荷主としての貨物への保険の種類と留意点:日本

荷主として貨物に保険をかける場合、どのような保険があるか、またどのように契約すればよいか教えてください。

輸送中の貨物に発生する様々なリスクをカバーするための保険として貨物海上保険があります。貨物海上保険は付保する条件によりますが、万一貨物への損害が生じた場合は、通常CIF価格に10%の希望利益を加えた保険金額を限度として保険金の支払いを受けることができます。なお、貨物海上保険は輸出、輸入、三国間貿易を対象とし、航空貨物に関するものも含まれます。

I. 貨物海上保険の付保の条件

貨物海上保険を付保する条件は、当該貨物が輸送中に遭遇するリスクに対して、必要・十分なものとしなければなりません。また、自身のために保険をかけるのか、販売相手のために保険をかけるのか、貿易条件によって異なってきますので、特にCIF、CIP条件での契約の場合は契約時に相手方と保険条件について十分つめておくことが必要です。CIF/CIP条件では売主が保険を付保することとされており、少なくとも協会貨物約款(後述参照)の(C)条件または国際約款によって規定されている最低限の保険範囲を満たす貨物保険を付保しなければならないとされています。

II. 貨物海上保険の種類

保険の条件を示す貨物海上保険証券には、伝統的なSGフォーム(Ship & Goods Form Policyの略称)と呼ばれる保険証券に基づく1963年約款、1982年から新しく制定されたMARフォーム(Marine Form Policyの略称)に基づく1982年約款、およびそれを見直して改訂された2009年約款が併用されています。 2009年約款は、1982年約款と比較して、保険の開始・終了時期・船社の免責・航海の変更などが、被保険者に有利になるように改訂されています。
最新の約款である2009年約款は、担保する内容に応じて、ICC(協会貨物約款)(A)、ICC(B)、ICC(C)の3種類[1963年約款のオール・リスク担保(A/R)、分損担保(W.A)、分損不担保(F.P.A.)にほぼ対応]と、別途特約として協会戦争約款・協会ストライキ約款があります。
具体的には、ICC(C)は火災、爆発、船舶または艀の座礁、沈没、輸送用具の衝突、遭難港における貨物の荷卸し、共同海損、投荷等についててん補されます。ICC(B)は、ICC(C)に加え、地震、噴火または雷、海水、湖水、または河川水の船舶、艀等への浸入、船舶または艀への積み込みまたはそこからの荷卸し中における海投または落下による梱包1個ごとの全損がてん補範囲に含まれます。ICC(A)は、ICC(B)に加え、雨淡水濡れ、盗難、抜荷、付着等のあらゆる付加危険が担保されます。ただし、ICC(A)であっても、戦争、ストライキ、被保険者の違法行為、梱包不十分、運送の遅延、原子力兵器等による損傷等は免責となります。
保険でカバーされる期間は、原則として貨物が積出港の倉庫等において輸送のためにはじめに動かされた時から仕向港の荷受人の指定する倉庫等に搬入され荷卸が完了するまでの期間です(Warehouse to Warehouse Clause)。ただし、通常の輸送過程とは認められない保管、または仕分け分配のため倉庫を使用する場合は、その倉庫に搬入され荷卸が完了した時、または本船から貨物が荷卸された時から60日(航空貨物については、迅速性が要求されるため、貨物が機体から荷降しされてから30日)を経過した時のいずれか早い時点で終了します。
ほとんどの場合、てん補範囲が広いICC(A)で付保されますが、貨物の特殊な事情また保険会社の引受条件などにより、他が選択される場合もあります。

III. 輸入者としての貨物海上保険の留意事項

FOB、CFR、FCA、CPT条件等の場合は、輸入者が自らの利益のために貨物海上保険を付保します。保険会社に輸入案件を示して保険料の見積りを取り、輸入契約ができれば予定保険を申し込みます。
損害保険では、原則として危険の開始前に保険の申し込みが必要ですが、実際に船積みされた時点で、荷受人がその事実を知らないこともあり得ます。そのため、貨物海上保険では船積みの予定をあらかじめ保険会社に通知して予定保険を付保しておき、危険の開始後にそれを確定するという形を取ります。確定保険の申し込みに際しては積載船名、出航日、確定数量などが必要ですが、輸入取引では、船積みが行われてからその通知を受けることになります。この場合、危険が開始してから保険を申し込むことになりますので、予定保険が必須となるわけです。
CIF、CIP以外の条件での輸入に際しては、多くの場合、輸入通関時にCIF価格算出のため、税関より海上保険料請求書(Debit Note)の提示を求められます。

IV. 輸出者としての貨物海上保険の留意事項

CIF、 CIP以外の条件では、輸出者は保険を付保する義務はありませんが、貨物を船会社等に引渡し後B/L等を入手し、船積書類のコピーを輸入者に送るなどして、船積みが完了したことを輸入者に通知する義務を有します。輸入者はそれに基づき確定保険を申し込みます。
一方、CIF、CIP条件などでの輸出では輸出者が貨物海上保険を付保します。輸出者は保険会社に輸出を予定する案件を示して保険料の見積を依頼し、CIF価格を算出します。
輸出案件が成約し積載船名などが確定した段階で(確定)保険を申し込み、保険料を支払って保険証券を入手します。どの条件で付保するかについては、売買契約および信用状で要求された条件に従います。
FOBやCFR条件での輸出では積載船の船上に置かれるまで、FCAやCPT条件での輸出ではコンテナ・ヤードへの搬入まで輸入者にリスクが移転しませんので、輸出者は倉庫内から船積みまでの間の、自らのリスクをカバーするために輸出FOB保険(内航貨物海上保険)を手配する必要があります。
また、DAT、DAP、DDP条件の輸出の場合は、輸入者にリスクが移転するまでの間、自らのリスクをカバーするために、倉庫内から条件で定められた受渡し場所までの保険を付保しておく必要があります。

V. その他

継続的に輸出入の予定がある場合は、予定保険を船積みごとではなく、取引すべてを包含する形で包括予定保険を、保険会社と契約することも可能です。そうすれば保険の掛け忘れを防止することができます。
なお一般の損害保険では、保険料支払後に保険が有効になりますが、貨物海上保険では保険会社との協議により一定期間の後払いも可能です。また、貨物海上保険は自由料率ですので、複数会社から見積を取って比較することもできます。さらに、特定のリスクが無事故で終わった場合は、あらかじめ高い料率で支払った保険料を、後で値引きするという条件で保険契約を結ぶことも可能です。勿論、過去一定期間の事故実績に応じて将来の料率の引き下げを保険会社と交渉することもできます。保険料も海外取引の大きなコスト要因ですので、保険会社と交渉し最適な条件を引き出す努力が必要です。
一方、危険率が高い貨物では、保険会社が保険の引受を行わなかったり、引き受けたとしても、保険料率が非常に高くなってしまう場合があります。このような場合に、荷主が保険金額の一定割合を負担することで、できるだけ低い保険料率で保険を付保する方法があります。このような付加条件をOwner’s Risk(保険契約者負担)といいます。この方法では、荷主が何%の保険金を負担するかのOwner’s Risk負担率を取り決めます。例えば、Owner’s Riskが20%の場合では、保険会社は損害のうち80%を保険金として支払い、残り20%は保険契約者が負担します。

調査時点:2011年8月
最終更新:2017年9月

記事番号: A-010151

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