解雇通知の留意点:シンガポール

シンガポール進出企業が解雇通知を行う際の留意点について教えてください。

被雇用者の国籍にかかわらず、給与の支払い、解雇、解雇予告通知期間、契約違反に対する相互の責任などの必要最低限の労働条件は雇用法(Employment Act)に定められています。

I. 雇用法と雇用契約

  1. 雇用法適用範囲
    以下に該当する被雇用者は雇用法の適用を受けません〔同法第2条(1)〕。
    1. マネジメント職またはエグゼクティブとして雇用された者(ただし、月給 4,500 シンガポールドル以下のジュニアマネジャーまたはエグゼクティブは同法の基本給に関する規定のみ適用)
    2. 船員
    3. 家事労働者
    4. 公務員など

    なお、同法パートIVでは、就労時間、年次有給休暇、病気休暇、解雇手当の支払い、退職手当などに関する最低要件が定められています。月給2,500シンガポールドル以下の被雇用者および月給 4,500 シンガポールドル以下の職人・工員・作業員のみが適用対象です(同法第35条)。

II. 雇用契約の解除

雇用法の適用対象外の被雇用者については、雇用主と被雇用者の双方の合意により、労働条件や権利・義務を雇用契約で定めるため、解雇通知についても雇用契約の規定に従って行われます。

一方、雇用法の適用を受ける被雇用者を解雇する場合は、雇用法の規定を遵守する必要があります。以下、雇用法の適用を受ける従業員に対する解雇通知の留意点を説明します。

  1. 雇用契約の終了
    雇用契約は原則、契約期限の到来時に終了します(同法第9条)。
  2. 雇用契約の解除
    原則として雇用主あるいは被雇用者、いずれも雇用契約の解除を予告通知することにより、契約を解除(雇用主の立場からは解雇)できます(同法第10条)。
  3. 雇用契約解除の予告通知

    予告通知期間は個別の契約により異なりますが、契約がない場合は以下の期間が適用されます。

    雇用期間と予告通知期間

    26週間未満:1日以上
    26週間以上2年未満:1週間以上
    2年以上5年未満:2週間以上
    5年以上:4週間以上

    通知は口頭または文書で行えますが、実務上は書面の交付の他、電子メールなどの方法によっても行うことができます。

  4. 通知なし、または予告通知期間満了前の雇用契約の解除(雇用主の立場からは解雇)

    雇用主が通知なく、または通知期間の満了を待たずに雇用契約を解除する場合は、当該被雇用者が雇用契約終了のための予告通知期間まで働いたことによって得るであろう賃金に相当する金銭を支払う必要があります〔同法第11条(1)〕。ただし、当事者の一方が雇用契約の条件に意図的に違反した場合は、予告通知なしに契約を終結できます〔同法第11条(2)〕。

  5. 被雇用者不行跡による解雇(懲戒解雇)
    雇用主は、十分な調査をした上で、勤務条件に違反する不行跡な行為を理由に、予告通知なく被雇用者を解雇できます。解雇に代えて、以下の措置をとることもできます(同法第14条)。
    1. 被雇用者を直ちに降格する
    2. 1週間を上回らない期間、被雇用者を無給で直ちに出勤停止とする
      ただし、被雇用者が正当な理由または根拠なく解雇されたと考えた場合、その被雇用者は、解雇後1カ月以内に復職できるよう人材大臣に書面で抗議することができます。
  6. 整理解雇(Retrenchment)
    整理解雇は人員整理等、経営上の理由による解雇です。解雇の可否、または予告通知の期間の考え方は、普通解雇と同じです。整理解雇手当の支給義務が争点となる点が異なります。

    勤続2年以上の被雇用者は整理解雇の際に解雇手当を要求することができます(同法第45条)。

    人材省はウェブサイト上で、改正法が施行されるまでの移行期において、勤続3年以上の被雇用者には、会社の財務状況を懸案した上で、雇用主と被雇用者の間で解雇手当を交渉すべきであるとの見解を示しています。

    その他、勤続3年未満の被雇用者に対しても恩恵的給付を支払うことができるとしています。なお、被雇用者に対する解雇手当または恩恵的給付は、中央積立基金(Central Provident Fund: CPF)給付の対象とはなりません。人材省は企業が整理解雇を実施する際には、人材省に通知することを求めており、そのためのオンライン通知サイト「Notification of Retrenchment Exercise」を設けているほか、雇用主向け「余剰人員管理(Managing Excess Manpower)」マニュアルをウェブサイト上に掲載しています。また整理解雇に代えて、以下のような措置をとることも奨励しています。

    1. 短期間の一時的解雇
    2. 最長2カ月間で週に2日を超えない範囲での勤務時間の短縮
  7. 解雇制限
    解雇については、別の政策的観点からの制限が次のとおり規定されており、この制限が優先されます。
    1. 産前産後の休業期間中の解雇(雇用法)
    2. 労働組合の結成を理由とする解雇(労使関係法)
    3. 兵役を理由とする解雇(兵役法)等
  8. 人材省への報告義務
    人材省は2017年1月1日から、10人以上を雇用する雇用主に対し、6ヵ月間で計5人以上を解雇する場合には、解雇通知から5営業日内に同省へ報告することを義務付けました。期限内の報告を怠ると、最高5,000シンガポールドルの罰金が科せられる可能性があります。

関係機関

人材省(Ministry of Man Power)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

関係法令

Attorney General’s Chambers:
雇用法(Employment Act)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
労使関係法(Industrial Relations Act)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

参考資料・情報

人材省:
余剰人員管理マニュアル(Managing Excess Manpower)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

調査時点:2017/3

記事番号: A-001056

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