ASEAN加盟国からの輸入の際の関税の優遇と原産地規則
質問
ASEAN加盟国から日本に産品を輸入する際に活用できる特恵関税制度の種類と原産地規則、手続きについて教えてください。
回答
ASEAN加盟国から日本に産品を輸入する際には、日本とASEAN加盟国との二国間経済連携協定、日ASEAN包括的経済連携協定、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定、そして、開発途上国からの輸入に対して適用できる一般特恵関税制度(GSP)を活用して関税の優遇措置を受けることができます。一部に関税の優遇税率が割り当てられているもの、優遇年の対象外とするもの、さらに、もともとの関税率(MFN税率)が無税となっていて優遇税率を適用するまでもないものもありますので、実行関税率表などにより事前の確認が必要です。
Ⅰ. 関税の優遇の種類
- 経済連携協定
日本と二国間の経済連携協定は、シンガポール(JSEPA)、マレーシア(JMEPA)、タイ(JTEPA)、インドネシア(JIEPA)、ブルネイ(JBEPA)、フィリピン(JPEPA)、ベトナム(JVEPA)の7カ国との間で発効しています。一方、日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)はASEANとの包括的協定で、ASEAN加盟国の10カ国との間で発効しています。地域的な包括的経済連携(RCEP)協定はASEAN10カ国に、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの合計15カ国で署名がなされ、日本では2022年1月に発効した多国間の経済連携協定です。二国間経済連携協定、日ASEAN経済連携協定、RCEPは、それぞれ並立し優先関係のない協定です。利用者はそれぞれを比較し、条件の良い協定(税率がより低い協定、あるいは品目原産地規則で、原産性が達成しやすい方の協定)を選んで申請し、適用をすることができます。 - 一般特恵関税制度
一般特恵関税制度(Generalized System of Preferences: GSP)は、日本政府が指定する特恵受益国および特別特恵受益国向けの特恵関税制度です。特恵受益国にはインドネシア、フィリピン、ベトナムが指定されています。ただし、二国間経済連携協定または日ASEAN包括的経済連携協定発効後、GSP税率適用であった品目は一部を除きGSP適用対象外となりました(EPA対象外でGSP対象品目がわずかにあります)。これらに加え、特別特恵受益国として、カンボジア、ミャンマー、ラオスが指定されており、これらの国からの輸入に際しては、LDC特恵関税と日アセアン経済連携協定特恵関税のいずれかを選択することができます。
二国間協定 | ASEAN協定 | RCEP協定 | 特恵受益国(GSP) | 特別特恵受益国(LDC) | |
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インドネシア | JIEPA | AJCEP | RCEP | ○ | |
タイ | JIEPA | AJCEP | RCEP | ||
マレーシア | JMEPA | AJCEP | RCEP | ||
シンガポール | JSEPA | AJCEP | RCEP | ||
フィリピン | JPEPA | AJCEP | RCEP | ○ | |
ベトナム | JVEPA | AJCEP | RCEP | ○ | |
ブルネイ | JBEPA | AJCEP | RCEP | ||
カンボジア | 締結なし | AJCEP | RCEP | ○ | |
ミャンマー | 締結なし | AJCEP | RCEP | ○ | |
ラオス | 締結なし | AJCEP | RCEP | ○ |
Ⅱ. 原産地規則(Rules of Origin)
- 原産品の分類
特恵関税適用を申請しようとする産品はその由来により次の分類がされており、当該産品がどのグループに属するかを明示しなければなりません。- 完全生産品(Wholly Obtained: WO)
協定締約国内で完全に得られ、または生産された産品。農畜水産物や鉱産物が該当します。 - 協定締約国内の原産材料のみから生産された産品(Produced Entirely: PE)
協定締約国内産の原材料のみから完全に国内生産された産品。他国からの原材料を用いて製造された原材料を含む。内国産材料のみからなる加工食品などが例です。 - 協定締約国以外の材料(非原産材料)を使用して協定締約国内で完全生産された産品(Product Specific: PS)
協定締約国内産の原材料のみから完全に国内生産された産品。他国からの原材料を用いて製造された原材料を含む。内国産材料のみからなる加工食品などが例です。
- 完全生産品(Wholly Obtained: WO)
- 原産地認定基準
1の「c. 非原産材料を使用して協定締約国内で完全生産された産品」については以下a、b、c の基準の、単独、選択的または複合的組み合わせにより一般原産地規則や品目別規則が規定されています。
手順としてまず、日本税関の事前教示制度などにより輸入する品目のHSコードを特定し、協定付属書などにある品目別規則に該当するかを調べます。品目別規則に該当すれば、規定されている原産地認定基準を、該当しなければ一般原産判定基準で原産品に該当するかを判定し、確認ができたら原産国の所管官庁にて原産地証明書発給の手続きを行います。- 関税分類変更基準(Change in Tariff Classification: CTC)
締約国で最終的に製造・加工された生産品のHSコードが、すべての非原産材料のHSコードと異なる場合に原産品とする基準です。基準が厳しい順に、HSコードの類(上2桁)の変更基準(Change in Chapter: CC)、HSコードの項(上4桁)の変更基準(Change in Tariff Heading: CTH)、HSコードの号(上6桁)の変更基準(Change in Tariff Sub-Heading: CTSH)の3通りがあります。非原産材料が付加価値ベースで10%以内など僅少の場合はそのまま原産材料とみなすことのできる措置(デミニマス)が適用される場合もあります。 - 付加価値基準(Regional Value Contents: RVC)
非原産材料のFOB金額に対して、協定締約国での付加価値の度合いを基準にするもので、多くの協定は40%以上を条件としています(RVC40)。積み上げ方式と差し引き方式のいずれかを採用できます。ASEANが関わる協定では、産品国以外の原産要件を満足するASEAN域内原材料を付加価値に加算することができる累積(Accumulation)規定があります。 - 加工工程基準(Specific Process: SP)
製造工程における特定の加工工程を指定し、その加工が協定国内または域内で加工されたことをもって原産品とする基準です。繊維製品の製織・染色、化学品の化学変化、異性体分離、鉄鋼製品の圧延工程などが例として挙げられます。
- 関税分類変更基準(Change in Tariff Classification: CTC)
Ⅲ. 積送基準(直送の原則)(Direct Consignment)
特恵関税適用には輸出国から日本の港・空港に原則として直送されていることが条件となっています。航路などの都合によりどうしても第三国を経由する場合には、日本到着港までの通し船荷証券(Through B/L)を準備するか、中継する第三国で発行される非加工証明書(Certificate of Non-Manipulation: CNM)を入手します。
Ⅳ. 原産地証明書
特恵関税の適用はいずれも、協定に定められた原産地規則に合致し、かつ日本輸入通関時に製造国で発行された原産地証明書(協定によりフォームは異なります)の提示をすることが条件となっています。もし合理的な理由で原産地証明書の提示が間に合わない場合は、これを救済するための遡及発給制度があります。
原産国での原産地証明書の申請手続きは、各原産国によって異なりますが、おおむね、原産地証明書発給機関に対し原産地証明書申請のための企業登録、原産品判定申請(原価明細などの提出が要求されます)、船積決定後に原産地証明書の申請などの手続きがあります。すべての申請者は当該国に存在する(企業として設立登録済みの)法人・個人に限られます。非居住企業は申請することができません。
V. 仲介貿易
輸出国(船積み国)と輸入国(荷揚げ国)との間に商流上、第三国の仲介者が介在する貿易取引を仲介貿易または三国間貿易といいます。仲介貿易を行う場合にFTAを活用する際の留意点は以下のとおりです。
- 第三国インボイス(Third Party Invoicing)・第三者インボイス(Third Party Invoicing)
商流上第三国の企業が介在する場合は原産地証明書の作成基準に従って原産地証明書上にその旨を表示し、第三国インボイス番号、社名、国名などを記載します。RCEPでは「第三国」に代えて「第三者」と表現します。二国間経済連携協定、日ASEAN経済連携(AJCEP)またはRCEPで原産基準が付加価値基準(RVC)である場合は、原産国でのFOB金額を記載します。日ASEAN経済連携(AJCEP)では2014年10月より、原産基準がRVCでない場合(関税分類番号変更基準または加工工程基準の場合)はFOB金額を記載しなくてもよいことになりました。 - 連続する原産地証明書(Back to Back CO)
日ASEAN経済連携協定(AJCEP)やRCEPの締約国が中継国として一旦輸入・在庫した原産品を、分割して再輸出し、再度別の締約国に向けて輸出される場合、締約国である中継国が元々の原産地証明書に基づいて、連続する原産地証明書(Back to Back CO)を発行することができます。発行の条件や手続きは中継国により異なりますので各国税関等にてお問い合わせください。日本では、AJCEPの場合にはBack to Back COは発行されませんが、RCEPでは発行できるようになりました。
関係機関
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外務省
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経済産業省
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税関
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日本商工会議所
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インドネシア商務省外国貿易局
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タイ商務省外国貿易局
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マレーシア通商産産省
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シンガポール税関
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ブルネイ外務省貿易開発局
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フィリピン税関
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ベトナム商工省
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ミャンマー商業省貿易局国境貿易部
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カンボジア商業省
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ラオス商工省トレードポータル
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ASEAN事務局
参考資料・情報
- 経済産業省:
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日本が締結するEPA/FTA/投資協定
- 税関:
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輸入統計品目表(実行関税率表)
- ジェトロ:
- EPA/FTA、WTO
- 東京税関業務部:
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一般特恵関税マニュアル
- 東京税関:
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原産地認定
- 外務省:
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一般特恵関税制度、特恵受益国及び地域一覧表
調査時点:2018年7月
最終更新:2025年8月
記事番号: E-080301
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