EPAの原産品判定基準と特恵関税:インドネシア向け輸出
質問
日本からインドネシアに貨物を輸出する場合のEPAの原産品判定基準と関税について教えてください。
回答
日本から商品をタイに輸出する場合、2008年7月1日に発効した「日・インドネシア経済連携協定(JIEPA)」、2009年6月1日に発効した「日・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)」、または2022年1月1日に発効した地域的な包括的経済連携協定(RCEP)に基づく特恵関税の適用を受けることができます。これらの協定は優先関係のない併存する国際協定です。輸出者および輸入者は、品目別原産地規則、関税率等を比較してどちらか有利な方を選択し、インドネシアでの輸入通関の際に特定原産地証明書を提出します。
Ⅰ. 原産地基準
EPAの特恵関税率の適用を受けるにはEPAの定める原産品であることを証明する「特定原産地証明書」の提出が必要です。
日・インドネシアで締約しているEPAの原産品であることの原産地基準は下記に分類されます。
- 完全生産品(Wholly Obtained: WO)
協定締約国内で完全に得られ、または生産される産品 - 原産材料のみから生産される産品(Produced Entirely: PE)
協定締約国内の原材料のみから当該締約国内で完全に生産される産品 - 品目別規則(Product Specific Rules: PS)
非原産材料を用いて当該締約国において完全に生産される産品であって、EPA協定文の附属書に定める品目別規則を満たす産品。*注1- 関税分類変更基準 (Change in Tariff Classification: CTCルール) 輸入原材料の関税分類番号(HSコード)が、生産された完成品の関税分類番号と異なれば、完成品の製造国の原産品とします。品目によってどの程度(何ケタ)の番号の変更が求められるかは、附属書の品目別規則を確認してください。
- 付加価値基準 (Value Added: VAルール)
加工の結果、産品に付加された価値(原産資格割合)が特定の比率(例:40%以上)となる場合に原産品とします。 - 加工工程基準 (Specific Process Rule: SPルール)
各製品について、重要と認められた製造作業または技術的な加工作業を例示し、域内で当該加工を施されたことをもって原産品とします(繊維製品・化学品が該当)。例えば織物の場合、製織と染色が必要とされます。また、化学品は化学変化、精製、異性体分離、生物工学的工程のいずれかの工程を経る必要があります。原産品としての必要な加工工程はHSコード毎に細かく規定されていますので、確認ください。
注1 AJCEPでは例外的な取り扱いをする品目についてのみ「品目別規則」を記載しています。品目別規則に原産地規則の規定がない品目の原産地規則は、一般規則が適用されます。輸出産品のHSコードが「品目別規則」に存在するかどうかを確認し、存在している場合はその基準を満足していることが原産品認定の条件となります。HSコードが「品目別規則」に存在しない場合は、「一般規則」が適用され、関税番号(HSコード)4ケタの変更(CTH)、または域内原産割合の40%以上を満たしていれば原産品となります。
Ⅱ. EPAの特恵関税率、原産地基準(品目別規則)、及びその他の要件
インドネシアに輸出する産品にEPA特恵関税率が設定されているものか協定文の附属書の「関税の撤廃に関する約束の表(譲許表)」、及び産品に係る原産地基準を附属書の「品目別規則」を基に調べます。更に協定文には特恵関税率適用上の原産地手続きに関する記載もあります。
- 日・インドネシア経済連携協定(JIEPA)
- 日・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)
- 地域的な包括的経済連携協定 (RCEP)
- 積送基準
EPAの定める特恵関税の適用を受けるためには、産品は原則として直送されなければなりません。第三国を経由した輸送は、荷の積み替え、積み替えの際に荷を良好な状態に保つために保存する作業などの場合に限り認められます。この場合、船会社に「通しB/L」を準備してもらうか、もしくは当該第三国の税関または権限ある官公署が発行する「非加工証明書」を提出する必要があります。 - 仲介貿易
商品は日本から直接インドネシアに輸送されますが、第三国の企業が一度買い取り、インドネシアの企業に販売することがあります。本協定ではこうした仲介貿易の商流を認めています。この場合、特定原産地証明書の所定欄に第三国で発行されるインボイス番号および日付、当該インボイスの発行者の名称および住所を明記します。特定原産地証明書の発給時に第三国で発行されるインボイス番号が不明の時は、日本の輸出者が発行するインボイス番号および日付を記載します。 - RCEPの連続する原産地証明
輸出締約国の最初の原産地証明に基づいて、経由国である締約国(中間締約国)の発給機関、認定輸出者、または輸出者が発給することができる原産地証明のことを「連続する原産地証明(back-to-back Proof of Origin)」と呼び、わが国ではRCEPにのみ、特定原産地証明書の発給機関である日本商工会議所から発給を受けることができます。 連続する原産地証明を発給するためには、以下の全ての要件を満たすことが必要です。- 有効な原産地証明の原本またはその認証された真正な写しが提示されること
- 連続する原産地証明の有効期間が最初の原産地証明の有効期間を超えないこと
- 附属書三B(必要的記載事項)の規定に従い、連続する原産地証明に最初の原産地証明から関連する情報が記載されていること
- 中間締約国において、連続する原産地証明 を使用して再輸出される貨物についてさらなる加工が行われないこと。ただし、再 こん包または「物流に係る活動」は認めら れます。物流に係る活動とは、例えば、積卸し、蔵置、貨物の分割、輸入締約国の法令、手続、行政上の決定または政策が要求する単なるラベルなどによる表示、産品を良好な状態に保存するためまたは輸入締 約国へ産品を輸送するために必要な他の作業が例示されています。
- 分割して輸出される貨物については、最初 の原産地証明の総数量の代わりにその分 割された輸出に係る数量が表示され、か つ、その分割された貨物の下で再輸出され る総数量が最初の原産地証明の総数量を 超えないこと。
- 連続する原産地証明に記載された情報に 最初の原産地証明の発給の日付およびその番号が含まれていること
Ⅲ. 原産地証明書発給手続き
- 発給機関およびフォーム
日本商工会議所: 特定原産地証明書発給申請マニュアル
- 発給手続き
- 輸出者または製造者が、日本商工会議所に特定原産地証明書判定依頼および発給申請のための企業登録をします。
- オンライン発給システムにログインするためのID、パスワードが届きます。
- オンラインシステム上で、輸出する産品の原産性の判定依頼をします。日本商工会議所の提示要求に応じ、事前に作成した対象産品に対する原産地規則を満足していることを証明する確認書に証拠書類を添付したものを提示します。
- 判定が下りたことを確認し、システム上で特定原産地証明書発給申請をします。
AJCEP特定原産地証明書は日本商工会議所の窓口で、RCEPの特定原産地証明書は電子媒体PDFファイルによる交付となります。JIEPA特定原産地証明書は、証明書を電子媒体(データ交換)にて交付(e-CO)されます。これは輸出国の発給当局が輸入国税関と直接特定原産地証明書を電子的に交換する仕組みで, 日本からの輸出については、第一種特定原産地証明書発給システム(以下、「発給システム」)上で、特定原産地証明書の内容がデータ化されて直接発給システムから相手国税関に送付されます。これにより特定原産地証明書のデータが日本商工会議所からインドネシア税関に直接送信されるようになることから、輸出者は電子発給申請を行い、承認を受けるだけで済むようになり、これまで必要とされていた輸入者への送付が不要となります。 - 特定原産地証明書の発給に係る手数料は、1通につき基本料2,000円と品目数による加算額(20品目まで1品目500円、21品目からは1品目50円)の手数料を支払います。窓口発給の場合、郵送による受け取りも可能です。
- 仕入書、納品書、インボイス等原産地規則を満足していることを証明する証拠書類を5年間保管します。
- 有効期間
特定原産地証明書の有効期限は発給から1年です。
Ⅳ. 特定用途免税制度(User Specific Duty Free Scheme: USDFS)
特定用途免税制度は、「インドネシア共和国と日本との経済連携に関する合意の枠組みにおける特定用途免税制度を用いた関税率の決定に関する2008年6月30日付財務大臣規則第96 号〔No.96/PMK.011/2008、2010年2月12日付財務大臣規則第31号(No.31/PMK.011/2010)で変更〕」および「インドネシア共和国と日本との経済連携に関する合意の枠組みにおける特定用途免税制度を用いた関税率の利用が可能な産業グループに関する2008年7月1日付工業大臣規則第43号〔No.43/M-IND/PER/7/2008、2013年2月11日付工業大臣規則第4号(No.4/M-IND/PER/2/2013)で変更〕」 により、インドネシア政府が指定する検査機関により承認を受けた生産者が直接輸入した日本原産品が特定の用途に使われるものである場合に適用されます。特定用途とは、(1)自動車・二輪車およびその部品、(2)電気・電子機器、(3)建設機械および重機、(4)石油・ガス・電力産業の4分野で、インドネシア産品と競合しないことが条件となっています。また、インドネシア政府は2008年7月1日付工業大臣規則第44号(No.44/M-IND/PER/7/2008)にて、PT. Surveyor Indonesiaを検査機関として指定しています。
検査機関により承認を受け、特定用途免税制度工業検査証明書(SKVI-USDFS)を取得した生産者=輸入者は、財務省関税総局通関技術局長に申請し、その審査を経て、当制度の関税率の使用について財務大臣決定を受ける必要があります〔2008年6月30日付財務省関税総局長規則第9号(No. P-09/BC/2008)〕。
Ⅴ. その他
日・インドネシア経済連携協定では、MFN税率(最恵国税率=WTO協定税率)とEPA特恵関税率を比べてMFN税率の方が低い場合、特定原産地証明書を取得する必要はありません。MFN税率が低い場合、誤って特定原産地証明書を提出しても低い方の関税率が適用されますが、事前にEPA特恵関税率とMFN税率をご確認ください。
参考資料・情報
- 外務省:
-
日インドネシア経済連携協定(日本語
/ 英語
)
-
日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)日本語
/ 英語
)
-
地域的な包括的経済連携協定(RCEP):日本語
/ 英語
)
- 経済産業省:
-
EPA /FTA/投資協定
- 税関:
-
EPA/FTAサイト
- 日本商工会議所:
-
経済連携協定(EPA)に基づく特定原産地証明書の発給手続きについて
-
データ交換に基づく発給申請の方法
(3.2MB)
-
インドネシア商業省
-
インドネシア財務省関税総局
- ジェトロ:
- 日・インドネシア経済連携協定
- 日・アセアン包括的経済連携協定
- 地域的な包括的経済連携協定
- 世界各国の関税率(WorldTariff)
- インドネシアの通関問題に関する FAQ
-
インドネシア共和国と日本との経済連携に関する合意の枠組みにおける特定用途免税制度を用いた関税率の決定に関するインドネシア共和国財務大臣規定 No. 96 /PMK.011/2008(和訳)
(147KB)
-
インドネシア共和国と日本との経済連携に関する合意の枠組みにおける特定用途免税制度(USDFS/User Specific Duty Free Scheme)を用いた関税率の利用が可能な産業グループに関するインドネシア工業大臣規定 No.43/M-IND/PER/7/2008(和訳)
(169KB)
関係法令
調査時点:2016年12月
最終更新: 2025年9月
記事番号: E-080310
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