13.8%(前年比0.3ポイント減)でほぼ横ばいとなった。「縮小」は前年比4.1ポイント減の24.1%だった。ロシアで事業を展開する上での課題として、対ロ制裁や輸出規制のため製品の輸入・販売が困難なこと、欧米や日系企業が撤退または販売を停止している中、中国勢が市場拡大していることが挙がった。

表9-1 日本の対ロシア主要品目別輸出 [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB)
2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
輸送用機器 1,853 1,501 69.3 △ 19.0
階層レベル2の項目自動車 1,762 1,397 64.5 △ 20.7
階層レベル3の項目乗用車 1,720 1,397 64.5 △ 18.8
階層レベル3の項目バス・トラック 42 全減
階層レベル2の項目自動車の部分品 60 67 3.1 10.2
化学製品 110 133 6.1 21.1
階層レベル2の項目医薬品 41 70 3.2 73.2
原料別製品 110 69 3.2 △ 38.0
階層レベル2の項目ゴム製品 35 24 1.1 △ 30.6
階層レベル2の項目金属製品 40 20 0.9 △ 49.6
一般機械 306 52 2.4 △ 83.0
階層レベル2の項目原動機 45 29 1.3 △ 34.8
階層レベル2の項目ポンプ・遠心分離機 125 6 0.3 △ 95.3
階層レベル2の項目建設用・鉱山用機械 8 0 0.0 △ 94.3
階層レベル2の項目荷役機械 11 0 0.0 △ 99.0
食料品 25 50 2.3 97.8
合計(その他含む) 2,857 2,167 100.0 △ 24.2

〔出所〕財務省「貿易統計」から作成

表9-2 日本の対ロシア主要品目別輸入 [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 輸入(CIF)
2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料 5,039 3,856 67.3 △ 23.5
階層レベル2の項目原油および粗油 53 全減
階層レベル2の項目液化天然ガス(LNG) 4,169 3,655 63.8 △ 12.3
階層レベル2の項目石炭 816 199 3.5 △ 75.6
階層レベル2の項目石油製品 0 全減
階層レベル3の項目揮発油
食料品 963 880 15.4 △ 8.6
階層レベル2の項目魚介類 928 864 15.1 △ 6.9
原料別製品 1,038 662 11.6 △ 36.2
階層レベル2の項目非鉄金属 820 584 10.2 △ 28.7
階層レベル2の項目鉄鋼 189 55 1.0 △ 70.6
原料品 237 221 3.9 △ 6.8
階層レベル2の項目木材 183 204 3.6 11.7
階層レベル2の項目非鉄金属鉱 37 2 0.0 △ 94.1
化学製品 107 78 1.4 △ 26.7
階層レベル2の項目有機化合品 87 55 1.0 △ 36.8
合計(その他含む) 7,413 5,726 100.0 △ 22.8

〔出所〕財務省「貿易統計」から作成

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2022年 2023年 2024年
実質GDP成長率 (%) △ 1.4 4.1 4.3
1人当たりGDP (米ドル) 15,646 14,079 14,795
消費者物価上昇率 (%) 11.9 7.4 9.5
失業率 (%) 4.0 3.2 2.5
貿易収支 (100万米ドル) 315,567 121,662 132,967
経常収支 (100万米ドル) 237,735 49,439 62,287
外貨準備高(グロス) (100万米ドル、期末値、金除く) 445,912 442,734 413,361
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 385,081 318,289 290,324
為替レート (1米ドルにつき、ルーブル、期中平均) 67.46 84.66 92.44


貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:連邦国家統計局
1人当たりGDP:IMF
貿易収支、経常収支、外貨準備高、対外債務残高、為替レート:ロシア中央銀行