英国の貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2024年の実質GDP成長率は政府支出増が寄与して1.1%、下半期は伸び悩む。
  • 貿易は輸出減、輸入増で赤字拡大。対米貿易は輸出入とも小幅な減少。
  • 対内直接投資は減、対外直接投資は大幅増。M&Aは件数・金額とも増加。
  • 日本の対英国直接投資はグリーン関連の投資が継続、スタートアップへの投資案件も。

公開日:2025年7月25日

マクロ経済 
実質GDP成長率は1.1%、政府最終消費支出増が寄与

2024年の実質GDP成長率は1.1%となった。政府最終消費支出の3.0%増が寄与した。内需を牽引する個人消費は0.6%増だった。

四半期別にみると、第1四半期が0.9%と好調だった一方、下半期は第3四半期がゼロ成長、第4四半期が0.1%と伸び悩んだ。

第1四半期は需要項目別では企業投資や政府支出、産業別ではサービス業が伸び、2023年下半期のマイナス成長から転じてプラス成長となった。一方、需要項目別では輸出が、産業別では鉱工業が第2四半期から減速、輸送機器の3四半期連続での減少が響き2024年下半期の低成長につながった。

表1 英国の需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年 2024年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 4.8 0.4 1.1 0.9 0.5 0.0 0.1
階層レベル2の項目民間最終消費支出 7.4 0.5 0.6 0.7 0.0 0.4 0.1
階層レベル2の項目政府最終消費支出 0.6 1.6 3.0 0.7 1.0 0.3 0.5
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 5.1 0.3 1.5 0.8 1.1 1.0 △0.6
階層レベル2の項目財・サービスの輸出 12.6 △0.4 △1.2 0.2 △1.8 △0.1 △1.8
階層レベル2の項目財・サービスの輸入 13.0 △1.2 2.7 △0.4 5.5 △2.8 2.9

〔注〕四半期の伸び率は前期比。
〔出所〕英国国家統計局(ONS) 2025年5月15日改定数値

インフレ率は2024年1月の4.0%から緩やかに低下し、9月には1.7%まで低下した。以降は中古車価格や自動車の燃料価格の上昇などを受け2%半ばとなった。

政策金利については、イングランド銀行(BOE、中央銀行)は2024年8月に0.25ポイント引き下げ5.0%とすることを発表。2020年3月以来、約4年5カ月ぶりの引き下げとなった。11月にも0.25ポイントの引き下げを行い、2024年中の利下げは2回となった。年内最後となる12月のBOEの金融政策委員会(MPC)では10月末の秋季予算で発表された措置や、地政学的な緊張、通商政策の不確実性が経済に与える影響をモニタリングする必要があり、今後の利下げの時期や手段については未定としていたが、2025年に入り、BOEは2月に政策金利を4.75%から4.5%に、次いで5月には4.25%に引き下げることを決定した。

貿易 
貿易赤字は拡大、輸出入ともに機械類・輸送機器類が減少

2024年の貿易は、輸出が前年比5.1%減の4,010億5,500万ポンド、輸入が0.2%増の6,380億5,400万ポンドとなった。貿易収支は2,369億9,900万ポンドの赤字で、赤字幅は前年より225億8,300万ポンド拡大した。

輸出を品目別にみると、最大品目の機械類・輸送機器類(構成比35.8%)は前年比2.6%減だった。内訳をみると、道路走行車両(9.2%)は、乗用車(7.0%)が5.6%減少し、5.2%減となった。続いて、原動機(9.0%)が4.6%減少した。また、有機化学品(1.5%、39.9%減)の減少が響き化学工業製品(13.5%)は8.0%減となった。鉱物性燃料、潤滑油等(6.8%)も27.0%減少した。内訳は、金額ベースで原油・石油製品(5.7%)が23.2%減、ガス(0.9%)が45.3%減である。輸出量ベースでみるとオランダ、フランス向けの原油・石油製品、ベルギー向けのガスが特に大きく減少した。

表2 英国の主要品目別輸出入[通関ベース] (単位:100万ポンド、%)(△はマイナス値)
品目 輸出 輸入
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
機械類・輸送機器類 147,330 143,428 35.8 △ 2.6 224,503 212,962 33.4 △ 5.1
階層レベル2の項目道路走行車両 38,838 36,831 9.2 △ 5.2 71,320 68,422 10.7 △ 4.1
階層レベル2の項目原動機 37,924 36,191 9.0 △ 4.6 29,892 26,611 4.2 △ 11.0
階層レベル2の項目その他の一般用工業用機械など 18,210 17,887 4.5 △ 1.8 22,609 22,582 3.5 △ 0.1
階層レベル2の項目電子・電気機器 14,273 14,575 3.6 2.1 32,481 31,236 4.9 △ 3.8
階層レベル2の項目その他輸送機器 13,497 14,058 3.5 4.2 14,155 12,558 2.0 △ 11.3
階層レベル2の項目産業用機械 10,789 9,754 2.4 △ 9.6 10,472 9,596 1.5 △ 8.4
階層レベル2の項目通信・音響機器 7,765 8,285 2.1 6.7 26,679 24,907 3.9 △ 6.6
未分類のその他製品 69,155 66,613 16.6 △ 3.7 60,382 84,641 13.3 40.2
階層レベル2の項目非貨幣用金 53,278 52,760 13.2 △ 1.0 39,071 60,817 9.5 55.7
化学工業製品 58,843 54,116 13.5 △ 8.0 66,217 63,452 9.9 △ 4.2
階層レベル2の項目医薬品 24,029 23,079 5.8 △ 4.0 22,623 24,007 3.8 6.1
階層レベル2の項目有機化学品 9,885 5,940 1.5 △ 39.9 11,147 7,801 1.2 △ 30.0
階層レベル2の項目その他化学品 6,743 6,411 1.6 △ 4.9 8,228 7,079 1.1 △ 14.0
雑製品 41,997 41,683 10.4 △ 0.7 76,677 75,932 11.9 △ 1.0
階層レベル2の項目その他雑製品 18,655 18,613 4.6 △ 0.2 24,774 25,544 4.0 3.1
階層レベル2の項目専門機器・計測機器・制御機器 13,166 13,085 3.3 △ 0.6 13,339 13,035 2.0 △ 2.3
階層レベル2の項目衣類 3,601 3,176 0.8 △ 11.8 17,226 16,280 2.6 △ 5.5
階層レベル2の項目家具 2,342 2,373 0.6 1.3 7,961 8,183 1.3 2.8
原料別製品 34,103 33,971 8.5 △ 0.4 60,726 60,736 9.5 0.0
鉱物性燃料、潤滑油等 37,506 27,389 6.8 △ 27.0 74,373 63,924 10.0 △ 14.0
階層レベル2の項目原油・石油製品 29,698 22,815 5.7 △ 23.2 49,318 46,537 7.3 △ 5.6
階層レベル2の項目ガス 6,931 3,792 0.9 △ 45.3 20,787 13,620 2.1 △ 34.5
階層レベル2の項目電力 691 564 0.1 △ 18.4 3,153 3,093 0.5 △ 1.9
食料品・動物 15,866 16,229 4.0 2.3 50,833 54,048 8.5 6.3
食用でない原材料(鉱物性燃料除く) 8,589 8,702 2.2 1.3 12,898 12,350 1.9 △ 4.2
飲料・たばこ 8,502 8,244 2.1 △ 3.0 8,109 7,857 1.2 △ 3.1
動物性および植物性油脂とろう 614 680 0.2 10.7 2,200 2,153 0.3 △ 2.2
合計(その他含む) 422,504 401,055 100.0 △ 5.1 636,920 638,054 100.0 0.2

〔注〕通関ベース。ただし、北アイルランドとEUとの貿易は各企業のインボイス報告に基づく。
〔出所〕英国歳入関税庁

輸出を国・地域別にみると、最大の仕向け先の米国(構成比14.1%)は医薬品、有機化学品が不調で、前年比2.2%減となった。一方、2位の中国(9.1%)は非貨幣用金が大幅に伸び、33.1%増となった。EU(43.6%)はドイツをはじめ主要国が減少し、7.6%減となった。品目別にみるとEU向けの原油・石油製品、ガス、有機化学品、道路走行車両が特に大きく減少した。スイス(5.7%)も20.6%減となった。

表3 英国の主要国・地域別輸出入[通関ベース] (単位:100万ポンド、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
欧州 231,991 214,346 53.4 △ 7.6 392,505 382,722 60.0 △ 2.5
階層レベル2の項目EU 189,166 174,793 43.6 △ 7.6 326,123 318,298 49.9 △ 2.4
階層レベル3の項目ユーロ圏 163,366 147,348 36.7 △ 9.8 275,566 267,249 41.9 △ 3.0
階層レベル4の項目ドイツ 32,446 30,539 7.6 △ 5.9 76,300 74,826 11.7 △ 1.9
階層レベル4の項目オランダ 30,044 26,552 6.6 △ 11.6 51,591 47,376 7.4 △ 8.2
階層レベル4の項目アイルランド 27,601 22,943 5.7 △ 16.9 19,074 18,059 2.8 △ 5.3
階層レベル4の項目フランス 23,882 22,557 5.6 △ 5.5 40,083 35,266 5.5 △ 12.0
階層レベル4の項目ベルギー 20,297 16,743 4.2 △ 17.5 28,291 30,711 4.8 8.6
階層レベル4の項目スペイン 9,485 9,314 2.3 △ 1.8 19,421 20,442 3.2 5.3
階層レベル4の項目イタリア 9,848 8,814 2.2 △ 10.5 22,134 22,890 3.6 3.4
階層レベル3の項目非ユーロ圏 19,186 19,313 4.8 0.7 39,683 40,316 6.3 1.6
階層レベル4の項目ポーランド 6,669 6,673 1.7 0.1 13,062 13,327 2.1 2.0
階層レベル4の項目スウェーデン 4,849 5,077 1.3 4.7 8,034 7,771 1.2 △ 3.3
階層レベル2の項目スイス 28,554 22,668 5.7 △ 20.6 12,173 16,940 2.7 39.2
階層レベル2の項目ノルウェー 3,254 3,220 0.8 △ 1.0 26,709 23,500 3.7 △ 12.0
階層レベル2の項目アゼルバイジャン 460 2,996 0.7 552.0 284 76 0.0 △ 73.2
階層レベル2の項目ロシア 654 561 0.1 △ 14.1 68 71 0.0 3.9
階層レベル2の項目カザフスタン 301 331 0.1 9.8 11,460 4,758 0.7 △ 58.5
アジア大洋州 80,820 81,405 20.3 0.7 115,881 117,995 18.5 1.8
階層レベル2の項目中国 27,365 36,418 9.1 33.1 62,221 61,867 9.7 △ 0.6
階層レベル2の項目ASEAN 12,119 11,950 3.0 △ 1.4 15,672 17,033 2.7 8.7
階層レベル3の項目シンガポール 6,054 6,331 1.6 4.6 2,779 3,522 0.6 26.7
階層レベル2の項目香港 12,992 9,336 2.3 △ 28.1 4,789 5,804 0.9 21.2
階層レベル2の項目インド 10,315 6,887 1.7 △ 33.2 9,864 10,060 1.6 2.0
階層レベル2の項目日本 5,569 5,973 1.5 7.3 9,964 8,727 1.4 △ 12.4
北米 65,456 63,366 15.8 △ 3.2 76,261 82,732 13.0 8.5
階層レベル2の項目米国 57,709 56,454 14.1 △ 2.2 63,309 62,239 9.8 △ 1.7
階層レベル2の項目カナダ 6,149 5,324 1.3 △ 13.4 10,599 18,077 2.8 70.6
中東および北アフリカ 22,635 23,486 5.9 3.8 19,134 17,565 2.8 △ 8.2
階層レベル2の項目アラブ首長国連邦 7,395 9,656 2.4 30.6 3,144 3,699 0.6 17.6
階層レベル2の項目トルコ 6,484 6,156 1.5 △ 5.1 11,889 13,635 2.1 14.7
階層レベル2の項目サウジアラビア 4,510 4,115 1.0 △ 8.8 2,748 1,668 0.3 △ 39.3
階層レベル2の項目カタール 3,643 2,631 0.7 △ 27.8 2,177 545 0.1 △ 75.0
中南米 7,397 7,632 1.9 3.2 10,893 10,505 1.6 △ 3.6
サブサハラアフリカ 5,822 5,838 1.5 0.3 10,536 12,346 1.9 17.2
階層レベル2の項目南アフリカ共和国 1,690 1,534 0.4 △ 9.2 5,836 8,486 1.3 45.4
合計(その他含む) 422,504 401,055 100.0 △ 5.1 636,920 638,054 100.0 0.2

〔注1〕 通関ベース。ただし、北アイルランドとEUとの貿易は各企業のインボイス報告に基づく。
〔注2〕 アジア大洋州はASEAN+6(ASEAN、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔出所〕 英国歳入関税庁

輸入を品目別にみると、最大品目の機械類・輸送機器類(構成比33.4%)は前年比5.1%減となった。 道路走行車両(10.7%)の4.1%減、原動機(4.2%)の11.0%減が不振の要因となった。鉱物性燃料、潤滑油等(10.0%)は、ガス(2.1%)の34.5%減により、14.0%減減少した。電力輸入量の増加に伴い、国内における発電向けのガス需要が低下したことが影響している。増加に寄与したのは非貨幣用金(9.5%)で、金価格の高騰を受け55.7%増加し、他の品目の減少分を相殺した。

輸入を国・地域別にみると、国別輸入額1位のドイツ(構成比11.7%)は前年比1.9%減となった。非貨幣用金が伸びたものの、道路走行車両や電子・電気機器などの減少により相殺された。米国(9.8%)は前年に続き2位だが、天然ガスの大幅減が影響し1.7%減となった。3位の中国(9.7%)は0.6%減となった。この他の国では、カナダ(2.8%)が非貨幣用金の伸びを受け70.6%増と大きく増加した。

通商政策 
CPTPPが発効、新政権下でEUとの関係再構築を志向

2023年7月に署名した環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)については、2024年5月に英国国内の批准手続きが完了した。2024年12月15日に日本、シンガポール、チリ、ニュージーランド、ベトナム、ペルー、マレーシア、ブルネイとの間で発効、12月24日にはオーストラリアとの間で発効した。日本との関係では、日英包括的経済連携協定(EPA)で撤廃されなかったコメ・コメ加工品の関税撤廃が英国市場の開拓につながるか注目されている。

EUに対しては、2024年7月に誕生した労働党政権が関係の再構築を掲げており、総選挙でのマニフェストにおいても単一市場や関税同盟、移動の自由への回帰は行わないとしながらも、貿易や投資に係る障壁削減に取り組むとしている。具体的には、協定締結を通じた衛生植物検疫措置(SPS)の削減などが挙げられる。

キア・スターマー首相は2024年10月にEU首脳と会談し、ウィンザー・フレームワークを含むEUからの離脱協定および通商・協力協定(TCA)を完全かつ信頼あるかたちで履行することを再確認している。

EU以外の国・地域との自由貿易協定(FTA)については、新政権発足後の7月に湾岸協力会議(GCC)、インド、イスラエル、韓国、スイス、トルコとの交渉再開を発表した。イスラエル、韓国、スイス、トルコについてはEUから継承した協定の更新に向けた交渉だが、GCCとインドについてはFTA未締結の国・地域だった。うちインドとは、2025年5月に合意に至った。

州レベルでの貿易関係強化の合意を模索していた米国については、2023年までに覚書を締結したインディアナ、ノースカロライナ、サウスカロライナ、オクラホマ、ユタ、ワシントン、フロリダに加え、2024年3月にテキサスと、2025年1月にコロラドと、4月にイリノイと覚書を締結している。

一方、鉄鋼製品に対するセーフガード措置に関する変更も発表されている。2024年8月にはインドの鉄鋼大手タタ・スチール(Tata Steel)の製鉄所の電炉転換に伴う生産量減少を受け、「非合金またはその他合金の熱間圧延板またはストリップ」について関税割当枠の増枠を提案した。また、11月には「非合金およびその他の合金の冷間圧延鋼板」に対する措置について、国内での生産終了が見込まれる中でセーフガード措置の廃止に向けた調査を実施することが発表され、2025年1月に廃止が決定した。

対内・対外直接投資 
対内直接投資は減少した一方、対外直接投資は大幅増

英国国家統計局(ONS)の2025月3月28日の発表によると、2024年の対内直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は26億ポンドで、前年の117億3,000万ポンドから大幅に減少した。2024年末の対内直接投資残高は2兆4,553億ポンドとなった。

ONSの2025年3月4日の発表によると、2024年に実行された100万ポンドを超えるクロスボーダーM&A(国境を越える企業の合併・買収)は、英国企業に対する買収案件が686件、買収金額が251億6,400万ポンドとなり、前年の682件、325億9,200万ポンドから件数は横ばい、金額は減少した。国・地域別でみると、金額が最も大きかったのが、米州の126億9,700万ポンド(295件)で、うち米国が100億1,300万ポンド(255件)だった。米国企業による2024年の投資案件としては、10月のソフトウエア投資会社トーマ・ブラボー(Thoma Bravo)によるサイバーセキュリティAI企業のダークトレース(Darktrace)の買収、7月の製薬大手メルク(Merck & Co)によるバイオテクノロジー企業のアイバイオテック(Eyebiotech)の買収などが挙げられる。次いで欧州が92億6,200万ポンド(318件)で、うちEUが56億7,400万ポンド(217件)だった。アジアは28億5,300万ポンド(58件)だった。

表4-1 英国の主な対内直接投資案件(2024年)[M&A以外]
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
ICT アマゾン・ウェブ・サービス
(Amazon Web
Services)
米国 2024年9月 80億ポンド アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は、2024年から2028年にかけて、英国に80億ポンドを投資し、データセンターの建設・運営・維持を行う計画を発表。
輸送・倉庫 DPワールド
(DP World)
アラブ首長国連邦(UAE) 2024年10月 10億ポンド DPワールドは、英国のロンドン・ゲートウェイ港に10億ポンドを投じる大規模な拡張計画を発表。5年間で完成を目指す。
ICT コアウィーブ
(CoreWeave)
米国 2024年5月 10億ポンド AI向けクラウドインフラ企業コアウィーブは、英国への10億ポンドの投資を発表。ロンドンに欧州本社を開設するとともに、2024年に英国で2つのデータセンターを稼働、2025年に拡張する計画。英国のAIインフラを強化し、AIアプリケーションの開発と展開を支援。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表4-2 英国の主な対内直接投資案件(2024年)[M&A]
被買収企業(事業) 買収企業 時期 投資額 概要
業種 企業名 企業名 国籍
ソフトウエア ダークトレース
(Darktrace)
トーマ・ブラボー
(Thoma Bravo)
米国 2024年10月 53億ドル ソフトウエア投資会社のトーマ・ブラボーは、サイバーセキュリティAI企業ダークトレースの買収完了を発表。ダークトレースのグローバル展開と製品開発を加速させる意向。
石油、ガス ネプチューン・エナジー
(Neptune Energy
Group)
エニ
(Eni)
イタリア 2024年1月 約49億ドル エネルギー企業エニは、石油・ガス会社ネプチューン・エナジーの買収完了を発表。ネプチューン・エナジーの事業のうち、ドイツ事業は買収に先立って切り離し、ノルウェー事業はエニが株式の63%を保有するノルウェーのバー・エナーギー(Vår Energi)が買収、その他の事業をエニが直接買収した。エニは天然ガス生産を強化し、低炭素エネルギー供給の能力を高める意向。
バイオテクノロジー アイバイオテック
(Eyebiotech)
メルク
(Merck & Co)
米国 2024年7月 30億ドル 製薬大手メルクは、眼科領域に特化したバイオテクノロジー企業アイバイオテックの買収完了を発表。網膜疾患治療薬のパイプラインを強化し、同社の製品ポートフォリオを多様化する戦略の一環である。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

2024年の対外直接投資額は536億9,200万ポンドとなり、前年の237億8,400万ポンドから大幅に増加した。2024年末時点の対外直接投資残高は2兆2,061億ポンドとなった。

2024年の英国企業による100万ポンドを超えるクロスボーダーM&A案件は324件、買収金額は154億3,800万ポンドとなり、前年の295件、125億100万ポンドから件数、金額ともに増加した。国・地域別にみると、金額ベースでは、米州が99億4,800万ポンド(120件)で最大となった。主な案件としては、ペルミラ・ホールディングス(Permira Holdings)が、米国のウェブサイト構築プラットフォームを提供するスクエアスペース(Squarespace)の買収を完了し、同社の製品拡大・グローバル展開を目指している。次いで欧州が40億6,200万ポンド(137件)だった。英国企業による欧州企業の買収としては9月、ハーバー・エナジー(Harbour Energy)がドイツの石油ガス会社ウィンターシャル・デア(Wintershall Dea)の買収を完了し、事業展開の強化を図っている。アジアは 7億3,300万ポンド(22件)だった。

表5-1 英国の主な対外直接投資案件(2024年)[M&A以外]
業種 企業名 投資先国 時期 投資額 概要
再エネ オクトパス・グループ
(Octopus Group)
オーストラリア 2024年6月 35億ドル オクトパスは、オーストラリアのニューサウスウェールズ州デニリクイン近郊で新たに2.8万ヘクタールの土地を取得し、1ギガワットのメリノ風力発電所の開発を行うことを発表。
鉱業 リオ・ティント
(Rio Tinto)
アルゼンチン 2024年12月 25億ドル リオ・ティントは、アルゼンチンのサルタ州に位置するリンコン・リチウムプロジェクトの生産能力を年間6万トンに拡張するため、25億ドルを投資する計画を発表。2028年に初回生産予定。
エネルギー パッシュ・グローバル
(PASH Global)
エジプト 2024年2月 非公開 パッシュ・グローバルは、エジプト政府と覚書を締結し、スエズ運河経済特区において大規模なグリーン水素・アンモニアプロジェクトを推進することを発表。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表5-2 英国の主な対外直接投資案件(2024年)[M&A]
買収企業 被買収企業(事業) 時期 投資額 概要
企業名 業種 企業名 国籍
ハーバー・エナジー
(Harbour Energy)
石油、ガス ウィンターシャル・デア
(Wintershall Dea)
ドイツ 2024年9月 112億ドル ハーバー・エナジーは、ウィンターシャル・デアの上流資産および欧州での二酸化炭素(CO2)回収・貯留(CCS)のライセンスの買収を完了。ノルウェー、ドイツ、アルゼンチンなどでの事業展開を強化。
ペルミラ・ホールディングス
(Permira Holdings)
ITコンサルティング スクエアスペース
(Squarespace)
米国 2024年10月 約72億ドル 投資会社ペルミラは、ウェブサイト構築プラットフォームを提供するスクエアスペースの買収を完了。スクエアスペースの製品拡大とグローバル展開を支援。
BAEシステムズ
(BAE Systems)
航空宇宙産業、
防衛産業
ボール・エアロスペース&テクノロジーズ
(Ball Aerospace & Technologies)
米国 2024年2月 55億ドル BAEシステムズは、ボール・エアロスペース&テクノロジーズを買収。BAEは防衛・宇宙関連の技術力と顧客基盤を強化し、米国市場での存在感を高めるとともに、米国防総省や民間宇宙産業との関係強化を図る。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

対日関係 
対日貿易赤字は縮小、対英投資は大幅増

2024年の対日貿易は、輸出が前年比7.3%増の59億7,300万ポンド、輸入が12.4%減の87億2,700万ポンドで、対日貿易赤字は27億5,400万ポンドと前年より16億4,000万ポンド減少した。日本は英国にとって輸出では17位、輸入では16位の相手国となっている。

主な対日輸出品目をみると、最大品目の機械類・輸送機器類(構成比48.2%)が前年比4.5%増となった。主要品目の原動機(18.6%)が、ターボジェット・ターボプロペラ用部品(11.0%)の2.2倍増などにより19.4%の増加となった。一方、乗用車(13.4%)の5.7%減などにより、道路走行車両(14.6%)は5.7%の減少となり、伸びを相殺した。化学工業製品(18.9%)は医薬品(10.3%)の21.8%増、無機化学品(3.9%)の13倍増により33.4%増となった。

表6 英国の対日主要品目別輸出入[通関ベース] (単位:100万ポンド、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
機械類・輸送機器類 2,756 2,880 48.2 4.5 6,515 5,506 63.1 △ 15.5
階層レベル2の項目原動機 929 1,110 18.6 19.4 1,206 1,105 12.7 △ 8.4
階層レベル2の項目道路走行車両 925 872 14.6 △ 5.7 2,976 2,736 31.3 △ 8.1
階層レベル2の項目電子・電気機器 250 262 4.4 4.8 820 430 4.9 △ 47.6
階層レベル2の項目その他の一般用工業用機械など 196 225 3.8 14.9 541 449 5.1 △ 16.9
階層レベル2の項目産業用機械 176 176 3.0 △ 0.1 435 337 3.9 △ 22.4
階層レベル2の項目通信・音響機器 67 93 1.6 40.2 294 272 3.1 △ 7.5
化学工業製品 848 1,131 18.9 33.4 564 602 6.9 6.7
階層レベル2の項目医薬品 505 615 10.3 21.8 184 151 1.7 △ 18.2
階層レベル2の項目無機化学品 18 232 3.9 1,195.5 48 156 1.8 227.2
階層レベル2の項目その他化学品 147 137 2.3 △ 6.4 48 50 0.6 4.7
原料別製品 727 740 12.4 1.8 936 686 7.9 △ 26.7
階層レベル2の項目非鉄金属 501 499 8.4 △ 0.4 489 328 3.8 △ 33.0
階層レベル2の項目その他金属製品 95 112 1.9 17.5 132 105 1.2 △ 20.2
雑製品 701 700 11.7 △ 0.1 763 674 7.7 △ 11.7
階層レベル2の項目専門機器・計測機器・制御機器 312 332 5.6 6.5 328 272 3.1 △ 17.3
階層レベル2の項目その他雑製品 164 166 2.8 1.2 181 159 1.8 △ 12.2
飲料・たばこ 228 225 3.8 △ 1.5 21 15 0.2 △ 28.8
食料品・動物 177 148 2.5 △ 16.3 45 55 0.6 21.7
食用でない原材料(鉱物性燃料除く) 116 133 2.2 13.9 376 385 4.4 2.5
鉱物性燃料、潤滑油等 7 7 0.1 6.9 204 191 2.2 △ 6.0
階層レベル2の項目原油・石油製品 7 7 0.1 10.0 2 2 0.0 2.1
階層レベル2の項目石炭 0 0 0.0 △ 44.2 201 189 2.2 △ 6.1
未分類のその他製品 6 6 0.1 △ 7.7 538 612 7.0 13.7
階層レベル2の項目非貨幣用金 0 1 0.0 288.8 441 522 6.0 18.3
合計(その他含む) 5,569 5,973 100.0 7.3 9,964 8,727 100.0 △ 12.4

〔出所〕英国歳入関税庁

日本からの輸入では、最大品目の機械類・輸送機器類(構成比63.1%)が前年比15.5%減となった。乗用車(27.0%)が2.9%減となった道路走行車両(31.3%)の8.1%減、静止形変換器(0.2%)が86.9%減となった電子・電気機器(4.9%)の47.6%減が影響した。

日本銀行の「業種別・地域別直接投資」によれば、2024年の日本から英国への直接投資(ネット、 フロー)は2兆7,345億円となり前年の1兆8,516億円から大幅増となった。

業種別では、非製造業が2兆1,567億円となり、うち通信業が1兆5,223億円で最大となった。金融・保険業が3,005億円でこれに続いた。製造業は5,778億円、うち輸送機械器具が3,088億円と最大である。

2024年の日本企業の投資事例については、エネルギー・グリーン関連の案件が目立つ。日本板硝子が7月に、英国子会社ピルキントン(Pilkington)のグリーンゲート事業所でグリーン水素製造プラントの設置計画を発表した。年間1万5,000トンの二酸化炭素(CO2)を削減する狙いだ。JERAは4月に再生可能エネルギーに特化した新会社JERA Nexをロンドンに設立したことを発表し、12月にはさらに、英国の石油大手BPと洋上風力事業を統合すると発表した。新たに設立する合弁会社は、洋上風力事業を開発・所有・運転する事業者として、世界最大級の規模となる。そのほか、三菱電機は5月、スコットランド・リビングストンの自社工場敷地内に最新鋭のヒートポンプ設置者向け訓練センターを開設したと発表している。

スタートアップへの投資では、5月に自動運転向けAI技術を開発するウェイブ(Wayve)がソフトバンクグループから資金を調達したことを発表している。ヤマトホールディングスも、10月に英国の物流テック系スタートアップであるハイブド(HIVED)への出資決定を発表。コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)ファンド「クロネコイノベーションファンド(KIF)2号」を通じ実行した。データを活用した効率的で持続可能な宅配便サービスの提供を目指す。

2024年の英国から日本への直接投資受入額は2,435億円となり、前年の3,791億円から大幅に減少した。非製造業は847億円、製造業は1,588億円であった。投資額が最大だったのは電気機械器具で616億円、次いで化学・医療が527億円となった。一方、輸送機械器具および不動産業はそれぞれ27億円、26億円の引き揚げ超過となった。

主な事例では、海洋エネルギーの世界大手であるKPIオーシャンコネクト(KPI OceanConnect)が9月に東京に新オフィスを開設し、日本市場の拡大と顧客へのサポートを強化する。また7月には保険仲介グループであるハウデン(Howden)が日本市場への進出を発表した。ハウデン・リー・ジャパンを設立し、キーストーン・アイエルエス・キャピタルとの保険リンク証券(資本市場を活用した災害リスク移転手法の総称)のサービス提供に関する資本業務提携を開始する。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2022年 2023年 2024年
実質GDP成長率 (%) 4.8 0.4 1.1
1人当たりGDP (米ドル) 46,234 49,213 52,648
消費者物価上昇率 (%) 9.1 7.3 2.5
失業率 (%) 3.9 4.2 4.4
貿易収支 (100万ポンド) △ 206,536 △ 208,597 △ 225,953
経常収支 (100万ポンド) △ 53,095 △ 95,122 △ 75,729
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 158,330 157,341 148,569
対外債務残高(グロス) (100万ポンド) 7,297,306 7,551,165 7,939,226
為替レート (1米ドルにつき、ポンド、期中平均) 0.8113 0.8045 0.7824

注:
1人当たりGDP:2024年は推定値
失業率:年平均、ILOベース
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所:
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):英国国家統計局(ONS)
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF