カナダの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2023年のカナダの実質GDP成長率は1.1%と、大幅に減速。
  • 西側諸国の重要鉱物供給元として多国間の枠組みで存在感を示す。
  • 輸出は鉱物性燃料の価格下落により減少、輸入はサプライチェーンの改善により増加。
  • 対内・対外直接投資とも米国関連のM&Aで増加。

公開日:2024年7月26日

マクロ経済 
前年から鈍化も個人消費が牽引してプラス成長を維持

2023年のカナダの実質GDP成長率は1.1%となり、2022年の3.8%から大幅に鈍化し、新型コロナウイルス禍前の2019年(1.9%)も下回った。実質GDP成長率の推移を四半期ベースでみると、第1四半期は前期比年率2.6%、第2四半期は0.6%、第3四半期はマイナス0.5%と徐々に落ち込むも、第4四半期は1.0%と上昇に転じた。

支出項目を前年比でみると、GDPの5割強を占める個人消費支出が前年比1.7%増(寄与度1.0ポイント)と、2022年の5.1%増と比較すると伸びは小さいものの、最大の押し上げ要因となった。他方、設備投資が4.8%減(寄与度マイナス0.9ポイント)となったほか、住宅投資が前年の12.1%減に続き、10.2%減(寄与度マイナス0.7ポイント)と、2年連続で最大の押し下げ要因となった。積極的な移民受け入れと高インフレ・高金利を原因とした住宅不足感が深刻化していることを受け、連邦政府は「2023年秋の経済声明」で住宅供給を重要課題の1つに挙げて住宅建設支援に取り組んでいる。しかし、年間の家屋建造数は横ばいで推移しており、住宅投資に改善の兆しは見えない。

そのほか貿易収支(財・サービス)は、輸出が5.7%増と高い伸びを見せたものの、輸入も1.0%増加し、16年連続の貿易赤字となった。インフレ率の指標となる消費者物価指数は3.9%と、2022年(6.8%)に続き高い水準を維持した。

表1 カナダの需要項目別実質GDP成長率 (単位:%)
項目 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 3.8 1.1 0.8 0.2 △ 0.1 0.0
階層レベル2の項目家計最終消費支出 5.1 1.7 0.4 0.1 0.0 0.4
階層レベル2の項目政府最終消費支出 3.2 1.5 0.1 0.0 0.2 △ 0.1
階層レベル2の項目民間総固定資本形成 △ 3.5 △ 4.8 △ 0.2 0.2 △ 0.2 △ 0.3
階層レベル3の項目住宅投資 △ 12.1 △ 10.2 △ 0.3 △ 0.1 0.2 △ 0.0
階層レベル3の項目非住宅・設備投資 4.0 △ 0.7 0.1 0.3 △ 0.4 △ 0.3
階層レベル2の項目財・サービスの輸出 3.2 5.7 1.2 0.3 △ 0.3 0.3
階層レベル2の項目財・サービスの輸入 7.6 1.0 0.2 0.5 0.0 0.1

〔注〕季節調整済み、四半期の伸び率は前期比年率。
〔出所〕カナダ統計局

貿易 
輸出はエネルギー価格の下落がマイナス要因に

2023年のカナダの財貿易(通関ベース)は、輸出は前年比2.2%減の7,112億カナダ・ドル(以下、Cドル)、輸入は1.4%増の7,546億Cドルだった。貿易収支は434億Cドルの赤字で、赤字額は前年から266億Cドル拡大した。

財輸出を品目別にみると、自動車・同部品等(HSコード87類、構成比11.5%)が32.6%と大きく増加した。乗用車(8703項)の輸出台数(138万台)が前年と比べて24万台以上増加、輸出額は35.7%増となり、自動車・同部品等の輸出増加に最も寄与した。特に乗用車の最大の輸出先である米国への輸出額は37.3%増となった。カナダ政府の発表によると、自動車・同部品の輸出額は新型コロナウイルス禍前の2019年の水準を上回るだけでなく、過去最高額となった。2020~2022年にかけて、半導体不足の影響により、一時期は生産停止まで起きた自動車生産だが、サプライチェーンの改善により、生産台数の増加につながった。

一般機械(HSコード84類、構成比6.9%)は、ターボジェット、ターボプロペラおよびその他のガスタービン(8411項)やピストン式火花点火内燃機関(8407項)がけん引し、17.6%増となった。動物性および植物性生産品(01~14類、構成比8.4%)は、甲殻類(0306項)が押し下げ要因となったものの、穀物(10類)のうち、小麦やとうもろこしが押し上げに貢献し、5.0%増だった。

構成比最大の鉱物性生産品(25~27類、構成比29.6%)は、原油(2709項)や天然ガスなど(2711項)の価格が下落した影響を受け16.9%減となり、最大の押し下げ要因となった。同国のエネルギー製品の年間価格は2022~2023年にかけて20.9%下落した。カナダ政府によれば、世界経済の減速が予想されたことや借入コストの急増による需要減退など、さまざまな要因が引き金となったとしている。

しかし同時に、世界経済の不確実性は安全資産とされる金の需要を高め、カナダの金の輸出増加に大きく寄与した。カナダ政府によれば、2023年のカナダの金の輸出額は過去最高を記録した。その背景として、2022年に始まったウクライナ紛争や中東情勢を巡る不確実性、世界中の中央銀行が安定して金を購入し続けていること、インフレや高金利による経済見通しの悪化などを挙げている。

表2 カナダの主要品目別輸出入[通関ベース](単位:100万カナダ・ドル、%)(△はマイナス値)
品目 (HSコード、2桁) 輸出(FOB) 輸入(FOB)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性生産品 (25-27) 253,199 210,486 29.6 △ 16.9 65,648 58,658 7.8 △ 10.6
自動車・同部品等 (87) 61,879 82,031 11.5 32.6 107,408 124,276 16.5 15.7
動物性および植物性生産品 (01-14) 56,675 59,519 8.4 5.0 30,876 30,410 4.0 △ 1.5
卑金属 (72-83) 59,557 55,791 7.8 △ 6.3 55,159 50,469 6.7 △ 8.5
化学工業生産品 (28-38) 54,277 49,875 7.0 △ 8.1 77,648 73,557 9.7 △ 5.3
一般機械 (84) 41,950 49,338 6.9 17.6 104,613 113,705 15.1 8.7
食料品、飲料など (16-24) 27,412 30,207 4.2 10.2 33,182 35,182 4.7 6.0
プラスチック・ゴム (39、40) 25,821 24,656 3.5 △ 4.5 38,807 35,442 4.7 △ 8.7
木材など (47-49) 20,912 19,207 2.7 △ 8.2 12,851 12,488 1.7 △ 2.8
パルプなど (44-46) 25,562 17,948 2.5 △ 29.8 5,338 4,715 0.6 △ 11.7
電気機器 (85) 15,206 17,122 2.4 12.6 69,299 71,515 9.5 3.2
航空機・同部品 (88) 12,304 15,065 2.1 22.4 10,419 12,165 1.6 16.8
家具・玩具など (94-96) 9,753 10,071 1.4 3.3 23,718 22,130 2.9 △ 6.7
精密機器など (90-92) 9,296 9,805 1.4 5.5 20,062 21,583 2.9 7.6
繊維および関連製品 (50-63) 3,079 3,109 0.4 1.0 23,651 21,058 2.8 △ 11.0
その他 (上記以外) 50,509 56,940 8.0 12.7 65,491 67,241 8.9 2.7
合計 727,390 711,169 100.0 △ 2.2 744,169 754,594 100.0 1.4

〔注〕輸出は再輸出を除いた数値。
〔出所〕カナダ統計局

財輸出を国・地域別にみると、2023年は主要な相手国のほとんどにおいて、輸出額の減少が見られた。最大の輸出相手国の米国(構成比77.1%、5,483億Cドル)は前年比1.3%減だった。自動車・同部品等(構成比13.9%)のうち乗用車が37.3%増のほか、金(7108項)の輸出が283.3%増で輸出増に寄与したものの、鉱物性燃料(27類、構成比31.5%)が18.8%減で最大の押し下げ要因となり、全体としては減少した。

メキシコ(構成比1.2%、84億Cドル)は、一般機械や穀物などが増加したものの、菜種(1205項)や菜種油(1514項)、鉱物性燃料の減少により、4.0%減となった。

アジア大洋州(構成比10.5%、747億Cドル)は、菜種(30.8%増)、金(78.3%増)が増加に寄与したものの、鉱物性燃料(16.3%減)の価格下落の影響を受け、全体的には3.8%の減少となった。2022年にロシアによるウクライナ侵略の影響で高騰していた肥料の価格が落ち着きを見せ、同産品の輸出額は49.5%減となった。同地域のうち、中国(構成比4.2%、298億Cドル)は6.4%増と、4年連続の増加となった。菜種が72.8%増となり、最大の押し上げ要因となった。

EU(構成比4.4%、313億Cドル)は6.8%減だった。このうち、オランダ(構成比1.0%、69億Cドル)は、鉱物性燃料(121.0%増)、鉄鉱(2601項、32.7%増)、アルミニウム(76類、287.1%増)が押し上げ要因となり14.6%増だった。英国(構成比1.9%、135億Cドル)は、最大の輸出品目である金が36.1%減となり、全体で25.0%減だった。

表3 カナダの主要国・地域別輸出入[通関ベース](単位:100万カナダ・ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(FOB)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
CUSMA 564,337 556,657 78.3 △ 1.4 407,800 420,229 55.7 3.0
階層レベル2の項目米国 555,611 548,282 77.1 △ 1.3 366,382 374,090 49.6 2.1
階層レベル2の項目メキシコ 8,726 8,375 1.2 △ 4.0 41,418 46,140 6.1 11.4
アジア大洋州 77,662 74,698 10.5 △ 3.8 183,533 174,348 23.1 △ 5.0
階層レベル2の項目中国 27,995 29,773 4.2 6.4 100,210 89,245 11.8 △ 10.9
階層レベル2の項目日本 17,751 15,559 2.2 △ 12.3 17,102 20,660 2.7 20.8
階層レベル2の項目韓国 8,522 6,825 1.0 △ 19.9 13,345 13,902 1.8 4.2
階層レベル2の項目香港 3,133 4,542 0.6 45.0 437 405 0.1 △ 7.5
階層レベル2の項目台湾 2,451 1,876 0.3 △ 23.5 9,457 8,090 1.1 △ 14.5
階層レベル2の項目ASEAN 9,139 7,873 1.1 △ 13.8 31,055 30,272 4.0 △ 2.5
階層レベル3の項目インドネシア 3,217 2,266 0.3 △ 29.6 2,892 2,801 0.4 △ 3.2
階層レベル3の項目シンガポール 1,238 1,370 0.2 10.6 1,343 1,437 0.2 7.0
階層レベル3の項目フィリピン 1,142 1,223 0.2 7.1 1,948 2,169 0.3 11.3
階層レベル3の項目マレーシア 1,470 1,191 0.2 △ 19.0 4,157 3,485 0.5 △ 16.2
階層レベル3の項目タイ 1,168 1,012 0.1 △ 13.4 5,206 4,858 0.6 △ 6.7
階層レベル3の項目ベトナム 857 747 0.1 △ 12.8 12,862 13,262 1.8 3.1
階層レベル3の項目その他 46 66 0.0 42.2 2,647 2,260 0.3 △ 14.6
階層レベル2の項目インド 5,239 5,017 0.7 △ 4.2 8,346 7,528 1.0 △ 9.8
階層レベル2の項目オーストラリア 2,844 2,837 0.4 △ 0.2 2,658 3,243 0.4 22.0
階層レベル2の項目ニュージーランド 590 395 0.1 △ 33.0 922 1,003 0.1 8.8
EU 33,585 31,300 4.4 △ 6.8 79,882 86,787 11.5 8.6
階層レベル2の項目オランダ 6,048 6,932 1.0 14.6 5,407 4,365 0.6 △ 19.3
階層レベル2の項目ドイツ 6,765 6,154 0.9 △ 9.0 22,499 25,063 3.3 11.4
階層レベル2の項目ベルギー 4,698 3,977 0.6 △ 15.3 4,533 4,788 0.6 5.6
階層レベル2の項目フランス 3,633 3,777 0.5 4.0 7,800 8,636 1.1 10.7
階層レベル2の項目イタリア 2,769 2,581 0.4 △ 6.8 12,130 12,896 1.7 6.3
階層レベル2の項目スペイン 2,979 2,182 0.3 △ 26.7 3,763 3,977 0.5 5.7
階層レベル2の項目アイルランド 883 696 0.1 △ 21.2 3,952 3,303 0.4 △ 16.4
階層レベル2の項目その他 5,812 5,001 0.7 △ 13.9 19,797 23,760 3.1 20.0
英国 17,979 13,490 1.9 △ 25.0 8,674 9,431 1.2 8.7
スイス 3,563 4,510 0.6 26.6 7,486 8,490 1.1 13.4
ブラジル 3,839 3,884 0.5 1.2 8,507 9,185 1.2 8.0
ノルウェー 3,818 2,993 0.4 △ 21.6 1,076 786 0.1 △ 26.9
サウジアラビア 1,172 1,777 0.2 51.7 3,770 2,143 0.3 △ 43.2
UAE 1,543 1,685 0.2 9.2 747 808 0.1 8.3
ペルー 1,480 1,334 0.2 △ 9.8 4,183 4,699 0.6 12.3
バングラデシュ 1,573 1,314 0.2 △ 16.5 2,632 2,238 0.3 △ 15.0
アルジェリア 1,200 1,290 0.2 7.6 286 226 0.0 △ 21.2
合計(その他含む) 727,390 711,169 100.0 △ 2.2 744,169 754,594 100.0 1.4

〔注〕 輸出は再輸出を除いた数値。
アジア大洋州は、ASEAN+ 6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
アジア大洋州は、ASEAN+ 6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔出所〕カナダ統計局

輸入は自動車・同部品等が増加し、完成車輸出に寄与

財輸入は、自動車・同部品等(構成比16.5%)で15.7%増加したものの、その他の多くの主要品目で減少した。鉱物性生産品(構成比7.8%)が10.6%減、卑金属(構成比6.7%)が8.5%減、化学工業生産品(構成比9.7%)が5.3%減となり、全主要品目において増加した前年とは対照的だった。

財輸入を国・地域別にみると、最大の輸入相手国の米国(構成比49.6%、3,741億Cドル)は2.1%増で、一般機械(520億Cドル、14.9%増)、自動車・同部品等(720億Cドル、6.3%増)がけん引した。メキシコ(構成比6.1%、461億Cドル)も、自動車・同部品等(171億Cドル、25.6%増)、一般機械(75億Cドル、8.6%増)が伸びて11.4%増だった。アジア大洋州(構成比23.1%、1,743億Cドル)は自動車・同部品等(230億Cドル)が40.4%の増加を見せたものの、ほとんどの品目で減少し、5.0%減だった。輸入額で国別2位の中国(構成比11.8%、892億Cドル)は、自動車・同部品等(58億Cドル、39.6%増)を除きほぼすべての主要品目で減少し、10.9%減となった。EU(構成比11.5%、868億Cドル)は米国に次いで輸入増に寄与した。多くの国で輸入増だったものの、オランダ(構成比0.6%、44億Cドル)は鉱物性燃料(16億Cドル)が40.5%減と大幅減だったことで、マイナスに寄与した。そのほか、英国(構成比1.2%、94億Cドル)は一般機械(20億Cドル)が32.3%増、自動車・同部品等(13億Cドル)が24.5%増、航空機・同部品(88類、8億Cドル)が18.5%増でけん引し、8.7%増だった。

カナダ政府は2023年の輸入について、自動車・同部品の輸入額が、同国の新型コロナウイルス大流行前の年間水準を上回ったとし、輸入増加の理由として半導体の供給不足の解消を挙げている。

通商政策 
西側の重要鉱物の供給元として存在感を示すカナダ

2018年ごろから顕在化した米中対立を受け、米国をはじめとする西側諸国は対中依存を軽減し、米国内もしくは米国と同盟国・友好国間でのサプライチェーンを再構築する、サプライチェーン強靭(きょうじん)化の政策などを相次いで打ち出した。カナダはこれらの動きの中で、西側諸国にとっての重要鉱物の供給元としての役割を強めている。

カナダのジョナサン・ウィルキンソン天然資源相は2022年12月、国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)の場でオーストラリア、フランス、ドイツ、日本、英国、米国とともに、「持続可能な重要鉱物アライアンス」を立ち上げると発表した。アライアンスのメンバーは、持続可能で包括的な採掘方法の開発や、重要鉱物の調達に向けて環境基準や労働基準の強化について自主的に取り組むことを約束した。

2023年3月にはカナダ政府と英国政府が、コバルトやリチウムなどの重要鉱物に関する研究とサプライチェーン強靭化で協力することに合意し、合同主旨書を発表した。主旨書では、両国間で重要鉱物サプライチェーン対話を設置することが盛り込まれた。同対話を通じ、情報共有、投資促進、両国企業の関係構築を図ることで、カナダ・英国間のサプライチェーンを構築するほか、重要鉱物のバリューチェーンにおいて、環境・社会・ガバナンス(ESG)に資する活動を推進するとしている。

2023年5月に開かれた G7広島サミット(主要国首脳会議)では、強靭なサプライチェーン構築のため、全ての参加国に「強靱で信頼性のあるサプライチェーンに関する原則」への支持を促すことが表明された。また、重要鉱物、半導体および蓄電池などの重要物資のサプライチェーンを強化していくことも取り決められた。そのほか、供給混乱に対処するため、ストレステストなどから得られた知見とベストプラクティスを共有することが決定された。同サミットに参加したカナダのジャスティン・トルドー首相は、グリーンで持続可能な未来構築の一環として、グローバルなサプライチェーン強靭化におけるカナダの重要な役割を強調した。

APEPやAPECなどの多国間交渉にも積極参加

アジア太平洋経済協力(APEC)に関しては、2023年5月に開かれた貿易担当相会合で、カナダはルールに基づく多国間貿易システムへの支持を他国に促した。11月に開かれたAPEC首脳会議を通じてトルドー首相は、農業、クリーン・エネルギー、人工知能(AI)などの分野を含め、カナダが信頼できる貿易パートナーであり、投資先として選ばれる国であることをアピールした。

米州の12カ国が参加する経済繁栄のための米州パートナーシップ(Americas Partnership for Economic Prosperity:APEP)に関しては、提唱国の米国が2023年1月にその正式発足のため、参加国の貿易相らを招いたバーチャル形式の閣僚会議にメアリー・エング・カナダ輸出促進・国際貿易・経済開発担当相が参加した。同パートナーシップでは包括的貿易、多国間投資、腐敗防止対策に重点を置いており、特に重要鉱物をはじめとした貿易関係の拡大を通じ、参加国地域のサプライチェーンの多様性や持続可能性、強靭性の強化を目指している。11月に開かれたAPEP首脳級会合では、カナダは気候変動に関するリーダーとしての役割などをアピールした。

日本とは重要鉱物、重要技術の協力覚書を締結するなど関係深化

カナダは2023年に日本との関係を深化させた。2023年1月、トルドー首相と岸田文雄首相はカナダのオタワで首脳会談を行った。会談後の記者発表で両首脳は、2国間の貿易、投資、イノベーションを強化すること、サプライチェーンの強靭化と経済安全保障を強化すること、中間層の良質な雇用と新たなビジネス機会を創出することについて議論した。また、重要鉱物や新興技術をはじめとした分野の協力拡大、さらに、両国の成長と雇用創出を促進する環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)の高い基準を維持し、それを基礎とするための共通のコミットメントについても議論した。

2023年9月には日本の外務省、経済産業省と、カナダの産業省、天然資源省、外務貿易開発省との間でバッテリーサプライチェーンに関する協力覚書の署名を行った。本協力覚書は、上流から下流までカバーする包括的なバッテリーサプライチェーンに関するものであり、かつ、蓄電池に関する協力覚書の署名は、日本にとって史上初だった。外務省および経済産業省はこれに基づき、日本企業によるカナダへの進出の円滑化を図るとともに、両国間で、持続可能で信頼性のあるバッテリーサプライチェーンの構築を目指すとしている。また、日本企業によるカナダへの投資などに対する両国の公的支援の促進や、日本企業とカナダの関係規制当局との相互理解の促進、重要鉱物などのバッテリーサプライチェーンにおける緊急時の協力を含む6点について相互協力を行うことを表明した。

本覚書は日本の西村康稔経済産業相(当時)がカナダを訪問した際に結ばれたものであり、訪問中には、カナダ政府とバッテリーサプライチェーンおよび量子・AIなどの産業技術に関する協力覚書への署名や、バッテリーサプライチェーンに関する官民ラウンドテーブルが行われた。当該ラウンドテーブルには両国政府関係者、蓄電池産業の業界団体である電池サプライチェーン協議会、日本企業7社(パナソニックエナジー、プライムプラネットエナジー&ソリューションズ〔PPES〕、旭化成、豊田通商アメリカ、カナダ三菱商事、米国三井物産、住友商事)やカナダの蓄電池関連企業が参加した。

2023年10月には、G7大阪・堺貿易相会合に出席のため訪日したメアリー・エング輸出促進・国際貿易・中小企業・経済開発担当相と日本の上川陽子外相が大阪で会談を行った。両相は、重要鉱物資源のサプライチェーンの強靱化を含め、両国の経済安全保障に資する二国間協力を一層進展させること、WTO改革などについて意見交換を行い、連携していくことで一致したとしている。また、カナダ側からは、ALPS処理水の海洋放出に関する日本の立場について支持が表明され、両相は、輸入規制措置などについて科学的根拠に基づく冷静な対応が必要であるとの点で一致した。

米国とのCUSMA関連の紛争、カナダに有利な裁定が続く

カナダにとって最大の貿易相手国である米国だが、両国間ではカナダ・米国・メキシコ協定(CUSMA)を起因とした複数の紛争が続いている。

2023年1月、自動車原産地規則の解釈を巡ってメキシコとカナダが米国を提訴していた案件に関し、CUSMAの紛争解決パネルは、米国の主張が協定不整合との結論を出し、カナダとメキシコが勝訴した。この勝訴に関してカナダ政府は「強靭なサプライチェーンを構築し、持続可能な経済回復を促進することで、カナダの自動車産業とその労働者のため常に立ち向かっている。カナダの労働者と産業に利益をもたらし、北米の競争力を高めるために、米国とメキシコのパートナーと共に継続的なCUSMAの履行に取り組むことを楽しみにしている」と述べている。

また、米国通商代表部(USTR)が2023年3月に公開した外国貿易障壁報告書(NTE)では、米国は6項目をカナダによる貿易障壁とし、中でも乳製品の関税割当制度(TRQ)を貿易上の障害として重く捉えている。米国は、カナダによるTRQの運用がCUSMAで認められた米国乳製品業者のカナダ市場へのアクセスを不当に阻害していると問題視しており、CUSMAにおける紛争解決パネルの設置を要請し、2022年1月の裁定では米国側の主張が認められた。しかし、本裁定を受けてカナダ側が発表した運用方針は、米国が提起した問題を解決していないとして、米国は2023年1月に2度目のパネル設置を要請していた。結果として、パネルは報告書で、カナダのTRQがCUSMAに矛盾しないとの裁定を下し、米国の主張を退けた。

複数の対立があるものの、関係が悪化しているわけではなく、メキシコを含めた北米3カ国での連携は進んでいる。2023年1月には北米3カ国首脳会合が開かれ、2023年5月には、北米3カ国で閣僚レベルの経済競争力委員会(North American Ministerial Committee on Economic Competitiveness:NAMCEC)を立ち上げる共同声明を公表している。そのほか、これら3カ国は産学官で北米半導体会議(NASC)を初開催するなど、重要産業における連携の強化も継続して行われている。

インドとの急激な関係悪化

2023年6月、カナダ国籍のシーク教徒指導者がバンクーバー近郊で殺害されたことを発端に、カナダとインドの関係は悪化した。トルドー首相は本件にインド政府工作員の関与があるとしてインドを非難し、カナダ国内にいたインドの外交官を国外追放した。インド政府はこれに反発し、インドに駐在するカナダ外交官の数を減らさなければ外交特権をはく奪するとカナダ政府に通告したことで、在インドのカナダ外交官の数は62人から21人にまで減少した。また9月には、インド・カナダ間で2023年内の初期合意を目指して交渉中だった包括的経済連携協定(CEPA)についても交渉が中断されたことが発表された。その後、2023年中に関係改善の動きは見られなかった。

対内・対外直接投資 
対内直接投資は米国が大幅増、資源分野で大型案件

2023年の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー。対外も同様)は、前年比13.0%増の679億Cドルだった。米国が49.0%の大幅増で、特にM&Aが141.1%増の136億Cドルとなった。米国以外からの直接投資は、M&Aが36.6%減、再投資収益が50.4%減となり、全体で14.9%減の288億Cドルだった。業種別では明暗が分かれており、エネルギー・鉱業が44.8%減の75億Cドルだった一方、製造業はほぼ2倍となる97.6%増の235億Cドルだった。

対内直接投資残高は、前年比4.0%増の1兆3,603億Cドルとなり、全体の45.4%を占める米国が6.1%増だった。次いで構成比の大きい欧州は、オランダ(3.4%増)や英国(5.6%増)、ルクセンブルク(2.2%増)などが増加したことにより、1.0%増だった。中南米・カリブ諸国は同地域の構成比最大のバミューダが3.2%減となるも、ブラジルが30.5%増で、地域全体は6.4%増だった。アフリカは2.4倍に増加した。アジア大洋州は6.6%増で、中でもシンガポール(2.2倍)が大幅に増加した。

2023年以降に実施または発表された対内直接投資の大型案件としては、米大手石油企業のコノコ・フィリップス(ConocoPhillips)が、カナダのサーモント石油施設の権利を完全買収した案件がある(2023年10月完了)。同施設は、カナダのブリティシュコロンビア州でオイルサンド事業を行うにあたって、コノコ・フィリップスとフランスの大手石油企業のトタルエナジーズ(TotalEnergies)が投資を行い、それぞれがサーモント石油施設の株式の50%を保有していた。2023年4月にトタルエナジーズ傘下のカナダの石油大手サンコー・エナジー(Suncor Energy)が、トタルエナジーズのカナダ事業の買収を発表したことで、同施設の株式も入手可能となり、55億Cドルでトタルエナジーズから買収することに合意していた。しかし、優先交渉権を保持しているコノコ・フィリップスが約30億Cドルで買収し、同施設の株式を100%取得した。

自動車用製品を扱う米国企業LKQは、カナダの同業であるユニ・セレクト(Uni-Select)を28億Cドルで買収した(2023年8月完了)。LKQはこの買収で、ユニ・セレクトが北米で保有していた自動車補修用塗料と機械部品の販売事業を通じて、LKQの既存の拠点を補完し、より広範な製品を顧客に販売するとしている。また、英国製薬大手のグラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline:GSK)は、カナダのバイオ医薬品会社のべラス・ヘルス(BELLUS Health)を22億Cドルで買収し、呼吸器疾患治療薬事業を強化すると発表した(2023年6月完了)。米国の半導体サプライヤーのセムテック(Semtech)は、カナダの半導体・IoTシステムなどを開発・製造・販売するシエラワイヤレス(Sierra Wireless)を15億Cドルで買収した(2023年1月完了)。

グリーンフィールド投資では、ドイツ自動車生産大手のフォルクスワーゲングループ傘下でバッテリー製造のパワーコ(PowerCo)が、オンタリオ州に70億Cドルを投資し、バッテリーセルの生産工場を建設すると2023年12月に発表した。また、スウェーデンのリチウム電池メーカーのノースボルト(Northvolt)が、ケベック州に70億Cドルを投資してリチウムイオンバッテリーの大規模生産工場を建設すると2023年9月に発表した。

対外直接投資は米国向けで大幅増加、貿易・輸送分野で大幅増

2023年の対外直接投資は前年比11.9%増の1,209億Cドルだった。米国向けは51.0%増で743億Cドルだった。M&Aが3.4倍(495億Cドル)と大幅に増加した。再投資収益は、5.5%減の291億Cドルだった。米国以外は、20.7%減の466億Cドルだった。M&Aが30.0%減の89億Cドルと押し下げた。業種別では、エネルギー・鉱業が31.5%減の150億Cドルと大きく落ち込んだ以外は軒並み伸びており、製造業は24.3%増の95億Cドル、貿易・輸送は2022年の3.3倍の113億Cドルだった。

対外直接投資残高は、前年比6.8%増の2兆1,713億Cドルだった。全体の構成比で大半を占める北米は6.9%増で、米国が6.3%増だった。次いで構成比の大きい欧州は8.2%増で、域内の国別構成比で最大の英国が14.2%増、続くルクセンブルクは0.3%減となるも、オランダが8.1%増と押し上げに寄与した。アジア大洋州は香港の48.5%増、オーストラリアの5.7%増などにより、12.1%増だった。中南米・カリブ諸国は3.4%増だった。

2023年以降に実施または発表された対外直接投資の大型案件としては、カナダの産業機械オークション企業のリッチー・ブラザーズ・オークショニアーズ(Ritchie Bros. Auctioneers)が、米国の中古車デジタル・マーケットプレイスのアイ・エー・エー(IAA)を103億Cドルで買収した案件がある(2023年3月完了)。また、カナダで石油・ガスの開発・生産を行うベイテックス・エナジー(Baytex Energy)は、米国のレンジャー・オイル(Ranger Oil)を29億Cドルで買収した(2023年6月完了)。ベイテックス・エナジーは米国テキサス州のイーグルフォードでの石油・ガス開発に注力するとしている。カナダ大手自動車部品メーカーのマグナ・インターナショナル(Magna International)はスウェーデンの自動車部品製造企業ビオニア(Veoneer)のアクティブ・セーフティー事業を20億Cドルで買収した。

電気自動車(EV)関連の投資も進んでおり、カナダのオンタリオ州投資管理公社(IMCO)はスウェーデンのバッテリー生産企業のノースボルトに対し、2023年6月に5億6,000万Cドルの投資を行った。また、2023年8月には欧州と北米での事業拡大のため、IMCO、カナダ年金制度投資委員会(CPPIB)など北米の投資家が、16億Cドルを同社に投資した。同社はケベック州にリチウムイオン電池のギガファクトリーを設立すると発表しており、2023年11月にもカナダの投資企業を含む数社が1億Cドルの投資を行っている。

グリーンフィールド投資では、カナダの水素製造企業のアンプ・エナジー(Amp Energy)が、オーストラリア南部でグリーン水素を生成する権利を取得し、131億Cドルを投資して開発を行うとしている(2023年4月完了)。また、カナダのクリーンエナジー企業のパターン・エナジー(Pattern Energy)は、子会社のスンジア(SunZia)を通じ、40億Cドルを米国ニューメキシコ州中部とアリゾナ州中南部に投資し、送電網を構築すると発表した(2023年9月発表)。

表4 カナダの対内・対外直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万カナダ・ドル、%)(△はマイナス値)
国・投資形態別
業種別
対内直接投資 対外直接投資
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 伸び率 金額 金額 伸び率
国別 米国 M&A 5,624 13,558 141.1 14,501 49,594 242.0
再投資収益 16,685 16,376 △ 1.9 30,823 29,119 △ 5.5
その他投資 3,981 9,236 132.0 3,867 △ 4,429
26,291 39,170 49.0 49,191 74,283 51.0
米国以外 M&A 13,569 8,602 △ 36.6 12,699 8,889 △ 30.0
再投資収益 24,662 12,233 △ 50.4 37,129 41,992 13.1
その他投資 △ 4,424 7,928 9,027 △ 4,237
33,808 28,764 △ 14.9 58,853 46,646 △ 20.7
業種別 エネルギー・鉱業 13,568 7,490 △ 44.8 21,963 15,051 △ 31.5
製造業 11,888 23,490 97.6 7,659 9,522 24.3
貿易・輸送 8,201 8,406 2.5 3,400 11,278 231.7
金融・保険 8,178 5,468 △ 33.1 46,985 51,142 8.8
持株会社 14,221 7,581 △ 46.7 20,415 21,464 5.1
その他 4,040 15,496 283.6 7,624 12,471 63.6
合計 60,099 67,933 13.0 108,045 120,929 11.9

〔出所〕 カナダ統計局

表5 カナダの主要国・地域別対内・対外直接投資残高(国際収支ベース、ストック)(単位:100万カナダ・ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 対内直接投資残高 対外直接投資残高
2022年末 2023年末 2022年末 2023年末
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
北米 585,714 621,336 45.7 6.1 1,046,693 1,118,498 51.5 6.9
階層レベル2の項目米国 582,744 618,238 45.4 6.1 1,014,363 1,078,075 49.7 6.3
階層レベル2の項目メキシコ 2,970 3,098 0.2 4.3 32,330 40,424 1.9 25.0
中南米・カリブ諸国 38,343 40,797 3.0 6.4 398,996 412,719 19.0 3.4
階層レベル2の項目バミューダ 17,425 16,862 1.2 △ 3.2 131,629 135,829 6.3 3.2
階層レベル2の項目ブラジル 4,771 6,228 0.5 30.5 21,090 25,336 1.2 20.1
階層レベル2の項目ケイマン諸島 6,112 6,116 0.4 0.1 58,631 60,189 2.8 2.7
欧州 461,946 466,520 34.3 1.0 424,641 459,486 21.2 8.2
階層レベル2の項目オランダ 167,306 172,943 12.7 3.4 75,903 82,082 3.8 8.1
階層レベル2の項目英国 100,960 106,630 7.8 5.6 106,322 121,420 5.6 14.2
階層レベル2の項目ルクセンブルク 69,424 70,929 5.2 2.2 92,869 92,600 4.3 △ 0.3
階層レベル2の項目スイス 35,806 35,840 2.6 0.1 12,296 14,877 0.7 21.0
階層レベル2の項目ドイツ 21,881 24,287 1.8 11.0 12,111 14,512 0.7 19.8
階層レベル2の項目スウェーデン 6,733 7,656 0.6 13.7 8,814 8,548 0.4 △ 3.0
階層レベル2の項目ノルウェー 9,646 7,293 0.5 △ 24.4 1,091 1,585 0.1 45.3
アジア大洋州 134,244 143,073 10.5 6.6 146,865 164,628 7.6 12.1
階層レベル2の項目日本 33,234 36,708 2.7 10.5 4,615 4,123 0.2 △ 10.7
階層レベル2の項目香港 32,518 32,766 2.4 0.8 26,754 39,743 1.8 48.5
階層レベル2の項目オーストラリア 25,611 27,221 2.0 6.3 55,116 58,285 2.7 5.7
階層レベル2の項目中国 25,480 24,871 1.8 △ 2.4 14,232 14,931 0.7 4.9
階層レベル2の項目韓国 7,856 8,178 0.6 4.1 2,337 2,242 0.1 △ 4.1
階層レベル2の項目シンガポール 3,676 7,904 0.6 115.0 18,173 18,008 0.8 △ 0.9
中東 17,064 17,858 1.3 4.7 1,761 2,786 0.1 58.2
階層レベル2の項目UAE 6,913 7,425 0.5 7.4 95 228 0.0 140.0
階層レベル2の項目イスラエル 4,199 4,535 0.3 8.0 1,626 1,495 0.1 △ 8.1
アフリカ 389 939 0.1 141.4 14,253 14,254 0.7 0.0
世界 1,307,874 1,360,269 100 4.0 2,032,530 2,171,289 100 6.8

〔注〕中南米地域の分類はカナダ統計局、中東地域の分類は日本外務省に基づく。
〔出所〕カナダ統計局

対日関係 
輸出は主力製品が減少傾向、輸入は自動車関連製品が大きく増加

2023年の対日貿易は、輸出が前年比12.3%減の156億Cドル、輸入は20.8%増の207億Cドルだった。これにより、対日貿易収支は51億Cドルの赤字となった。

輸出では、医薬品(30類、構成比6.1%)が44.5%増で引き上げに寄与したものの、最大の輸出品目である鉱物性燃料(27類、構成比31.8%)が12.7%減の49億Cドルとなったことが、マイナスに最も寄与した。また、品目別輸出額3位の種子など(12類、構成比8.8%)のうち菜種(1205項、9億Cドル)が36.4.%減となったことや、木材・木炭(44類、構成比6.1%)のうち木材(4407項)が48.8%減となったことも押し下げ要因となった。

輸入では、自動車・同部品等(87類、構成比42.9%)が55.4%増となり、押し上げに最も寄与した。また、金(7108項)の輸入が2.3倍、プラチナの輸入が11.3倍となったことも増加要因となった。一方、医薬品(構成比1.1%)は32.9%減、ゴム製品(40類、構成比3.0%)は新品タイヤが15.7%減となり、マイナスに寄与した。

表6 カナダの対日主要品目別輸出入[通関ベース](単位:100万カナダ・ドル、%)(△はマイナス値)
品目 (HSコード、2桁) 輸出(FOB) 輸入(FOB)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性生産品 (25-27) 8,124 7,391 47.5 △ 9.0 88 236 1.1 169.6
動物性および植物性生産品 (01-14) 5,052 4,122 26.5 △ 18.4 72 77 0.4 7.2
化学工業生産品 (28-38) 942 1,188 7.6 26.1 906 728 3.5 △ 19.7
木材など (44-46) 1,417 947 6.1 △ 33.1 2 2 0.0 △ 3.2
卑金属 (72-83) 583 396 2.5 △ 32.1 947 958 4.6 1.1
一般機械 (84) 248 256 1.6 3.3 4,647 4,778 23.1 2.8
精密機器など (90-92) 232 253 1.6 9.1 844 768 3.7 △ 9.0
パルプなど (47-49) 378 234 1.5 △ 38.1 37 33 0.2 △ 11.1
食料品、飲料など (16-24) 231 216 1.4 △ 6.6 127 124 0.6 △ 1.8
電気機器 (85) 171 175 1.1 2.2 1,954 1,994 9.7 2.1
航空機・同部品 (88) 49 81 0.5 65.4 121 132 0.6 9.7
自動車・同部品等 (87) 44 52 0.3 18.3 5,711 8,873 42.9 55.4
繊維および関連製品 (50-63) 39 40 0.3 1.4 82 88 0.4 6.9
プラスチック・ゴム (39、40) 52 38 0.2 △ 26.6 875 772 3.7 △ 11.9
家具・玩具など (94-96) 19 18 0.1 △ 7.2 175 198 1.0 12.7
その他 (上記以外) 170 153 1.0 △ 9.5 515 899 4.4 74.6
合計 17,751 15,559 100.0 △ 12.3 17,102 20,660 100.0 20.8

〔注〕輸出は再輸出を除いた数値。
〔出所〕カナダ統計局

カナダの対日投資残高は前年比2倍超

カナダの2023年末の日本からの対内投資残高は、前年比10.5%増の367億Cドルだった。2023年は特に鉱物分野への投資が相次いでいる。日本製鉄は、カーボンニュートラル推進に向け同社が不可欠とする高品質製鉄用原料炭の安定調達に向け、同サプライヤーのカナダのテック・リソーシズ(Teck Resources)から分離したエルク・バレー・リソーシズ(Elk Valley Resources)に1,150万Cドル出資した(2023年2月発表)。三菱マテリアルは、カナダのウェスタン・カッパー・アンド・ゴールド(WRN)に2,100万Cドルを投じ資本参加した。同社はWRNが保有する銅鉱山プロジェクトを進めるとしている(2023年3月発表)。三菱商事は、カナダのマリマカ・カッパー(Marimaca Copper)が保有するチリのマリマカ銅鉱山プロジェクトに新規参画するため、同社の新株の約5%を2,000万Cドルで取得した(2023年6月発表)。住友金属鉱山はカナダのナノワンマテリアルズ(Nano One Materials)に1,690万Cドル出資し、電池正極材の製造技術の共同開発をはじめとして、協業の実施に合意した。鉱物分野以外では、KDDIがカナダでのデータセンター事業拡大のため、アライド・プロパティーズ・リート(Allied Properties REIT)と13億Cドルでデータセンターの事業譲渡契約を締結した。またファインケミカル製造のDICは、半導体関連事業強化に向け、カナダで半導体フォトレジストポリマーの製造・販売を手掛けるPCASカナダ(所在地:ケベック州)の全株式をPCAS(本社:フランス)から取得した(2023年6月完了)。そのほか、ベネッセはリスキリングサービスや、労働市場情報を提供しているスカイハイブ・テクノロジーズ(SkyHive Technologies)と資本業務提携を行った。

カナダの日本への対外投資残高は、前年比10.7%減の41億Cドルだった。グリーンフィールド投資では、事業用不動産業のコリアーズ・インターナショナル(Colliers International)が東京に2,800万Cドルを投資(2023年11月完了)、カナダの食品関連企業のバイオリジナル(Bioriginal)は2,547万Cドルを投じ、横浜に支社を設置した(2023年10月完了)。カナダの半導体企業テンストレント(Tenstorrent)は、日本で急速に拡大するAI市場に対応するため566万Cドルを投資し、日本支社を設立した(2023年1月完了)。

基礎的経済指標

人口
3,957万人(2023年4月推計)
面積
998万4,670平方キロメートル
1人当たりGDP
5万4,966米ドル(2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △ 5.1 5.0 3.4
消費者物価上昇率 (%) 0.7 3.4 6.8
失業率 (%) 9.7 7.5 5.3
貿易収支 (100万カナダ・ドル) △ 40,257 4,695 21,885
経常収支 (100万カナダ・ドル) △ 47,578 △ 6,749 △ 9,105
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 90,428 106,615 106,952
対外債務残高(グロス) (100万カナダ・ドル) 5,525,937 6,259,828 6,575,004
為替レート (1米ドルにつき、カナダ・ドル、期中平均) 1.34 1.25 1.30

注:
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所:
人口、面積、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):カナダ統計局
1人当たりGDP:世界銀行
外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF