イタリアの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2023年の実質GDP成長率は0.9%で前年を下回った。
  • 貿易は輸出が過去最高額をわずかながら更新したが、貿易収支の黒字額は直近10年間で最大だった2020年の約半分。
  • 対内・対外直接投資額は前年比でいずれも半減。
  • 日本からの輸入は前年比で微増、日本からの直接投資および対日直接投資は大幅に減少。

公開日:2024年11月29日

マクロ経済 
内需が牽引するも経済成長は減速

2023年のイタリアの実質GDP成長率は0.9%で前年の4.0%に比べ減速した。需要項目別では、国内総固定資本形成は前年比4.7%増、最終消費支出は民間・政府ともに1.2%増となった。財貨・サービスの輸入は0.5%減、財貨・サービスの輸出は0.2%増だった。寄与度でみると、成長率は主に在庫を差し引いた内需によって刺激され、消費と投資が同程度寄与した。純輸出はわずかなプラスにとどまり、在庫の変動はマイナスに寄与した。財とサービスの供給面では、付加価値額は建設業と多くのサービス業で伸びを示したが、農林水産業、鉱業・製造業・その他の産業活動全体では縮小した。

内需が堅調であった要因は、エネルギー製品価格の下落などによるインフレ率の低下、部分的な賃金の緩やかな上昇、また雇用の増加などに支えられ、主に民間最終消費支出が寄与したことによる。投資は、引き続きEUの復興基金を活用した復興パッケージによる投資計画の実施により補われる部分もあるが、欧州中央銀行(ECB)による利上げや、イタリア政府による建設に対する税制優遇措置「スーパーボーナス」の制度変更により建設投資への後押しが欠如し、力強さを欠いた。

イタリア国家統計局 (ISTAT)は、2024年6月6日に発表した経済見通しで、在庫を差し引いた内需と純輸出の寄与によって支えられるとし、2024年の実質GDP成長率を1.0%と予測した。同年の個人消費は、労働市場の強化と実質賃金の上昇によって引き続き支えられるが、貯蓄志向の上昇によって抑制される見込み。2025年には個人消費が加速し、同年の経済成長は主に内需が牽引すると見込んだ。一方、2024年の投資は減速することが予測されており、前述の建設向けのインセンティブによる効果が薄れることによるもので、復興パッケージによる投資計画の推進と金利低下の効果を一部相殺するとしている。

表1 イタリアの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年 2024年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1
実質GDP成長率 4.0 0.9 0.3 △ 0.1 0.4 0.1 0.3
階層レベル2の項目民間最終消費支出 4.9 1.2 0.7 0.4 0.8 △ 1.4 0.3
階層レベル2の項目政府最終消費支出 1.0 1.2 1.3 △ 1.2 0.1 0.6 0.1
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 8.6 4.7 2.1 0.2 1.4 2.0 0.5
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 10.2 0.2 △ 1.4 △ 1.0 1.1 1.2 0.6
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 12.9 △ 0.5 1.5 0.1 △ 2.0 0.1 △ 1.7

〔注〕四半期の伸び率は前期比(季節調整済み)。
〔出所〕イタリア国家統計局(ISTAT)

貿易 
輸出は前年と同水準を維持し、貿易収支が改善

2023年の貿易は、輸出は前年比横ばいの6,262億400万ユーロ、輸入は前年比10.4%減の5,918億3,100万ユーロとなり、輸出は過去最高額をわずかながら更新した。貿易収支は343億7,300万ユーロの黒字となり、前年の340億5,400万ユーロの赤字から黒字に転じた。2022年からのインフレ圧力の弱まりが主要因となった。ただし、黒字額はここ10年間で最大だった2020年(632億8,900万ユーロ)の約半分にとどまっている。主要貿易相手国のドイツをはじめとしたEU諸国の経済成長の鈍化やインフレの継続が影響した。

輸出を品目別にみると、イタリア最大の輸出品目である機械(構成比16.1%)は前年比8.8%増で、主力の非家庭用冷蔵・換気機器、家庭用エアコンディショナーが21.8%増加し、持ち上げ・運搬機器も23.7%増と伸びを支えた。2023年のイタリアの空調産業は国内生産が16%以上増加した上、国内総生産に占める輸出比率の成長が続いており、国際市場での競争力強化を示す結果となった。構成比が2番目の輸送機器(10.8%)は10.5%増となった。特に自動車は、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)拡大以来の課題であったサプライチェーンの問題が徐々に解消されつつあることにも起因し、輸出が14.7%増加した。自動車用その他の部品および付属品は16.7%増となり、同業界のイノベーション、製品および生産工程の品質や柔軟性を追求する傾向が、国際市場におけるサプライチェーンのポジショニングを支え、好調な結果となった。構成比が3番目の金属製品(10.4%)は、11.3%減となった。主力の鉄・鋳鉄・鋼鉄・合金鉄は、2022年の生産コスト上昇に関連した輸出額増から転じ、12.7%減となり全体の輸出額を押し下げた。構成比が4番目の繊維・衣料品・皮革製品(10.4%)は、0.3%減で、特に主力の靴、オーダーメイドアウターウエア、その他の鞄・ハンドバッグ・革製品などは、それぞれ17.8%増、16.6%増、18.5%増だったものの、品目全体では穏やかに減少した。靴は国内市場、国際市場ともに需要の後退により輸出数量は減少したものの、インフレなどで金額は増加した。EU域内では主要市場のフランス向け(高級ブランドへの下請け含む)は数量・金額ともに増加したが、ドイツ向けはいずれも減少した。そのほか、輸出額の伸びに特に寄与したのは、食品・飲料・たばこ(8.8%)の5.8%増、医薬品(7.8%)の3.0%増だった。食品・飲料・たばこでは、特に乳副産物(クリーム、バター、ヨーグルトなど)が20.7%増、加工された果物・野菜(果物・野菜ジュースを除く)が23.4%増だった。医薬品の内訳では、主力の医薬品およびその他の製剤が52.7%増と牽引した。

輸出を国・地域別にみると、EU(構成比51.6%)が前年比2.2%減となった。最大の輸出相手国であるドイツ(11.9%)は3.6%減で、同国への最大輸出品目の自動車は28.7%増となったものの、医薬品およびその他の製剤が20.5%減、鉄・鋳鉄・鋼鉄・合金鉄は29.2%減となった。

EU域外では、アジア大洋州で最も構成比が大きい中国(構成比3.1%)は、前年比16.8%増で、医薬品およびその他の製剤が約3倍となるなど伸長した。ロシア(0.7%)は19.9%減で、最大輸出品目のアウターウエア(27.4%増)や、靴(29.1%増)、香水・化粧品・石鹸など(47.5%増)は増えたものの、医薬品およびその他の製剤(12.8%減)、タップおよびバルブ(31.7%減)など多くの品目で減少した。ウクライナ(0.3%)は33.2%増で、たばこの46.7%増、香水・化粧品・石鹸などの74.1%増、武器および弾薬の10.1倍、食品・飲料・たばこ産業用機械の89.5%増などが牽引した。

輸入を品目別にみると、最大輸入品目の鉱物・石油・天然ガス(構成比11.7%)は、前年比39.1%減となり、特に天然ガスが13.2%減となった。2022年の記録的な価格・需要高騰に対し、2023年は天候が平穏だったことに伴う需要縮小、価格の下落、対ドルでのユーロ高など、さまざまな要因が影響した。

輸送機器(構成比10.6%)は前年比24.8%増となり、特に自動車が39.3%増、自動車用その他の部品および付属品が19.3%増となった。金属製品(10.5%)は15.6%減となり、貴金属および半製品は24.7%増となったものの、主力の鉄・鋳鉄・鋼鉄・合金鉄が26.4%減となり輸入額を押し下げた。

輸入を国・地域別にみると、EU(構成比57.0%)が前年比0.4%減となった。最大の輸入相手国であるドイツ(15.2%)は0.1%減で、主力の自動車は26.3%増と寄与したが、医薬品およびその他の製剤が31.7%減、一次加工プラスチックが18.6%減となった。

EU域外では、ドイツに次ぐ輸入相手国である中国(構成比8.0%)が前年比17.8%減となった。電気モーター・発電機・変圧器が50.6%減、電気通信用その他の電気・電子機器が17.4%減、鉄・鋳鉄・鋼鉄・合金鉄が29.1%減となるなど、輸入額を押し下げた。天然ガスの輸入相手上位国であるアルジェリア(2.4%)、アゼルバイジャン(2.0%)、カタール(0.5%)では、それぞれ天然ガスの輸入額は21.0%減、62.4%減、51.3%減と大きく減少したが、輸入量(キログラム)はそれぞれ1.5%増、3.6%減、4.5%増と、輸入額ほどの大きな変化はなく、2022年に比べて価格が安定したと言える。一方で2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻により、政府が進めてきた天然ガスのロシア依存脱却を受け、ロシア(0.7%)は85.0%減となり、同国からの天然ガスの輸入額は88.8%減、輸入量も78.2%減と、引き続き減少している。

表2 イタリアの主要品目別輸出入(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
機械 92,958 101,126 16.1 8.8 42,337 42,843 7.2 1.2
輸送機器 61,019 67,444 10.8 10.5 50,285 62,731 10.6 24.8
金属製品 73,542 65,228 10.4 △ 11.3 73,726 62,217 10.5 △ 15.6
繊維・衣料品・皮革製品 65,295 65,077 10.4 △ 0.3 40,999 39,644 6.7 △ 3.3
食品・飲料・たばこ 52,332 55,348 8.8 5.8 40,470 43,282 7.3 6.9
医薬品 47,713 49,124 7.8 3.0 38,625 38,418 6.5 △ 0.5
化学品 43,433 39,762 6.3 △ 8.5 61,163 53,725 9.1 △ 12.2
その他製造業の製品 34,806 35,995 5.7 3.4 18,333 18,467 3.1 0.7
ゴム・プラスチック・非金属鉱物製品 34,785 32,947 5.3 △ 5.3 22,571 21,914 3.7 △ 2.9
電気機器 30,687 31,756 5.1 3.5 29,086 29,502 5.0 1.4
コンピューター・電子・光学機器 21,578 21,736 3.5 0.7 39,426 39,071 6.6 △ 0.9
燃料・石油精製品 25,244 19,347 3.1 △ 23.4 15,586 12,678 2.1 △ 18.7
木材・木工品・紙製品・印刷物 12,340 10,721 1.7 △ 13.1 16,433 14,098 2.4 △ 14.2
農林水産物 8,374 8,832 1.4 5.5 21,251 21,815 3.7 2.7
鉱物・石油・天然ガス 3,087 2,743 0.4 △ 11.1 113,274 68,971 11.7 △ 39.1
合計(その他を含む) 626,195 626,204 100.0 0.0 660,249 591,831 100.0 △ 10.4

〔注〕 EU 域外貿易は通関ベース(輸出はFOB、輸入はCIF)、EU 域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
〔出所〕 イタリア国家統計局(ISTAT)

表3 イタリアの主要国・地域別輸出入(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
EU 330,452 323,021 51.6 △ 2.2 338,646 337,333 57.0 △ 0.4
階層レベル2の項目ユーロ圏 264,691 258,313 41.3 △ 2.4 277,561 277,410 46.9 △ 0.1
階層レベル3の項目ドイツ 77,462 74,652 11.9 △ 3.6 89,780 89,685 15.2 △ 0.1
階層レベル3の項目フランス 63,109 63,359 10.1 0.4 48,158 46,537 7.9 △ 3.4
階層レベル3の項目スペイン 32,295 32,962 5.3 2.1 31,073 32,757 5.5 5.4
階層レベル3の項目ベルギー 22,896 19,308 3.1 △ 15.7 25,637 26,732 4.5 4.3
階層レベル3の項目オランダ 18,562 18,508 3.0 △ 0.3 36,910 36,405 6.2 △ 1.4
階層レベル3の項目オーストリア 14,483 14,098 2.3 △ 2.7 13,789 12,894 2.2 △ 6.5
階層レベル2の項目非ユーロ圏 58,089 57,393 9.2 △ 1.2 53,526 56,943 9.6 6.4
階層レベル3の項目ポーランド 19,500 19,797 3.2 1.5 15,029 16,085 2.7 7.0
階層レベル3の項目ルーマニア 9,933 10,216 1.6 2.8 8,909 9,574 1.6 7.5
階層レベル3の項目チェコ 8,498 8,388 1.3 △ 1.3 8,516 9,222 1.6 8.3
階層レベル3の項目スウェーデン 6,386 6,142 1.0 △ 3.8 6,349 6,224 1.1 △ 2.0
階層レベル3の項目ハンガリー 6,381 5,813 0.9 △ 8.9 7,766 8,490 1.4 9.3
階層レベル3の項目デンマーク 4,161 3,729 0.6 △ 10.4 3,140 3,563 0.6 13.5
階層レベル3の項目ブルガリア 3,229 3,309 0.5 2.5 3,817 3,786 0.6 △ 0.8
スイス 31,056 30,527 4.9 △ 1.7 18,467 17,936 3.0 △ 2.9
英国 27,270 26,089 4.2 △ 4.3 8,212 8,727 1.5 6.3
トルコ 13,406 14,267 2.3 6.4 12,245 11,548 2.0 △ 5.7
ロシア 5,817 4,660 0.7 △ 19.9 27,159 4,062 0.7 △ 85.0
ウクライナ 1,316 1,752 0.3 33.2 1,942 1,710 0.3 △ 12.0
アゼルバイジャン 306 376 0.1 23.0 20,227 11,882 2.0 △ 41.3
アジア大洋州 61,119 64,894 10.4 6.2 100,161 85,097 14.4 △ 15.0
階層レベル3の項目中国 16,420 19,172 3.1 16.8 57,868 47,589 8.0 △ 17.8
階層レベル3の項目ASEAN 9,257 9,745 1.6 5.3 15,078 12,352 2.1 △ 18.1
階層レベル3の項目日本 8,077 8,046 1.3 △ 0.4 5,255 5,435 0.9 3.4
階層レベル3の項目韓国 7,063 6,705 1.1 △ 5.1 6,017 5,763 1.0 △ 4.2
階層レベル3の項目オーストラリア 5,253 5,241 0.8 △ 0.2 1,182 825 0.1 △ 30.2
階層レベル3の項目インド 4,812 5,176 0.8 7.6 10,045 9,164 1.5 △ 8.8
階層レベル3の項目香港 4,570 4,998 0.8 9.4 333 471 0.1 41.3
階層レベル3の項目台湾 2,527 2,295 0.4 △ 9.2 3,431 2,639 0.4 △ 23.1
北米 77,008 79,774 12.7 3.6 28,030 28,214 4.8 0.7
階層レベル3の項目米国 65,082 67,266 10.7 3.4 24,909 25,172 4.3 1.1
階層レベル3の項目カナダ 6,372 6,326 1.0 △ 0.7 1,858 1,854 0.3 △ 0.2
階層レベル3の項目メキシコ 5,555 6,182 1.0 11.3 1,264 1,187 0.2 △ 6.1
中東 23,687 24,956 4.0 5.4 43,475 29,162 4.9 △ 32.9
階層レベル3の項目アラブ首長国連邦(UAE) 6,023 6,679 1.1 10.9 2,040 2,152 0.4 5.5
階層レベル3の項目サウジアラビア 4,086 4,876 0.8 19.3 7,434 5,955 1.0 △ 19.9
階層レベル3の項目イスラエル 3,546 3,353 0.5 △ 5.4 1,227 996 0.2 △ 18.8
階層レベル3の項目カタール 3,417 2,654 0.4 △ 22.3 5,911 3,004 0.5 △ 49.2
アフリカ 21,388 20,439 3.3 △ 4.4 48,243 39,047 6.6 △ 19.1
階層レベル3の項目チュニジア 4,001 3,349 0.5 △ 16.3 3,118 3,516 0.6 12.8
階層レベル3の項目エジプト 3,748 3,325 0.5 △ 11.3 3,143 2,635 0.4 △ 16.2
階層レベル3の項目アルジェリア 2,309 2,816 0.4 22.0 18,227 14,079 2.4 △ 22.8
階層レベル3の項目モロッコ 2,816 2,784 0.4 △ 1.1 1,625 1,976 0.3 21.6
階層レベル3の項目南アフリカ 2,375 2,218 0.4 △ 6.6 2,665 2,319 0.4 △ 13.0
階層レベル3の項目リビア 2,172 1,701 0.3 △ 21.7 9,972 7,365 1.2 △ 26.1
中南米 19,073 19,648 3.1 3.0 14,279 11,730 2.0 △ 17.9
階層レベル3の項目ブラジル 5,092 5,373 0.9 5.5 5,606 4,557 0.8 △ 18.7
合計(その他を含む) 626,195 626,204 100.0 0.0 660,249 591,831 100.0 △ 10.4

〔注1〕アジア大洋州はASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港および台湾を加えた合計値。北米は、米国、カナダ、メキシコの3カ国の合計値。
〔注2〕ユーロ圏と非ユーロ圏の合計がEUと合致しないのは統計上どの国にも分類できない誤差脱漏が含まれていないため。
〔注3〕EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
〔出所〕 イタリア国家統計局(ISTAT)

対内・対外直接投資 
EU域内の対内・対外直接投資額ともに前年比で大幅減

イタリア銀行(以下、中銀)によると、2023年の対内直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年比55.8%減の261億6,000万ユーロとなった。主要な投資元であるEUのうち、ドイツ、スウェーデン、オーストリアがそれぞれ55.4%減、76.7%減、67.5%減となったほか、オランダは引き揚げ超過へ転じた。一方、ベルギー、フランスからの投資はそれぞれ80.3%増、16.1%増と拡大した。

2023年の主な対内直接投資案件をみると、フランス電力(EDF)を親会社とするイタリアのエネルギー大手エジソン(Edison)は6月、北部ベネチア近隣のマルゲラに最新型の熱電発電プラントを完成させたと発表した。新型タービンは、天然ガスと混合した水素の使用も可能とし、窒素酸化物の排出量を最大70%、炭素排出量を最大30%削減することができる、国内で最もエネルギー効率の高い発電所の1つと期待される。また、クラウドなどの世界最大手プロバイダーの米国デジタル・リアルティ(Digital Realty)は9月、地中海地域でのデジタル需要増への対応、他地域とのグローバルな接続ハブとしての役割拡大、イタリア国内および国際的ネットワークインフラの耐障害性を高めるため、ローマにおけるデータセンターの設置を発表した。

コンサルティング企業アーンスト・アンド・ヤング(EY)によると、2023年のイタリアにおけるM&A案件は、経済的にも地政学的にも不透明な情勢が影響し、各企業がより慎重な投資選択を行ったことにより、M&Aの平均取引規模が縮小し、2022年に比してM&A総額、件数ともに減少した。しかし、2022年が新型コロナ拡大収束後のM&A活動再開という特殊な側面があったことを考慮すると、2023年のM&A件数は新型コロナ感染拡大前を上回る水準を維持しており、堅調と言える。

海外企業によるM&A案件では、スイスのアケルナル・アセッツ(Achernar Assets)が2023年10月、子会社のアケルナル・エナジー(Achernar Energy)を通じて、ERG パワーの全株式を取得した。シチリア州シラクーサの工業用地内において、天然ガスを燃料とする環境負荷が低く熱効率の高いコンバインドサイクル・ガスタービン(CCGT)、脱塩プラント、内部配電網を所有・管理する事業を展開する。英国スリー・ヒルズ・キャピタル・パートナーズ(Three Hills Capital Partners)は同年5月、革新的なデジタルマーケティングとデジタルトランスフォーメーション(DX)関連のアドバイザリーサービスを提供するデジタル360(Digital360)と投資契約を締結したと発表し、同年7月に買収を完了した。デジタル360の野心的なM&A戦略に資金を提供していく。

中銀によると、2023年の対外直接投資額(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年比51.8%減の213億4,700万ユーロとなった。主力の欧州向けでは、フランスや英国向けの投資が前年比で拡大した。EU加盟国の中ではフランス向けが15.7倍となったが、EU向け全体では34.2%減と投資は縮小した。

2023年の主な対外直接投資案件をみると、イタリアのエネルギー大手エニ(Eni)とノルウェーのハイテク・ヴィジョンの合弁会社ヴォールグローン(Vargronn)が11月、北海における最大1.9ギガワット(GW)容量の浮体式洋上風力発電所2基の開発について、英国フロテーション・エナジー(Flotation Energy)と独占契約を締結した。また、サウジアラビアの政府系ファンドの公共投資基金(PIF)とイタリアのタイヤメーカー、ピレリ(Pirelli)は10月、サウジアラビアにタイヤ製造施設を建設する合弁事業契約に調印したと発表した。

EYによると、イタリア企業による海外M&A案件は、2022年と同水準の件数であり、エネルギー、金融サービス、製薬部門での大型案件が目立ち、総額でも前年比で増加傾向だった。各企業が、原材料や半製品の調達サプライチェーンを再編成する動きが目立った。

イタリア企業によるM&A案件では、キエジ・ファーマ(Chiesi Pharma)が2023年4月、希少疾患の新規治療薬の買収、開発、商業化を専門とする世界的なバイオ医薬品企業である英国のアムリット・ファーマ(Amryt Pharma)の買収完了を発表した。また、グリーンフィールド・インフラ・プロジェクトに特化した投資企業のソステネオ(Sosteneo)は、英国のパシフィック・グリーン・バッテリー・エナジー・パークス2( Pacific Green Battery Energy Parks 2)の100%株式取得契約を締結したと発表。これにより、英国ケント州で2025年7月に商業運転開始予定のバッテリーエネルギー貯蔵システム「シーフ・エナジー・パーク」を取得する。また、マルチェガリア(Marcegaglia)はフィンランドの多国籍ステンレス鋼メーカー、アウトクンプ(Outokumpu)のステンレス鋼長尺製品部門の全主要企業の100%買収を完了したと発表した。欧州および米国の5つの生産工場を含み、サプライチェーンの短縮と安定化を図り、持続可能かつ競争力のある製品開発のため、バリューチェーン上流部分の統合を実現する。

表4 イタリアの国・地域別対内・対外直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
国・地域 対内直接投資 対外直接投資
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 伸び率 金額 金額 伸び率
EU 49,277 23,963 △ 51.4 20,352 13,395 △ 34.2
階層レベル2の項目ベルギー 6,826 12,310 80.3 △ 941 77
階層レベル2の項目フランス 5,443 6,322 16.1 58 909 1,467.2
階層レベル2の項目ルクセンブルク 5,523 6,241 13.0 △ 1,955 2,575
階層レベル2の項目ドイツ 5,858 2,614 △ 55.4 3,667 2,338 △ 36.2
階層レベル2の項目スウェーデン 1,976 461 △ 76.7 551 △ 3
階層レベル2の項目オーストリア 1,392 453 △ 67.5 1,051 536 △ 49.0
階層レベル2の項目チェコ 188 427 127.1 1,018 392 △ 61.5
階層レベル2の項目アイルランド 2,147 396 △ 81.6 2,181 1,177 △ 46.0
階層レベル2の項目スペイン 1,196 299 △ 75.0 1,528 △ 261
階層レベル2の項目オランダ 17,521 △ 6,376 5,244 5,637 7.5
スイス 3,672 2,431 △ 33.8 2,235 1,538 △ 31.2
ウクライナ △ 27 6 △ 49 △ 4 △ 91.8
ロシア 389 △ 21 90 82 △ 8.9
英国 524 △ 2,377 1,670 2,591 55.1
アフリカ △ 222 96 1,245 △ 1,019
階層レベル2の項目アルジェリア △ 85 37 △ 35 △ 733 1,994.3
階層レベル2の項目エチオピア △ 83 25 △ 15 20
階層レベル2の項目南アフリカ △ 2 7 349 76 △ 78.2
階層レベル2の項目エジプト 127 6 △ 95.3 396 △ 656
北米 3,192 1,284 △ 59.8 9,268 4,259 △ 54.0
階層レベル2の項目米国 3,111 1,201 △ 61.4 8,520 3,576 △ 58.0
階層レベル2の項目カナダ 37 79 113.5 551 419 △ 24.0
階層レベル2の項目メキシコ 44 4 △ 90.9 197 264 34.0
中南米 260 70 △ 73.1 2,968 1,623 △ 45.3
階層レベル2の項目アルゼンチン 65 69 6.2 489 250 △ 48.9
階層レベル2の項目ブラジル 72 5 △ 93.1 1,092 740 △ 32.2
階層レベル2の項目チリ 23 1 △ 95.7 974 438 △ 55.0
階層レベル2の項目ベネズエラ 64 △ 30 3 51 1,600.0
アジア大洋州 807 634 △ 21.4 4,626 △ 818
階層レベル2の項目中国 394 330 △ 16.2 1,633 △ 26
階層レベル2の項目韓国 163 126 △ 22.7 267 179 △ 33.0
階層レベル2の項目日本 829 65 △ 92.2 697 82 △ 88.2
階層レベル2の項目オーストラリア 81 62 △ 23.5 291 △ 1,080
階層レベル2の項目タイ 64 40 △ 37.5 35 27 △ 22.9
階層レベル2の項目インド △ 89 22 441 △ 201
階層レベル2の項目マレーシア 46 3 △ 93.5 35 5 △ 85.7
階層レベル2の項目台湾 △ 222 0 2 6 200.0
階層レベル2の項目香港 △ 482 △ 5 829 179 △ 78.4
階層レベル2の項目シンガポール 21 △ 16 294 84 △ 71.4
中東 164 △ 140 1,020 △ 1,202
階層レベル2の項目アラブ首長国連邦(UAE) 33 17 △ 48.5 172 87 △ 49.4
階層レベル2の項目トルコ 431 16 △ 96.3 1,021 422 △ 58.7
階層レベル2の項目サウジアラビア △ 18 8 67 △ 187
階層レベル2の項目イラン 33 1 △ 97.0 △ 164 △ 7
階層レベル2の項目カタール △ 177 △ 11 △ 41 △ 214
階層レベル2の項目イスラエル △ 154 △ 163 △ 29 128
合計(その他含む) 59,150 26,160 △ 55.8 44,302 21,347 △ 51.8

〔注〕アジア大洋州は、ASEAN+ 6 (日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
北米は、米国、カナダ、メキシコの3カ国の合計値。EU、アフリカ、中南米、中東は表に掲載していない国も含む。
〔出所〕イタリア銀行

表5-1 イタリアの主な対内直接投資案件(2023年~2024年2月)[M&A以外]
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
エネルギー バイワアールイー(BayWar.e.) ドイツ 2024年2月 約60億ユーロ ドイツのバイワアールイーは、イタリアにおける洋上風力発電事業を大幅に加速させていると発表した。合計14基の浮体式洋上風力発電所を開発中で、その内3〜5件のプロジェクトが2030年までに稼動し、総容量は約2ギガワット(GW)になると予測。これらの発電所の開発と建設に約60億ユーロの投資を見込む。
エネルギー フランス電力(EDF) フランス 2023年6月 4億ユーロ フランス電力(EDF)を親会社とするイタリアのエネルギー大手エジソン(Edison)は、北部ベネチア近隣のマルゲラに最新型の高効率熱電発電プラント〔容量780メガワット(MW)、熱効率63%〕を開設したと発表。新型タービンは、天然ガスと混合した水素の使用も可能とし、イタリア国内熱電発電プラントの平均に比して、窒素酸化物の排出量を最大70%、炭素排出量を最大30%削減することができる、国内で最もエネルギー効率の高い発電所の1つと期待される。
エネルギー アイラ(Aira) スウェーデン 2023年11月 非公開 スウェーデンのクリーン・エネルギー・テック企業アイラは、家庭向けインテリジェント・ヒートポンプを核とした革新的で利用しやすいクリーン・エネルギー技術ソリューションを展開すべく、イタリアで事業を開始したと発表した。イタリアでは一般家庭の67%がボイラー暖房に化石燃料を使用しており、ヒートポンプに置換することにより、40%超のコスト削減および75%のエネルギー消費量と二酸化炭素(CO2)排出量の削減が見込まれる。
デジタルインフラ デジタル・リアルティ(Digital Realty) 米国 2023年9月 非公開 クラウドなどの世界大手プロバイダーである米国デジタル・リアルティは、地中海地域でのデジタル需要増への対応、他地域とのグローバルな接続ハブとしての役割拡大、イタリア国内および国際的なネットワークインフラの耐障害性を高めるため、ローマにおけるデータセンターの設置を発表した。建設開始は2023年第4四半期を予定。
蓄電池 パイロン・テクノロジーズ(Pylon Technologies) 中国 2023年5月 非公開 バッテリーエネルギー貯蔵システム大手の中国パイロン・テクノロジーズは、同社のオランダ法人とイタリアのエナジー(Energy)との合弁会社設立を発表した。エナジーが本社工場を置くイタリア北部ベネト州のサンタンジェロ・ディ・ピオーヴェ・ディ・サッコに、コバルトフリー・リチウム電池の製造拠点を設ける。特に太陽光発電パネルから生産されるエネルギーの貯蔵用途を見込み、欧州市場での拡販を目指す。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表5-2 イタリアの主な対内直接投資案件(2023年)[M&A]
被買収企業(事業) 買収企業 時期 投資額 概要
業種 企業名 企業名 国籍
エネルギー ERGパワー(ERG Power) アケルナル・アセッツ(Achernar Assets) スイス 2023年10月 1億9,150万ユーロ スイスのアケルナル・アセッツは、子会社のアケルナル・エナジー(Achernar Energy)を通じて、ERG パワージェネレーション(ERG Power Generation、ERGグループ会社)からERGパワーの全株式を取得した。シチリア州シラクーサのプリオロ・ガルガッロの工業用地内において、天然ガスを燃料とする環境負荷が低く、熱効率の高いコンバインドサイクル・ガスタービン(CCGT、発電容量480MW)、脱塩プラント、内部配電網を所有・管理する事業を展開する。
機械 チーマ(Cima) ルーミス(Loomis) スウェーデン 2023年7月 1億3,200万ユーロ 現金などの流通・取扱い・管理サービスを提供するスウェーデンのルーミスは、ミラノ・インベストメンツ・パートナーズ(Milano Investment Partners)からチーマの株式100%%を取得する契約を締結したと発表した。チーマは、紙幣や硬貨を認識、計算、処理し、安全に保管する自動現金処理装置の技術主導型開発企業で、研究開発に重点を置き、現金自動処理の分野で豊富な経験を有する。
自動車部品 エルドー・コーポレーション(Eldor Corporation) ボルグワーナー(BorgWarner) 米国 2023年6月 7,500万ユーロ 米国自動車部品大手のボルグワーナーは、株式売買契約を締結し、エルドー・コーポレーションのエレクトリック・ハイブリッド・システム(EHS)事業部門の買収に合意したと発表した。多様なグリッド構成に対応するコンパクトで効率的な400ボルト(V)、800Vの車載充電器のエンジニアリング能力の強化、革新的でコスト効率に優れた高周波DC(直流)/DCコンバータ技術をポートフォリオに加えることが狙い。
IT デジタル360(Digital360) スリー・ヒルズ・キャピタル・パートナーズ(Three Hills Capital Partners) 英国 2023年5月 最大6,400万ユーロ 英国の投資会社スリー・ヒルズ・キャピタル・パートナーズ は、革新的なデジタルマーケティングとデジタルトランスフォーメーション(DX)関連のアドバイザリーサービスを提供するデジタル360と投資契約を締結したと発表した。2023年7月に買収を完了。デジタル360はミラノ工科大学の教授グループによって設立された。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表6-1 イタリアの主な対外直接投資案件(2023年~2024年1月)[M&A以外]
業種 企業名 投資先国 時期 投資額 概要
タイヤ ピレリ(Pirelli) サウジアラビア 2023年10月 約5億5,000万ドル サウジアラビアの政府系ファンドの公共投資基金(PIF)とピレリは、同国にタイヤ製造施設を建設する合弁事業(JV)契約に調印したと発表した。新JVの株式のうち、PIFが75%、ピレリが25%を保有し、戦略的技術パートナーとして技術的・商業的支援を提供することでプロジェクトの開発を支援する。新JVは、2026年に年産350万本のタイヤ工場を稼働させる計画で、ピレリは新JVを通じて同国で最初のティア1タイヤメーカーとなる見込み。
蓄電システム ソステネオ(Sosteneo) オーストラリア 2023年10月 4億オーストラリアドル イタリアのグリーンインフラ投資専門会社ソステネオとオーストラリアの大手再生可能エネルギー企業エディファイ・エナジー(Edify Energy)は、オーストラリアのビクトリア州ケラン近郊のマレー河流域における、バッテリーエネルギー貯蔵システムの建設・運営について提携したと発表した。185メガワット(MW)/370メガワット時(MWh)の貯蔵システムで、ビクトリア州のエネルギー貯蔵目標(2030年までに少なくとも2.6GW)の実現に寄与する。
医薬品 オロン(Olon) 米国 2024年1月 非公開 医薬品原薬製造のオロンは、米国オハイオ州に最先端のHPAPI(High Potency Active Pharmaceutical Ingredient:低用量でも優れた効能と生物活性を持つ医薬品化合物)の開発・製造のための拠点を設置すると発表した。がん、希少疾患、その他難病の治療に資するHPAPI新薬を開発するスタートアップや医薬品企業へ、臨床開発から商業生産へのスケールアップのための特殊な装置・プロセスを提供するサービスを拡大する。
エネルギー エニ(Eni) スコットランド 2023年11月 非公開 イタリアのエネルギー大手エニとノルウェーのエネルギー関連投資会社のハイテク・ヴィジョン(Hitechvision)の合弁会社ヴォールグローン(Vargronn)は、英フロテーション・エナジー(Flotation Energy)と、クラウン・エステート・スコットランド(CES)が北海で進める最大1.9GW容量の浮体式洋上風力発電所2基の開発プロジェクトについて独占契約を締結した。2027年から一部稼働開始の計画であり、すべての洋上風力発電所が完成しフル稼働すると、年間300万トンの炭素排出削減が見込まれ、スコットランドの2045年ネットゼロ目標に大きく貢献する。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表6-2 イタリアの主な対外直接投資案件(2023年)[M&A]
買収企業 被買収企業(事業) 時期 投資額 概要
企業名 業種 国籍
アリストン・グループ(Ariston Group) 空調機器 ドイツ 2023年1月 6億3,505万ユーロ 暖房システムなどを製造するアリストン・グループは、暖房、換気、空気処理、熱電併給のソリューションを提供するドイツのリーディング・カンパニー、セントロテック・クライメート・システムズ(CENTROTEC Climate Systems)の株式100%の買収を完了したことを発表した。これにより、中・高級空調ソリューションをさらに強化、住宅用換気および空気処理にも拡大することで、欧州、特にドイツにおけるアリストン・グループのポジションを強化する。
マルチェガリア(Marcegaglia) 金属 フィンランド 2023年1月 約2億2,800万ユーロ 鉄鋼メーカーのマルチェガリアは、フィンランドの多国籍ステンレス鋼メーカー、アウトクンプ(Outokumpu)のステンレス鋼長尺製品部門の全主要企業の100%買収を完了したと発表した。英国、スウェーデン、米国などの5つの生産工場が含まれ、製品のサプライチェーンの短縮と安定化を図り、持続可能かつ競争力のある製品開発のため、バリューチェーン上流部分の統合を実現する。
ソステネオ(Sosteneo) 蓄電システム 英国 2023年11月 2億1,000万ポンド グリーンインフラ投資専門会社のソステネオは、英国パシフィック・グリーン・バッテリー・エナジー・パークス2(Pacific Green Battery Energy Parks 2)の株式100%の買収取引を締結した。これにより、2025年7月に商用稼働開始予定の英国ケント州のバッテリーエネルギー貯蔵システム、シーフ・エナジー・パーク(249MW/373.5MWh)を取得し、グリーンインフラのポートフォリオを増強する。
キエジ・ファーマ(Chiesi Farmaceutici) 医薬品 英国 2023年4月 非公開 呼吸器疾患、希少疾患、専門医療における革新的な治療ソリューションを開発・販売する研究開発型バイオ医薬品グループ、キエジ・ファーマは、希少疾患の新規治療薬の買収、開発、商業化を専門とする英国のバイオ医薬品企業アムリット・ファーマ(Amryt Pharma)の買収完了を発表した。同買収により、キエジ・ファーマは、承認された治療法への患者のアクセスを拡大し、希少疾患患者のための新たな治療薬の開発を強化する。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

対日関係 
対日輸出は横ばい、輸入は微増し、貿易収支は黒字縮小

2023年の対日貿易は、輸出が前年比0.4%減の80億4,600万ユーロ、輸入が3.4%増の54億3,500万ユーロとなった。貿易収支は26億1,100万ユーロで黒字となり、黒字額は前年比で縮小した。

対日輸出を品目別にみると、最大の輸出品目は繊維・衣料品・皮革製品(構成比26.8%)で、前年比12.4%増だった。特に鞄・ハンドバッグ・皮革製品が26.6%増、靴が27.2%増と輸出額を押し上げた。構成比が2番目に大きい食品・飲料・たばこ(20.9%)は2.0%減で、特にたばこの輸出は69.5%減となったほか、イタリアでのアフリカ豚熱の発生による、日本のイタリアからの豚肉などの一時輸入停止措置が継続しており、食肉製品の輸出は90.0%減となった。構成比が3番目に大きい輸送機器(16.8%)は8.4%増となり、自動車が5.4%増と牽引した。次いで構成比が大きい機械(8.5%)は、農業用トラクター、伝動装置(油圧式および自動車、航空機、バイク用を除く)、内燃機関(道路輸送用および航空機用を除く)、特殊用途機械などが伸長し、10.1%増となるなど、イタリアが強みを持つ製造業の対日輸出が好調だった。

対日輸入を品目別にみると、最大輸入品目の輸送機器(構成比33.9%)が前年比45.2%増と大きく伸び、特に自動二輪車が約3倍増、自動車が28.8%増、自動車用その他の部品および付属品が48.3%増と寄与した。構成比が2番目に大きい機械(20.9%)は、鉱山、採掘および建設用機械が56.4%増と伸長したが、金属成形用工作機械が19.3%減、伝動装置(油圧式および自動車、航空機、バイク用を除く)が42.4%減となるなど、品目全体では9.0%減少した。

2023年の日本からイタリアへの対内直接投資額は6,500万ユーロで前年比92.2%減となった。横浜ゴムの欧州事業統括会社であるヨコハマ・ヨーロッパ(Yokohama Europe)は同年8月、乗用車用およびトラック・バス用タイヤの販売会社(出資比率100%)をミラノに設立した。イタリアは欧州における主要市場の1つで、1989年に現地資本と合弁会社を設立し、主力ブランドであるヨコハマタイヤの拡販を行ってきたが、今後、経営の自由度を高めさらなる事業強化を図る。

日本企業によるM&A案件では、三菱ケミカルグループが2023年10月、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の自動車部材製造販売会社シーピーシー(C.P.C.)の全株式を取得すると発表した。燃費規制や二酸化炭素(CO2)排出量の削減強化を背景に自動車の軽量化が重要な課題となる中、シーピーシーの設計・開発力、成形技術、欧米自動車メーカーとの商流ネットワークなどを活用し、CFRPの自動車部材への採用を一層加速していく。また三井物産は同年6月、精米・コメ加工品・豆類などの欧州最大の製造販売事業者ユーリコム(Euricom)の一部株式取得を決定し、関連契約を締結した。食シーンの多様化と健康・環境志向の高まりを背景に、コメ製品や豆類の市場が世界的に拡大する中、移民の影響も加わり欧州では顕著に需要が伸びており、コメ新製品の開発、豆類などの事業強化を進めていく。

2023年のイタリアの対日直接投資額は、8,200万ユーロで前年比88.2%減となった。投資の引き揚げ事例としては、ミラノに本社を置き、医療画像診断領域の製品とソリューションを提供するブラッコ・イメージング(Bracco Imaging)が同年2月、医療を取り巻く環境変化に迅速かつ柔軟に対応するため、日本の医薬品メーカー、エーザイとの合弁会社を解消し、エーザイが保有するブラッコ・エーザイの全株式を取得すると発表した。両社が日本において共同販促してきた造影剤製品は、新たに社名変更したブラッコ・ジャパンが、2024年4月から単独で販売を行う。また、動物愛護と環境保護をブランドフィロソフィーとして掲げるミラノのアパレル企業セーブ・ザ・ダック(SAVE THE DUCK)は2024年5月、同社のサステナブル・アウターウエアの日本における輸入・販売の拡大を目的とし、医療繊維や産業資材を主力製品とする帝人フロンティアと合弁会社を設立した。

表7-1 イタリアの対日主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ユーロ)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
繊維・衣料品・皮革製品 1,917 2,155 26.8 12.4
食品・飲料・たばこ 1,712 1,678 20.9 △ 2.0
輸送機器 1,247 1,352 16.8 8.4
機械 623 686 8.5 10.1
医薬品 928 577 7.2 △ 37.9
化学品 502 487 6.1 △ 3.0
その他製造業の製品 365 365 4.5 0.0
コンピューター・電子・光学機器 196 184 2.3 △ 6.3
ゴム・プラスチック・非金属鉱物製品 158 154 1.9 △ 2.5
金属製品 134 154 1.9 15.1
電気機器 150 141 1.8 △ 5.6
木材・木工品・紙製品・印刷物 27 31 0.4 14.7
農林水産物 36 28 0.4 △ 21.4
鉱物・石油・天然ガス 4 4 0.0 △ 14.0
燃料・石油精製品 25 2 0.0 △ 92.1
合計(その他含む) 8,077 8,046 100.0 △ 0.4

〔出所〕イタリア国家統計局(ISTAT)

表7-2 イタリアの対日主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ユーロ)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
輸送機器 1,267 1,840 33.9 45.2
機械 1,249 1,136 20.9 △ 9.0
金属製品 693 659 12.1 △ 4.9
化学品 476 392 7.2 △ 17.6
コンピューター・電子・光学機器 259 269 5.0 3.8
医薬品 408 252 4.6 △ 38.4
その他製造業の製品 235 244 4.5 4.1
繊維・衣料品・皮革製品 230 240 4.4 4.2
ゴム・プラスチック・非金属鉱物製品 221 187 3.4 △ 15.7
電気機器 156 158 2.9 1.0
食品・飲料・たばこ 22 23 0.4 5.1
木材・木工品・紙製品・印刷物 19 18 0.3 △ 7.0
農林水産物 5 7 0.1 38.4
鉱物・石油・天然ガス 3 3 0.0 △ 5.7
燃料・石油精製品 1 0 0.0 △ 76.0
合計(その他含む) 5,255 5,435 100.0 3.4

〔出所〕イタリア国家統計局(ISTAT)

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2021年 2022年 2023年
実質GDP成長率 (%) 8.3 4.0 0.9
1人当たりGDP (米ドル) 36,402 35,043 38,326
消費者物価上昇率 (%) 1.9 8.1 5.7
失業率 (%) 9.5 8.1 7.7
貿易収支 (100万ユーロ) 48,586 △ 19,770 40,096
経常収支 (100万ユーロ) 43,258 △ 30,919 9,680
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 84,002 81,715 84,819
対外債務残高(グロス) (100万ユーロ、期末値) 2,467,228 2,490,775 2,542,740
為替レート (1米ドルにつき、ユーロ、期中平均) 0.8455 0.9496 0.9248


貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:イタリア国家統計局(ISTAT)
貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):イタリア銀行
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF