ASEAN加盟国からの輸入の際の特恵関税と原産地規則

質問

ASEAN加盟国から日本に産品を輸入する際に活用できる特恵関税制度の種類と原産地規則、手続きについて教えてください。

回答

ASEAN加盟国から日本に産品を輸入する際、日本とASEAN加盟国との二国間経済連携協定、日ASEAN包括的経済連携協定、開発途上国向けの一般特恵関税制度(GSP)を活用して特恵関税の適用を受けることができます。一部に特恵関税が割り当てられているものや除外とするもの、もともと一般関税が無税となっているものもありますので実行関税率表などにより事前の確認が必要です。

I. 特恵関税の種類

  1. 経済連携協定
    日本と二国間の経済連携協定はシンガポール(JSEPA)、マレーシア(JMEPA)、タイ(JTEPA)、インドネシア(JIEPA)、ブルネイ(JBEPA)、フィリピン(JPEPA)、ベトナム(JVEPA)の7カ国との間で発効しています。一方、日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)はASEANとの包括的協定で、ASEAN加盟国の10カ国との間で発効しています(インドネシアは2018年3月に発効しました)。二国間経済連携協定と日ASEAN経済連携協定は互いに並立し優先関係のない協定です。利用者は両者を比較し、条件の良い協定を選んで申請し、適用をすることができます。
  2. 一般特恵関税制度

    一般特恵関税制度(Generalized System of Preferences: GSP)は、日本政府が指定する特恵受益国および特別特恵受益国向けの特恵関税制度です。2016年4月現在、特恵受益国にはインドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、マレーシアが指定されています。ただし、二国間経済連携協定または日ASEAN包括的経済連携協定発効後、GSP税率適用であった品目は一部を除きGSP適用対象外となりました(EPA対象外でGSP対象品目がわずかにあります)。一方、特別特恵受益国はカンボジア、ミャンマー、ラオスが指定されており、これらの国からの輸入に際しては、LDP特恵関税と日アセアン経済連携協定特恵関税のいずれかを選択することができます。

    二国間協定 ASEAN協定 特恵受益国 特別特恵受益国
    インドネシア JIEPA AJCEP
    タイ JIEPA AJCEP
    マレーシア JMEPA AJCEP
    シンガポール JSEPA AJCEP
    フィリピン JPEPA AJCEP
    ベトナム JVEPA AJCEP
    ブルネイ JBEPA AJCEP
    カンボジア 締結なし AJCEP
    ミャンマー 締結なし AJCEP
    ラオス 締結なし AJCEP

II. 原産地規則(Rules of Origin)

  1. 原産品の分類
    特恵関税適用を申請しようとする産品はその由来により次の分類がされており、当該産品がどのグループに属するかを明示しなければなりません。
    1. 完全生産品(Wholly Obtained: WO)
      協定締約国内で完全に得られ、または生産された産品。農畜水産物や鉱産物が該当します。
    2. 協定締約国内の原産材料のみから生産された産品(Produced Entirely: PE)
      協定締約国内産の原材料のみから完全に国内生産された産品。他国からの原材料を用いて製造された原材料を含む。内国産材料のみからなる加工食品などが例です。
    3. 協定締約国以外の材料(非原産材料)を使用して協定締約国内で完全生産された産品(Product Specific: PS)
      一部非原産材料を用いて協定締約国内で完全生産された産品で、一般原産地規則または品目別規則(Product Specific Rules: PSR)を満足するものです。品目別規則に掲載がなければ一般原産地規則が適用されます。多くの工業製品が該当します。
  2. 原産地認定基準
    1の「c. 非原産材料を使用して協定締約国内で完全生産された産品」については以下a、b、c の基準の、単独、選択的または複合的組み合わせにより一般原産地規則や品目別規則が規定されています。
    手順としてまず、日本税関の事前教示制度などにより輸入する品目のHSコードを特定し、協定付属書などにある品目別規則に該当するかを調べます。品目別規則に該当すれば、規定されている原産地認定基準を、該当しなければ一般原産判定基準で原産品に該当するかを判定し、確認ができたら原産国の所管官庁にて原産地証明書発給の手続きを行います。
    1. 関税分類番号変更基準(Change in Tariff Classification: CTC)
      締約国で最終的に製造・加工された生産品のHSコードが、すべての非原産材料のHSコードと異なる場合に原産品とする基準です。基準が厳しい順に、HSコードの類(上2桁)の変更基準(Change in Chapter: CC)、HSコードの項(上4桁)の変更基準(Change in Tariff Heading: CTH)、HSコードの号(上6桁)の変更基準(Change in Tariff Sub-Heading: CTSH)の3通りがあります。非原産材料が付加価値ベースで10%以内など僅少の場合はそのまま原産材料とみなすことのできる措置(デミニマス)が適用される場合もあります。
    2. 付加価値基準(Regional Value Contents: RVC)
      非原産材料のFOB金額に対して、協定締約国での付加価値の度合いを基準にするもので、多くの協定は40%以上を条件としています(RVC40)。積み上げ方式と差し引き方式のいずれかを採用できます。ASEANが関わる協定では、産品国以外の原産要件を満足するASEAN域内原材料を付加価値に加算することができる累積(Accumulation)規定があります。
    3. 加工工程基準(Specific Process: SP)
      製造工程における特定の加工工程を指定し、その加工が協定国内または域内で加工されたことをもって原産品とする基準です。繊維製品の製織・染色、化学品の化学変化、異性体分離、鉄鋼製品の圧延工程などが例として挙げられます。

III. 積送基準・直送条件(Direct Consignment)

特恵関税適用には輸出国から日本の港・空港に直送されていることが条件となっています。航路などの都合によりどうしても第三国を経由する場合には、日本到着港までの通し船荷証券(Through B/L)を準備するか、中継する第三国で発行される非加工証明書(Certificate of Non-Manipulation: CNM)を入手します。

IV. 原産地証明書

特恵関税の適用はいずれも、協定に定められた原産地規則に合致し、かつ日本輸入通関時に製造国で発行された原産地証明書(協定によりフォームは異なります)の提示をすることが条件となっています。もし合理的な理由で原産地証明書の提示が間に合わない場合は、救済する遡及発給制度があります。
原産国での原産地証明書の申請手続きは、各原産国の所管官庁に対して 1. 原産地証明書申請のための企業登録、2. 原産品判定申請(原価明細などの提出が要求されます)、3. 船積決定後に原産地証明書の申請という手順で行います。1と2は無料で申請からそれぞれ7営業日および4営業日程度、3は有料で申請後1~3営業日程度で発給されます。すべての申請者は当該国に存在する(企業として設立登録済みの)法人・個人に限られます。非居住企業は申請することができません。

V. 仲介貿易

輸出国(船積み国)と輸入国(荷揚げ国)との間に商流上、第三国の仲介者が介在する貿易取引を仲介貿易または三国間貿易といいます。仲介貿易を行う場合にFTAを活用する際の留意点は以下のとおりです。

  1. 第三国インボイス(Third Party Invoicing)
    商流上第三国の企業が介在する場合は原産地証明書の作成基準に従って原産地証明書上にその旨を表示し、第三国インボイス番号、社名、国名などを記載します。二国間経済連携協定および日ASEAN経済連携(AJCEP)で原産基準が付加価値基準(RVC)である場合は、原産国でのFOB金額を記載します。日ASEAN経済連携(AJCEP)では2014年10月より、原産基準がRVCでない場合(関税分類番号変更基準または加工工程基準の場合)はFOB金額を記載しなくてもよいことになりました。
  2. 連続する原産地証明書(Back to Back CO)
    日ASEAN経済連携協定(AJCEP)の発効国が中継国として一旦輸入・在庫した原産品を、分割して再輸出し、日本に輸入する場合、協定国である中継国が元々の原産地証明書に基づいて、連続する原産地証明書(Back to Back CO)を発行することができます。発行の条件や手続きは中継国により異なりますので各国税関等にてお問い合わせください。

関係機関

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参考資料・情報

経済産業省:
日本が締結するEPA/FTA/投資協定外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

税関:
輸入統計品目表(実行関税率表)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

ジェトロ:
日本が締結しているEPAの物品の貿易に関する諸手続き

東京税関業務部:
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東京税関:
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外務省:
一般特恵関税制度、特恵受益国及び地域一覧表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

最終更新:2018年7月

記事番号: E-080301

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