ルーマニアの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2024年の実質GDP成長率は0.8%と前年から鈍化。
  • 穀物や日本向け天然蜂蜜の輸出が大幅減、気候悪化による生産減少が原因。
  • 対内直接投資は再生可能エネルギー分野で活発な動き。
  • 対日輸出は電気機械・機器が好調、対日輸入は輸送用機器が拡大。
  • 日系企業の現地拠点設立が相次ぐ。

公開日:2025年9月17日

マクロ経済 
2024年のGDP成長率は減速し2025年も弱含み

2024年の実質GDP成長率は0.8%と、前年の2.4%から減速した。GDPを需要項目別にみると、民間最終消費支出が5.6%増(寄与度3.8%ポイントで最大)と前年の2.6%増から大幅に伸び、成長を牽引した。一方で国内総固定資本形成は、EU復興基金などを活用したインフラやエネルギー分野での公共投資の拡大が続いているものの、前年に14.5%増と大幅に増加した反動もあり3.3%減(寄与度マイナス0.9%ポイント)となった。財・サービスの輸入は前年の1.1%減からプラスに転じ3.8%となったが、輸出は3.1%減で前年の0.8%減をさらに上回る減少となった。GDPを産業別にみると、サービス業(文化、レクリエーション、修理など)が前年比6.8%増で前年の5.4%増から伸びが加速した。一方、情報通信は0.3%増で前年の5.2%増から成長が鈍化した。気候条件の悪化に加え、水不足や生産コストの上昇が重なり、農業は前年の9.6%増から5.9%減、建設業は前年の12.0%増から2.6%減といずれもマイナスに転じた。鉱業・製造業は0.2%減と3年連続でマイナス成長となった。

欧州委員会が2024年11月に発表した秋季経済予測では、建設業、農業、サービス業の成長や輸出の改善を背景に、ルーマニアの2025年の実質GDP成長率を2.5%と見込んでいた。しかし、米国による関税措置の不透明感や、国内の政治・財政面での不確実性が輸出をはじめ経済全体の先行きに悪影響を及ぼし、最終的には投資や消費を抑制するとの見方から、2025年5月の春季経済予測では実質GDP成長率予測は1.4%へと下方修正されている。

足元でも、2024年の企業倒産件数は、法定最低賃金の引き上げ、エネルギーや輸送コストの上昇の影響を受けた卸売・小売業で特に目立ち、全体で前年比9.4%増の7,274社と増加した。新型コロナウイルス感染拡大の影響で倒産が相次いだ2021年(6,144社)や2022年(6,649社)以来、増加傾向が続いている。消費者物価指数(CPI)上昇率は、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格上昇を受けた高インフレで、2022年には13.8%に達したが、その後徐々に低下し、2024年は5.6%だった。ルーマニア国立銀行(NBR、中央銀行)は2024年8月に政策金利を6.75%から6.50%に引き下げた。NBRは2025年8月に発表したインフレーションレポートで、2025年の年次インフレ率は第3四半期に上昇して、9月に9.2%に達し、年末には8.8%になると予測している。目標である2.5%までは注視するとしているが、インフレ率は2026年夏まで高い状況が続くと見込んでいる。

表1 ルーマニアの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年 2024年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 4.0 2.4 0.8 △ 0.4 0.4 △ 0.1 0.6
階層レベル2の項目民間最終消費支出 4.9 2.6 5.6 1.0 2.2 0.0 1.8
階層レベル2の項目政府最終消費支出 △ 5.5 12.1 △ 0.3 △ 6.3 6.8 2.4 2.1
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 5.4 14.5 △ 3.3 △ 5.3 △ 4.1 1.8 △ 10.4
階層レベル2の項目財・サービスの輸出 9.3 △ 0.8 △ 3.1 0.1 △ 2.0 △ 1.8 △ 1.7
階層レベル2の項目財・サービスの輸入 9.3 △ 1.1 3.8 2.0 1.2 △ 2.7 2.9

〔注1〕四半期の伸び率は前期比。季節調整済み。
〔注2〕2023年は暫定値、2024年は推定値。
〔出所〕ルーマニア国家統計局

貿易 
穀物輸出の減少が輸出全体を押し下げ

2024年の貿易は、輸出が前年比0.4%減の926億9,200万ユーロ、輸入が3.3%増の1,260億8,300万ユーロとなり、輸入額は過去最高を記録した。

輸出を品目別にみると、最大の機械・電気機器(構成比28.0%)は前年比1.0%減となった。内訳は、電気機器および部品(17.8%)が1.8%減、原子炉・ボイラー・機械類(10.2%)は0.4%増だった。次に輸出額が大きい輸送用機器(19.0%)は13.8%増で、うち乗用車(8.0%)が15.8%増、自動車・トラクター部品(7.9%)が1.8%増と好調だった。一方、植物性生産品(5.1%)は28.4%減と大幅に減少し、特に同品目全体の約6割を占める穀物の輸出が減少したことが輸出全体の伸びを押し下げた。

輸出を国・地域別にみると、全体の7割強(構成比71.7%)を占めるEUは前年比1.3%減でほぼ横ばいとなった。最大の輸出先であるドイツ(20.5%)は1.8%減、これに次ぐイタリア(9.5%)は6.6%減だった。中・東欧各国向けの輸出では、ハンガリー(5.3%)が6.7%減だった一方、ブルガリア(4.4%)は6.2%増、ポーランド(4.0%)は8.5%増、チェコ(3.3%)も3.0%増と好調だった。

EU域外では、スイス(構成比1.5%)向け輸出が前年比83.0%増と急増した。構成比44.8%を占める医薬品が8.7倍に急増したことが要因である。また、EU域外で最大の輸出先であるトルコ(3.6%)は8.7%増、これに次ぐ英国(3.1%)は6.1%増となった。他方で、ウクライナ(2.0%)は24.3%減、中国(0.8%)は16.0%減、インド(0.3%)は16.3%減となったほか、韓国(0.2%)は主要品目の穀物の輸出が前年の約10分の1となり全体で63.3%減と大幅に減少した。気候悪化による不作が原因と考えられる。

表2 ルーマニアの主要品目別輸出入(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
項目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
機械・電気機器 26,255 25,998 28.0 △ 1.0 32,121 32,353 25.7 0.7
階層レベル2の項目電気機器および部品 16,839 16,544 17.8 △ 1.8 18,613 18,148 14.4 △ 2.5
階層レベル2の項目原子炉・ボイラー・機械類 9,416 9,454 10.2 0.4 13,508 14,205 11.3 5.2
輸送用機器 15,464 17,606 19.0 13.8 13,167 13,919 11.0 5.7
階層レベル2の項目乗用車 6,393 7,402 8.0 15.8 3,952 4,388 3.5 11.0
階層レベル2の項目自動車・トラクター部品 7,170 7,300 7.9 1.8 4,956 5,514 4.4 11.3
卑金属・同製品 8,229 7,770 8.4 △ 5.6 12,289 12,752 10.1 3.8
階層レベル2の項目鉄鋼 2,252 1,920 2.1 △ 14.7 4,024 4,016 3.2 △ 0.2
プラスチック・ゴム製品 5,742 5,756 6.2 0.2 7,916 8,243 6.5 4.1
植物性生産品 6,642 4,754 5.1 △ 28.4 3,920 4,000 3.2 2.0
階層レベル2の項目穀物 4,128 2,957 3.2 △ 28.4 702 524 0.4 △ 25.4
鉱物性製品 5,100 4,740 5.1 △ 7.1 10,767 10,731 8.5 △ 0.3
階層レベル2の項目鉱物性燃料および鉱物油 4,938 4,519 4.9 △ 8.5 10,404 10,363 8.2 △ 0.4
調製食料品・飲料・たばこ 3,948 4,405 4.8 11.6 6,188 6,488 5.1 4.9
化学品 3,195 3,859 4.2 20.8 12,749 13,987 11.1 9.7
繊維 3,763 3,603 3.9 △ 4.2 5,677 5,733 4.5 1.0
雑製品 3,257 3,199 3.5 △ 1.8 3,015 3,157 2.5 4.7
合計(その他含む) 93,093 92,692 100.0 △ 0.4 122,062 126,083 100.0 3.3

〔注〕EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
〔出所〕ルーマニア国家統計局

表3 ルーマニアの主要国・地域別輸出入(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
EU 67,365 66,484 71.7 △ 1.3 89,500 90,881 72.1 1.5
階層レベル2の項目ユーロ圏 50,682 49,566 53.5 △ 2.2 63,255 63,760 50.6 0.8
階層レベル3の項目ドイツ 19,400 19,042 20.5 △ 1.8 23,683 23,521 18.7 △ 0.7
階層レベル3の項目イタリア 9,468 8,845 9.5 △ 6.6 10,561 10,444 8.3 △ 1.1
階層レベル3の項目フランス 5,909 5,863 6.3 △ 0.8 5,213 5,305 4.2 1.8
階層レベル3の項目オランダ 3,147 3,378 3.6 7.3 5,242 5,433 4.3 3.6
階層レベル3の項目スペイン 3,004 2,881 3.1 △ 4.1 3,436 3,835 3.0 11.6
階層レベル3の項目スロバキア 2,018 2,042 2.2 1.2 2,420 2,579 2.0 6.6
階層レベル3の項目オーストリア 1,982 1,885 2.0 △ 4.9 4,270 3,906 3.1 △ 8.5
階層レベル3の項目ベルギー 2,221 1,878 2.0 △ 15.4 3,066 3,134 2.5 2.2
階層レベル3の項目ギリシャ 1,093 1,242 1.3 13.7 1,820 1,980 1.6 8.8
階層レベル2の項目非ユーロ圏 16,682 16,918 18.3 1.4 26,245 27,121 21.5 3.3
階層レベル3の項目ハンガリー 5,271 4,919 5.3 △ 6.7 7,895 8,380 6.6 6.1
階層レベル3の項目ブルガリア 3,869 4,109 4.4 6.2 5,692 5,618 4.5 △ 1.3
階層レベル3の項目ポーランド 3,424 3,715 4.0 8.5 7,622 8,007 6.4 5.1
階層レベル3の項目チェコ 2,998 3,089 3.3 3.0 3,635 3,627 2.9 △ 0.2
トルコ 3,061 3,326 3.6 8.7 6,366 7,108 5.6 11.7
英国 2,737 2,904 3.1 6.1 1,115 1,220 1.0 9.5
米国 2,150 2,284 2.5 6.2 1,377 1,315 1.0 △ 4.5
モルドバ 2,075 2,259 2.4 8.9 1,085 1,129 0.9 4.0
ウクライナ 2,474 1,873 2.0 △ 24.3 1,469 1,226 1.0 △ 16.6
スイス 755 1,381 1.5 83.0 1,081 1,570 1.2 45.2
日本 761 773 0.8 1.6 408 447 0.4 9.7
中国 857 720 0.8 △ 16.0 6,764 7,839 6.2 15.9
インド 322 269 0.3 △ 16.3 1,280 709 0.6 △ 44.6
韓国 536 196 0.2 △ 63.3 578 859 0.7 48.6
ロシア 236 184 0.2 △ 22.0 324 143 0.1 △ 55.8
カザフスタン 107 92 0.1 △ 14.2 2,742 2,580 2.0 △ 5.9
合計(その他含む) 93,093 92,692 100.0 △ 0.4 122,062 126,083 100.0 3.3

〔注〕EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
〔出所〕ルーマニア国家統計局

輸入額は過去最高

過去最高額となった輸入を品目別にみると、最大の機械・電気機器(構成比25.7%)は前年比0.7%増、うち原子炉・ボイラー・機械類(11.3%)が5.2%増、電気機器および部品(14.4%)が2.5%減となった。次に輸入額が大きい輸送用機器(11.0%)は5.7%増で、うち自動車・トラクター部品(4.4%)が11.3%増、乗用車(3.5%)が11.0%増とともに増加した。そのほかの主要品目は、化学品(11.1%)が9.7%増、卑金属・同製品(10.1%)が3.8%増、プラスチック・ゴム製品(6.5%)が4.1%増となったものの、鉱物性製品(8.5%)が0.3%減少した。

輸入を国・地域別にみると、全体の7割強(構成比72.1%)を占めるEUは前年比1.5%増とほぼ横ばいだった。最大の輸入元であるドイツ(18.7%)が0.7%減、続くイタリア(8.3%)が1.1%減となった。中・東欧各国からの輸入ではハンガリー(6.6%)が6.1%増、ポーランド(6.4%)も5.1%増だったが、ブルガリア(4.5%)は1.3%減(前年は35.4%減と大幅に減少)、チェコ(2.9%)は0.2%減と減少した。

EU域外では、最大の輸入元である中国(6.2%)が15.9%増、次ぐトルコ(5.6%)は11.7%増となったほか、スイス(1.2%)が45.2%増と好調だった。スイスからは医薬品(53.9%)と有機化学品(16.2%)がそれぞれ前年の1.8倍と急増した。一方、ウクライナ(1.0%)やロシア(0.1%)は、それぞれ16.6%減、55.8%減と前年に続いて減少となった。

対内・対外直接投資 
再生可能エネルギー分野の投資で活発な動き

NBRによると、2024年の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は前年比15.1%減の57億3,001万ユーロとなった。

2024年発表の主な対内直接投資案件は、再生可能エネルギー(再エネ)分野が中心だが、自動車分野での試験施設開設や金融機関買収の動きもみられた。また、2023年10月に合意が発表されていた、オランダの小売大手アホールド・デレーズ(Ahold Delhaize)による、ルーマニアでスーパーマーケット約1,700店舗を展開するプロフィ・ロム・フード(Profi Rom Food)の買収が、2025年1月に13億ユーロで正式に完了したと発表された。

オーストリアの石油大手OMVのルーマニア子会社OMVペトロム(OMV Petrom)は2024年10月、再エネ発電を手がけるエレクトロセントラル・ボルゼスツィ(Electrocentrale Borzesti)の株式50%について、RNVインフラストラクチャー(RNV Infrastracture)からの取得を完了したと発表した。エレクトロセントラル・ボルゼスツィは、ルーマニアで合計1ギガワットの再エネ発電を手がける。このうち風力発電が95%を占めており、OMVペトロムは今後も発電設備の拡大を目指す。これに先立ち、OMVペトロムは2024年1月、ルーマニア国内で400カ所以上の電気自動車(EV)充電設備を展開するレノバティオ・アセット・マネジメント(Renovatio Asset Management)を買収することも発表した。OMVペトロムはレノバティオと協力し、2027年までに同国での再エネの普及のために13億ユーロを投資するとしており、OMVペトロムの出資額は最大3億5,000万ユーロの見込み。さらにOMVペトロムは同年6月、ルーマニアの首都ブカレストの北郊にあるペトロブラジ(Petrobrazi)製油所に約7億5,000万ユーロを投じ、持続可能な航空燃料(SAF)と水素化植物油(HVO)の生産工場、およびバイオ燃料の製造に用いられるグリーン水素の生産施設を2棟建設する計画を明かしている。南・東欧で初めてサステナブル燃料を本格生産する狙いだ。

再エネ分野ではまた、オランダの大手資源商社トラフィギュラ(Trafigura)とオーストラリアの投資管理会社IFMインベスターズ(IFM Investors)が共同出資する英国の再エネ開発企業ナラ・リニュアブルズ(Nala Renewables)が2024年8月、ルーマニア東部ガラツィ県で99.2メガワット(MW)の風力発電所事業を取得したことを発表した。北ドイツ州立銀行(NORD/LB)、オーストリアのエルステ・グループ(Erste Group)、およびルーマニアのBCR銀行による協調融資を受けて実現した。ギリシャ電力公社(PPC)は同年11月、エネルギー企業エヴリオ(Evryo)グループがルーマニアで展開する再エネ事業を7億ユーロで完全取得した。南・東欧におけるクリーンエネルギーへの移行を加速する動きとして注目されている。これらに先立ち、チェコの投資運用会社エマ・キャピタル(Emma Capital)傘下のエネルギー企業プレミア・エナジー(Premier Energy)は同年7月、スペインの電力事業大手イベルドローラグループ(Iberdrola)から、ルーマニア東部のコンスタンツァ県に位置する80MWの風力発電所を8,800万ユーロで買収したと発表している。再エネ生産の取り組みを強化する。

自動車分野では、ドイツの自動車部品大手フフ(Huf)グループが2024年4月、ルーマニア西部ティミショアラに、製品の品質を検証する同社最大の試験・検証施設を開設したと発表した。フフは2031年までに売上高20億ユーロを目指しており、目標達成に向けルーマニアでの技術力向上を図る。

金融分野では、ポーランドの金融サービス会社プラグマGO(PragmaGO)が2024年12月、578万5,000ユーロを投じてルーマニアの非銀行系金融機関テレクレジットIFN(Telecredit IFN)の株式89.0%を無条件取得したと発表した。

表4-1 ルーマニアの主な対内直接投資案件(2024年)[M&A以外]
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
再生可能エネルギー OMV ペトロム(OMV Petrom) オーストリア 2024年6月 7億5,000万ユーロ オーストリアの石油大手OMVのルーマニア子会社OMVペトロムは、ルーマニアの首都ブカレストの北郊にあるペトロブラジ(Petrobrazi)製油所への出資を発表した。SAF/HVOの生産工場とグリーン水素の生産施設を2棟建設予定。
再生可能エネルギー ナラ・リニュアブルズ(Nala Renewables) 英国 2024年8月 非公表 オランダの大手資源商社トラフィギュラ(Trafigura)とオーストラリアの投資管理会社IFMインベスターズ(IFM Investors)が所有する、再生可能エネルギーのバリューチェーン全体にわたる幅広い専門知識を有するナラ・リニュアブルズは、ルーマニア東部ガラツィ県での風力発電所事業の取得を発表した。
自動車部品 フフ(Huf) ドイツ 2024年4月 非公表 ドイツのフフグループは、ルーマニア西部ティミショアラでの、製品の品質を検証する同社最大の試験・検証施設(テクニカルセンター・ルーマニア・ラボラトリー:TCRL)の開設を発表した。フフは2031年までに売上高20億ユーロを目指しており、目標達成に向けTCRLの技術力を強化する。

〔出所〕各社発表および報道などから作成

表4-2 ルーマニアの主な対内直接投資案件(2024年)[M&A]
被買収企業(事業) 買収企業 時期 投資額 概要
業種 企業名 企業名 国籍
再生可能エネルギー エヴリオ(Evryo)グループ ギリシャ電力公社(PPC) ギリシャ 2024年11月 7億ユーロ 南・東欧最大のクリーンエネルギー企業であるギリシャのPPCは、エヴリオのルーマニアにおける再生可能エネルギー発電事業の買収完了を発表した。
再生可能エネルギー イベルドローラ(Iberdrola)グループ プレミア・エナジー
(Premier Energy)
チェコ 2024年7月 8,800万ユーロ チェコの投資運用会社エマ・キャピタル(Emma Capital)が所有するエネルギー供給会社プレミア・エナジーは、スペインの電力事業大手イベルドローラグループが保有するルーマニアの風力発電所の買収完了を発表した。
金融 テレクレジット IFN
(Telecredit IFN)
プラグマGO(PragmaGO) ポーランド 2024年12月 578万5,000ユーロ ポーランドの金融サービス会社プラグマGOは、テレクレジット IFNの株式89.0%を取得と発表した。
再生可能エネルギー レノバティオ・アセット・マネジメント
(Renovatio Asset Management)
OMV ペトロム
(OMV Petrom)
オーストリア 2024年1月 非公表 OMVペトロムは2024年1月、ルーマニア国内400カ所以上で電気自動車(EV)の充電設備を展開するレノバティオ・アセット・マネジメントを買収すると発表。
再生可能エネルギー エレクトロセントラル・ボルゼスツィ
(Electrocentrale Borzesti)
OMV ペトロム
(OMV Petrom)
オーストリア 2024年10月 非公表 OMVペトロムは2024年10月、ルーマニアで合計1ギガワットの再生可能性エネルギー発電(風力発電 950MW、太陽光発電 50MW)を手がけるエレクトロセントラル・ボルゼスツィの株式50%について、RNVインフラストラクチャー(RNV Infrastructure)からの取得完了を発表した。

〔出所〕各社発表および報道などから作成

対外直接投資は引揚超過も超過幅は大幅減

NBRによると、2024年の対外直接投資は3,162万ユーロの引き揚げ超過となり(国際収支ベース、ネット、フロー)、前年の3億8,288万ユーロの引き揚げ超過から減少した。2024年発表の主な対外直接投資案件は、通信およびIT分野での拡張投資が目立った。通信大手ディジ・コミュニケーションズ (DIGI Communications) のポルトガル子会社ディジ・ポルトガル(Digi Portugal)は2024年10月、スペインの通信会社ロルカJVCO(Lorca JVCO)からポルトガルの子会社カボニテル(Cabonitel)を買収したと発表した(金額非公開)。同年5月には、ブリュッセルに子会社を正式に開設し、ベルギー市場の通信事業にも本格的に進出している。ブカレストに本社を置くウイルス対策ソフトウエア開発会社のビットディフェンダー(BitDefender)は2023年のシンガポール企業ホランギ・サイバーセキュリティー(Horangi Cyber Security)の買収に続き、2024年1月にはシンガポールに新しいセキュリティーオペレーションセンター(SOC)を開設したと発表した。アジア太平洋地域全体で事業を展開する多国籍企業に対するサービス強化を図る。ルーマニア国営石油会社ロムガス(ROMGAZ)は同年5月、モルドバの首都キシナウに支店を新設した。地域レベルでの天然ガス供給体制の拡充を目的とする。

表5-1 ルーマニアの主な対外直接投資案件(2024年)[M&A以外]
業種 企業名 投資先国 時期 投資額 概要
情報・通信 ディジ・コミュニケーションズ(DIGI Communications) ベルギー 2024年5月 非公表 通信大手ディジ・コミュニケーションズは、ブリュッセルに子会社を開設し、ベルギー市場への通信事業進出を発表した。
ソフトウエア開発 ビットディフェンダー(BitDefender) シンガポール 2024年1月 非公表 ウイルス対策ソフトウエア開発会社のビットディフェンダーは、シンガポールに新しいセキュリティーオペレーションセンター(SOC)を開設と発表した。
エネルギー ロムガス(ROMGAZ) モルドバ 2024年5月 非公表 ルーマニア国営石油会社ロムガスは2024年5月、地域レベルの天然ガス供給拡充のためモルドバの首都キシナウに新しい支店を開設と発表した。

〔出所〕各社発表および報道などから作成

表5-2 ルーマニアの主な対外直接投資案件(2024年)[M&A]
買収企業 被買収企業(事業) 時期 投資額 概要
企業名 業種 企業名 国籍
ディジ・コミュニケーションズ(DIGI Communications) 通信サービス カボニテル(Cabonitel) ポルトガル 2024年10月 非公表 通信大手ディジ・コミュニケーションズは、スペインの通信会社ロルカJVCO(Lorca JVCO)からポルトガルの子会社カボニテルを買収したと発表。

〔出所〕各社発表および報道などから作成

対日関係 
天然蜂蜜の輸出が大幅減

2024年の対日貿易は、輸出が前年比1.6%増の7億7,300万ユーロ、輸入が9.7%増の4億4,700万ユーロだった。前年に引き続き対日貿易収支は黒字で、黒字額は3億2,600万ユーロとなった。

対日輸出を主要品目別にみると、7割強(構成比73.7%)を占める最大品目のたばこ・たばこ製品が前年比4.0%減となった一方、木材・木炭(12.8%)は36.3%増、電気機械・電気機器(5.1%)は42.9%増、光学機器・精密機器(3.1%)は47.9%増、原子炉・ボイラー・機械類(0.8%)は30.8%増と高い伸びを示した。他方で、乳製品、卵、蜂蜜、動物由来の食用製品(0.3%)のうち天然蜂蜜(0.3%)は56.6%減と大幅に減少した。2024年の極端な気象条件により国内生産量が落ち込んだことが主因である。

対日輸入を主要品目別にみると、最大品目である輸送用機器(構成比44.4%)が前年比38.8%増だった。そのうち、乗用車(39.4%)は40.0%増、自動車・トラクター部品(3.1%)は71.1%増といずれも好調だった。同様に、鉄鋼製品(4.9%)が43.3%増、ゴム・ゴム製品(4.1%)も42.5%増と伸長した。一方、鉄鋼(1.6%)は61.5%減、原子炉・ボイラー・機械類(10.5%)は12.0%減、医薬品(0.4%)は78.9%減と大きく減少した。

表6-1 ルーマニアの対日主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
たばこ・たばこ製品 594 570 73.7 △ 4.0
木材・木炭 73 99 12.8 36.3
電気機械・電気機器 28 39 5.1 42.9
光学機器・精密機器 16 24 3.1 47.9
ゴム・ゴム製品 7 8 1.0 12.4
衣類・衣類付属品(編んでいない物) 6 6 0.8 6.3
原子炉・ボイラー・機械類 5 6 0.8 30.8
輸送機器 3 3 0.5 8.2
階層レベル2の項目自動車・トラクター部品 3 3 0.4 7.7
プラスチック・プラスチック製品 3 3 0.4 △ 3.7
乳製品、卵、蜂蜜、動物由来の食用製品 5 2 0.3 △ 56.6
階層レベル2の項目天然蜂蜜 5 2 0.3 △ 56.6
家具、その他 3 2 0.3 △ 4.8
合計(その他含む) 761 773 100.0 1.6

〔出所〕ルーマニア国家統計局

表6-2 ルーマニアの対日主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
輸送用機器 143 199 44.4 38.8
階層レベル2の項目乗用車 126 176 39.4 40.0
階層レベル2の項目自動車・トラクター部品 8 14 3.1 71.1
電気機械・電気機器 67 66 14.7 △ 2.2
原子炉・ボイラー・機械類 54 47 10.5 △ 12.0
銅・銅製品 20 23 5.1 11.1
鉄鋼製品 15 22 4.9 43.3
ゴム・ゴム製品 13 18 4.1 42.5
光学機器・精密機器 14 14 3.1 2.4
プラスチック・プラスチック製品 15 13 2.9 △ 11.6
鉄鋼 18 7 1.6 △ 61.5
その他の化学製品 6 6 1.3 △ 7.7
医薬品 8 2 0.4 △ 78.9
合計(その他含む) 408 447 100.0 9.7

〔出所〕ルーマニア国家統計局

日系企業はデジタル、農業分野などで企業買収や拠点拡大の動き

2024年の日系企業による投資事例では、デジタルや再エネ開発のほか現地拠点設立や現地企業買収を通じた事業拡大の動きがみられた。

NTTデータ・ルーマニアとドイツ自動車大手BMWグループは2024年3月、ルーマニアに合弁会社を設立することで合意したと発表した。合弁会社はルーマニア北西部のクルージュ・ナポカ市に設立され、主にBMWグループの欧州内ITサポートおよび、製造、開発、人事、販売、金融サービス分野のITプロジェクトやイノベーションの推進を目的とする。同市はNTTデータ・ルーマニアの本拠地でもあり、同社はセルビア支社を含め約2,000人を雇用し、東欧地域のハブとして機能している。

住友商事は2024年6月、農業資材直販事業を展開するナチュレボ(Naturevo)を完全子会社化したと発表した。同社は1999年にルーマニアで設立され、同国全域に約1,500の販売先農家を有している。生産量を維持しつつ化学肥料の使用量削減が可能な高機能肥料を主力商品とする。買収は住友商事の子会社で同業のアルチェド(Alcedo)を通じて行った。これにより、アルチェドは高機能肥料の商権および販売ノウハウを獲得し、事業ポートフォリオを拡充することで、さらなる事業成長を目指すとしている。

日本精工(NSK)は2024年9月、ルーマニアのプラホバ県プロイェシュティに拠点を新設したことを発表した。営業・カスタマーサービス・技術サポートを通じてルーマニア全土をカバーし、特に鉄鋼・セメント・採鉱業向けの大型ベアリングの需要に対応することを目的とする。同社にとってルーマニアは戦略的市場であり、南・東欧における新たな成長拠点と期待している。

日本たばこ産業(JTI)ルーマニアは2024年10月、ルーマニアの首都ブカレストにITハブを設立したことを発表した。同社の全世界の企業活動を技術的にサポートする拠点で140人を雇用。ITハブではJTIの事業向けのビジネス・テクノロジー・ソリューションやデータ分析、ソフトウエア・エンジニアリング、サイバーセキュリティーなどの支援を提供する。

二国間関係では2024年11月に日本の経済産業省とルーマニア政府の間で経済、エネルギー、イノベーション・デジタル分野での協力に関する共同声明が署名された。共同声明では日本の先端技術を導入し、エネルギー安全保障のための原子力、水素、グリーンテクノロジーなどでの協力関係を深めることが合意された。日系企業による揚水発電所開発や水素と再エネ電源を組み合わせた自立型電力システムに関するプロジェクトの実現に向けた可能性調査への支援にも言及された。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2022年 2023年 2024年
実質GDP成長率 (%) 4.0 2.4 0.8
1人当たりGDP (米ドル) 15,593 18,413 20,278
消費者物価上昇率 (%) 13.8 10.4 5.6
失業率 (%) 5.6 5.6 5.4
貿易収支 (100万ユーロ) △ 32,047 △ 29,012 △ 32,866
経常収支 (100万ユーロ) △ 26,040 △ 21,491 △ 29,370
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 49,772 66,129 64,699
対外債務残高(グロス) (100万ユーロ) 143,886 183,239 203,575
為替レート (1米ドルにつき、ルーマニア・レイ、期中平均) 4.69 4.57 4.60


1人当たりGDP:2024年のみ暫定値
消費者物価上昇率:年平均
貿易収支:財のみ
貿易収支、経常収支:国際収支ベース
貿易収支、経常収支、対外債務残高:2024年のみ暫定値
出所
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:ルーマニア国家統計局
1人当たりGDP、外貨準備高、為替レート:IMF
貿易収支、経常収支、対外債務残高:ルーマニア国立銀行