ASEAN域内の特恵関税を受けるための手続きおよび規則

質問

日本原産の部品をタイに輸出し現地で他の部品と組み合わせて機械を製造します。タイからさらに他のASEAN諸国に輸出する際、特恵関税を受けるための規則や条件について教えて下さい。

回答

ASEANは、ASEAN域内の物品貿易協定を締結しているほか、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア・ニュージーランドとも自由貿易協定を締結しています。

I. ASEANが締結する自由貿易協定

ASEAN加盟国との貿易で、特恵関税が適用できる自由貿易協定/経済連携協定(FTA/EPA)には、以下のものがあります。

日本語名称 英文名称 略称 原産地証明書の名称
ASEAN物品貿易協定 ASEAN Trade in Goods Agreement ATIGA Form D
日ASEAN包括的経済連携協定 ASEAN Japan Comprehensive Economic Partnership Agreement AJCEP Form AJ
ASEAN中国自由貿易協定 ASEAN China Free Trade Agreement ACFTA Form E
ASEAN韓国自由貿易協定 ASEAN Korea Free Trade Agreement AKFTA Form AK
ASEANインド自由貿易協定 ASEAN India Free Trade Agreement AIFTA Form AI
ASEAN豪州ニュージーランド自由貿易地域 ASEAN Australia New Zealand Free Trade Area AANZFTA Form AANZ

II. 輸入国でFTA/EPA特恵関税を受けるための手続き

輸入国でFTA/EPA特恵関税を受けるためには、輸出国の製造者又は輸出者が輸出国の原産地証明書発給機関に対し特定原産地証明書の発給申請をします。

  1. FTA/EPA特定原産地証明書申請のための企業登録を行います。このとき、製造工場の現場検査が行われる場合があります。
  2. 該当製品の原産性の判定依頼を行います。指定された様式に従い申請します。このとき、輸出品の部品構成表や工程フローチャートの提出が要求されます。
  3. 船積みスケジュールが決定したら、それぞれの国・FTA/EPAごとの原産地証明書の発給を申請します。
  4. FTA/EPA原産地証明書の受理後、輸入者が行う輸入通関に間に合うよう輸入者に届けます。協定によっては合理的な理由により通関に間に合わなかった時の措置が規定されていたり、船積後3日以上でも1年以内であれば遡及発給できる救済措置が規定されている場合があります。しかし規定はあっても対応しない国もありますので事前に輸入国側の情報を入手することが大切です。

III. 原産地規則

原材料または部品の一部をFTA/EPA非加盟国の原材料(非原産材料)を用いて生産する場合は、協定の附属書などにある一般原産地規則または品目別規則(Product Specific Rules: PSR)を満たす必要があります。このためにはまず輸入国税関の事前教示制度などにより輸入する品目のHSコードを特定し、品目別規則に該当するかをチェックします。品目別規則の規定がなければ一般原産地規則を適用します。
ASEANが関わるFTA/EPAの原産地規則は以下3つの基準の、単独、選択的または複合的組み合わせにより一般原産地規則や品目別規則が規定されています。

  1. 関税分類(HSコード)変更基準(Change in Tariff Classification: CTC)
    FTA/EPAの締約国で最終的に製造・加工された生産品のHSコードが、すべての非原産材料のHSコードと異なる場合に原産品とする基準です。基準が厳しい順に、HSコードの類(上2桁)の変更基準(Change in Chapter: CC)、HSコードの項(上4桁)の変更基準(Change in Tariff Heading: CTH)、HSコードの号(上6桁)の変更基準(Change in Tariff Sub-Heading: CTSH)の3通りがあります。非原産材料が付加価値ベースで10%以内など僅少の場合はそのまま原産材料とみなす措置(デミニマス)が適用される場合もあります。
  2. 付加価値基準(Regional Value Contents: RVC)
    FOB金額に対する、FTA/EPA締約国域内の付加価値の割合を基準にするもので、多くの協定は40%以上を条件としています(RVC40)。積み上げ方式と控除方式のいずれかを採用できます。
    締約国の原産材料であって他の締約国にて産品を生産するために使用されたものは産品を完成させるための作業または加工がおこなわれた当該他の締約国の原材料とみなすという累積(Accumulation)規定がある場合があります。例えば、お問い合わせのケースでは、タイと輸出先の他のASEAN加盟国との間で日ASEAN経済連携協定(AJCEP)を適用することにより、日本製造の原産部品を累積してタイ原産率を上げ付加価値基準をより満たしやすくすることができます。この場合、タイで準備する原産地証明書はAJCEP原産地証明書(Form AJ)になります。
  3. 加工工程基準(Specific Process: SP)
    製造工程における特定の加工工程を指定し、その加工がFTA/EPAの締約国内または域内で加工されたことをもって原産品とする基準です。繊維製品の製織・染色、化学品の化学変化、異性体分離、鉄鋼製品の圧延工程などが例として挙げられます。

IV. 積送基準・直送条件(Direct Consignment)

FTA/EPA特恵関税適用には輸出国から輸入国の港・空港に直送されていることが条件となっています。航路などの都合によりどうしても第三国を経由する場合には、到着港までの通し船荷証券(Through B/L)を準備するか、中継する第三国で発行される非加工証明書(Certificate of Non-Manipulation: CNM)を入手します。

V. 仲介貿易

輸出国(船積み国)と輸入国(荷揚げ国)との間に商流上、第三国の仲介者が介在する貿易取引を仲介貿易または三国間貿易といいます。仲介貿易を行う場合にFTA/EPAを活用する際の留意点は以下のとおりです。

  1. 第三国インボイス(Third Party Invoicing)
    商流上第三国の企業が介在する場合はFTA/EPA原産地証明書の作成基準に従って原産地証明書上にその旨を表示し、第三国インボイス番号、日付、社名、国名などを記載します。Form D、FormE、Form AJ、Form AK、Form AANZでは、原産基準が付加価値基準ではない場合(関税分類変更基準または加工工程基準の場合)はFOB金額を記載する必要はありません。一方Form AIの場合は原産基準のいかんを問わず、原産地証明書の第9欄に必ずFOB価格の記載が求められています。このFOB価格は、輸出国におけるFOB価格が基本となりますが、第三国所在仲介者のインボイス価格の記載も認められます。
  2. 連続する原産地証明書(Back to Back CO)
    ASEAN加盟国の一つが中継国となり、一旦輸入・在庫した原産品を全量ないし分別して再輸出する場合、締約国である中継国が元々のFTA/EPA原産地証明書に基づき、連続する原産地証明書(Back to Back CO)を発行することができます。発行の条件や手続きは、協定の種類や中継国の国内法により異なりますので各国税関等にお問い合わせください。

VI. ASEANシングルウィンドウ(ASW)

ASEANでは、加盟各国での通関手続きの電子化を推し進め、通関に関わるデータの集中化と関税手続きのスピード化を目的としたASEANシングルウィンドウ(ASW)が構築され、2018年1月1日からは電子原産地証明書(e-FormD)の発給も始まりました。

関係機関

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インドネシア商務省外国貿易局外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
タイ商務省外国貿易局外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
マレーシア通商産業省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
シンガポール税関原産規則部外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
ブルネイ外務省貿易開発局外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
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ベトナム商工省外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
ミャンマー商業省貿易局国境貿易部外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
カンボジア商業省多国間貿易部外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
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参考資料・情報

ジェトロ:ASEANの締結するFTA活用マニュアル
シンガポール国際企業庁(Enterprise Singapore)Free Trade Agreements外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
アセアン事務局 AFTA(ASEAN Free Trade Area)Council-Agreements外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
インドネシアナショナルレポジトリー Indonesia National Repository外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
タイ国ナショナルレポジトリー Thailand National Repository外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
フィリピンナショナルトレードレポジトリー Philippine National Trade Repository外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
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調査時点:2017年3月
最終更新:2020年6月

記事番号: A-011157

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