英国の貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2022年の実質GDP成長率は4.1%と引き続きプラス。
  • 貿易は機械類・輸送機器類、鉱物性燃料などの輸出が伸び、前年超え。
  • 直接投資は対内、対外ともに大幅増。
  • 日本からの直接投資は引き揚げ超過も、グリーン関連のプロジェクトが多数発表。

公開日:2023年9月13日

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マクロ経済 
実質GDP成長率は全ての項目でプラス成長

2022年の実質GDP 成長率は4.1%となった。需要項目別にみると、すべての項目でプラス成長となった。内需をけん引する個人消費が前年比5.3%増だった。特に2022年上半期は、新型コロナウイルス感染拡大が影響した前年同期と比較して伸びた。産業別では、製造業がマイナス成長となった一方、建設業が6.2%増、サービス業が5.5%増と伸びが目立った。

2023年第1 四半期の実質GDP 成長率は前期比0.1%増となった。需要項目別にみると、内需をけん引する個人消費はインフレの影響で横ばいとなった。娯楽や文化、衣類、通信、住居などが伸びた一方で、運輸やアルコール・たばこなどの嗜好品の消費が減少した。政府最終消費支出は1.8%減となったが、2023年3月末で終了した設備投資に対する優遇策が企業の投資前倒しを誘発したことなどにより総固定資本形成は2.4%増となった。産業別ではサービス業が0.1%増となった。情報通信が伸びた一方、保健、教育や運輸・倉庫業などはストライキの影響でマイナス成長となった。

表1 英国の需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1
実質GDP成長率 7.6 4.1 0.5 0.1 △ 0.1 0.1 0.1
階層レベル2の項目民間最終消費支出 6.2 1.4 0.3 △ 0.3 0.2 △ 0.0 0.3
階層レベル2の項目政府最終消費支出 12.5 1.8 △ 0.4 △ 1.7 0.8 0.5 △ 1.8
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 6.1 8.6 8.6 △ 2.3 1.1 0.3 2.4
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 2.2 9.9 △ 7.3 5.1 10.5 △ 1.4 △ 6.9
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 6.2 13.3 8.2 0.5 △ 3.1 △ 0.2 △ 3.8

〔注〕四半期の伸び率は前期比。
〔出所〕国民統計局(ONS) 2023年6月30日改定数値

新型コロナウイルス禍からの復興やロシアによるウクライナ侵攻を背景にしたエネルギー価格の高騰を要因として、インフレ率は上昇した。国家統計局(ONS)によると、2022年の消費者物価指数(CPI)は9.1%と記録的な数値となった。2022年9月以降は10%を超えており、2023年に入ってからも5月のインフレ率は8.7%と予想に反して高止まりしている。こうしたインフレに対応するため、英国政府は2022年10月から家計のエネルギー価格の負担軽減に向けた支援措置を導入するなどしている。英国のイングランド銀行(BOE、中央銀行)も2021年12月、3年4カ月ぶりに政策金利の年0.25%引き上げ以降、利上げを継続している。2023年6月の金融政策決定会合では3会合ぶりに利上げ幅も拡大し、0.5ポイント引き上げ、年5.0%とした。

貿易 
輸出入ともに2021年を上回る

2022年の貿易は、輸出が前年比26.2%増の4,320億1,200万ポンド、輸入が32.0%増の6,668億8,900万ポンドとなった。貿易収支は2,348億7,700万ポンドの赤字。赤字幅は、前年より718億6,800万ポンド拡大した。

輸出を品目別にみると、最大品目の機械類・輸送機器類(構成比30.0%)は前年比16.7%増だった。道路走行車両(7.4%)は11.8%増、43.0%増のターボジェット(3.0%)がけん引した原動機(7.2%)は32.5%増となった。また非貨幣用金(13.8%)は輸出量が2.3倍となり、金額が96.3%増となったことも輸出の大幅な増加に寄与した。鉱物性燃料、潤滑油等(11.6%)は、原油・石油製品(8.8%)の61.6%増、電力(0.8%)の6.5倍が寄与し、82.4%増となった。

表2 英国の主要品目別輸出入[通関ベース](単位:100万ポンド、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
機械類・輸送機器類 110,993 129,481 30.0 16.7 154,881 201,497 30.2 30.1
階層レベル2の項目道路走行車両 28,483 31,841 7.4 11.8 44,623 58,571 8.8 31.3
階層レベル2の項目原動機 23,482 31,120 7.2 32.5 18,189 25,429 3.8 39.8
階層レベル2の項目その他の一般用工業用機械など 14,204 16,372 3.8 15.3 16,488 21,811 3.3 32.3
階層レベル2の項目電子・電気機器 12,963 14,247 3.3 9.9 25,511 30,928 4.6 21.2
階層レベル2の項目その他輸送機器 11,114 12,151 2.8 9.3 5,672 8,514 1.3 50.1
階層レベル2の項目産業用機械 8,447 9,839 2.3 16.5 8,066 10,214 1.5 26.6
階層レベル2の項目通信・音響機器 6,279 7,335 1.7 16.8 20,039 27,104 4.1 35.3
未分類のその他製品 48,085 71,932 16.7 49.6 47,229 53,472 8.0 13.2
階層レベル2の項目非貨幣用金 30,415 59,717 13.8 96.3 40,271 34,567 5.2 △ 14.2
階層レベル2の項目特殊取扱品(種類別に分類されないもの) 16,779 11,549 2.7 △ 31.2 5,092 16,532 2.5 224.7
化学工業製品 52,233 61,302 14.2 17.4 60,035 76,122 11.4 26.8
階層レベル2の項目医薬品 20,291 24,030 5.6 18.4 20,099 27,266 4.1 35.7
階層レベル2の項目有機化学品 7,451 9,688 2.2 30.0 8,882 12,615 1.9 42.0
階層レベル2の項目その他化学品 6,789 7,218 1.7 6.3 10,359 9,414 1.4 △ 9.1
鉱物性燃料、潤滑油等 27,442 50,063 11.6 82.4 51,362 111,392 16.7 116.9
階層レベル2の項目原油・石油製品 23,446 37,890 8.8 61.6 27,757 57,554 8.6 107.3
原料別製品 35,295 41,771 9.7 18.3 61,399 67,053 10.1 9.2
雑製品 37,708 41,579 9.6 10.3 69,530 83,951 12.6 20.7
階層レベル2の項目その他雑製品 16,241 19,020 4.4 17.1 22,993 26,387 4.0 14.8
階層レベル2の項目専門機器・計測機器・制御機器 11,322 12,444 2.9 9.9 9,512 12,640 1.9 32.9
食料品・動物 13,283 15,605 3.6 17.5 37,914 47,650 7.1 25.7
食用でない原材料(鉱物性燃料除く) 9,566 10,275 2.4 7.4 14,840 15,361 2.3 3.5
飲料・たばこ 7,045 9,226 2.1 31.0 6,441 7,913 1.2 22.8
動物性および植物性油脂とろう 607 778 0.2 28.2 1,633 2,478 0.4 51.7
合計(その他含む) 342,256 432,012 100.0 26.2 505,265 666,889 100.0 32.0

〔注〕通関ベース。ただし、北アイルランドとEUとの貿易、およびEUからグレートブリテンへの輸入は各企業のインボイス報告に基づく。
〔出所〕英国歳入関税庁

輸出を国・地域別にみると、最大額の米国(構成比12.1%)は医薬品、原動機や道路走行車両、原油・石油製品が好調であったことから前年比20.0%増となった。また、2位のオランダ(8.4%)は原油・石油製品、ガスなどが大幅に増加し、35.1%増となった。ロシアと欧州をつなぐガスパイプラインが制限されたことが影響したとされている。ドイツ(7.9%)はオランダ同様に原油・石油製品が増加したことに加え、医薬品、原動機が好調で14.3%増となった。アイルランド(6.9%)は原油・石油製品、ガス、有機化学品が好調で41.0%増となった。

表3 英国の主要国・地域別輸出入(単位:100万ポンド、%)(△はマイナス値)
輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
欧州 200,369 241,951 56.0 20.8 297,691 396,146 59.4 33.1
階層レベル2の項目EU 157,242 198,351 45.9 26.1 222,035 313,719 47.0 41.3
階層レベル3の項目ユーロ圏 136,745 173,186 40.1 26.6 188,108 267,464 40.1 42.2
階層レベル4の項目オランダ 26,913 36,362 8.4 35.1 30,093 54,309 8.1 80.5
階層レベル4の項目ドイツ 29,778 34,027 7.9 14.3 53,837 70,028 10.5 30.1
階層レベル4の項目アイルランド 21,191 29,875 6.9 41.0 13,949 18,692 2.8 34.0
階層レベル4の項目フランス 19,166 25,248 5.8 31.7 21,216 34,858 5.2 64.3
階層レベル4の項目ベルギー 14,516 17,887 4.1 23.2 22,413 28,943 4.3 29.1
階層レベル4の項目スペイン 8,147 9,827 2.3 20.6 14,400 18,550 2.8 28.8
階層レベル4の項目イタリア 8,849 9,293 2.2 5.0 17,652 23,274 3.5 31.8
階層レベル3の項目非ユーロ圏 15,181 19,726 4.6 29.9 30,136 36,660 5.5 21.7
階層レベル4の項目ポーランド 4,024 6,093 1.4 51.4 10,071 11,921 1.8 18.4
階層レベル4の項目スウェーデン 4,421 5,807 1.3 31.4 6,263 8,197 1.2 30.9
階層レベル2の項目スイス 28,813 28,358 6.6 △ 1.6 12,109 12,306 1.8 1.6
階層レベル2の項目トルコ 4,562 6,405 1.5 40.4 11,220 12,450 1.9 11.0
階層レベル2の項目ノルウェー 3,040 3,506 0.8 15.3 27,082 44,127 6.6 62.9
階層レベル2の項目ロシア 2,777 1,016 0.2 △ 63.4 18,163 4,372 0.7 △ 75.9
北米 49,682 59,721 13.8 20.2 56,877 81,299 12.2 42.9
階層レベル2の項目米国 43,541 52,269 12.1 20.0 43,826 65,480 9.8 49.4
階層レベル2の項目カナダ 5,105 6,116 1.4 19.8 10,941 13,645 2.0 24.7
アジア大洋州 53,152 85,758 19.9 61.3 111,768 127,037 19.0 13.7
階層レベル2の項目中国 15,189 28,684 6.6 88.9 63,297 69,070 10.4 9.1
階層レベル2の項目香港 7,154 19,121 4.4 167.3 7,521 6,124 0.9 △ 18.6
階層レベル2の項目ASEAN 9,782 12,044 2.8 23.1 13,808 19,652 2.9 42.3
階層レベル2の項目インド 4,419 8,193 1.9 85.4 8,278 10,529 1.6 27.2
階層レベル2の項目シンガポール 5,210 6,390 1.5 22.6 2,433 2,869 0.4 17.9
階層レベル2の項目日本 5,503 5,827 1.3 5.9 7,478 9,117 1.4 21.9
中東および北アフリカ 16,213 24,148 5.6 48.9 12,801 26,850 4.0 109.7
階層レベル2の項目アラブ首長国連邦 5,732 10,027 2.3 74.9 2,497 4,077 0.6 63.3
中南米 5,395 7,583 1.8 40.6 8,356 13,187 2.0 57.8
サブサハラアフリカ 5,151 6,070 1.4 17.8 10,304 11,294 1.7 9.6
階層レベル2の項目南アフリカ共和国 1,444 1,697 0.4 17.5 7,671 5,550 0.8 △ 27.7
合計(その他含む) 342,256 432,012 100.0 26.2 505,265 666,889 100.0 32.0

〔注〕(1)通関ベース。ただし、北アイルランドとEUとの貿易、およびEUからグレートブリテンへの輸入は各企業のインボイス報告に基づく。
(2)アジア大洋州はASEAN+6(ASEAN、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔出所〕英国歳入関税庁

輸入を品目別にみると、最大品目の機械類・輸送機器類(構成比30.2%)は前年比30.1%増となった。自動車を中心に道路走行車両(8.8%)の31.3%増が寄与した。鉱物性燃料、潤滑油等(16.7%)は、前年からの原油価格やガス価格の高騰が影響し、2.2倍となった。うち天然ガス(7.3%)は2.5倍、石油・粗油(8.6%)は2.1倍だった。化学工業製品(11.4%)は、ガス価格が過去最高水準に達したことを背景に化学品の価格も上昇し、26.8%増となった。

輸入を国・地域別にみると、1位のドイツ(構成比10.5%)は前年比30.1%増と復調した。2018年から輸入は減少傾向であったが、再び英国最大の輸入元となった。特に、道路走行車両の大幅な伸びが全体を引き上げた。また医薬品の増加も寄与した。中国(10.4%)はその他化学品、非鉄金属が減少したものの、道路走行車両、通信・音響機器、電子・電気機器が伸び、全体で9.1%増となった。米国(9.8%)はガス、原油・石油製品の大幅増により49.4%増、オランダ(8.1%)は原油・石油製品、医薬品の増加などにより80.5%増となった。

2023年第1四半期は、輸出が前年同期比13.8%増の1,025億3,000万ポンド、輸入が1.0%増の1,652億2,700万ポンドとなった。2022年初頭から急騰が続いていたガス価格は2023年に入り落ち着きがみられ、ガスの輸出・輸入額は前年同期より減少した。一方で非貨幣用金、原動機と道路走行車両の好調が輸出の増大に寄与した。輸入においても原動機と道路走行車両は伸長したものの、ガスの減少を相殺するには至らなかった。

北アイルランド議定書は新枠組に合意、CPTPPは加入に向け正式署名

EUからグレートブリテン島への輸入については2022年4月、段階的に実施を予定していた農産食品を中心とする新たな税関手続きの導入を中止し、2023年末から非EU諸国と同様の新たな枠組みを導入すると発表した。2023年4月にモデル案が発表され、今後3段階で進めるとしている。EUとの間で問題となっていた北アイルランド議定書の運用については、2023年2月末に新枠組「ウィンザー・フレームワーク」が政治合意に達し、2023年3月に正式採択がなされた。税関手続きに関しては、EUに持ち込まれるリスクのない物品の輸送に限り、認定事業者に対して追加の書類手続き、検査などを不要とした。

EU以外の国との自由貿易協定(FTA)については新たな締結に向けた動きがみられた。2022年1月にインド、3月にカナダ、5月にメキシコ、6月に湾岸諸国、7月にイスラエル、2023年5月にスイスと交渉を開始した。このほか韓国、モルディブとの間では、交渉開始に向けた意見公募が実施された。EU離脱に伴う移行期間終了時に、EUとのFTA未締結国については、署名済みであったオーストラリア、ニュージーランドとの間のFTAが2023年5月末に発効した。また、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)の加入交渉は2023年3月末に実質妥結、7月に正式署名した。さらに、州レベルでの合意を模索していた米国については、インディアナ、ノースカロライナ、サウスカロライナ、オクラホマ、ユタと覚書を締結した。FTA以外の協定については、シンガポールとのデジタル経済協定(DEA)が2022年6月に発効したほか、ウクライナとのデジタル貿易協定は2023年3月に署名している。

開発途上国向けの関税制度についても、EUから継承した一般特恵関税制度(GSP)に代わる開発途上国貿易制度(DCTS)が2023年6月19日から適用されている。

対内・対外直接投資 
対内直接投資、対外直接投資ともに増加

国家統計局(ONS)の2023月6月30日の発表によると、2022年の対内直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は341億3,000万ポンドで、前年の38億600 万ポンドから大幅に増加した。2022年末の対内直接投資残高は2兆5,748億ポンドとなった(総額のみ。詳細は今後発表される予定)。

ONSによると、2022年に実行された100万ポンドを超えるクロスボーダーM&A(国境を越える企業の合併・買収)は、英国企業に対する買収案件が810件、買収金額が570億5,000万ポンドとなり、前年の789件、766億8,100万ポンドから件数は増加した一方、金額は減少した。国・地域別でみると、金額が最も大きかったのが、米州の377億5,500万ポンド(353件)で、うち米国が334億8,000万ポンド(273件)だった。米国企業による2022年の投資案件としては、2月のS&PグローバルによるIHSマークイットの買収、9月のパーカー・ハネフィンよるメギット(航空宇宙・防衛関連)の買収があった。次いで欧州が134億400万ポンド(377件)で、うちEUが64億2,300万ポンド(245件)だった。アジアは33億8,500万ポンド(63件)だった。

2022年の対外直接投資額は1,278億4,200万ポンドとなり、前年の1,172億9,500万ポンドから増加した。2022年末時点の対外直接投資残高は2兆1,642億ポンドとなった。

2022年の英国企業による100万ポンドを超えるクロスボーダーM&A案件は310件、買収金額は262億1,200万ポンドとなり、前年の311件、458億9,000万ポンドから件数は横ばい、金額は減少した。国・地域別にみると、金額ベースで最大となったのが米州の190億7,300万ポンド(131件)で、うち米国が 167億6,600万ポンド(105件)だった。英国企業による米国企業の買収としては10月、レントキル・イニシャルがターミニックスの買収を完了し、害虫駆除事業の北米シェア拡大を図っている。次いで欧州が46億6,100万ポンド(135件)で、アジアが 15億4,300万ポンド(17件)だった。ノーブルは10月にデンマークのマースク・ドリリングの買収を完了し、海洋掘削市場における新たな先導者となることを目指すとしている。

表4-1 英国の主な対内直接投資案件(2022年)[M&A以外]
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
自動車 ベントレーモーターズ ドイツ 2022年1月 25億ポンド バッテリー駆動電気自動車(BEV)の開発・製造計画を発表。今後10年間で25億ポンドを投じ北西部クルーにて最先端の製造拠点を目指す。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表4-2 英国の主な対内直接投資案件(2022年)[M&A]
被買収企業(事業) 買収企業 時期 投資額 概要
業種 企業名 企業名 国籍
調査 IHS マークイット S&P グローバル 米国 2022年2月 約1,400億ドル IHSマークイットとの合併完了を発表。サービスの価値向上を図る。
航空 メギット パーカー・ハネフィン 米国 2022年9月 63億ポンド 航空宇宙大手メギットの買収完了を発表。航空機、航空エンジン部品・システム向けの技術を拡大する。さらに、電動化や低炭素技術などの新しいトレンドを通じて成長を図る。
サイバーセキュリティー アバスト ノートンライフロック 米国 2022年9月 非公開 同業、英アバストの買収完了を発表。新社名を「ジェン・デジタル」とし2022年11月にナスダックに上場。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表5-1 英国主な対外直接投資案件(2022年)[M&A以外]
業種 企業名 投資先国 時期 投資額 概要
エネルギー ハイブ・エナジー チリ 2022年2月 80億ドル 米トランジショナルエナジーと合弁会社を設立し、チリでグリーンアンモニアを年間130万トン生産する計画を発表。アジア、欧米の顧客に低コストで大量のアンモニアを供給することを目的としている。
セルビア 2022年5月 非公開 2022年5月にセルビアに事務所を開設したことを発表。同社は合計容量2.2ギガワット(GW)の太陽光プロジェクトの開発に取り組んでいる。
石油 シェル カタール 2022年7月 非公開 カタールエナジーのパートナーとして、カタールの液化天然ガス(LNG)関連プロジェクトに参画することを発表。
米国 2022年6月 非公開 米国メキシコ湾の深海開発プロジェクトの権益の51%をノルウェーのエネルギー企業エクイノールから買収することを発表。エクイノールと共同開発を進める。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表5-2 英国主な対外直接投資案件(2022年)[M&A]
買収企業 被買収企業(事業) 時期 投資額 概要
企業名 業種 企業名 国籍
BP ガス アーキア・エナジー 米国 2022年12月 約41億ドル BPはアーキア・エナジーの買収完了を発表。再生可能天然ガス(RNG)に強みを持つ同社を買収し、バイオエネルギー事業を加速する。
グラクソ・スミスクライン(GSK) バイオ製薬 アフィニバックス 米国 2022年8月 27億ドル GSKはバイオ製薬のアフィニバックスの買収を完了を発表。ワクチン事業の強化を図るとした。
レントキル・イニシャル 害虫駆除 ターミニックス 米国 2022年10月 非公開 レントキル・イニシャルは、ターミニックスの買収を完了。害虫駆除事業の北米シェア拡大を目指す。
ノーブル 油田・ガス田サポート マースク・ドリリング デンマーク 2022年10月 非公開 ノーブルはデンマークのマースク・ドリリングの買収完了を発表。海洋掘削市場における新たな力強い先導者になることを目指すとした。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

対日関係 
対日貿易は輸出入ともに増加傾向

2022年の対日貿易は、輸出が前年比5.9%増の58億2,700万ポンド、輸入が21.9%増の91億1,700万ポンドで、対日貿易赤字は32億9,100万ポンドと前年より13億1,500万ポンド増加した。日本は英国にとって輸出では18位、輸入では16位の相手国となっている。

主な対日輸出品目をみると、最大品目の機械類・輸送機器類(構成比39.0%)が前年比18.8%増となった。これまで主要品目であった道路走行車両(11.5%)が乗用車(10.1%)の減少により3.6%減となったが、原動機(14.1%)がエンジン・モーター(11.0%)の95.8%増により70.0%増となったことが輸出増加に寄与した。一方、原料別製品(20.8%)は21.7%減となり、中でも非鉄金属(16.8%)の26.4%減が影響した。化学工業製品(17.3%)は医薬品(10.7%)の31.3%増により15.9%増となった。

表6 英国の対日主要品目別輸出入[通関ベース](単位:100万ポンド、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
機械類・輸送機器類 1,914 2,274 39.0 18.8 4,565 5,415 59.4 18.6
階層レベル2の項目原動機 483 822 14.1 70.0 809 1,070 11.7 32.3
階層レベル2の項目道路走行車両 693 668 11.5 △ 3.6 1,624 2,125 23.3 30.9
階層レベル2の項目電子・電気機器 230 224 3.8 △ 2.6 837 805 8.8 △ 3.8
階層レベル2の項目その他の一般用工業用機械など 182 204 3.5 12.2 469 547 6.0 16.7
階層レベル2の項目産業用機械 151 139 2.4 △ 8.3 494 479 5.3 △ 3.0
階層レベル2の項目通信・音響機器 61 64 1.1 4.6 124 191 2.1 53.7
原料別製品 1,545 1,210 20.8 △ 21.7 398 787 8.6 97.7
階層レベル2の項目非鉄金属 1,328 978 16.8 △ 26.4 117 507 5.6 333.2
階層レベル2の項目その他金属製品 81 90 1.5 10.6 94 99 1.1 4.8
化学工業製品 867 1,005 17.3 15.9 583 623 6.8 6.9
階層レベル2の項目医薬品 477 626 10.7 31.3 172 147 1.6 △ 14.2
階層レベル2の項目その他化学品 155 175 3.0 12.6 67 87 1.0 30.3
階層レベル2の項目有機化学品 43 54 0.9 25.2 126 149 1.6 18.4
雑製品 726 747 12.8 2.9 731 777 8.5 6.3
階層レベル2の項目専門機器・計測機器・制御機器 324 369 6.3 14.0 347 347 3.8 0.0
階層レベル2の項目その他雑製品 200 188 3.2 △ 5.9 144 158 1.7 10.0
鉱物性燃料、潤滑油等 3 5 0.1 46.1 185 395 4.3 113.0
階層レベル2の項目原油・石油製品 3 4 0.1 55.5 2 96 1.1 4398.2
階層レベル2の項目石炭 0 0 0.0 △ 25.4 183 299 3.3 63.0
未分類のその他製品 52 71 1.2 36.9 611 678 7.4 11.0
階層レベル2の項目非貨幣用金 0 3 0.1 4741.4 515 591 6.5 14.8
合計(その他含む) 5,503 5,827 100.0 5.9 7,478 9,117 100.0 21.9

〔出所〕英国歳入税関庁

日本からの輸入では、最大品目の機械類・輸送機器類(構成比59.4%)が前年比18.6%増となった。中でも道路走行車両(23.3%)や原動機(11.7%)がそれぞれ30.9%増、32.3%増と大幅に増えた。原料別製品(8.6%)は銀、プラチナなどの非鉄金属(5.6%)が4.3倍と大幅に増加したことで97.7%増となった。

日本の対英直接投資は大幅なマイナスへ

日本銀行の「業種別・地域別直接投資」によれば、2022年の日本から英国への直接投資(ネット、 フロー)は139億円の引き揚げ超過となり前年の2兆3,413億円から大幅なマイナスに転じた。

業種別では、非製造業は1,241億円の引き揚げ超過、うち金融・保険業が5,563億円の引き揚げ超過となりマイナスに寄与した。製造業は1,102億円、うち電気機械器具が480億円で最大となった。次いで輸送機械器具が246億円となった。

2022年の日本企業の主な投資事例では、丸紅が2022年1月に、スコットランド沖の浮体式洋上風力開発に関する海域リース権益を英電力会社SSEなどと共同で落札した。さらに2023年5月の英国政府発表によると、丸紅は今後10年でパートナー企業とともに、グリーンエネルギー事業に約100億ポンドの投資を行う覚書(MOU)を英国政府と締結予定。東京電力リニューアブルパワーは2022年11月に洋上風力事業を行うフロテーションエナジーを買収し初の国外での風力事業へ乗り出すなど、エネルギー関連での投資が活発であった。

また、住友電工は2023年4月、スコットランド・ハイランド地方に電力ケーブルの製造・販売会社の設立を決定した。2億ポンド超を投資し、150人のグリーン人材の雇用創出を見込む。

スタートアップへの投資では、2022年6月に東京大学エッジキャピタルパートナーズは、オックスフォード大学発の量子コンピュータ開発スタートアップ、オックスフォード・クァンタム・サーキッツに対して投資運用会社ランズドーン・パートナーズとともに共同投資した。

2022年の日本の英国からの直接投資受入額は、前年の1,021億円から1,278億円と増加した。非製造業は499億円の引き揚げ超過、製造業は1,777億円であった。投資額が最大だったのは電気機械器具で1,438億円、次いでサービス業が233億円となった。一方、通信業は302億円、卸売・小売業は291億円、そして不動産業は228億円の引き揚げとなった。

主な事例では、2022年8月にCVCキャピタル・パートナーズが資生堂のパーソナルケア製品の生産事業を買収することを発表した。久喜工場およびベトナム工場の競争力を高め、持続的成長を目指すとしている。

また、英国の投資会社アクティスは2023年5月、再生可能エネルギー専門の投資会社のぞみエナジーを日本で設立したと発表した。アクティス初の日本でのプロジェクトで、投資額は5億ドル。新会社を通じて、2027年までに設備容量1.1ギガワット規模の太陽光発電や風力発電の実現を目指す。

基礎的経済指標

人口
6,703万人 (2021年央、暫定値)
面積
24万2,741平方キロメートル(2022年)
1人当たりGDP
4万5,295 米ドル (2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △ 11.0 7.6 4.1
消費者物価上昇率 (%) 0.9 2.6 9.1
失業率 (%) 4.7 4.6 3.8
貿易収支 (100万ポンド) △ 133,530 △ 169,214 △ 230,543
経常収支 (100万ポンド) △ 67,510 △ 34,104 △ 93,885
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 161,188 176,024 158,330
対外債務残高(グロス) (100万ポンド、期末値) 7,054,055 7,279,944 7,299,083
為替レート ( 1 米ドルにつき、ポンド、期中平均) 0.7800 0.7271 0.8113

注:
人口、1人当たりGDP:推計値
失業率:年平均、ILOベース
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所:
人口、面積、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):国家統計局(ONS)
1人あたりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF