医薬品の現地輸入規制および留意点:インドネシア

質問

インドネシアに医薬品を輸入する際に必要な手続きを教えてください。

回答

Ⅰ. 医薬品の定義と分類例

医薬品(Obat)の定義は、「人又は動物の疾病の予防、診断、治療、緩和、治癒を目的とした物質又は製剤」とされています。これとは別に、麻薬、向精神薬、その他危険な添加物といった薬物(Narkotika, Psikotropika, dan Zat Aditif Berbhaya)は、「依存性、乱用、有害な可能性を持つ特定の物質群」と定義されています。
保健省は、医薬品の安全性と管理に関する全体的な方針と戦略を策定する役目を担っています。一方で、全ての薬物の登録と規制は、国家医薬品食品監督庁(Badan Pengawas Obat dan Makana; BPOM)が担当し、麻薬、向精神薬、中毒性及び有害物質、並びに医薬品及び非処方箋薬について管轄しています。医薬品についてはリスクと乱用の可能性に基づき、五つのクラスに分類され、審査を経て輸入・流通許可がなされます。

医療品のクラス リスク度 該当する製品の例
I 最もリスクが高く、重度の依存症や中毒を引き起こす可能性がある ヘロイン、コカイン、大麻(マリファナ)
リスクが高く、中程度の依存性と中毒の可能性がある モルヒネ、アンフェタミン、メタンフェタミン
リスクが中程度で、依存性及び中毒の可能性が低い コデイン、バルビツール酸塩、特定の睡眠導入剤
リスクが低く、依存性及び中毒の可能性が極めて低い ジアゼパム、クロルフェニラミン
他のカテゴリには含まれないが、依存及び乱用の可能性があるもの 特定の吸入剤、接着剤、一部の市販の咳止めシロップ

Ⅱ. 医薬品業許可(Izin Industri)申請手続き

インドネシアで医薬品を輸入・流通するには、輸入に先立ち医薬品流通業者許可(Izin Industri)と、医薬品流通許可ライセンス(Izin Edar)を取得する必要があります。医療機器と異なり、許可申請は保健省へ行いますが、医薬品の審査は国家医薬品食品監督庁(BPOM)が行っているため、双方の官庁の指示に従い、対応する必要があることに留意が必要です。
申請手続き及び許可要件は、以下のとおりです。

【許可要件】
インドネシア国内に有限責任会社(PT)を持っていること。
投資計画を有し、医薬品の製造活動を行っていること。
納税者番号(NPWP)を保有していること。
品質保証、製造、品質管理の責任者として、それぞれ3名以上のインドネシア人薬剤師を常駐させていること。
コミッショナーと取締役が、製薬部門の法令違反に直接的又は間接的に関与したことが無いこと。
【手続き1】
マスター開発計画(RIP:Rencana Induk Pembangunan)承認申請書」をBPOMへ提出。
申請書にはオフィスや倉庫の所在地などの情報を記載し、オフィスの配置図や建物の間取図を添付する。
BPOMは申請内容を審査し、問題がなければ、申請書受領後14営業日以内に承認を行う。
【手続き2】
「原則承認申請書」を保健省に提出しその写しをBPOMに送付する。
原則承認申請書提出時、RIP承認書の他、法人設立証書(写)や納税者番号などの必要書類を添付する。
保健省は申請内容を審査し、問題がなければ、申請書受領後14営業日以内に承認を行う。
【手続き3】
「医薬品業許可申請書」を保健省に提出し、その写しをBPOM及び管轄する州の保健局に送付する。
医薬品業許可申請書には主任取締役と品質保証の担当薬剤師が署名を行う。
原則承認書の他、投資承認書や身分証などの必要書類を添付する。
BPOMは、許可申請書(写)の受領後20営業日以内に「適正製造規範」(Good Manufacturing Practice; GMP)の履行に関する監査を実施し、GMPの履行要件を満たすことを確認できた場合は、10営業日以内に保健省へ推薦状を提出する。
州保健局は、医薬品業許可申請書(写)の受領後20営業日以内に、行政上の要件を満たしているか審査し、それを確認できた場合は10営業日以内に保健省へ推薦状を提出する。
保健省は、BPOMと州保健局の双方から推薦状を受領した後、問題なければ10営業日以内に医薬品業許可証を発行する。

Ⅲ. 医薬品流通許可(Izin Edar)の申請手続き

個別の医薬品の流通に必要な医薬品流通許可(Izin Edar)の申請は、大きく事前登録及び本登録の2段階に分けられます。許可要件、登録手続きは以下のとおりです。

【許可要件】
非臨床試験や臨床試験等を通じたエビデンスをもって、有効性と安全性が証明されていること。
製品のリスクプロファイルに基づき、以下の追加データが必要な場合がある。
  • 高リスク薬や新規製剤には、追加の臨床試験や非臨床試験データ。
  • 患者の理解を助けるための、より詳細な有効性及び安全性情報。
GMPに準拠した製造プロセスを含め、確固たる基準を満たしており、有効なエビデンスを備えていること。
製造業者の品質管理体制が適切に機能していること。
製品とラベルに、医薬品の適切、合理的かつ安全な使用を保証でき、客観的で誤解を招かないような情報が記載されていること。
【登録者】
国産品については、医薬品業許可及び品質管理体制の評価や監査を実施する能力を有する事業者が登録すること。
輸入品については、原産国事業者から同意書を得たインドネシア国内の事業者であり、かつ品質管理体制の評価や監査を実施する能力を有する事業者が登録すること。
※特許医薬品を除き、この同意書には、技術移転を行う旨と、5年以内にインドネシア国内で生産できるようにする旨をそれぞれ記載しなければなりません。
【事前登録】

医薬品流通許可申請は、取扱う医薬品の種類により登録カテゴリや審査パス、必要書類などが異なってきます。それらを前もって確認するために事前登録を行います。

申請者は、BPOM長官規程に定める様式と必要書類を揃え、電子的に事前登録を申請外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
BPOMは、申請の受領後20日以内に事前登録結果を通知。
本登録申請者は、事前登録の確認結果を踏まえ、登録カテゴリや審査パスに従い、必要書類を揃えて手続きを行います。

【登録カテゴリ】

  1. 新薬及び生物学的製剤の登録(バイオシミラー製品64を含む)
  2. ジェネリック医薬品及びブランドジェネリック医薬品の登録
  3. 特別な技術を備えた薬物を含むその他の製剤の登録(経皮吸収型製剤、インプラント製剤、ビーズ製剤)
  4. 伝統薬の登録
  5. ハーブ医薬品の登録
  6. 主要バリエーション登録(※)
  7. マイナーバリエーション登録
  8. 通知バリエーション登録
  9. 再登録(流通許可の延長)
    ※主要バリエーション登録の申請時には、バリエーションの種類、影響の程度(主要・影響大、マイナー・影響小、通知・影響なし)、変更内容、変更の理由、変更後の製品の有効性及び安全性に関するデータ、品質基準に関するデータ、適切な使用方法に関するデータが含まれなければなりません。
【審査パス】
輸出専用医薬品の登録7日
再登録(流通許可の延長)10日
マイナーバリエーション登録40日
インドネシアに投資している製薬業による新開発医薬品の新規登録50日
インドネシアに投資している製薬業によるジェネリック医薬品の新規登録又は1か国以上で承認された品質を有する新薬及び生物学的製剤の登録75日
新薬、生物学的製剤、ジェネリック医薬品、及びブランドジェネリック医薬品の新規登録
  • 国家保健プログラムのニーズによるもの75日
  • WHOの事前資格認定を受けたもの
ジェネリック医薬品の新規登録75日

処方、原材料の出所、医薬品の仕様、品質、包装仕様、製造プロセスを持ち、承認されたブランドジェネリック医薬品と同じ製造施設を使用するもの

主要バリエーション登録75日
  • 指定医薬品の新しい適応症又は薬量に関するもの
  • 品質及び製品情報に関するもの
新薬及び生物学的製剤の新規登録100日
  • 人命を脅かす、感染しやすい、又は他の治療法がない(不足する)重篤な疾患の治療に適応するもの
  • 希少な疾患に適応するもの
  • 研究機関又はインドネシアの製薬業が開発し、同製薬業が生産し、最低1回の臨床試験を実施済の新開発薬のプロセスを経たもの
主要バリエーション登録100日
指定医薬品の新しい適応症又は薬量に関するもの
主要バリエーション登録及び1か国以上で承認された新薬及び生物学的製剤の新規登録(新しい適応症又は新しい薬効があるもの)120日
上記の審査パスに含まれないジェネリック医薬品及びブランドジェネリック医薬品の新規登録150日
上記の審査パスに含まれない新薬及び生物学的製剤の新規登録又は主要バリエーション登録(新しい適応症又は新しいポソロジー65があるもの)300日

【許可手続】

上記の審査パスを経た後、BPOMは申請書類の審査を行い、審査結果を取りまとめます。審査の結果、申請書類が適切であると認められた場合は、流通許可証を発行します。審査結果の通知期間は14日以内。流通許可の有効期間は、新薬及び生物学的製剤は5年間、その他の医薬品は3年間。

IV. 医薬品の流通手続きに関する参考情報

食品医薬品管理庁のウェブサイト「e-BPOM75」では、下表のとおり医薬品のカテゴリに応じたヘルプデスクを設けています。

  • 薬物、麻酔薬、向精神薬、医薬前駆物質及び中毒性物質の安全性、品質及び輸出入管理局
    メール:ditwaskmeionappza@pom.go.id;eksimonpp@gmail.com
    WhatsApp:+62(0)81282349350
    電話:+62(0)214244691(内線 1075/1709)
  • 伝統医薬品及び健康補助食品の監督局
    メール:eksimkel.otsk@gmail.com; oreksimkel_otsk@pom.go.id
    WhatsApp:+62(0)81388915110
    電話:+62(0)214244691(内線 1044)
  • 加工食品流通監督局
    ウェブチャット:peredaranpangan.pom.go.id
    メール:peredaranpangan@pom.go.id; peredaranpangan@gmail.com
    電話:+62(0)813-25264748
  • 化粧品監督局
    メール:eksimkel.kos@gmail.com;oreksimkel.kos@pom.go.id
    WhatsApp:+62(0)85195150053
    電話:+62(0)214244691(内線 1040/1041)
  • 医薬品登録局
    メール:sasptpk@gmail.com;sas_obit@pom.go.id
    WhatsApp:+62(0)851-8611-3545
    電話:+62(0)214244691(内線 3542)
  • 薬物、麻酔薬、向精神薬、医薬前駆物質製造監督局
    メール:ditwasprod@pom.go.id;yanblik.wasprod@gmail.com
  • 医薬品食品データ及び情報センター
    メール:ebpom@pom.go.id

Ⅴ. 販売戦略検討時の考慮要素-E-Katalog

インドネシア政府は、国民医療保険制度で使用される医療品のオンライン調達システム「e-Katalog」を2014年に導入しました。e-Katalogは、国民医療保険制度に基づいて、償還可能な製品の透明性を高め、取引を簡素化する目的で、物品調達庁(LKPP:Lembaga Kebijakan Pengadaan Barang/Jasa Pemerintah)が運用しています。e-Katalogには数百~数千種類の医薬品及び医療機器が登録されており、公立及び私立の病院・診療所は、公共入札を行わずにe-Katalogを通じて事前に交渉・決定された販売価格で医療機器を調達することができます。すなわち、e-Katalogでは、登録されているすべての医療機器及び医薬品の販売定価を確認することができるほか、オンライン注文システムの機能も提供しています。なお、2022年2月から、保健省は医療分野に特化したe-Katalogの運用を開始しました。これに伴い、国内で調達されるあらゆる品目を取り扱う物品調達庁所管の「National e-Katalog(全国版 e-Katalog)」と、保健省等の省庁が個別に所管する「Sectoral e-Katalog(分野別 e-Katalog)」が併用されています。
e-Katalogに自社製品が掲載されると、大量販売の実現が見込まれ、販売チャネルの拡大につながる可能性があります。ただしe-Katalogへの掲載に際した価格交渉において、企業が対応に苦慮する事例も聞かれます。

参考資料・情報

ジェトロ:
インドネシアの医療機器市場と規制 調査報告書(2024年3月)

調査時点:2024年3月

最終更新:2025年8月

記事番号: J-250801

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