オーストラリアの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2022年のGDP成長率は3.7%、堅調な経済成長が持続。
  • 貿易は資源、農産品の輸出が好調、貿易黒字は前年比37.5%増の約1,780億ドル。
  • 対内直接投資額は前年の3.2倍。金融・保険業が大きく増加。
  • 日本からの直接投資残高は、米国、英国に続いて3番目に多かった。

公開日:2023年12月21日

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マクロ経済 
国内需要が回復し堅調な経済成長が持続、今後のインフレが懸念

2022年のオーストラリアの実質GDP成長率は3.7%だった。新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)に起因する反動増で高成長を記録した前年の5.2%と比べると鈍化した。しかしながら、新型コロナ関連規制の緩和や国際的な往来の再開による経済活動の正常化に伴い、国内需要は回復、主要輸出品である資源や農産品の価格上昇を背景に輸出も増加し、堅調な経済成長が続いた。IMFによれば、パンデミック以前の状態まで経済は回復した。

需要項目別にみると、GDPの約5割を占める民間最終消費支出は前年比6.5%増となった。新型コロナ禍での規制が緩和され、旅行、外食、自動車などの個人消費が伸びた。政府最終消費支出は5.2%増となった。要因として、第1四半期にニューサウスウェールズ州やクイーンズランド州で発生した洪水の被災者支援によるものとみられる。財貨・サービスの輸出は3.4%増となった。第1四半期は洪水などの悪天候による鉱業部門での採掘減少を受けて前期比0.7%減となったが、第2四半期には農産物や資源の輸出増加により5.2%増と回復した。その後も、国際往来の再開を受けた外国人留学生や観光客の回復による教育や旅行サービス関連の輸出が増加した。財貨・サービスの輸入は、消費財や中間財の輸入が増加したことや、オーストラリア人による海外旅行サービス関連の支出が大きく伸び、前年比12.9%増だった。

産業別にみると、旅行や外食需要の増加で宿泊・飲食サービス業が前年比16.6%増、運輸・郵便・倉庫業が12.3%増、情報通信業が11.9%増と大きく増加した。オーストラリアの主要産業である鉱業は、第2四半期から3期連続プラス成長で、通年では0.6%増だった。鉄鉱石は新たな鉱山開発による供給増加により前年比0.2%増だった。一方で、石炭は東海岸の大雨による洪水の発生が生産活動に影響し、5.7%減少した。

国内では20年ぶりの高い水準でインフレが進んだ。消費者物価指数(CPI)は第2四半期に前年同期比で6.1%、第4四半期には7.8%を記録し、ピークに達した。コモディティー価格の上昇、新型コロナ感染拡大によるサプライチェーンの混乱、国内需要の回復が影響した。さらに国内では、2022年7月の洪水によるサプライチェーンの途絶で、食料品価格が上昇した。また、エネルギー価格の上昇で輸送費や電気料金なども上昇した。オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)は、2022年5月から2023年3月まで10回連続で政策金利の引き上げを実施し、引き上げ幅は合計3.5ポイントとなった(2023年3月時点で3.6%)。失業率(季節調整済)は2022年10月に3.4%まで低下し、48年ぶりの低水準で労働市場の逼迫が続いた。逼迫した労働市場と高いインフレにより賃金も上昇を続けた。

RBAは、2023年5月、2023年の実質GDP成長率を1.25%と予測した。今後のインフレ率は、2023年に4.5%、2025年半ばに3%となると分析した。

表1 オーストラリアの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2
実質GDP成長率 5.2 3.7 0.6 0.7 0.7 0.7 0.4 0.4
階層レベル2の項目民間最終消費支出 5.0 6.5 1.9 2.2 0.8 0.3 0.3 0.1
階層レベル2の項目政府最終消費支出 5.4 5.2 2.7 △ 1.1 0.2 0.7 0.1 0.4
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 10.5 1.2 0.4 △ 0.2 0.7 △ 0.8 2.4 2.4
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 △ 2.0 3.4 △ 0.7 5.2 2.0 1.5 1.8 4.3
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 5.4 12.9 10.6 1.9 4.2 △ 4.0 3.6 0.7

〔注〕四半期の伸び率は前期比。季節調整済。
〔出所〕オーストラリア統計局(2023年9月)

貿易 
資源と農産品輸出が好調、鉱物輸出も急増、貿易黒字も拡大

2022年の貿易(通関ベース)は、輸出が前年比29.4%増の5,950億3,500万オーストラリア・ドル(約56兆5,283億2,500万円、豪ドル、1豪ドル=約95円)、輸入が前年比26.3%増の4,170億1,900万豪ドルとなった。貿易収支は1,780億1,600万豪ドルの黒字となり、黒字幅は前年から約37.5%増加した。

輸出を品目別にみると、1位の石炭が前年比2.2倍と急増し、輸出全体の23.9%を占めた。輸出先は日本が40.1%、インドが16.3%、韓国が12.1%の順だった。中でも日本への輸出は2.8倍と大幅に増加した。石炭は、国内における洪水などの影響でサプライチェーンの途絶などが生じたにもかかわらず、輸入国の高い需要により輸出が伸びた。インド向けは国内電力需要の増加を背景に69.4%増加した。2位の鉄鉱石(輸出全体の20.8%)は19.8%減少した。鉄鉱石輸出の83.9%を占める中国において新型コロナ感染の継続による国内需要の弱まりや、世界的にも建設や工業生産が停滞したことで需要が減少傾向だったことが影響した。鉄鉱石輸出の上位5カ国向けは軒並み減少した。3位の天然ガスは81.4%増と大きく増加した。ロシアのウクライナ侵攻によりグローバル市場における供給が逼迫する中、オーストラリアは供給国として輸出を拡大した。輸出先は、日本が全体の38.9%を占め、次に中国が20.6%、韓国が12.4%だった。

7位の未加工鉱物は6.7倍に急増した。同輸出の96.7%が中国向けだったが、韓国(7.3倍増)、米国(4.2倍増)向けの輸出も2022年に急増した。近年の脱炭素化の流れを受け、電化に伴う蓄電池やEVのモーターに必要な鉱物資源への需要増が影響しているとみられる。農畜産品の輸出をみると、輸出品目全体で5位の小麦は53.2%増と好調だった。米国やEU、アルゼンチンなどで干ばつが続いたことや、黒海地域の小麦の輸出を巡る不安からグローバル市場での価格が上昇したためである。輸出先は中国が30.8%、インドネシアが14.8%となった。牛肉の輸出は13.4%増で、特に中国向けが24.1%増と好調だった。

輸出を国・地域別にみると、中国向けが全体の29.4%を占め前年に続き最多となったが、伸び率では前年比2.6%減少した。中国向け輸出金額の59.1%が鉄鉱石であった。2位の日本は84.6%増、3位の台湾が84.3%増、6位のEU27は 85.5%増とそれぞれ前年から大きく拡大した。いずれも資源輸出が急増したことが要因である。ASEAN地域への輸出は31.7%増だった。特にマレーシア、ベトナム、シンガポール向けが増加した。

輸入を品目別にみると、1位の石油精製品が2.1倍増となった。主な輸入先は韓国(構成比27.9%)、シンガポール(27.6%)だった。乗用自動車は18.6%増で、前年に引き続き2番目に多い輸入品目だった。4位の貨物自動車は13.9%増となった。なお、2022年の新車販売台数は前年比3%増だった。

輸入を国・地域別でみると、最大の輸入相手国である中国(構成比26.8%)は、前年比22.1%増となった。主な輸入品は、通信機器・同部品、コンピュータ、家具などだった。中でも乗用自動車は97.3%増と大きく拡大した。中国からの電気自動車(EV)の輸入が近年増加していることが要因の一つとみられる。2022年のオーストラリアのEV輸入総額の72%を中国が占め、前年比で33%増となった。2位の米国は、全体の10.3%を占めた。主な輸入品は航空機、宇宙船・同部品、乗用自動車、医薬品(薬剤以外)だった。3位の韓国は昨年から医薬品の輸入額が2.1倍増加し、特に石油精製品の輸入が最も多く、前年比3.5倍と急増した。

2023年は世界的な脱炭素化の流れで、脱炭素技術に必要な金属や鉱物資源などへの世界的な需要増加、天然ガスの堅調な需要が見込まれる。その他、農産物についてはロシアのウクライナ侵攻の継続による両国の穀物輸出見通しの不安や、米国などでの干ばつによる価格の高止まり、ASEANやインドの経済成長による需要増加が、今後もオーストラリアの輸出増加にプラスの影響を与えると見込まれる。一方で、中国経済の減速などにより輸出全体では鈍化する可能性がある。

なお、最大の貿易相手国である中国との間では、中国が2020年以降、両国間の政治的な緊張の高まりを受けて、オーストラリアの主要輸出産品に対して輸入制限を続けていた。しかし、豪中関係が改善に向かっていることに伴い、2023年に入り徐々に解除されている。石炭は2023年2月に非公式に制限が解除されたが、中国政府は公式にはオーストラリアからの輸入を停止していると発表していなかった。大麦については、2023年4月に追加関税(アンチダンピング関税と補助金相殺関税)の撤廃を検討する再調査を開始し、同年8月5日にこれらの関税を撤廃した。2023年5月には中国が木材の輸入再開を発表した。ワインについては、2023年10月に追加関税見直しを行うことを両国で合意した。他に、引き続き輸入制限が続いているオーストラリア主要産品は、2023年10月時点で検疫強化などにより制限されたロブスターと牛肉である。

表2-1 オーストラリアの主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万オーストラリア・ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
石炭 63,505 142,359 23.9 124.2
鉄鉱石 154,656 124,058 20.8 △ 19.8
天然ガス 49,811 90,343 15.2 81.4
非貨幣用金 23,281 23,513 4.0 1.0
小麦 9,436 14,457 2.4 53.2
原油 10,113 14,424 2.4 42.6
未加工鉱物 1,823 12,227 2.1 570.8
牛肉 9,062 10,273 1.7 13.4
ボーキサイト(含むアルミナ) 8,901 9,865 1.7 10.8
非公開項目 7,130 9,841 1.7 38.0
採油用の種・果実 3,158 7,755 1.3 145.6
銅鉱 7,717 7,532 1.3 △ 2.4
肉類(牛肉以外) 5,597 6,159 1.0 10.1
アルミニウム 4,765 5,793 1.0 21.6
4,447 4,976 0.8 11.9
合計(その他含む) 459,675 595,035 100.0 29.4

〔出所〕オーストラリア外務・貿易省

表2-2 オーストラリアの主要品目別輸入(CV)[通関ベース](単位:100万オーストラリア・ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
石油精製品 25,694 53,196 12.8 107.0
乗用自動車 23,355 27,698 6.6 18.6
通信機器・同部品 14,538 16,861 4.0 16.0
貨物自動車 12,227 13,932 3.3 13.9
コンピュータ 10,911 12,364 3.0 13.3
原油 7,318 10,363 2.5 41.6
薬剤(家畜用含む) 7,550 10,167 2.4 34.7
医薬品(薬剤以外) 7,218 8,939 2.1 23.8
土木重機・同部品 5,530 7,150 1.7 29.3
非貨幣用金 6,524 6,960 1.7 6.7
家具 5,647 6,266 1.5 10.9
その他電気機械・同部品 4,974 6,046 1.4 21.5
肥料(原油を除く) 3,290 5,707 1.4 73.5
その他家庭用電気機器 4,431 5,327 1.3 20.2
非公開項目 4,614 5,229 1.3 13.3
合計(その他含む) 330,234 417,019 100.0 26.3

〔注〕CV(Custom Value)は、FOB価格とほぼ同値。
〔出所〕オーストラリア外務・貿易省

表3 オーストラリアの主要国・地域別輸出入[通関ベース](単位:100万オーストラリア・ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CV)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
アジア大洋州 390,910 500,732 84.2 28.1 204,422 268,911 65.4 31.5
階層レベル2の項目日本 64,134 118,399 19.9 84.6 20,355 24,605 5.9 20.9
階層レベル2の項目中国 179,955 175,218 29.4 △ 2.6 91,549 111,826 26.8 22.1
階層レベル2の項目韓国 37,067 52,905 8.9 42.7 12,884 27,176 6.5 110.9
階層レベル2の項目台湾 16,297 30,031 5.0 84.3 6,810 11,486 2.8 68.7
階層レベル2の項目ASEAN 56,317 74,160 12.5 31.7 57,104 75,502 18.1 32.2
階層レベル3の項目シンガポール 15,605 19,305 3.2 23.7 12,812 19,464 4.7 51.9
階層レベル3の項目ベトナム 9,687 13,918 2.3 43.7 6,984 9,429 2.3 35.0
階層レベル3の項目マレーシア 8,476 13,699 2.3 61.6 13,406 17,195 4.1 28.3
階層レベル3の項目インドネシア 10,910 13,301 2.2 21.9 4,952 5,720 1.4 15.5
階層レベル3の項目タイ 6,732 8,054 1.4 19.6 15,091 17,392 4.2 15.2
階層レベル2の項目インド 19,571 29,286 4.9 49.6 8,146 9,898 2.4 21.5
階層レベル2の項目ニュージーランド 11,619 13,228 2.2 13.8 6,721 7,107 1.7 5.7
EU27 14,359 26,639 4.5 85.5 52,507 58,281 14.0 11.0
英国 4,738 3,159 0.5 △ 33.3 7,138 7,401 1.8 3.7
中東 10,740 15,058 2.5 40.2 5,426 7,430 1.8 36.9
北米 18,612 23,335 3.9 25.4 37,225 46,633 11.2 25.3
階層レベル2の項目米国 16,604 20,819 3.5 25.4 34,521 43,045 10.3 24.7
アフリカ 3,343 4,155 0.7 24.3 4,405 5,079 1.2 15.3
中南米 3,921 6,132 1.0 56.4 6,716 8,114 1.9 20.8
合計(その他含む) 459,675 595,035 100.0 29.4 330,234 417,019 100.0 26.3

〔注〕アジア大洋州は、ASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
CV (Custom Value) は、FOB価格とほぼ同値。
〔出所〕オーストラリア外務・貿易省

通商政策 
RCEP加盟国との貿易が約7割。インド、英国との協定が発効

オーストラリアの貿易政策は、自由貿易の推進に重きが置かれ、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)の締結を積極的に進めている。2023年5月時点で18の協定を締結している。貿易総額に占めるFTA/EPA締結国・地域との貿易額(カバー率)は79.6%にのぼる。中でも2022年1月に発効した地域的な包括的経済連携(RCEP)協定は、オーストラリアの輸出国上位15カ国・地域中9カ国・地域が参加しており、貿易総額で67.2%、輸出で72.9%を占めている。2022年12月にはオーストラリア・インド経済協力・貿易協定(ECTA)が発効した。ECTAは両国が最終的に締結を目指す包括的経済協力協定(CECA)に向けた暫定協定という位置付けで、今後、両国間の貿易額のさらなる拡大が見込まれている。また、2023年5月には、英国とのFTA(A-UKFTA)が発効した。これにより、オーストラリアの英国向け輸出品の99%(金額ベース)の関税が撤廃された。同協定では、物品貿易以外にも人工知能(AI)や新技術なども含むイノベーション分野での協力推進も盛り込まれた。イノベーションの取り決めを記した章が盛り込まれるのは、オーストラリアが締結したFTAでは初めてだった。なお、ISDS条項(投資家対国家の紛争解決手続き)については、政府が協定に含むことに反対の立場を示しており、同条項は含まれなかった。

貿易総額の8.4%を占め3番目の貿易相手国であるEUとは、2018年6月にEUとのFTA交渉を開始した。2023年10月に行われたオーストラリアとEUの貿易大臣会合においてオーストラリア側は交渉妥結を目指していたが、EUによるオーストラリア産品の農産物の関税引き下げなどを巡る隔たりを埋めることができず、結局合意に至らなかった。

FTA以外の協定については、2022年10月にシンガポールと世界初のグリーン経済協定(GEA)を締結した。今後両国は、GEAに基づき環境物品・サービスの貿易や投資の拡大、クリーンエネルギーの促進を目指す。2023年6月、オーストラリア政府は、両国の中小企業による脱炭素化に資する製品やサービスの開発や商業化を促進するための共同イニシアチブ(CGCIP)への資金として、2,000万豪ドルの資金を拠出することを発表した。

表4 オーストラリアのFTA発効・署名・交渉状況(単位:%)
FTA 発効日 オーストラリアの貿易に占める構成比
(2022年)
往復 輸出 輸入
発効済み ニュージーランド(ANZCERTA) 1983年1月1日 2.0 2.2 1.7
シンガポール(SAFTA) 2003年7月28日 3.8 3.2 4.7
米国(AUSFTA) 2005年1月1日 6.3 3.5 10.3
タイ(TAFTA) 2005年1月1日 2.5 1.4 4.2
チリ(ACIFTA) 2009年3月6日 0.2 0.2 0.1
ASEAN+ニュージーランド(AANZFTA) 2010年1月1日 16.8 14.7 19.8
マレーシア(MAFTA) 2013年1月1日 3.1 2.3 4.1
韓国(KAFTA) 2014年12月12日 7.9 8.9 6.5
日本(JAEPA) 2015年1月15日 14.1 19.9 5.9
中国(ChAFTA) 2015年12月20日 28.4 29.4 26.8
環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP) 2018年12月30日 26.6 30.8 20.7
香港(A-HKFTA) 2020年1月17日 0.9 1.3 0.3
ペルー(PAFTA) 2020年2月11日 0.0 0.0 0.0
インドネシア(IA-CEPA) 2020年7月5日 1.9 2.2 1.4
太平洋諸国経済緊密化協定(PACER-Plus) 2020年12月13日 2.0 2.3 1.7
東アジア地域包括的経済連携(RCEP) 2022年1月1日 67.2 72.9 59.0
インド(ECTA) 2022年12月29日 3.9 4.9 2.4
英国(A-UKFTA) 2023年5月31日
合計(重複している国を除く) 79.6 83.4 74.1
交渉中 EU 8.4 4.5 14.0
インド(包括的経済協力協定(CECA)) 3.9 4.9 2.4
検討中 湾岸協力会議(GCC)諸国 1.6 1.9 1.1
アラブ首長国連邦(UAE) 0.7 0.8 0.4
太平洋同盟 0.7 0.4 1.2

〔注〕(1)構成比については、輸出は輸出総額、輸入は輸入総額を使用。
(2)PACER-Plusはクック諸島(ニュージーランド)、ミクロネシア連邦、キリバス、ナウル、ニュージーランド、ニウエ島(ニュージーランド)、パラオ、パプア・ニューギニア、マーシャル諸島、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツ。
(3)太平洋同盟はチリ、コロンビア、メキシコ、ペルー。
〔出所〕オーストラリア外務・貿易省

対内・対外直接投資 
対内直接投資は3年連続増を記録、金融・保険業がけん引

2022年の対内直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年の3.2倍の888億4,900万豪ドルで、新型コロナ禍前の2018年の904億豪ドルに近づく水準となった。国・地域別にみると、1位がカナダで前年の2.3倍の202億8,600万豪ドル、2位の英国は36.2%増の134億2,400万豪ドルとなった。日本からの投資額は70.1%減の10億8,400万豪ドルと2年連続で減少した。対内直接投資残高で最大の米国は、フローベースでは20億2,600万豪ドルだった。

対内直接投資額を業種別(国際収支ベース、ネット、フロー)にみると、金融・保険業が221億500万豪ドルと前年から2.4倍と大きく増加した。次いで鉱業が99億7,200万豪ドル、製造業87億9,800万豪ドルと続いた。なお、対内直接投資残高ベースでは、前年に引き続き鉱業が3,592億5,600万豪ドルと最大で全体の32.1%を占めた。次いで、不動産業が1,449億2,200万豪ドルで全体の13%を占めた。

2022年の対外直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年から37.1倍の1,680億4,400万豪ドルとなった。国・地域別にみると、英国への投資額が1,096億5,300万豪ドルと最も大きく、ニュージーランドが134億2,200万豪ドル、米国が118億2,200万豪ドルと続いた。業種別(国際収支ベース、ネット、フロー)にみると、製造業が217億5,300万豪ドルと最多で、鉱業が205億700万豪ドル、金融・保険業が146億1,100万豪ドルと続いた。なお、対外直接投資残高ベースでは、製造業が2,131億100万豪ドルと最も多く(構成比21.8%)、金融・保険業が1,996億7,500万豪ドル(20.5%)、鉱業が1,910億2,300万豪ドル(19.6%)となった。

2022年の外国企業による主な対内直接投資案件をみると、米国の決済サービス企業のブロック(旧スクエア)が、後払い決済サービスを提供するアフターペイを買収(277億ドル)、カナダの投資会社ブルックフィールド・アセット・マネジメントなど投資家グループによる電力会社のオースネット・サービシズの買収(101億豪ドル)などの事例が発表された。

表5 オーストラリアの国・地域別対内・対外直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー、残高](単位:100万オーストラリアドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 対内直接投資 対外直接投資
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 残高 金額 金額 残高
アジア大洋州 14,726 1,361 266,083 6,753 17,761 139,804
階層レベル2の項目日本 3,620 1,084 133,804 △ 76 n.a. 1,376
階層レベル2の項目中国 2,659 △ 2,859 44,777 △ 67 △ 1,703 3,683
階層レベル2の項目韓国 483 456 7,667 6 118 797
階層レベル2の項目ASEAN 8,323 △ 769 58,300 1,157 5,616 28,319
階層レベル3の項目シンガポール 7,812 △ 1,677 38,942 1,846 6,575 19,186
階層レベル3の項目マレーシア 583 357 13,132 △ 120 △ 349 4,687
階層レベル3の項目タイ △ 89 531 6,226 △ 362 n.a. 596
階層レベル2の項目インド △ 155 301 551 △ 116 279 1,539
階層レベル2の項目ニュージーランド △ 708 1,066 5,905 4,245 13,422 91,578
EU27 7,280 7,209 123,674 1,069 1,797 10,951
階層レベル2の項目ドイツ 1,854 907 21,180 n.a. △ 1,078 n.a.
階層レベル2の項目オランダ 2,570 3,055 56,864 491 3,026 8,501
階層レベル2の項目フランス 254 6 11,641 n.a. 46 2,400
英国 9,857 13,424 138,049 △ 16,613 109,653 184,194
米国 △ 8,851 2,026 184,343 11,827 11,822 193,095
カナダ 8,865 20,286 77,798 △ 2,547 11,062 38,621
合計(その他含む) 27,821 88,849 1,118,867 4,528 168,044 975,537

〔注〕アジア大洋州は、ASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔出所〕オーストラリア統計局

表6 オーストラリアの業種別対内・対外直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー、残高](単位:100万オーストラリア・ドル、%)(△はマイナス値)
業種 対内直接投資 対外直接投資
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 残高 金額 金額 残高
農林水産業 n.a. 179 4,050 n.a. n.a. n.a.
鉱業 5,396 9,972 359,256 △ 1,463 20,507 191,023
製造業 △ 3,488 8,798 118,424 △ 3,201 21,753 213,101
電気・ガス・水道業 968 △ 620 26,609 n.a. △ 268 6,642
建設業 3,156 3,830 19,006 407 △ 1,251 6,510
卸売・小売業 4,107 5,995 67,069 523 1,108 6,087
ホテル・飲食業 1,208 1,413 9,662 n.a. 13 219
運輸・倉庫業 1,227 1,321 28,573 836 n.a. 5,156
情報通信業 1,773 n.a. 34,342 n.a. n.a. 28,236
金融・保険業 9,209 22,105 141,164 8,228 14,611 199,675
不動産業 △ 524 2,021 144,922 △ 2,170 1,155 20,856
専門・科学技術サービス業 7 1,561 14,588 1,019 1,396 14,013
業務支援サービス業 380 △ 552 6,032 196 △ 292 6,025
医療・社会事業 202 15 5,009 n.a. 1,216 n.a.
合計(その他含む) 27,832 88,849 1,118,867 4,528 168,044 975,537

〔出所〕 オーストラリア統計局

対日関係 
対日貿易は約16年ぶりの最高水準、対内直接投資残高は3位に

オーストラリアにとって日本は、輸出で2位(輸出総額の19.9%)、輸入で4位(輸入総額の5.9%)の重要な貿易相手国である。日本にとってもオーストラリアは、輸出で10位(日本の輸出総額の2.2%)、輸入で3位(日本の輸入総額の9.8%)を占め、主要な相手国の一つである。

2022年の対日貿易をみると、輸出が前年比84.6%増の1,183億9,900万豪ドル、輸入は20.9%増の246億500万豪ドルと輸出入ともに増加し、2006年以来最高額を記録した。輸出を品目別にみると、1位の石炭が前年の2.8倍、2位の天然ガスは前年の2.0倍とそれぞれ大幅に増加したが、3位の鉄鉱石は23.7%減少した。上位3品目はいずれも資源で、対日輸出総額の85%を占めた。石炭や天然ガスの輸出増加は、日本国内の原子力発電所が一部のみしか稼働しておらず、エネルギー価格が高騰している中でも、引き続き石炭やガスへ依存している状況が続いていることが背景にある。一方、輸入を品目別にみると、1位の乗用自動車は前年とほぼ同額、2位の石油精製品が前年の3.3倍に増加し、3位の貨物自動車が7.9%増となった。乗用自動車は、対日輸入総額の38%を占めた。なお、2022年の新車販売台数をメーカー別にみると、トヨタ自動車が21.4%を占めて前年に続き1位(前年比3.3%増)だった。2位のマツダのシェアは8.9%(5.3%減)、4位の三菱自動車は7.1%(13.7%増)だった。

2022年の日本からの対内直接投資残高(国際収支ベース)は1,338億400万豪ドルとなり、米国、英国に続いて3位となった。同年の日本企業による投資案件では、JERAが北部準州沖合のバロッサ・カルディータガス田の権益を12.5%取得する(3億2,700万ドル)などの事例があった。アジア地域におけるエネルギー需要増大が見込まれる中、JERAは脱炭素社会実現に向けたトランジション燃料に必要不可欠な液化天然ガス(LNG)の安定的な確保に向けたものと発表した。

また、海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)が、ワイン販売プラットフォーム事業会社ワインギャラリーに出資(約9億5,000万円)した。同機構は、和食の人気が高いオーストラリアでの日本酒市場拡大を期待し、ワインギャラリーが運営するオンラインプラットフォーム事業を活用し日本酒流通の拡大を目指すと発表した。

IT分野では、マクニカによるソフトウエア企業アイセタナへの出資(77万豪ドル)があった。AI画像解析技術で防犯カメラ映像から異常を検知する、アイセタナのソフトウエアを用いた警備業務の最適化を提供する事業を行うと発表した。

表7-1 オーストラリアの対日主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万オーストラリア・ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
石炭 20,669 57,101 48.2 176.3
天然ガス 17,145 35,130 29.7 104.9
鉄鉱石 11,322 8,635 7.3 △ 23.7
非公開項目 5,791 6,764 5.7 16.8
牛肉 1,982 2,015 1.7 1.7
アルミニウム 1,329 1,446 1.2 8.8
採油用種・果実 229 973 0.8 325.7
小麦 446 655 0.6 47.1
砂糖・糖蜜・蜂蜜 532 630 0.5 18.4
大麦 391 508 0.4 30.0
合計(その他含む) 64,134 118,399 100 84.6

〔出所〕 オーストラリア外務・貿易省

表7-2 オーストラリアの対日主要品目別輸入(CV)[通関ベース](単位:100万オーストラリア・ドル、%)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
乗用自動車 9,390 9,386 38.1 0.0
石油精製品 1,290 4,238 17.2 228.4
貨物自動車 2,495 2,692 10.9 7.9
土木重機・同部品 1,074 1,127 4.6 4.9
タイヤ 733 807 3.3 10.2
無機化学元素 50 487 2.0 867.7
自動車部品・付属品 322 355 1.4 10.4
その他電気機械・同部品 246 254 1.0 3.3
荷役運搬機械・同部品 202 244 1.0 20.7
内燃ピストンエンジン 200 240 1.0 19.6
合計(その他含む) 20,355 24,605 100.0 20.9

〔注〕 CV (Custom Value) は、FOB価格とほぼ同値。
〔出所〕 オーストラリア外務・貿易省

インフレによる人件費やコストの上昇が懸念事項

2022年8月から9月にかけてジェトロが実施した「2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」(以下、ジェトロ日系企業調査)によると、在オーストラリアの日系企業が抱える経営上の問題点は、「従業員の賃金上昇」(75.0%)、「調達コストの上昇」(64.8%)、「為替変動」(60.2%)、「競合相手の台頭(コスト・価格面で競合)」(47.3%)、「物流の混乱」(44.0%)が上位5項目となった。

人件費の高騰について、オーストラリアの最低賃金(時給)は13.6米ドルで、フランスに次いで世界で2番目に高い(OECD・2022年)。ジェトロ日系企業調査では、製造業の作業員の月額基本給(平均値)が、2020年調査時点の5,169豪ドルから2022年には6,179豪ドルと、2年間で19.5%上昇した。また、非製造業のスタッフ(一般職)の月額基本給も、2020年調査時点の6,161豪ドルから2022年に6,381豪ドルと2年間で3.5%上昇した。

調達コストについては、国際的なエネルギー価格の上昇、対米ドル豪ドル安による輸入価格の上昇、国内でインフレが加速したことが影響した。原料費、電気料金、輸送費などが上昇し、コスト増が企業経営に影響を与えた。

事業用スペースの不動産賃料も上昇している。ジェトロの「2022年度アジア大洋州・日本投資関連コスト比較調査」によれば、工業団地の月額賃料(1平方メートル当たり、シドニー市内)が32豪ドルと、2020年の同調査(13豪ドル)から2倍超となった。事務所の月額賃料(1平方メートル当たり、シドニー中心部商業地区)は、2020年の87豪ドルから2022年には103豪ドルと、18.3%上昇した。

基礎的経済指標

人口
2,612万人 (2022年9月)
面積
769万2,024平方キロメートル(2022年)
1人当たりGDP
5万2,265 米ドル (2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △ 1.8 5.2 3.7
消費者物価上昇率 (%) 0.9 3.5 7.6
失業率 (%) 6.5 5.1 3.7
貿易収支 (100万豪ドル) 59,897 113,973 161,153
経常収支 (100万豪ドル) 45,272 66,513 28,099
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 39,152 53,790 53,385
対外債務残高(グロス) (100万豪ドル) 2,136,899 2,213,731 2,211,185
為替レート ( 1 米ドルにつき、ユーロ、期中平均) 1.45 1.33 1.44

注:
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、経常収支:各四半期の数値の合計値から算出。
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所:
人口、面積、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):オーストラリア統計局(ABS)
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF