米国食品安全強化法セミナー:実践編 ‐日米専門家による解説と実例紹介‐

ジェトロは、農林水産省補助金事業として、2017年1月23日に東京、25日に大阪においてセミナーを開催し、それぞれ180名、105名の参加者がありました(ライブ配信の視聴者202名)。

セミナーでは、ジェトロ・シカゴ所員からFSMAの概要説明に続き、FSMAに精通した専門家によるPCHF (ヒト向け食品の予防管理と危害分析)の概略説明、および米国弁護士2名によるサプライチェーンでの食品安全管理、農産物安全基準、意図的な食品不良事故防止の義務化について講演が行われました。

講演1.「食品安全強化法の全体概要と最新の動き‐講演を聞く前に知っておきたい早わかりのための概略説明‐」

講師

ジェトロ・シカゴ事務所 ディレクター 笠原 健

  • 略歴:
    2016年7月から現職。食品安全強化法に関する調査や制度周知も担当

講演概要

FSMAの新しいポイントは、これまでの事後対応から予防管理への移行である。講演では、FSMAの適用スケジュール、食品製造/加工、梱包、保管業者が対応すべきことなどの説明がなされた。米国に輸出を行う企業は、自らの企業活動について、まず現行適正製造規範(CGMP)を徹底しつつ、どこに危害(ハザード)があるのかを特定、それをどのように管理(コントロール)すればよいかを、食品安全計画書にまとめておくことが必要だ。通常自ら行っている衛生管理、品質管理の文書化で対応できる項目も多くあるので、何が足りないかを確認しながら準備を進めるよう呼びかけられた。

講演2.「PCHFの解説と日本企業に求められる対応 ‐差分調査でみつかる企業の課題‐」

講師

ペリージョンソンホールディング株式会社
ペリージョンソンレジストラー
食品安全プログラムマネジャー 海澤 幸生 氏

  • 略歴:
    FSPCAから承認を受けたPCQI養成トレーニングコースのリードインストラクター。
    ISO9001、ISO22000、FSSC22000の主任審査員として多くの審査経験を有している。また農林水産省のFSMA部会の委員を務めるほか、食品安全に関するレポートを寄稿するなど、審査業務以外においても経験や知見を活かした活動を行っている。

講演概要

PCHFとは「ヒト向け食品に関する現行適正製造規範ならびに危害要因分析およびリスクに応じた予防管理」のことである。海澤氏からは、その構成と、構成要素である現行適正製造規範(CGMP)、構成の中核をなす食品安全計画(FSP)に関する講演が行われた。 FSMAに基づく予防管理は主に以下とされる。

  1. 一般的なCCPにおけるプロセス管理 (管理手段はハザードの性質による)
  2. アレルゲン管理
  3. 衛生管理
  4. サプライチェーン管理 (自社ではなく、供給者によるハザード管理)

これらの予防管理の実施のために、モニタリング、是正措置または修正、妥当性確認、検証を行う必要があるとの説明がなされた。具体的な対応事例として、アレルゲン対応では、保管場所の管理、識別管理、飛散管理、現場作業員の認識、ラベリング管理等が挙げられた。また、放射性危害の考え方、リコールプラン、予防管理適格者(PCQI)の設置の必要性が強調された。あわせて、一般衛生管理や食品防御など、PCHF規則の要求事項とFSSC22000規格の内容の差分分析が紹介された。

講演3.「米国が求めるサプライチェーンでの食品安全管理、農産物安全基準、意図的な食品不良事故防止の義務化にも備えて」

講師

オーソン・フランク・ウィーダ・ターマン・マッツ弁護士事務所
弁護士 ジョリダ・スワイン 氏

  • 略歴:
    ワシントンD.C.のオーソン・フランク・ウィーダ・ターマン・マッツ弁護士事務所の主任弁護士。20年の食品安全および品質保証担当の経験を経て、12年前に同事務所に入社。FDAあるいはUSDAからの規制違反の申し立てに対して多くの企業をサポートした実績を有する。

オーソン・フランク・ウィーダ・ターマン・マッツ弁護士事務所
弁護士 ブルース・シルバーグレード氏

  • 略歴:
    ワシントンD.C.のオーソン・フランク・ウィーダ・ターマン・マッツ弁護士事務所の主任弁護士。FSMAの履行および順守を含むFDA規制への事前対応について豊富な経験を有する。米国内外において、FDA、欧州委員会、コーデックス委員会やWHO等の幹部と共に働いた経験を持つ。

講演概要

1.「米国が求めるサプライチェーンでの食品安全管理」

PCHF規則のサブパートGのサプライチェーンの予防管理について、受領施設側は承認したサプライヤーのみを使用すること、サプライヤーの検証活動範囲の判断と実施、文書化を行うことであること。検証活動としては、現場監査、サンプリングと検査、サプライヤーの食品安全記録文書の検証、その他リスクに応じた活動が挙げられた。
サプライチェーン・プログラムが不要とされる以下の場合をのぞき、食品の製造/加工、梱包、保管業者はサプライチェーン・プログラムの構築と実行が求められることになるため、今一度自社のサプライチェーンを確認する必要がある。

  1. サプライヤーによる管理が必要とされる危害が特定されない場合
  2. 受領施設側が特定された危害を自身で管理をしている場合
  3. 顧客あるいは下流の主体の自らが危害管理を行っており、その旨の保証状をしている場合。

2.「ケーススタディ」

次の8項目について解説が行われた。

  1. 施設登録の適用範囲
  2. 農場、国内外の原料製造業展開における施設登録の要否と予防管理
  3. FSMA第103条の規定による小企業と、零細企業の定義
  4. 並行輸入品対策についての事業者の対応
  5. PCQIについて
  6. FSMAに照らした農協組織に対する考え方
  7. 越境ECについて
  8. FSVPと情報開示について

3.「農産物安全基準について」

「農産物安全基準」は、果実、野菜など未加工農作物(RAC)の安全な栽培、収獲、梱包、保管する農場について、科学的な根拠に基づく安全基準を設定する規則。講演では、農場における従業員の研修、健康管理、訪問者の取扱規定や、農業用水の水質管理、検査、保管、追跡活動、生物学的土壌改良剤の使用、家畜と野生動物による侵入、農産物汚染を防ぐための装置、道具、建物の基準について解説された。また、当該農場内、または同一管理下にある別の農場では消費されない食品を、製造/加工する場合は、農場ではなく「製造/加工施設」と定義されるため、施設登録が必要で、予防管理を順守する必要がある点に注意するよう指摘があった。

4.「意図的な食品不良事故の防止 ‐米国食品医薬局(FDA)が求める条件‐」

意図的な食品不良事故防止規則(Intentional Adulteration)では、大規模な公衆衛生危害を引き起こすことを意図した活動を防止、または最小化するための要件を規定している。この規則により、食品施設は、(1)脆弱性評価、(2)緩和戦略、(3)食品防御モニタリングの手順、(4)食品防御是正措置の手順、(5)食品防御検証の手順、(6)記録を含む食品防御計画の策定と文書化が義務付けられることになった。食品施設の中には、いくつか適用免除となる場合(年平均売上高が1,000万ドル未満の零細企業、液体貯蔵タンク以外での食品の保管施設、農場、動物向け食品の製造/加工・梱包または保管施設等)、適用対象となる施設は、原則2019年7月26日までの対応が必要となる。

質疑応答

主な質疑応答は次のとおり。

PCHFに基づく食品安全計画の構築にはどれくらいの期間がかかると考えればよいか。

それぞれの企業がどれだけの資源を構築のために割けるかにも拠るので確一的な回答はできないが、総じて言えば、HACCP システムを運用できている状態であればPCHF対応の仕組み作りに3カ月、その食品安全計画(FSP)の運用を定着させるために更に数カ月は必要となろう。

PCQIの適格性について、ご意見をお聞きしたい。品質管理経験6年、獣医師免許あり、PCHFの概念を認識している人員がいるが、このような人員はPCQIとして適格か。

米国側は充分な経験があること、何よりも実習を積んでいることが大事であるとしている。上記のような人員はPCQIになり得ると思う。

サプライチェーン・プログラムに関して、サプライヤー側が二者監査を定期的に行っている場合、それでもよいか?

監査報告書が適切で充分な内容であるかが、重要なポイントとなる。監査報告書を受け取った者(受領施設)が、その監査報告書を以って、適切にレビューすることが出来るかが大事である。

卸業者として商品の温度管理、賞味期限管理、米国向けのラベルの貼付を行っているが、FSPとしてやるべきこと、これ以外にあるか?

例えば、商品に対する米国の特定8品目に基づくアレルゲンのラベルをメーカーではなく商社が作成し、卸の現場で添付し輸出している場合について回答する。その場合、メーカーは、PCHF Part 117.136と137に基づき、年に1回当該商品のラベルの保証は行っていない旨の通知を行う必要がある。そして、このラベル貼付の管理(アレルゲン管理)を行っている商社はその旨記載した保証状をメーカーに提出していなければならない。また保管活動については、現行適正製造規範(CGMP)の順守と温度管理などが必要。