カナダの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2024年のカナダの実質GDP成長率は1.5%で、2023年から横ばい。
  • 2024年はインド太平洋諸国との通商関係発展に取り組んだ。2025年上半期は米国トランプ政権の関税政策への対応が中心。
  • 輸出はパイプライン拡張に伴う原油輸出量の増加により、前年比1.3%増。
  • 直接投資は対内外とも米国関連以外の増加が目立つ。

公開日:2025年10月21日

マクロ経済 
前年から横ばいも年間を通してプラス成長、個人消費が下支え

2024年のカナダの実質GDP成長率は1.5%で、2023年から横ばいだった。実質GDP成長率の推移を四半期ベースでみると、第1四半期は前期比年率1.8%、第2四半期は2.8%、第3四半期は2.2%、第4四半期は2.6%と全期を通じて堅調に推移した。

支出項目を前年比でみると、GDPの5割強を占める家計最終消費支出が前年比2.4%増(寄与度1.3ポイント)と、2023年の1.8%増から拡大し、最も押し上げに寄与した。近年の深刻な住宅不足を背景とした、連邦政府による積極的な住宅建設支援により、住宅投資は前年の8.5%減から1.1%減(寄与度マイナス0.1ポイント)と落ち込みは弱まったが、低迷が続く。一方、最大の押し下げ要因は、1.9%減(寄与度マイナス0.2ポイント)となった非住宅構築物や設備投資の減少だった。

そのほか貿易収支(財・サービス)は、輸出と輸入がともに0.6%増加したが、17年連続の貿易赤字となった。インフレ率の指標となる消費者物価指数は前年比2.4%の上昇と、2023年(3.9%)より鈍化した。主に財の価格上昇の弱まりが要因で、新型コロナウイルス禍の2021年以降で最も低い値となった。

表1 カナダの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年 2024年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 4.2 1.5 1.5 1.8 2.8 2.2 2.6
階層レベル2の項目家計最終消費支出 5.5 1.8 2.4 3.6 1.0 4.2 5.6
階層レベル2の項目政府最終消費支出 3.2 2.2 3.2 5.5 3.9 5.4 1.4
階層レベル2の項目民間総固定資本形成 △ 1.5 △ 2.8 △ 1.3 △ 2.7 2.5 △ 1.9 10.7
階層レベル3の項目住宅投資 △ 10.6 △ 8.5 △ 1.1 △ 7.5 △ 8.3 6.4 16.7
階層レベル3の項目非住宅・設備投資 6.4 1.0 △ 1.9 1.3 13.0 △ 10.5 8.0
階層レベル2の項目財・サービスの輸出 4.2 5.0 0.6 1.3 △ 6.9 △ 0.8 7.4
階層レベル2の項目財・サービスの輸入 7.5 0.3 0.6 0.4 △ 3.1 △ 1.2 5.4

〔注〕季節調整済み、四半期の伸び率は前期比年率。
〔出所〕カナダ統計局

貿易 
輸出は原油が大幅増、パイプライン拡張がプラス要因に

2024年のカナダの財貿易(通関ベース)は、輸出は前年比1.3%増の7,211億カナダ・ドル(以下、Cドル)、輸入は1.5%増の7,657億Cドルだった。貿易収支は446億Cドルの赤字で、赤字額は前年(421億Cドル)よりわずかに拡大した。

財輸出を品目別にみると、構成比最大の鉱物性生産品(HSコード25~27類、構成比30.2%)は3.4%増と、前年より回復した。エネルギー製品の年間価格は前年より3.5%下落したが、原油(2709項)は年間輸出量が過去最高を更新し、輸出額は9.7%増の147億Cドルで押し上げに貢献した。カナダ政府は、アルバータ州と太平洋に輸出港を持つブリティッシュコロンビア(BC)州を結ぶオイルサンド輸送用の「トランスマウンテン・パイプライン」の複線化が完了したことが、アジアや米国西海岸地域への輸出量の増加に寄与したとしている。

また、前年に続いて金(7108項)の輸出額は過去最高を記録し、前年比37.4%増の376億Cドルとなった。背景として、主要国の中央銀行で相次いだ金利の引き下げで金の資産価値が相対的に上昇したこと、ウクライナ紛争や不安定な中東情勢に起因する地政学リスクの増加に伴い、安全資産としての金の需要増が挙げられる。

一方、自動車・同部品など(87類、構成比10.4%)は8.2%減の750億Cドルと最大の押し下げ要因となった。乗用車(8703項)の輸出台数(114万台)が前年と比べて22万台以上減少し、輸出額は16.2%減の414億Cドルで、自動車・同部品などの輸出減少につながった。カナダ政府の発表によると、自動車需要の減退や世界経済の不確実性、さらに電気自動車(EV)生産拡充に向けた設備転換に伴う国内工場の一時閉鎖が生産台数減少の一因となったとしている。

自動車・同部品などとは対照的に、航空機・同部品(88類、構成比2.4%)は、全体の底上げに貢献し、14.1%増の172億Cドルとなった。航空機への旺盛な需要が、関連部品を含めた輸出の増大をもたらした。

そのほかでは、食料品、飲料など(16~24類、構成比4.6%)は、チョコレート(1806項)やパン(1905項)の伸びが影響し、9.9%増の332億Cドルだった。一方で、一般機械(84類、構成比6.6%)は、ピストン式火花点火内燃機関(8407項)や整地または耕作用の農業・園芸・林業機械など(8432類)が押し下げ要因となり、2.8%減の479億Cドルだった。

表2 カナダの主要品目別輸出入[通関ベース](単位:100万カナダ・ドル、%)(△はマイナス値)
品目 (HSコード、2桁) 輸出(FOB) 輸入(FOB)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性生産品 (25-27) 210,419 217,533 30.2 3.4 58,664 55,886 7.3 △ 4.7
自動車・同部品など (87) 81,714 75,029 10.4 △ 8.2 124,290 124,668 16.3 0.3
動物性および植物性生産品 (01-14) 59,588 59,195 8.2 △ 0.7 30,400 32,672 4.3 7.5
卑金属 (72-83) 55,746 54,239 7.5 △ 2.7 50,272 50,386 6.6 0.2
一般機械 (84) 49,276 47,879 6.6 △ 2.8 113,677 114,552 15.0 0.8
化学工業生産品 (28-38) 50,039 46,322 6.4 △ 7.4 73,539 75,977 9.9 3.3
食料品、飲料など (16-24) 30,216 33,201 4.6 9.9 35,187 38,245 5.0 8.7
プラスチック・ゴム (39、40) 24,644 26,021 3.6 5.6 35,442 36,527 4.8 3.1
パルプなど (47-49) 19,207 19,720 2.7 2.7 12,487 13,253 1.7 6.1
電気機器 (85) 17,116 18,928 2.6 10.6 71,676 71,790 9.4 0.2
木材など (44-46) 17,967 18,415 2.6 2.5 4,717 4,795 0.6 1.7
航空機・同部品 (88) 15,086 17,213 2.4 14.1 12,168 12,289 1.6 1.0
精密機器など (90-92) 9,824 10,051 1.4 2.3 21,586 22,849 3.0 5.9
家具・玩具など (94-96) 10,041 9,885 1.4 △ 1.5 22,124 22,383 2.9 1.2
繊維および関連製品 (50-63) 3,109 3,091 0.4 △ 0.6 21,049 21,368 2.8 1.5
その他 (上記以外) 58,046 64,382 8.9 10.9 66,858 68,020 8.9 1.7
合計 712,038 721,107 100.0 1.3 754,137 765,663 100.0 1.5

〔注〕輸出は再輸出を除いた数値。
〔出所〕カナダ統計局

財輸出を国・地域別にみると、2024年は主要な相手先の多くで、輸出額の減少が見られた。最大の相手先の米国(構成比75.9%、5,474億Cドル)はほぼ横ばい(0.0%減)だった。エネルギー価格下落の影響を受け、天然ガスなど(2711項、26.2%減)の輸出額が減少する一方、輸出量が過去最高を更新した原油(8.0%増)が貢献し、鉱物性燃料(27類、構成比32.6%)は3.1%増の1,782億Cドルで最大の押し上げ要因となった。電気制御盤・配電盤(8537項)も押し上げに寄与したが、自動車・同部品など(構成比12.7%)のうち乗用車が17.2%の大幅減(389億Cドル)となり、全体では横ばいの推移にとどまった。

メキシコ(構成比1.1%、81億Cドル)は、一般機械や鉄鋼(72類)などが増加した。一方、世界的な収穫量の増加に伴う油糧種子の価格下落で、菜種(1205項)や菜種油(1514項)の輸出額が減少し、全体では3.5%減となった。

アジア大洋州(構成比10.2%、738億Cドル)は、原油(75.5倍)、豚肉(0203項、32.7%増)が増加に寄与したものの、肥料(31類、29.2%減)が最大の押し下げ要因となり、全体的には1.4%の減少となった。輸出額2位の中国(構成比4.1%、293億Cドル)も1.7%減と、5年ぶりの減少となった。乾燥豆(0713類、62.8%減)、小麦粉(1001項、21.2%減)が、主な押し下げ要因だった。一方、韓国(構成比1.0%、75億Cドル)は、鉱石(26類、20.6%増)の輸出量増加が全体の輸出額を押し上げ、9.5%増となった。

EU(構成比4.3%、311億Cドル)は1.4%減だった。このうち、同地域最大の輸出先であるオランダ(構成比0.9%、63億Cドル)は、原油(20.8%減)や石炭(2701項、60.0%減)が押し下げ要因となり、8.9%減だった。また、9.6%減となったドイツ(構成比0.8%、57億Cドル)は、放射性元素(2844項)の落ち込みが減少要因となった。英国(構成比3.7%、270億Cドル)は、最大の輸出品目である金(2.6倍)が牽引し、全体で87.8%の大幅な増加となった。

表3 カナダの主要国・地域別輸出入[通関ベース](単位:100万カナダ・ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(FOB)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
CUSMA 556,015 555,469 77.0 △ 0.1 419,886 424,332 55.4 1.1
階層レベル2の項目米国 547,626 547,371 75.9 △ 0.0 373,686 377,004 49.2 0.9
階層レベル2の項目メキシコ 8,389 8,098 1.1 △ 3.5 46,200 47,328 6.2 2.4
アジア大洋州 74,857 73,846 10.2 △ 1.4 174,364 179,514 23.4 3.0
階層レベル2の項目中国 29,802 29,298 4.1 △ 1.7 89,213 88,751 11.6 △ 0.5
階層レベル2の項目日本 15,572 14,790 2.1 △ 5.0 20,696 21,372 2.8 3.3
階層レベル2の項目韓国 6,836 7,486 1.0 9.5 13,903 16,853 2.2 21.2
階層レベル2の項目香港 4,588 3,326 0.5 △ 27.5 404 300 0.0 △ 25.8
階層レベル2の項目台湾 1,879 1,933 0.3 2.8 8,092 7,236 0.9 △ 10.6
階層レベル2の項目ASEAN 7,922 8,653 1.2 9.2 30,288 32,869 4.3 8.5
階層レベル3の項目インドネシア 2,304 2,259 0.3 △ 1.9 2,812 3,229 0.4 14.8
階層レベル3の項目シンガポール 1,371 1,798 0.2 31.1 1,436 1,477 0.2 2.9
階層レベル3の項目フィリピン 1,227 1,345 0.2 9.6 2,169 1,750 0.2 △ 19.3
階層レベル3の項目マレーシア 1,193 1,286 0.2 7.9 3,486 3,866 0.5 10.9
階層レベル3の項目ベトナム 748 980 0.1 31.0 13,265 14,688 1.9 10.7
階層レベル3の項目タイ 1,014 930 0.1 △ 8.2 4,860 5,332 0.7 9.7
階層レベル3の項目その他 66 55 0.0 △ 16.9 2,261 2,528 0.3 11.8
階層レベル2の項目インド 5,006 5,144 0.7 2.7 7,523 8,016 1.0 6.6
階層レベル2の項目オーストラリア 2,855 2,821 0.4 △ 1.2 3,244 2,987 0.4 △ 7.9
階層レベル2の項目ニュージーランド 396 395 0.1 △ 0.4 1,003 1,130 0.1 12.7
EU27カ国 31,516 31,088 4.3 △ 1.4 86,651 86,182 11.3 △ 0.5
階層レベル2の項目オランダ 6,949 6,330 0.9 △ 8.9 4,366 4,593 0.6 5.2
階層レベル2の項目ドイツ 6,304 5,700 0.8 △ 9.6 24,898 23,752 3.1 △ 4.6
階層レベル2の項目フランス 3,786 3,955 0.5 4.5 8,653 9,866 1.3 14.0
階層レベル2の項目ベルギー 3,978 3,709 0.5 △ 6.8 4,788 4,515 0.6 △ 5.7
階層レベル2の項目イタリア 2,584 3,131 0.4 21.2 12,893 12,470 1.6 △ 3.3
階層レベル2の項目スペイン 2,193 1,902 0.3 △ 13.3 3,977 4,144 0.5 4.2
階層レベル2の項目アイルランド 698 852 0.1 22.1 3,303 3,693 0.5 11.8
階層レベル2の項目その他 5,025 5,510 0.8 9.6 23,772 23,150 3.0 △ 2.6
英国 14,373 26,989 3.7 87.8 9,431 9,821 1.3 4.1
スイス 4,680 6,089 0.8 30.1 8,490 8,057 1.1 △ 5.1
ブラジル 3,895 2,292 0.3 △ 41.2 9,189 10,203 1.3 11.0
ノルウェー 2,993 2,238 0.3 △ 25.2 773 897 0.1 15.9
UAE 1,693 2,175 0.3 28.5 808 800 0.1 △ 1.0
ペルー 1,337 1,608 0.2 20.3 4,699 6,146 0.8 30.8
サウジアラビア 1,794 1,587 0.2 △ 11.5 2,143 2,070 0.3 △ 3.4
アルジェリア 1,291 1,354 0.2 4.9 226 206 0.0 △ 8.8
トルコ 1,173 1,184 0.2 0.9 2,847 3,141 0.4 10.3
合計(その他含む) 712,038 721,107 100.0 1.3 754,137 765,663 100.0 1.5

〔注〕 輸出は再輸出を除いた数値。
アジア大洋州は、ASEAN+ 6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔出所〕カナダ統計局

輸入はエネルギーを除いて堅調

財輸入を品目別にみると、鉱物性生産品(25~27類、構成比7.3%)が4.7%減の559億Cドルとなったものの、ほかの主要品目は全てで増加した。食料品、飲料など(16~24類、構成比5.0%)が8.7%増の382億Cドルで輸入増に寄与し、自動車・同部品など(87類)以外の多くの主要品目で減少した前年とは対照的だった。

財輸入を国・地域別にみると、最大の相手先の米国(構成比49.2%、3,770億Cドル)は、一般機械(84類、538億Cドル)が3.7%増、医療用品(30類、83億Cドル)が18.3%増で押し上げに貢献した一方、鉱物性生産品(385億Cドル)は3.8%減となり、全体の増加は0.9%にとどまった。

メキシコ(構成比6.2%、473億Cドル)は、自動車・同部品など(180億Cドル、5.4%増)や野菜(7類、16億Cドル、14.2%増)が牽引し、2.4%増だった。

アジア大洋州(構成比23.4%、1,795億Cドル)は自動車・同部品など(246億Cドル、6.8%増)やプラスチックおよびその製品(39類、573億Cドル、10.8%増)が増加した。同地域で最も押し上げに寄与した国は韓国(構成比2.2%、169億Cドル)で、自動車・同部品など(79億Cドル、17.0%増)や電気機器(85類、21億Cドル、91.2%増)が牽引し、21.2%増となった。他方、輸入額2位の中国(構成比11.6%、888億Cドル)は0.5%の微減だった。

EU(構成比11.3%、862億Cドル)は全体では0.5%減だった。フランス(構成比1.3%、99億Cドル)は 航空機・同部品(88類、20億Cドル) の牽引で増加したものの、ドイツ(構成比3.1%、238億Cドル)は一般機械(59億Cドル、3.5%減)、自動車・同部品など(57億Cドル、4.7%減)が大きな押し下げ要因となり、全体の輸入減につながった。そのほか、英国(構成比1.3%、98億Cドル)は船舶(89類、5億Cドル)が15.5倍、航空機・同部品(10億Cドル)が13.2%増と大きな伸びを見せ、4.1%増だった。

通商政策 
米国バイデン政権の通商政策に対するカナダの対応

2024年における、カナダ最大の貿易相手国である米国との通商上の大きな出来事としては、6月28日に、カナダがデジタルサービス税(DST)を導入したことに対し、米国通商代表部(USTR)が、カナダ・米国・メキシコ協定(CUSMA)に基づく紛争解決協議を要請したことが挙げられる。カナダ政府はDSTを2022年1月1日にさかのぼって適用する方針を示しており、USTRは従前からカナダのDST導入に対して懸念を表明していた。具体的には2024年末まで新たなDST、または類似の措置を課さないことに合意したOECD交渉に参加している140の国・地域に加わるようカナダに求めていたが、カナダがDSTを導入したことから、紛争解決協議に踏み込んだ。

そのほか、前向きな動きとしては5月に開催された第4回CUSMA自由貿易委員会が挙げられる。3カ国は貿易がグローバルな環境課題に対処し、持続可能性に関する共通目標を前進させるための重要な手段であることを合意するとともに、貿易と環境目標の追求において包摂性を優先するとのコミットメントを再確認した。また、貿易の流れに影響を与える特定の緊急事態への対処方法にも合意した。さらに、結社の自由および団体交渉権を含む、CUSMAが定める労働者の権利を支持するとのコミットメントを再確認し、強制労働や労働搾取の撲滅に向けたベストプラクティスの共有などについて議論した。

カナダのトルドー前政権の支持率低下や、米国のバイデン前政権が大統領選挙を控えていたことで、両国とも自国民の支持を失うおそれのある大きな動きを見せなかったことから、2024年11月ごろまで、両国の通商関係は落ち着きを見せていた。そのため、カナダによるDSTの導入以外、両国間で通商を起因とする問題は発生していなかった。

米国トランプ政権の通商政策に対するカナダの対応

2024年11月の米国大統領選挙の結果、ドナルド・トランプ氏が次期大統領に選出され、対米関係は一変した。2025年1月20日に第2次トランプ政権が発足して以降、米国がカナダ原産品に対して追加関税を課し、カナダも3つの報復措置を講じた。

まず、トランプ大統領は2月1日、カナダ・メキシコから米国に流入する不法移民と違法薬物フェンタニルを阻止する努力が不十分であるとして、国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に、2月4日から両国の原産品に一律25%の関税を課すと発表した。カナダはこのIEEPA関税にすぐさま反応し、2月4日から発動するとして、米国から輸入する300億Cドル相当の米国原産品への報復関税を発表した。また、本報復関税の発表に併せて、米国がさらに関税を課した際の報復措置の用意として、1,250億Cドル相当の品目を公開し、それら品目に対するパブリックコメントを集めた。このIEEPA関税はトランプ大統領およびトルドー前首相による電話会談を経て30日間の延期となり、カナダも報復関税を停止した。しかし、1カ月の協議期間で決着がつくことはなく、3月4日から、本IEEPA関税は発動することとなり、カナダも300億Cドル相当の報復関税を賦課した。これが最初の報復措置である。

また、トランプ政権は2月10日に、1962年通商拡大法232条に基づいて鉄鋼とアルミニウムに課している追加関税について、鉄鋼製品は25%に据え置きつつ、3月12日からアルミ製品を10%から25%に引き上げるほか、例外措置の廃止、232条関税の対象製品の追加および今後も新たに追加するためのプロセスの創設などを規定した大統領布告を発表した。この追加関税の拡大措置が3月12日に開始したことを受け、カナダはすぐさま対抗措置を発表した。同日に米国からの総額298億Cドルの輸入品への25%の追加関税賦課を発表し、北米東部時間3月13日午前0時01分から施行した。対象となったのは米国からの126億Cドル相当の鉄鋼製品、30億Cドル相当のアルミ製品に加え、宝石やビデオゲーム機、ゴルフクラブなど総額142億Cドル相当の新たな品目だ。本報復関税は、米国がカナダに対する鉄鋼・アルミ関税を撤廃するまで継続する予定で、3月4日から継続中の報復関税に加えて施行された。これが2番目の報復措置だ。

3番目の報復措置は、4月3日に同じく232条に基づき発動された自動車関税に対抗するものである。これは、米国から輸入する自動車に対して25%の追加関税を賦課する。この措置は、CUSMAに準拠していない完成車とCUSMA準拠の完成車で使用されたカナダ産とメキシコ産以外の自動車部品が対象で、米国からのこれら製品の輸入に対して、25%の追加関税を賦課するものだ。この報復措置による税収は20億Cドルと推定されている。カナダのマーク・カーニー首相は、これらの措置の発動は不本意であるものの、米国に最大限の影響を与えつつ、カナダへの影響は最小限となるように意図したとしている。

米国がカナダに対する追加関税を表明した時点で、カナダのオンタリオ州やBC州など一部の州は、米国産アルコール類などの販売禁止の措置を発表した。カナダは米国同様、他国との貿易に関税を設定する権限を持つのは連邦政府のみであるため、州政府は関税を課すことはできない。しかし、各州におけるアルコール販売は専売公社が担うため、一部の州政府は専売公社を通じて米国産アルコール類などの販売を禁止する措置を発表し、事実上の輸入規制を行っている。一方、産油州であり、米国とのかかわりが強いアルバータ州のダニエル・スミス首相は、米国のカナダに対する複数の関税措置が展開される中でも、米国に対する報復関税に反対を表明している。

インド太平洋諸国との通商関係の進展

米国以外との通商関係に関して、カナダは2022年11月から進めているインド太平洋戦略において、2024年に2つの大きな成果を上げたとしている。

1つ目は、メアリー・エング輸出振興・国際貿易・経済開発相(当時)は2024年12月4~6日、フィリピンへの貿易・投資促進ミッションの派遣を自ら主導し、二国間の産業機会の創出に取り組んだ。そのミッションの中で、フィリピンの首都マニラにカナダ輸出開発公社の新オフィスを開設すると発表した。さらに、カナダとフィリピンで自由貿易協定(FTA)を締結した場合、二国間の貿易と投資に対する障壁がさらに撤廃されると同時に、開放的で公正、包括的、かつルールに基づく貿易システムをさらに支援する可能性があるとして、フィリピンとのFTAに関する予備的交渉を開始した。

2つ目は、カナダとインドネシア間で、包括的経済連携協定(CEPA)が結ばれたことだ。2024年12月2日に、エング輸出振興・国際貿易・経済開発相とインドネシアのブディ・サントソ商業相は、CEPAの交渉妥結に関する共同声明文に署名した。CEPAの規定分野は、物品貿易や原産地規則、原産地手続きのほか、サービス貿易、知的財産、政府調達など全部で20以上に及ぶ。重要鉱物とSPSの優先課題に関しては、二国間対話の章を設けた。中でも重要鉱物に関する二国間対話では、鉱業・精練部門の高い環境・社会・ガバナンス(ESG)基準を支援するための法的・政策的枠組み、環境影響評価、鉱山閉鎖手続き、温室効果ガス(GHG)排出量の削減に関連するベストプラクティスの共有を含む情報交換を促進するとした。

カナダはこのように積極的な貿易外交を行った反面、保護主義的な措置も採っており、10月1日から中国で製造されたEVに対し、100%の関税を課すことを発表した。これは米国やEUの動きに追随するかたちとなっている。この発表に対して中国は9月26日から、カナダが中国に対して実施している関連調査措置について、反差別調査を開始した。2025年3月8日、中国はカナダによる一連の措置は中国の正常な貿易秩序に影響を与え、中国にとって深刻なマイナスの影響をもたらすと判定した。これを受けて、中国は、カナダ産の一部水産物や農産物など対カナダ輸入の5.6%、金額では26億ドル相当の品目に対し、関税措置を講ずると発表した。

日本とは修好95年を祝い、日本の重要性を強調

2024年は日本とカナダが修好関係を構築してから95年となり、カナダは現在の両国関係を「かつてないほど重要なもの」と表現している。その背景には、カナダが目指しているインド太平洋地域におけるプレゼンス強化のため、2022年10月11日に結ばれた「自由で開かれたインド太平洋地域に資する日加アクションプラン」の存在がある。本アクションプランの一環として、2023年には重要鉱物のサプライチェーンの強靭性およびクリーンエネルギーへの移行を目的として、日本の経済産業省、外務省、カナダの産業省、天然資源省および外務貿易開発省がバッテリーサプライチェーンに関する協力覚書を締結した。それに基づいた第1回対話が2024年10月9日にカナダの首都オタワで行われ、カーボンニュートラルおよび経済安全保障の観点も踏まえ、持続可能で信頼性のあるグローバルなバッテリーサプライチェーンを構築するために、協力覚書に基づき両国間の協力を強化していくことを再確認した。

また、カナダは環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)の2024年の議長国であったことから、バンクーバーで開かれた第8回TPP委員会で、カナダ、日本を含む12カ国共同でバンクーバー声明を発表した。同声明では、分断が進み予見可能性が低下する国際貿易環境の中、透明かつ予測可能で、ルールに基づく貿易を支えるハイスタンダードな協定としてのCPTPPの重要性を確認した。同委員会では、英国のCPTPPへの加入を歓迎するとともに、税関当局および貿易円滑化、経済的威圧への対策などについて、議論を深めるとした中間報告書も発表した。また、同委員会の開催に合わせて、エング輸出振興・国際貿易・経済開発相は、日本の瀬戸隆一内閣府副大臣、英国のダグラス・アレクサンダー・ビジネス・貿易省閣外大臣(貿易政策・経済安全保障担当)と会合を行った。

対内・対外直接投資 
対内直接投資はエネルギー・鉱業や製造業で大幅増

2024年の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー。対外も同様)は、前年比36.2%増の855億Cドルだった。米国からは26.2%増で、特に米国からのM&Aが2.3倍の309億Cドルとなった。一方、米国の再投資収益は5.3%減、その他投資は60.7%減と大幅な減少となった。米国以外からは、M&Aが28.6%増、再投資収益が12.4%減となったものの、その他の投資が4倍となり、全体で52.5%増の363億Cドルだった。業種別では明暗が分かれ、エネルギー・鉱業が2.5倍の163億Cドル、製造業が2.4倍の404億Cドルといずれも昨年と比較して2倍を超える投資額を記録した一方、金融・保険は87.4%減の8億Cドル、持株会社は75.0%減の14億Cドルだった。

対内直接投資残高は、前年比5.5%増の1兆5,025億Cドルとなり、全体の45.5%を占める米国が7.1%増だった。次いで構成比の大きい欧州は、オランダ(1.4%増)や、ルクセンブルク(5.6%増)、スイス(25.5%増)などが増加したが、英国(7.6%減)などの減少もあり、欧州全体では2.8%増だった。中南米・カリブ諸国は同地域の構成比最大のバミューダ諸島が5.1%減、同地域の構成比3番目のケイマン諸島が26.7%減で、地域全体は3.7%減だった。アフリカは約6.9倍に増加した。アジア大洋州は12.2%増で、同地域の主要国において増加した。

M&A、グリーンフィールド投資ともに資源系が最大

2024年以降に実施または発表された対内直接投資の大型案件としては、スイスの資源商社グレンコア(Glencore)を中心に、日本製鉄および韓国鉄鋼メーカーのポスコ(POSCO)が、カナダのテック・リソーシズ(Teck Resources)から分離した製鉄用石炭会社エルク・バレー・リソーシス(Elk Valley Resources、EVR)を89億ドルで買収した案件が挙げられる。グレンコアが株式の77%(69億3,000万ドル)、日本製鉄が20%(13億4,000万ドル)、ポスコが3%を既存の株式などとの引き換えで取得した(2024年7月完了)。日本製鉄はEVR株式取得の理由として、自社のカーボンニュートラル目標達成手段の1つである、高炉水素還元方式の活用にあたって、質の高いコークスの原料確保が必要不可欠だったとしている。

米国の大手投資ファンド企業ブラックストーン・グループ(Blackstone Group)は、カナダの不動産企業トライコン(Tricon)を35億ドルで買収した(2024年5月完了)。ブラックストーンはこの買収で、トライコンが米国において保有する10億ドル規模の新規単身世帯住宅の開発在庫および、カナダにおける25億ドル規模の新規アパートの開発在庫を取得する。カナダでは連邦政府による積極的な移民計画が実施されており、2023年6月から2024年3月までの1年未満で100万人以上の人口が増加していたが、住宅戸数の逼迫により、住宅需要が高まっていた。

また、米国大手投資ファンドのアドベント・インターナショナル(Advent International)は、子会社のネオン・メープル・パーチェイサー(Neon Maple Purchaser)を通じ、カナダのフィンテック企業ヌヴェイ(Nuvei)を61億Cドルで買収すると発表した(2024年11月完了)。米国の石油・ガス探査会社のコード・エナジー(Chord Energy)は、カナダの同業イナープラス(Enerplus)を37億ドルで買収した(2024年5月完了)。コード・エナジーは本買収を通じて、米国北部からカナダ南部にわたるウィリストン盆地の開発を進める。

グリーンフィールド投資では、英国の産業用ガスおよびエンジニアリング大手のリンデ(Linde)が、サスカチュワン州のパス・トゥー・ゼロ・プロジェクトに20億Cドルを投資し、世界規模のクリーン水素と大気ガスの統合施設を建設、所有、運営すると発表した(2024年8月)。また、再生可能天然ガス(RNG)を製造する米国のテレバ・リニューアブルズ(Terreva Renewables)は、カナダのビレッジ・ファームズ・インターナショナル(Village Farms International)とともにBC州に12億ドルを投資してRNG生産施設の操業開始を発表した(2024年4月)。

対外直接投資は米国以外向けや貿易・輸送分野で大幅増

2024年の対外直接投資は前年比2.0%減の1,235億Cドルだった。米国向けは35.1%減で657億Cドルだった。M&Aが54.2%減の227億Cドルだった。再投資収益は、1.8%増の305億Cドルだった。米国以外は2.3倍の大幅増で578億Cドルだった。M&Aが2.2倍の197億Cドルと全体を押し上げた。業種別では、エネルギー・鉱業が46.4%減の67億Cドルと大きく落ち込んだほか、製造業においても33.1%減、金融・保険も47.8%減と大きく落ち込んだ。反対に、貿易・輸送は昨年度のマイナス26億Cドルから、320億Cドル増へと大きく増加した。

対外直接投資残高は、前年比12.0%増の2兆4,735億Cドルだった。全体の構成比で最大を占める北米は14.6%増で、米国が15.4%増だった。次いで構成比の大きい欧州は13.8%増で、域内の国別構成比で最大の英国が23.4%増、続くルクセンブルクも6.5%増、オランダも0.5%増と主要国は軒並み増加した。アジア大洋州は域内の国・地域別構成比で最大のオーストラリアが4.8%増、続く香港が2.5%増、シンガポールが15.4%増、中国が13.0%増で、地域全体は6.1%増だった。中南米・カリブ諸国は5.7%増だった。

2023年以降に実施または発表された対外直接投資の大型案件としては、カナダの小売大手アリマンタシオン・クシュタール(Alimentation Couche-Tard)が、フランス石油大手トタルエナジーズ(TotalEnergies)が欧州で保有するサービスステーションの一部を約38億ドルで買収した案件がある(2023年3月完了)。また、カナダの老舗百貨店ハドソンズ・ベイ(Hudson’s Bay)は、米国の衣料品企業ニーマン・マーカス・グループ(Neiman Marcus Group、NMG)を約27億ドルで買収し、米国に同社の米国資本を束ねる持株会社のサックス・グローバル(Saks Global)を立ち上げた(2024年12月完了)。カナダの大手投資会社ブルックフィールド(Brookfield)、およびその関連会社はデンマークの電力会社オーステッド(Ørsted A/S)が英国に持つ洋上風力発電所4カ所の株式の一部を約17億ポンドで買収した(2024年12月完了)。

グリーンフィールド投資では、水素製造企業アンプ・エナジー(Amp Energy)が、オーストラリアのケープハーディーで、同国の鉄鉱石採掘企業アイアンロード(Iron Road)との戦略的枠組み協定を延長し、水素およびグリーンアンモニア製造のための大型開発を行うとしている(2024年1月完了)。また、資源開発大手アムパワー(AmmPower)は水素関連企業6社と合同で、エジプト政府と覚書(MoU)を2024年2月に締結した。エジプトを中東・北アフリカ地域のグリーン水素ハブにするべく、スエズ運河経済特区(SCZone)内でのグリーン水素および再生可能エネルギー関連インフラに対し、今後10年間にわたり最大400億ドルの投資を行う。再生可能エネルギー大手ウッドランド・バイオフューエルズ(Woodland Biofuels)は2024年9月、米国ルイジアナ州ローレンスにおいて、カーボンネイティブRNGおよび超グリーン水素プラント建設のため、14億ドルの投資を行うことを発表した。第1段階はカーボンネイティブRNG、第2段階は超グリーン水素を製造する。同社によると、完成すれば世界最大規模のプラントになるという。

表4 カナダの対内・対外直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万カナダ・ドル、%)(△はマイナス値)
国・投資形態別
業種別
対内直接投資 対外直接投資
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 伸び率 金額 金額 伸び率
国別 米国 M&A 13,558 30,899 127.9 49,563 22,688 △ 54.2
再投資収益 15,015 14,215 △ 5.3 29,939 30,479 1.8
その他投資 10,418 4,094 △ 60.7 21,749 12,512 △ 42.5
38,991 49,208 26.2 101,251 65,679 △ 35.1
米国以外 M&A 8,538 10,977 28.6 9,000 19,687 118.7
再投資収益 11,453 10,038 △ 12.4 35,651 36,634 2.8
その他投資 3,822 15,303 300.4 △ 19,890 1,489
23,812 36,320 52.5 24,760 57,810 133.5
業種別 エネルギー・鉱業 6,635 16,345 146.3 12,590 6,745 △ 46.4
製造業 17,141 40,368 135.5 13,744 9,188 △ 33.1
貿易・輸送 8,996 9,455 5.1 △ 2,682 31,968
金融・保険 6,265 787 △ 87.4 65,636 34,236 △ 47.8
持株会社 5,633 1,407 △ 75.0 24,335 25,994 6.8
その他 18,134 17,165 △ 5.3 12,388 15,358 24.0
合計 62,804 85,528 36.2 126,011 123,488 △ 2.0

〔出所〕 カナダ統計局

表5 カナダの主要国・地域別対内・対外直接投資残高(国際収支ベース、ストック)(単位:100万カナダ・ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 対内直接投資残高 対外直接投資残高
2023年末 2024年末 2023年末 2024年末
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
北米 641,340 686,428 45.7 7.0 1,165,378 1,335,662 54.0 14.6
階層レベル2の項目米国 638,718 683,757 45.5 7.1 1,117,359 1,289,335 52.1 15.4
階層レベル2の項目メキシコ 2,623 2,672 0.2 1.9 48,019 46,327 1.9 △ 3.5
中南米・カリブ諸国 47,107 45,346 3.0 △ 3.7 449,858 475,363 19.2 5.7
階層レベル2の項目バミューダ諸島 23,730 22,530 1.5 △ 5.1 135,562 142,375 5.8 5.0
階層レベル2の項目英国領バージン諸島 9,605 9,702 0.6 1.0 16,015 17,964 0.7 12.2
階層レベル2の項目ケイマン諸島 8,924 6,540 0.4 △ 26.7 74,658 87,247 3.5 16.9
欧州 493,935 507,756 33.8 2.8 424,200 482,603 19.5 13.8
階層レベル2の項目オランダ 180,269 182,765 12.2 1.4 80,176 80,599 3.3 0.5
階層レベル2の項目英国 104,955 96,971 6.5 △ 7.6 110,540 136,459 5.5 23.4
階層レベル2の項目ルクセンブルク 63,313 66,872 4.5 5.6 91,168 97,135 3.9 6.5
階層レベル2の項目スイス 39,486 49,548 3.3 25.5 9,516 11,661 0.5 22.5
階層レベル2の項目フランス 28,750 30,845 2.1 7.3 10,853 16,776 0.7 54.6
階層レベル2の項目ドイツ 22,746 24,559 1.6 8.0 11,738 16,185 0.7 37.9
階層レベル2の項目スウェーデン 7,592 8,522 0.6 12.2 9,417 11,524 0.5 22.4
アジア大洋州 151,654 170,212 11.3 12.2 152,457 161,789 6.5 6.1
階層レベル2の項目日本 39,920 41,955 2.8 5.1 4,110 3,845 0.2 △ 6.4
階層レベル2の項目香港 34,824 35,856 2.4 3.0 23,859 24,459 1.0 2.5
階層レベル2の項目中国 25,447 30,787 2.0 21.0 14,719 16,634 0.7 13.0
階層レベル2の項目オーストラリア 26,118 28,599 1.9 9.5 56,139 58,824 2.4 4.8
階層レベル2の項目韓国 9,002 11,326 0.8 25.8 2,461 2,248 0.1 △ 8.7
階層レベル2の項目シンガポール 8,693 8,801 0.6 1.2 19,074 22,004 0.9 15.4
中東 17,851 18,153 1.2 1.7 2,057 2,435 0.1 18.4
階層レベル2の項目UAE 6,507 6,705 0.4 3.0 40 242 0.0 505.0
階層レベル2の項目イスラエル 5,380 5,499 0.4 2.2 1,599 1,731 0.1 8.3
アフリカ 312 2,143 0.1 586.9 11,602 12,338 0.5 6.3
世界 1,424,688 1,502,530 100 5.5 2,208,698 2,473,507 100 12.0

〔注〕中南米地域の分類はカナダ統計局、中東地域の分類は日本外務省に基づく。
〔出所〕カナダ統計局

対日関係 
輸出は主力品目の価格下落が響き減少、輸入は自動車製品が堅調

2024年の対日財貿易は、輸出が前年比5.0%減の148億Cドル、輸入は3.3%増の214億Cドルだった。これにより、対日貿易収支は66億Cドルの赤字となった。

輸出では、食肉(2類、構成比12.2%)が前年比44.1%増だったものの、最大の輸出品目である鉱物性燃料(27類、構成比27.4%)のうち、エネルギー価格下落の影響を受けた石炭(2701項)が32.2%減の25億Cドルとなり、全体の輸出減につながった。また、医療用品(30類、構成比4.9%)のうち医薬品(3004項、7億Cドル)が25.0%減となったことや、油糧種子の価格下落の影響を受けた菜種(1205項)が17.9%減となったことも押し下げ要因となった。

輸入では、最大の輸入品目である自動車・同部品など(87類、構成比46.3%)が11.4%増で、輸入額の押し上げに最も寄与した。また、金(7108項)(94.0%増、11億Cドル)が大きな伸びを見せたことも増加要因となった。一方、一般機械(84類、構成比20.8%)は6.8%減、電気機器(85類、構成比7.8%)は16.6%減となった。

表6 カナダの対日主要品目別輸出入[通関ベース](単位:100万カナダ・ドル、%)(△はマイナス値)
項目 (HSコード、2桁) 輸出(FOB) 輸入(FOB)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性生産品 (25-27) 7,399 6,443 43.6 △ 12.9 237 31 0.1 △ 86.9
動物性および植物性生産品 (01-14) 4,121 4,586 31.0 11.3 77 97 0.5 25.5
化学工業生産品 (28-38) 1,189 952 6.4 △ 19.9 728 794 3.7 9.1
木材など (44-46) 948 848 5.7 △ 10.6 2 3 0.0 39.7
卑金属 (72-83) 396 290 2.0 △ 26.8 956 970 4.5 1.4
食料品、飲料など (16-24) 217 263 1.8 21.6 124 128 0.6 3.6
一般機械 (84) 258 263 1.8 1.8 4,776 4,451 20.8 △ 6.8
精密機器など (90-92) 254 238 1.6 △ 6.0 768 790 3.7 3.0
パルプなど (47-49) 234 231 1.6 △ 1.4 33 43 0.2 31.1
航空機・同部品 (88) 81 205 1.4 154.3 132 134 0.6 1.0
電気機器 (85) 175 169 1.1 △ 3.1 1,994 1,663 7.8 △ 16.6
その他 (上記以外) 153 148 1.0 △ 3.7 938 1,332 6.2 41.9
繊維および関連製品 (50-63) 40 62 0.4 55.4 88 78 0.4 △ 11.9
プラスチック・ゴム (39、40) 39 43 0.3 10.8 772 760 3.6 △ 1.5
自動車・同部品等 (87) 52 28 0.2 △ 46.1 8,873 9,886 46.3 11.4
家具・玩具など (94-96) 18 21 0.1 17.6 198 212 1.0 7.1
合計 15,572 14,790 100.0 △ 5.0 20,696 21,372 100.0 3.3

〔出所〕カナダ統計局

日本からの対カナダ直接投資残高は上昇基調を維持

2024年末の日本からの対カナダ直接投資残高は、前年比5.1%増の420億Cドルだった。2024年は、世界的な電気自動車(EV)への需要増加を背景に、EV生産に使用する鉱物や部品製造に関連する大型投資が目立った。旭化成は15億6,000万Cドルを投じ、オンタリオ州にEV搭載用のリチウムイオン電池用湿式セパレータの製膜・塗工一貫工場を建設すると発表した(2024年5月)。操業開始は2027年で、塗工膜換算で年間約7億平方メートルの生産能力を予定している。三菱商事はオンタリオ州でリチウムの採掘および精製を行うPAKリチウムプロジェクトへの新規参画を発表し、カナダのフロンティアリチウム(Frontier Lithium)が保有する同プロジェクトの権益を引き継ぐ新設会社の株式7.5%を2,500万Cドルで取得した(2024年4月発表)。パナソニックエナジーは、カナダのヌーボー・モンド・グラファイト(Nouveau Monde Graphite)へ2,500万ドルを出資し、ケベック州のマタウィニー鉱山で採掘されるEV用リチウムイオン電池の負極材料である天然黒鉛のオフテイク契約を締結した(2024年2月発表)。

そのほかの分野では、住友商事がカナダのレコンシリエーション・エナジー・トランジション(Reconciliation Energy Transition)と、アルバータ州の二酸化炭素(CO2)回収・貯留(CCS)事業に関する共同開発契約を締結した(2024年5月)。同事業では年間最大1,000万トンのCCSを行うため輸送用パイプラインなどの設備を建設し、同州でCCSを推進するとしている。日本製鉄はカナダのチャンピオン・アイアン(Champion Iron:CI)が保有するニューファンドランド・ラブラドール州のカミスティアチュセット鉱山の権益を1億5,000万Cドルで取得し、CIおよび双日と同鉱山の開発・操業を行う合弁会社の設立について基本合意した(2024年12月発表)。同社は、同鉱山から直接還元鉄の製造に適した鉄鉱石の安定調達を可能とするオフテイク契約も同時に締結している。ニデックはカナダのプレス機周辺装置メーカーのリニア・トランスファー・オートメーション(Linear Transfer Automation)と関連会社2社の株式を取得し、譲渡契約を締結した(2024年10月完了)。マルサンアイは約1,370万Cドルを投じ、カナダのD.J.ヘンドリック・インターナショナル(D.J.Hendrick International)との合弁会社として、オンタリオ州に豆乳パウダーを生産・販売する子会社および工場を設立すると発表した(2024年5月)。

カナダから日本向けの直接投資残高は、6.4%減の38億Cドルだった。グリーンフィールド投資では、廃棄物を利用した再生可能エネルギー製造事業を展開するアナエルジア(Anaergia)が2025年に東京支社の設立を発表した(2024年10月)。また、保険業のブルックフィールド・ウェルス・ソリューションズ(Brookfield Wealth Solutions)は、日本で再保険事業に参入した(2024年10月発表)。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2022年 2023年 2024年
実質GDP成長率 (%) 4.2 1.5 1.5
1人当たりGDP (米ドル) 56,358 54,376 54,473
消費者物価上昇率 (%) 6.8 3.9 2.4
失業率 (%) 5.3 5.4 6.3
貿易収支 (100万カナダ・ドル) 21,196 △ 610 △ 6,865
経常収支 (100万カナダ・ドル) △ 8,667 △ 18,385 △ 15,602
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 106,952 117,551 123,680
対外債務残高(グロス) (100万カナダ・ドル) 6,832,015 7,434,904 8,391,074
為替レート (1米ドルにつき、カナダ・ドル、期中平均) 1.30 1.35 1.37


貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):カナダ統計局
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF