アラブ首長国連邦の貿易投資年報

要旨・ポイント

  • CEPA締結拡大。日本とも交渉を開始。
  • 税制面では国内ミニマム課税(DMTT)導入やドバイの酒税再導入を発表。
  • 空港移転や雨水排水網整備計画など大型プロジェクトが複数発表。
  • 日本は2年連続でUAEからの鉱物性燃料の輸入額減少。対UAE直接投資は大幅に増加。

公開日:2025年9月17日

通商政策 
BRICSへの加盟と日本とのCEPA交渉の開始

アラブ首長国連邦(UAE)は、2024年1月にBRICS(注)に加盟した。全方位外交を展開しているUAEは、従来中国やロシアと良好な関係性を構築しており、BRICSを貿易相手国としても米国と中国の対立と一線を画した有力な国々と見ている。また、インドとは歴史的にも経済的な関わりが深く、2023年のUAEの輸入相手国および非石油部門の輸出相手国としてそれぞれ2位となっている。

(注)
加盟国はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国、UAE、イラン、エジプト、エチオピア、インドネシア(2025年8月末時点)

UAEは2021年に制定した「We the UAE 2031」ビジョンの戦略に基づき、2031年までに同国非石油部門の貿易総額を4兆ディルハム(約156兆円、AED、1AED=約39円)に引き上げ、そのうち非石油部門の輸出額を8,000億AEDに増加させることを目標としている。その一環として、2021年以来、包括的経済連携協定(CEPA)締結の動きが拡大しており、2024年1月にはカンボジアとの間で発効した。これにより、UAEとカンボジア間の貿易における関税品目の92%以上がカバーされ、両国の非石油部門の貿易総額を2030年までに2倍以上の10億ドルまで増加させることを目指している。また、同年6月にはジョージアともCEPAを発効した。両国間の非石油部門の貿易額の90%以上がCEPAの枠組みで取り扱われることになる。これにより、両国間の非石油部門の貿易総額を5年以内に3倍以上の15億ドルに増やす目標を掲げており、2031年までにUAEからジョージアへの輸出額は13億ドルに達するとの見込みだ。さらに、2025年8月末までコスタリカ、モーリシャス、ヨルダン、セルビア、ニュージーランドとのCEPAを発効し、コロンビア、韓国、チリ、ケニア、アンゴラとそれぞれCEPAの署名を行った。2024年9月には日本との交渉も開始し、2025年末までの交渉妥結を目指している。最終的に日本を含む103カ国・地域にCEPAの締結対象を広げ、貿易総額のうち最大95%をカバーすることを目指している。

投資環境・外資誘致政策 
国内ミニマム課税(DMTT)等の導入を発表

UAE財務省は2024年12月に、法人税法の一部を改定し、2025年1月1日から大規模多国籍企業を対象に、15%の国内ミニマム課税(DMTT)を導入すると発表した。DMTTは、OECD加盟国をはじめ、UAEなど136カ国・地域が合意した国際課税の1つで、大規模多国籍企業の各国での利益に対し、最低15%の実効税率を適用するよう規定しており、それに従ったかたちとなる。15%課税の適用対象となるのは、直近4会計年度のうち少なくとも2会計年度において、連結ベースの全世界収益が7億5,000万ユーロ以上である企業と定められている。一方で、法人税の引き上げによる影響を緩和するため、控除・優遇措置も同時に施行すると発表した。研究開発(R&D)に関する税制優遇や高度人材雇用費用への控除が適用される予定だ。

また、ドバイ首長国は2024年12月に、2023年1月1日から期限付き措置として撤廃していた30%の酒税を、2025年1月1日から再度課すと発表した。

インフラ計画や都市計画など大型プロジェクトを推進

ドバイ政府は2024年5月に、現在のドバイ国際空港のすべての業務をドバイ南部のアル・マクトゥーム国際空港へ移管することを発表した。アル・マクトゥーム国際空港は、2005年に開発が始まり、2010年6月に貨物輸送が開業、2013年10月に旅客便の発着を開始した。今後、新旅客ターミナルの設計と工事が開始される。ターミナルの新設によって、同空港は現在のドバイ国際空港の5倍の規模となり、400の航空機ゲートと5本の平行滑走路、年間の受け入れ可能旅客数は最大2億6,000万人という世界最大規模の空港となる。新プロジェクトの第1フェーズは10年以内に準備が整い、年間1億5,000万人の旅客収容が可能となる見込みだ。

さらにインフラ関連では、政府は2024年12月に、2023年に承認されたドバイ・メトロの新路線、ブルーライン計画において建設業者の国際入札を実施し、トルコのMAPAとリマック(LIMAK)および中国の鉄道車両メーカー「中国中車(CRRC)」から成るコンソーシアムが受注したと発表した。受注金額は205億AEDに上る。MAPAとLIMAKは土木工事を監督し、CRRCは鉄道システムを担当する。ブルーラインは全長30キロメートル、そのうち地下が15.5キロメートル、地上部分が14.5キロメートルで、9つの高架駅と5つの地下鉄駅で構成され、2028年から試験運行、2029年に正式に運行開始の予定となっている。

また、2024年4月にUAEを襲った史上最大規模の豪雨で、ドバイは道路の冠水やドバイ国際空港での大幅な減便を与儀なくされるなど、甚大な被害を受けた。その後、豪雨対策としてドバイ政府は、同年6月にドバイ首長国の雨水排水網整備を目的とした「タスリーフ」プロジェクトを承認した。総事業費は300億AEDに上る。本プロジェクトにより、ドバイの雨水排水処理能力は現在の7倍に拡大し、2033年までに工事が段階的に完了する予定だ。

また、2024年7月にはドバイ政府が世界最大かつ最先端の自動車マーケットとなる「ドバイ・カー・マーケット」の開発を発表した。現在の自動車マーケットを8倍に拡大し、2,000万平方フィート(約186万平方メートル)の施設として、世界最大の自動車マーケットとなる予定だ。この計画は、ドバイを拠点とする港湾管理会社ドバイ・ポーツ(DP)ワールドが建設、管理する。ドバイは自動車貿易の中継地として86カ国に430以上の事業所を持つDPワールドのグローバルネットワークを活用し、自動車貿易の再輸出をさらに増加させ、現在の2倍となる136億AEDの売り上げ目標を掲げている。他にも首都アブダビでは2024年に、政府が総額約660億AEDのプロジェクトを承認した。本プロジェクトは、住宅、教育、人的資本、観光、天然資源など、さまざまな分野をカバーするものだが、中には道路拡張工事や橋梁建設など大型インフラ整備プロジェクトも含まれている。

一連の大型プロジェクトの遂行には必要資金の調達が課題となるが、新たなビジネス機会につながるか、進出日系企業もその動向を注視している。

対日関係 
2年連続で日本の原油輸入額減少、対UAE直接投資は大幅増

日本の対UAE貿易について、日本の財務省貿易統計をドル換算したものでみると、2024年の日本からUAEへの輸出額は127億7,600万ドル(前年比22.8%増)、輸入額は369億7,600万ドル(0.1%減)となった。貿易赤字は242億ドル(9.1%減)と輸入額の減少に伴い赤字幅が減少した。輸出では、輸送用機器が37.3%で最大のシェアを占めている構図は長年変わらず、輸出額は47億6,500万ドル(前年比13.3%増)となった。2024年はUAEの好調な経済や観光来訪者数の増加などの影響もあり、国内の旺盛な需要が輸出の伸びを後押しした。輸入は、構成比の96.4%を占める鉱物性燃料が前年比0.4%減、そのうちの85.3%を占める原油および粗油が1.1%減となり輸入総額の減少に影響を与えた。鉱物性燃料の輸入金額は2年連続で減少したことになる。輸入量の減少とともに原油価格下落の影響が反映されたものと考えられる。

表1-1 日本の対UAE主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
輸送用機器 4,207,219 4,764,818 37.3 13.3
階層レベル2の項目自動車 3,644,745 4,154,647 32.5 14.0
一般機械 1,499,978 1,680,747 13.2 12.1
階層レベル2の項目原動機 514,744 543,280 4.3 5.5
原料別製品 930,224 1,091,439 8.5 17.3
階層レベル2の項目鉄鋼 463,201 585,337 4.6 26.4
電気機器 336,182 522,776 4.1 55.5
合計(その他含む) 10,403,766 12,775,984 100.0 22.8

〔出所〕 財務省貿易統計「貿易統計(通関ベース)」から作成

表1-2 日本の対UAE主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料 35,810,457 35,661,427 96.4 △ 0.4
階層レベル2の項目原油および粗油 31,894,156 31,554,422 85.3 △ 1.1
階層レベル2の項目石油製品 3,189,099 3,471,720 9.4 8.9
階層レベル3の項目揮発油 3,188,724 3,471,524 9.4 8.9
階層レベル3の項目液化天然ガス 655,465 633,128 1.7 △ 3.4
階層レベル3の項目液化石油ガス 71,726 2,155 0.0 △ 97.0
原料別製品 898,341 985,193 2.7 9.7
階層レベル2の項目非鉄金属 894,282 977,426 2.6 9.3
合計(その他含む) 37,024,567 36,976,407 100.0 △ 0.1

〔出所〕 財務省貿易統計「貿易統計(通関ベース)」から作成

日本銀行の国別・業種別対外・対内直接投資統計(ネット、フロー)によると、2024年の日本からUAEへの直接投資額は1,451億円で前年から484億円増加した。産業分野別でみると、鉱業が最大で648億円、次いで卸売・小売業が535億円であった。UAEから日本への直接投資額は7億円の引き揚げ超過だった。

日本の外務省の海外進出日系企業拠点数調査によると、2024年10月時点のUAE進出日系企業の拠点数は343拠点と中東地域では引き続き最大である。UAEの中継貿易地の機能を活かして広域的な物流・営業・サービス拠点を置く企業も多く、前述の2024年の日本の対UAE輸出では、総額の3分の1(33.7%)を再輸出品が占めている。

日系企業のUAE市場でのシェア拡大や宇宙分野の協業に期待

日本企業はUAE市場で、現地市場のニーズ拡大に合わせて、着実にシェアを伸ばしている。ジェトロが2024年9月に中東10カ国に拠点を有する日系企業を対象に実施した「2024年度海外進出日系企業実態調査(中東編)」の結果でも、UAEでの進出日系企業の市場シェアについて、回答企業(有効回答数38社)のうち44.7%が2019年比で「増加」したと回答しており、世界平均(39.3%)より5.4ポイント高い。競争力強化の施策としては「営業・広報の強化」(48.9%)が最多で、「販売チャネルの拡大」(37.8%)、「製品・サービスの開発」(35.6%)、「現地企業との協業・連携」(31.1%)、「製品・サービスの多角化」(31.1%)が続いた。

日本企業の参入機会提供の事例として、2024年12月にアブダビで「日UAE宇宙官民ワークショップ」が開催された。UAEが力を入れる産業分野の1つが宇宙分野だ。同ワークショップは、12月10日から11日の2日間行われた宇宙関連の国際会議「アブダビ・スペース・ディベート」に合わせるかたちで開かれた。日本とUAEの政府系機関の間で、平和目的利用のための宇宙活動に関する協力覚書が2023年に交わされたことを契機に、同分野での協力推進の一環で、UAE宇宙庁、内閣府、経済産業省、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、ジェトロの共催で実施した。UAE宇宙庁やモハメド・ビン・ラシード宇宙センター(MBRSC)をはじめとして、UAEの宇宙関連スタートアップ企業や、宇宙分野の取り組みをしている大学などが参加したほか、日本からは、アイスペース(ispace)、アークエッジ・スペース(ArkEdge Space)、三菱重工業、トヨタ自動車など30社近くが参加した。ワークショップでは「宇宙へのアクセスと持続可能性」、「地球観測とリモートセンシング」、「宇宙探査」、「通信と衛星測位」の4つのテーマに分かれて分科会が開かれ、参加企業や関連機関がそれぞれの取り組みを紹介し、UAE側に技術やサービスを直接アピールする格好の機会ともなった。

2024年の日系企業の主な進出・協業・受注などの事例としては、10月、荏原製作所のエネルギーカンパニーが中東湾岸諸国および周辺国へのサービス需要の高まりに伴って、アブダビのハリーファ経済特区(KEZAD)にコンプレッサ・タービン、カスタムポンプのサービスセンターを新設した。三井物産は7月にアブダビ国営石油会社(ADNOC)が取り組む「ルワイス液化天然ガス(LNG)プロジェクト」に、オランダのMBKインベストメントマネージメントネザーランズ(MBK Investment Management Netherlands B.V.)を通じ出資参画すると発表した。本プロジェクトは、2028年に生産開始を予定しており、総開発費は約55億ドル、年間960万トンの生産能力を持つという。同社は、そのうち5億5,000万ドルを出資し10%の権益を得る。また、8月には大阪ガスがUAEのルワイスプロジェクトで生産されるLNGを調達すると発表した。同社はADNOCとLNG売買に関する主要条件覚書を締結し、年間最大約80万トンのLNGを調達する。日立造船と丸紅は3月、アブダビで廃棄物発電設備の建設および事業運営を発表した。年間90万トンの一般廃棄物処理能力および80MWの発電能力を有する施設を建設し、さらに30年間の保守・運転と売電も行う。商船三井は6月、ドバイの倉庫事業大手インドゥ・キショーレ・ロジスティック(INDU KISHORE LOGISTIC:INDU)との間で、物流合弁企業を設立することを発表した。合弁物流会社は、中東最大の港湾ジュベル・アリ港が立地するジュベル・アリ・フリーゾーン(JAFZA)に立地する。INDUはドバイの有力な大手倉庫事業者で、約14万平方メートルを超える自前の倉庫を保有している。商船三井はこの協働を通じて、中東地域で従来の船舶関連事業にとどまらず、倉庫や陸送を含む総合物流事業の強化を図る狙いだ。2025年2月には、東海光学がシャルジャ空港国際フリーゾーン(SAIFゾーン)に眼鏡レンズ工場を設立して操業を開始した。日量2,000枚以上のレンズを生産する予定である。