コロナ禍における海外駐在員等の課税関係及び確定申告の考え方

質問

近年のコロナ禍によってリモートワークでの勤務が常態化したことから、海外駐在員が海外子会社の一部業務を日本で行うなど、働き方が多様化しています。海外駐在員の所得に対する課税の考え方について教えてください。

回答

総論

近年、COVID-19の影響を受け、駐在員の働き方にも多様性が見られています。例えば、米国親会社で勤務していた海外駐在員が、COVID-19の影響で日本への帰国を余儀なくされ、日本子会社において米国親会社の業務をリモートで行うケースや、日本親会社から出向命令を受けて、米国子会社へ出向が決まっていたにも関わらず、COVID-19の影響で渡米ができず、給料を米国子会社からもらいつつ、米国子会社の業務を日本国で行うケースなど、勤務形態の多様化により、給与課税の判定も複雑さを増しています。

本Q&A記事の下部に添付しているレポートでは、まず給与課税について国内法の取り決めを確認した後に、租税条約に規定されている内容を確認していきます。それらの基本的なルールを確認し、事例問題に取り組み理解を深めることを目的としています。
※レポートはジェトロが税理士法人フェアコンサルティングに委託して作成したものです。海外所得の課税に関する不明点は、税理士等専門家にも相談しながらご検討ください。

国内法の原則では、居住者は全世界所得へ課税され、非居住者は国内源泉所得のみに課税されます。更に言えば、非永住者に対しては国内源泉所得に加え、国外の所得のうち国内で支払われたもの及び国内に送金されたものが課税の対象となります。

ただし、「原則」と表現しているのは「例外」が存在するためです。国内法における例外としては、国内源泉所得の定義に関連します。原則として、国外で勤務を行った場合は国内源泉所得には該当せず、非居住者であれば課税対象外となるが、内国法人の役員として国外で勤務を行う場合に限り国内源泉所得に該当し、非居住者であっても課税の対象となることに留意が必要です。

また、国内法と租税条約における「例外」も存在します。それは「短期滞在者免税」と呼ばれる規定であり、この要件を充足した場合、非居住者であり国内源泉所得が発生している場合であっても、国内源泉所得が免税されます。これは、租税条約の趣旨が「租税条約は、課税関係の安定(法的安定性の確保)、二重課税の除去、脱税及び租税回避等への対応を通じ、二国間の健全な投資・経済交流の促進に資するものである1 」ことから設けられている規定です。租税条約の内容は国により異なるので、ここでは日米租税条約14条第2項を紹介します。

日米租税条約14条第2項では、次の3つの要件を充足する場合に、短期滞在者免税の適用がある旨が取り決められています。

  1. 当該課税年度において開始または終了するいずれの12カ月の期間においても他方の国に滞在する期間が合計183日を超えないこと。
  2. 報酬が他方の国の居住者でない雇用者またはこれに代わる者から支払われるものであること。
  3. 報酬が他方の国に存在する雇用者の恒久的施設によって負担されるものでないこと。

例えば、日本に恒久的施設を有しない米国親会社から出向したA氏が100日間日本子会社に滞在し、米国から給与を受け取るとします。この場合は短期滞在者の要件に該当し、国内源泉所得は免税となります。
先述したとおり、各国間の規定によって条約の内容が異なっているので留意が必要です(この点は本文で詳説します)。

このように、給与課税についてのルールは国内法及び租税条約に規定されていますが、近年のコロナウイルスの影響を受けて働き方が多様化するに伴い、その判定も複雑さを増しています。
レポート本文では11もの事案を取り上げ、先述したルールに当てはめつつ、給与の課税関係がどうなるかを実際に検討していきます。

レポート「コロナ禍における海外駐在員等の課税関係及び確定申告の考え方」PDFファイル(12.6MB)

参考資料・情報

財務省:
「租税条約の概要」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

調査時点:2022年3月

記事番号: F-220303

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