2011年在北米、欧州・トルコ日系企業経営実態調査の結果報告(2011年10月)

最終更新日: 2011年10月14日

ジェトロでは2011年7月〜8月に在北米および在欧州・トルコの日系企業にアンケート調査を行った。

(注)米国の調査は、有効回答847社(回答率77.6%)。今回の調査は1981年以来、30回目の実施。カナダの調査は、有効回答163社(回答率72.1%)。今回の調査は1989年以来、22回目の実施。欧州・トルコの調査は、有効回答373社(回答率68.2%)。今回の調査は1983年以来、27回目の実施。


<米国、欧州共通設問:東日本大震災の影響>
(1)米国、欧州共に約7割の日系製造業に経営上の影響あり。
東日本大震災については在米企業の75.1%、在欧州企業の66.2%が事業になんらかの影響があったと答えた。特に、輸送用機器および同部品(自動車・二輪車)分野の企業には大きな影響があり、米国では自動車産業が集積している中西部や南部で「深刻な影響があった」と回答した企業が4割を超えた。

(2)日本からの調達の減少、現地販売の減少などが見られるものの、影響が及ぶ/及んだ期間は6ヵ月未満がほとんど。
主なビジネスへの影響としては、「日本からの仕入れ・調達の減少」、「現地販売の減少」、「現地生産・加工の減少」などが挙げられた。一方、影響がある/あった期間については、6ヵ月未満とした企業がほとんどであり、特に欧州では3ヵ月未満とした企業は6割に達した。震災による影響は、全体としては比較的短期間で収束した。

(3)5割以上の企業は震災後の事業戦略・方針を見直さない結果に。
震災後の事業戦略・方針の見直しについては、在米、在欧州企業共に5割以上が見直しをしないとした。主な理由として、既にサプライチェーンが復旧したことや、代替の難しい部品・原材料を日本から調達していることが挙がった。一方、大幅に見直すとした在米企業は6.1%、在欧企業では2.7%にとどまった。多少見直すとした在米企業は36.8%、在欧州企業は31.0%だった。具体的な見直しについては、「日本からの仕入れ・調達の縮小」、「現地調達・仕入れの拡大」、「在庫(部品・原材料)の積み増し」などが挙げられた。


<在米国日系企業経営実態調査の結果概要>
(1)2011年の営業利益は、7割弱の企業が黒字を見込むものの、2010年と比較して減速。
景況感を示すDI値(調査年の営業利益が前年比で「改善」した割合から「悪化」した割合を引いた数値)は、6.6となり、調査開始以来(※)最高を記録した10年の55.7と比較すると大幅に低下した(※:景況感に関するアンケートは91年から実施)。ただし、5割の企業が12年の営業利益の改善を見込む。10年と比較した営業利益の主な改善要因は、「国内市場の販売量増加」、「海外市場の販売量増加」、「最終製品価格の上昇」など。一方、営業利益の悪化の主な要因は、「国内市場の販売量減少」や「為替変動の影響」が挙げられた。

(2)原材料価格などの高騰、円高、医療保険の負担増がコスト上昇の主な要因。
経営上の課題では、「原材料・資源・コモディティの価格の高騰」、「円高」、「医療保険(ヘルスケア)の負担増」が主なコスト上昇要因に挙げられた。また、販売抑制要因としては、「価格競争の激化」、「有力な競合製品の存在」を挙げる声が多かった。原材料価格などの高騰と長期化する円高の影響により、コストの上昇が経営上の大きな課題となっている。

(3)雇用の現地化が進展。設備投資では、コスト削減を目的とした合理化・効率化が目立つ。
過去1年間の現地従業員数について、「増加」と回答した企業は4割弱となった。今後についても「増加」が4割を超えた。一方、日本人駐在員数は過去1年、また今後の見通しでも「横ばい」が7〜8割を占め、雇用の現地化が進展しているとみられる。10年と比較した設備投資も「増加」との回答が4割を超えた。特に、製造コストの削減を目的とした「工場の合理化・効率化(機械・設備の増強・更新を含む)」が多かった。

(4)品質と価格のバランスでは、米国・欧州企業が優位にあり、中国・韓国企業は、価格面で優位性がある。
他国企業との競合では、米国企業に対して「競合しており、かつ脅威」との見方が集中した。また、欧州企業に対しても「競合しており、かつ脅威」とみる傾向がある。欧米企業は、「品質と価格のバランス」、「ブランド構築のうまさ」、「ニーズに適した製品作り」において優れているとの回答が目立った。一方、中韓企業に対しては、「競合していないが、近い将来は脅威」とする回答が多く目立った。具体的には、「価格が安い」との回答が圧倒的に多かった。

(5)NAFTAは、主に輸送用機器を扱う企業が輸出の際に活用している。
北米自由貿易協定(NAFTA)の優遇税制の活用状況については、約25%の企業がカナダおよびメキシコへの輸出の際に活用している。特に、輸送用機器を扱う企業の6割が輸出の際に活用している。



<在カナダ日系企業経営実態調査の結果概要>
(1)2011年の景況感は、6割の企業が営業利益の改善を見込むものの、2010年と比較して大幅に減速。
景況感を示すDI値(調査年の営業利益が前年比で「改善」した割合から「悪化」した割合を引いた数値)はマイナス3.1と前年の30.5から大幅に落ち込んだ。2010年と比較した営業利益の悪化見込みの主な理由は、「為替変動の影響」や「国内市場の販売量減少」が挙げられた。特に、長期化するカナダドル高による事業への影響は深刻。

(2)対ドルレートでのカナダドル高や原材料高は深刻なコスト上昇要因。販売価格に転嫁せざるを得ない場合もある。
経営上の課題では、「カナダドル高(対ドルレート)」、「輸送費(ガソリン)の高騰」、「原材料・資源・コモディティの価格の高騰」、「人件費(給与・賞与)の高騰」が主なコスト上昇要因に挙げられた。特に、カナダドル高によるコストの上昇は経営に深刻な影響を与えている。また、「価格競争の激化」、「有力な競合製品の存在」、「差別化の図りにくさ」を主な販売抑圧要因と挙げる声が多かった。

(3)現地雇用は横ばい。設備投資は、施設の合理化・効率化を目的とした投資が多い。
現地従業員に関しては、過去1年、また今後の予定でも「横ばい」が多い。日本人駐在員数も、同様の動きがみられる。10年と比較した設備投資についても、「横ばい」が半数を占め、経営の効率化を目的とした投資が目立つ。

(4)品揃えが豊富でブランド戦略に長けた米国企業に優位性。一方、中韓企業は価格面で優位。
他国企業との競合については、回答のあった半数の企業が米国企業を「競合しており、かつ脅威」とみている。次いで、欧州企業、カナダ企業の順となった。欧米企業については、「ブランド戦略が優れている」、「品揃えが豊富」、「品質が良い」との回答が目立った。中国企業に関しては、「競合していないが、近い将来は脅威」とする企業が3割であった。また、「価格が安い」との回答が圧倒的に多く、価格競争の面で優位性をみせている。一方、韓国企業に対しては、「価格が安い」、「品質と価格のバランス」、「販売会社へのインセンティブ」が優れているとの回答が多くみられた。

(5)日加EPA(共同研究の段階)については4割の企業がプラスの影響を認識。一方、NAFTAについては、輸送用機器部品や一般機器を扱う企業の7割以上が対米輸入の際に活用。
北米自由貿易協定(NAFTA)の優遇税制は、輸送用機器部品(自動車・二輪車)や一般機器(金型・機械工具を含む)を扱う企業が対米輸入の際に多く活用している。共同研究の段階である日加EPAによるビジネスへの影響については、4割の企業が「プラス」の効果があるとしており、特に、商社、販売会社、輸送/倉庫などの非製造業にとってプラスの影響があるとみられる。



<欧州・トルコ日系企業経営実態調査の結果概要>
(1)2011年の景況感は前年から大幅に減速する見込み。
2011年のDI値(調査年の営業利益が前年比で「改善」する割合から「悪化」する割合を引いた数値)は、27.8となった。2010年の48.8と比較すると大幅に低下したが、リーマン・ショック直後の水準は上回った。一方、2012年のDI値は31.9となり、2011年から上昇するが、その勢いは緩やかである。

(2)為替変動は経営上の最大の問題点〜想定レートが実勢より平均15円乖離。
「経営上の課題」の1位は「不安定な為替変動」で、約半数の企業が問題としている。2011年に営業利益の悪化を見込む企業においても、4割弱が「為替変動」を理由としている。アンケート実施期間中(7月〜8月)のユーロの対円レートは、最安値で1ユーロ=110円となったが、日系企業の「現地生産する上で望ましい為替水準」の平均値は1ユーロ=125円で、企業の想定値と実際の為替レートは大きく乖離している。一方、望ましい為替水準を「1ユーロ=111〜120円」とする企業は、2010年の約2割から3割に増加し、「131〜140円」とする企業は約2割から1割に減少、日系企業の円高対策も進んでいるともいえる。

(3)販売増加のために、近隣の新興諸国の開拓を目指す。
2011年に営業利益の改善を見込む理由には、進出先国内、国外市場の販売増加が1位、2位に入った。将来有望な販売市場は、5年連続でロシアが1位となり、2位には昨年同順位の中国を押さえドイツが、3位にはトルコが入り、近隣の新興市場に対する販路開拓が重視されている。また、販売強化に向け、現地生産の拡大を志向。「今後1〜2年で事業を拡大する」とした企業が5割を超え、2009年(約3割)、2010年(約4割)から確実に増加した。

(4)日本、ASEANとのFTAに期待。EU韓国FTAはデメリットが大きい。
日本-EU FTAが事業活動に与える影響として、4割以上の企業が「メリット大」と回答した。関税撤廃以外では、通関手続きや関税分類問題の解消への期待が高い。EUと第三国・地域のFTAについては、ASEAN、インドとの締結が、自社へのメリットになるとした企業が1割を超えた。調達および販売先が日本と欧州域内だけでなく、アジアなど新興市場に多角化していることが分かる。

一方、「新たな競合企業」の資本国籍として3割近くが韓国を挙げた。7月に暫定発効したEU-韓国FTAについて、約2割もの企業が「デメリット大」とした。低価格を武器にする中国・韓国企業等との競争が激化するなか、EU-韓国FTAの締結による関税撤廃が韓国企業の部品調達コスト削減に繋がり、ますます価格競争が激化することへの強い懸念といえる。

参考:欧州・トルコで確認された日系製造業1,108社(2010年末時点)の中、2010年(通年)の新規進出数は23社である。78社を記録した2006年以降は減少を続け、2008年以降は25社前後に留まる。

<担当部課>
ジェトロ欧州ロシアCIS課(担当:前田、植原、赤澤) TEL:03-3582-5569
ジェトロ北米課(担当:中島、桜内、安東) TEL:03-3582-5545

記事番号:07000730

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