スイスの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 消費者物価指数(CPI)上昇は1993年以降最高の2.8%を記録、インフレ抑制のため政策金利の引き上げが続く。
  • エネルギー価格高騰により、輸出入ともに燃料・エネルギーが急増。
  • 急速なスイス・フラン高・円安が進むも、対日輸出と貿易黒字は過去最高を記録。

公開日:2023年9月15日

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マクロ経済 
インフレ抑制のためスイス国立銀行が度重なる政策金利引き上げ

2022年のスイス経済は、新型コロナウイルス危機を脱して力強く回復したが、同時に欧州の緊迫したエネルギー情勢や国際情勢の悪化による制約を受け、実質GDP成長率は2.0%となった。新型コロナウイルス危機から急回復した前年の成長率は下回ったものの、過去10年間の平均成長率(1.7%)を上回った。産業別にみると、製造、宿泊・飲食サービス、輸送・倉庫および情報・通信の回復が特に成長に寄与した。ただし、このうち宿泊・飲食サービスはまだ新型コロナウイルス危機前の2019年の水準には回復していない。需要項目別では、財・サービスの輸出の伸びが特に成長に寄与した。

2023年第1四半期(1~3月)は、個人消費支出や投資に支えられ内需が伸び、産業部門も好調な輸出に後押しされて伸びたことから、実質GDP成長率は前期比0.5%となった。今後、数四半期は堅調な労働市場と名目賃金の上昇に支えられ、個人消費が緩やかに拡大することなどから、連邦経済省経済事務局(SECO)は2023年6月時点で、2023年の実質GDP成長率を1.1%と予測し、景気後退には至らないとした。なお、この予測は2023年~2024年にかけての冬に広範囲の生産停止を伴う深刻なエネルギー供給不足が生じないシナリオを前提としている。

2022年は労働力の供給不足が拡大し、失業率は2.2%で、少なくとも過去20年で最も低い水準となった。また、消費者物価指数(CPI)の上昇は急速に進んでおり、2022年通年では2.8%と1993年以降最高を記録した。特にロシアによるウクライナ侵攻を契機に直面したエネルギー問題を受け、エネルギーは22.9%と急激に増加した。スイス国立銀行(SNB)はインフレ抑制のため、世界最低水準だった政策金利(マイナス0.75%)を2022年6月から12月までに3回にわたって段階的に1.0%まで引き上げ、2023年に入っても3月と6月で段階的に1.75%まで引き上げた。

表1 スイスの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1
実質GDP成長率 3.9 2.0 0.3 0.3 0.2 0.0 0.5
階層レベル2の項目民間最終消費支出 1.7 4.0 0.3 1.3 0.6 0.2 0.6
階層レベル2の項目政府最終消費支出 3.5 0.1 △ 0.4 △ 0.4 0.1 △ 0.1 0.0
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 4.2 △ 0.3 △ 3.0 0.1 0.5 △ 0.1 1.7
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 11.3 7.1 4.0 △ 10.5 15.5 △ 1.2 2.3
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 4.4 6.4 △ 1.0 △ 4.6 9.5 0.8 2.9

〔注〕‌四半期の伸び率は前期比(季節・スポーツイベント調整値)。財貨の輸出は、非貨幣金、貴重品、トランジット貿易品を含む。財貨の輸入は、非貨幣金、貴重品を含む。
〔出所〕スイス連邦経済省経済事務局

貿易 
物価上昇がけん引し、輸出入ともに過去最高額を記録

2022年の貿易は、輸出が前年比6.9%増の2,776億5,200万スイス・フラン(CHF)、輸入は16.6%増の2,348億500万CHF(注1)となり、輸出入ともに物価上昇がけん引する形で過去最高を記録した。貿易収支は428億4,700万CHFの黒字で、過去最高を記録した2021年より減少したが、過去10年間では貿易額の増加とともに貿易収支の黒字幅も拡大基調にある。

輸出を品目別にみると、構成比の約5割を占める最大輸出品目の化学品・医薬品は前年比2.8%増と堅調だった。特に有機原料・基礎原料(構成比4.3%)の増加による寄与度が大きく、イタリア向けの輸出が前年の2倍と好調だったことが主な要因となった。構成比約2割を占める精密機械・時計・宝飾品のうち、時計および宝飾品・貴金属製品がそれぞれ11.5%増、15.0%増と好調だった。輸出額ではスイスは世界最大の時計輸出国である。スイス時計産業連盟によると、高級品に対する需要と世界的な富裕層の増加によって、時計の輸出は新型コロナウイルス感染拡大以前の水準を超える水準を記録したという。また、輸出全体に占める割合は小さいものの燃料・エネルギー(3.4%)のうち、特に電力が2.4倍と大きく増加し輸出増加への寄与度が最も大きかった。電力輸出の6割を占めるイタリア向けの輸出が前年比1.4倍となったことによる影響が大きい。特に、1~9月にかけてイタリア向け電力輸出は毎月前年同月比2~4倍の輸出額だった。

国・地域別にみると、EU(構成比49.6%)は前年比5.7%増と堅調に増加した。EUの中で最大の輸出相手国であるドイツ(15.7%)は1.0%減と微減した一方で、イタリア(7.4%)とスロベニア(4.1%)はそれぞれ、33.0%増、44.1%増と拡大した。イタリアは前述の電力と有機原料・基礎原料の輸出増が、スロベニアは医薬品が64.9%増と大きく伸びたことがけん引した。また、最大の輸出相手国である米国(18.3%)は、医薬品、時計、宝飾品・貴金属製品の増加がけん引し、7.9%増となった。

輸入を品目別にみると、最大輸入品目の化学品・医薬品(構成比27.7%)が前年比18.4%増と好調だった。燃料・エネルギー(9.5%)が2.2倍と大きく増加した。特に電力は前年の2倍程度に増加し、統計が入手できる2002年以降最大となった。約半分がフランスからの輸入となっている。原油・石油製品は、数量ベースでは5.3%増にすぎないが、エネルギー価格高騰の影響を受けて金額ベースでは75.1%増と大きく増加した。ガスも数量ベースでは9.8%減であるものの、金額ベースでは4倍になり、統計が入手できる1988年以降最大を記録した。

国・地域別にみると、EU(構成比68.6%)は前年比18.6%増と好調だった。最大の輸入相手国であるドイツ(27.4%)は、前年比約4.5倍を記録したガスをはじめとする燃料・エネルギーの増加にけん引され16.5%増となった。フランス(8.6%)は電力の85.9%増がけん引し、32.0%増と大きく増加した。スロベニア(2.9%)は軍用品と文房具の増加により、約3倍に急拡大した。

2023年に入っても引き続き貿易は拡大し、第1四半期の輸出は前年同期比3.7%増の734億6,200万CHF、輸入は前年同期比2.6%増の606億100万CHFと、輸出入とも四半期ベースで過去最高額を更新した(暫定値)。

表2 スイスの主要品目別輸出入[通関ベース](単位:100万CHF、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
化学品・医薬品 130,877 134,551 48.5 2.8 54,995 65,117 27.7 18.4
階層レベル2の項目医薬品 108,967 109,595 39.5 0.6 41,058 49,244 21.0 19.9
精密機械・時計・宝飾品 50,230 55,102 19.8 9.7 19,667 21,358 9.1 8.6
階層レベル2の項目時計 22,302 24,859 9.0 11.5 3,277 3,571 1.5 9.0
階層レベル2の項目精密機械 17,372 18,108 6.5 4.2 8,433 8,915 3.8 5.7
階層レベル2の項目宝飾品・貴金属製品 10,556 12,136 4.4 15.0 7,957 8,872 3.8 11.5
機械および電気・電子機器 31,200 33,108 11.9 6.1 32,820 36,283 15.5 10.6
階層レベル2の項目産業用機械 17,320 18,209 6.6 5.1 12,104 13,013 5.5 7.5
階層レベル2の項目電気・電子機器 11,240 12,078 4.4 7.5 12,672 14,763 6.3 16.5
金属製品 14,635 15,878 5.7 8.5 16,353 18,798 8.0 14.9
農林水産物 10,582 10,758 3.9 1.7 16,447 17,579 7.5 6.9
階層レベル2の項目食品・飲料・たばこ 9,468 9,588 3.5 1.3 12,029 12,791 5.4 6.3
燃料・エネルギー 3,898 9,340 3.4 139.6 10,023 22,270 9.5 122.2
階層レベル2の項目電力 3,562 8,420 3.0 136.4 3,819 8,349 3.6 118.6
階層レベル2の項目原油・石油製品 328 905 0.3 176.3 4,817 8,438 3.6 75.1
階層レベル2の項目ガス 8 13 0.0 67.5 1,345 5,413 2.3 302.5
輸送用機器 5,283 5,254 1.9 △ 0.6 17,749 18,730 8.0 5.5
繊維・衣料製品 4,861 4,854 1.7 △ 0.2 12,484 12,729 5.4 2.0
合計(その他含む) 259,780 277,652 100.0 6.9 201,319 234,805 100.0 16.6

〔注〕‌貴金属・宝石、芸術品、骨とう品(貨幣またはその代替品として流通可能なもの)は含まない。
〔出所〕スイス連邦財務省関税局

表3 スイスの主要国・地域別輸出入[通関ベース](単位:100万CHF、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
EU 130,258 137,707 49.6 5.7 135,807 161,065 68.6 18.6
階層レベル2の項目ユーロ圏 119,409 126,674 45.6 6.1 125,258 149,565 63.7 19.4
階層レベル3の項目ドイツ 44,176 43,723 15.7 △ 1.0 55,133 64,227 27.4 16.5
階層レベル3の項目イタリア 15,527 20,643 7.4 33.0 18,893 21,349 9.1 13.0
階層レベル3の項目フランス 14,937 16,111 5.8 7.9 15,319 20,226 8.6 32.0
階層レベル3の項目スロベニア 7,993 11,515 4.1 44.1 2,099 6,701 2.9 219.3
階層レベル3の項目スペイン 12,596 10,130 3.6 △ 19.6 8,165 8,855 3.8 8.4
米国 46,952 50,679 18.3 7.9 12,149 15,186 6.5 25.0
アジア大洋州 45,272 48,511 17.5 7.2 37,315 41,075 17.5 10.1
階層レベル2の項目中国 15,573 15,905 5.7 2.1 17,948 20,375 8.7 13.5
階層レベル2の項目日本 7,582 9,288 3.3 22.5 3,936 4,154 1.8 5.5
階層レベル2の項目ASEAN 8,240 9,056 3.3 9.9 8,758 9,020 3.8 3.0
階層レベル3の項目シンガポール 5,515 5,987 2.2 8.6 4,174 3,899 1.7 △ 6.6
階層レベル2の項目香港 4,464 4,183 1.5 △ 6.3 944 1,046 0.4 10.7
階層レベル2の項目韓国 3,208 3,552 1.3 10.7 1,926 1,992 0.8 3.4
階層レベル2の項目インド 1,675 1,818 0.7 8.5 1,955 2,459 1.0 25.8
英国 7,821 8,666 3.1 10.8 4,339 4,411 1.9 1.7
カナダ 3,629 3,865 1.4 6.5 818 650 0.3 △ 20.6
ロシア 3,213 3,024 1.1 △ 5.9 270 142 0.1 △ 47.4
アラブ首長国連邦 2,612 2,934 1.1 12.3 986 771 0.3 △ 21.8
ブラジル 2,165 2,406 0.9 11.1 671 609 0.3 △ 9.3
メキシコ 1,399 1,624 0.6 16.1 683 773 0.3 13.2
合計(その他含む) 259,780 277,652 100.0 6.9 201,319 234,805 100.0 16.6

〔注〕‌アジア大洋州は、ASEAN+ 6 (日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値
〔出所〕スイス連邦財務省関税局

2021年のスイス輸入時の全FTAの特恵関税利用率は66.0%

スイスはEUに加盟していないが、世界各国と個別に、または同国が加盟する欧州自由貿易連合(EFTA)を通じて自由貿易協定(FTA)を締結している。現在、発効しているFTAは35件に上り、輸出の75.1%、輸入の87.7%がこれらのFTAでカバーされている。2022年6月には2006年以降中断されていたEFTAとタイのFTA交渉が再開、同月にはEFTAとコソボのFTA交渉が正式に開始された。

スイス連邦経済省経済事務局(SECO)が2023年5月に公表したスイスのFTA活用状況に関する分析レポート「FTAモニター2021」によると、2021年のスイスへの輸入において、既存のFTAの活用により合計約24億CHFの関税が減免され、スイス輸入時の全FTAの特恵関税の利用率(注2)は66.0%だった。最大の貿易相手地域であるEUとの貿易では、特恵関税利用率はスイスへの輸入で74.7%、EUへの輸出で89.8%だった。日本との貿易における特恵関税利用率は、スイスへの輸入で34.7%、日本への輸出で59.3%だった。日本からスイスへの輸入において、日本・スイス経済連携協定(日スイスEPA)を活用できれば、減免し得た関税額が多い上位10品目のうち9品目は、ブレーキをはじめとする自動車および自動車部品となっている。

表4 スイスのFTA発効・署名・交渉状況(単位:%)
FTA 発効日 スイスの貿易に占める構成比(2022年)
往復 輸出 輸入
発効済み EU 1973年1月1日 58.3 49.6 68.6
中国 2014年7月1日 7.1 5.7 8.7
英国 2021年1月1日 2.6 3.1 1.9
日本 2009年9月1日 2.6 3.3 1.8
シンガポール 2003年1月1日 1.9 2.2 1.7
湾岸協力会議(GCC)諸国 2014年7月1日 1.7 2.6 0.7
香港 2012年10月1日 1.0 1.5 0.4
カナダ 2009年7月1日 0.9 1.4 0.3
トルコ 1992年4月1日 0.7 0.7 0.8
韓国 2006年9月1日 1.1 1.3 0.8
メキシコ 2001年7月1日 0.5 0.6 0.3
インドネシア 2021年11月1日 0.2 0.1 0.2
EFTA(注(1)) 1960年5月3日 0.2 0.3 0.2
合計(注(2)) 80.9 75.1 87.7
署名済み グアテマラ 署名日 2015年 6 月22日 0.0 0.0 0.0
モルドバ 署名日 2023年 6 月27日 0.0 0.0 0.0
交渉中 南米南部共同市場(メルコスール)(注(3)) 0.8 1.2 0.3
インド 0.8 0.7 1.0
ベトナム 0.5 0.2 0.8
タイ 0.4 0.3 0.5
マレーシア 0.3 0.3 0.3
コソボ 0.0 0.0 0.0
FTAカバー率(交渉中も含む) 83.8 77.9 90.7

〔注〕(1)EFTA:ノルウェー、アイスランドのみ計上(リヒテンシュタインを含まない)
(2)発効済みの合計値は、表に記載以外のFTA発効済み以下の国・地域も含めた合計。
イスラエル、フェロー諸島、パレスチナ、モロッコ、北マケドニア、ヨルダン、チリ、チュニジア、レバノン、南部アフリカ関税同盟(SACU:ボツワナ、
レソト、ナミビア、南アフリカ共和国、エスワティニ(旧スワジランド))、エジプト、セルビア、アルバニア、コロンビア、ペルー、ウクライナ、モンテネグロ、
中米諸国(パナマ、コスタリカ)、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ジョージア、フィリピン、エクアドル(協定締結順)。
(3)南米南部共同市場は、アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ。
(4)小数点第2位を四捨五入。

〔出所〕スイス連邦経済省経済事務局「FTA一覧」およびスイス連邦財務省関税局貿易統計

対内・対外直接投資 
M&A件数は減少するも、取引額は前年比33%増

スイス国立銀行によると、2022年の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は、575億7,800万CHFの引き揚げ超過となった。2018年以降、引き揚げ超過が続いている。業種別にみると、金融持株会社が701億3,500万CHFの引き揚げ超過で、引き続き最大の要因となったが、引き揚げ額は半分以下に減少した。国・地域別にみると、前年に続きEUの主要な対内直接投資元の引き揚げ超過が目立った。これはスイスから投資引き揚げを行う外国の親会社が、欧州の国に所在する持株会社を仲介して引き揚げを行うことが多いためだ。オランダ、アイルランド、ルクセンブルクは、それぞれ220億5,900万CHF、148億100万CHF、108億2,000万CHFの引き揚げ超過となった。他方、英国は前年の153億300万CHFの引き揚げ超過から、148億4,900万CHFのプラスに転じた。

2022年の対外直接投資は710億6,000万CHFの引き揚げ超過で、前年の1,158億2,700万CHFから引き揚げ額は減少したものの、2019年以降引き揚げ超過が続いている。企業グループ内融資で国外のグループ会社への貸付(資産)を減らし、借入(負債)を増やすオペレーションによる影響が主要因とされる。業種別にみると、引き揚げ額上位は運輸・通信、金融持株会社、銀行であり、運輸・通信、銀行については引き揚げ額が前年より増加した。国・地域別にみると、キプロス、英国、ルクセンブルク、中南米(オフショア地域含む)が主な引き揚げ超過国・地域であったほか、米国、アラブ首長国連邦が前年のプラスから引き揚げ超過に転じた。他方で、シンガポールは前年の引き揚げ超過から、72億200万CHFのプラスに転じた。

表5 スイスの国・地域別対内・対外直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万CHF)(△はマイナス値)
国・地域 対内直接投資 対外直接投資
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 金額 金額
EU △ 173,970 △ 58,142 △ 133,640 △ 26,595
階層レベル2の項目ルクセンブルク △ 79,460 △ 10,820 △ 19,196 △ 11,231
階層レベル2の項目オーストリア 1,381 △ 1,258 1,960 1,648
階層レベル2の項目ドイツ 5,077 1,728 2,899 2,974
階層レベル2の項目フランス 3,088 1,072 △ 6,730 △ 1,030
階層レベル2の項目オランダ △ 44,487 △ 22,059 2,223 3,555
階層レベル2の項目アイルランド △ 49,774 △ 14,801 △ 34,537 △ 7,575
階層レベル2の項目イタリア △ 296 △ 842 2,937 2,068
階層レベル2の項目キプロス 456 1,519 △ 88,541 △ 19,458
英国 △ 15,303 14,849 △ 6,638 △ 12,953
ロシア n.a. n.a. 4,584 △ 84
米国 38,601 △ 4,104 9,921 △ 3,255
中南米(オフショア地域含む) △ 953 1,224 △ 397 △ 31,952
階層レベル2の項目ブラジル n.a. n.a. 341 1,664
階層レベル2の項目メキシコ n.a. n.a. 874 730
アジア・大洋州・アフリカ 14,100 △ 1,601 9,892 7,336
日本 11,494 △ 6,765 2,531 △ 1,186
韓国 n.a. n.a. 351 3,962
シンガポール n.a. n.a. △ 7,861 7,202
中国(香港含まず) n.a. n.a. 2,437 2,404
インド n.a. n.a. 4,597 1,096
アラブ首長国連邦 n.a. n.a. 6,351 △ 5,056
合計(その他含む) △ 133,139 △ 57,578 △ 115,827 △ 71,060

〔出所〕スイス国立銀行

表6 スイスの業種別対内・対外直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万CHF)(△はマイナス値)
品目 対内直接投資 対外直接投資
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 金額 金額
製造業 3,465 10,244 21,371 △ 3,140
階層レベル2の項目電子・工学・時計等 △ 4,245 △ 908 2,744 △ 975
階層レベル2の項目金属・機械 3,342 1,031 7,226 5,336
階層レベル2の項目化学・プラスチック 4,175 8,803 20,279 △ 8,143
階層レベル2の項目その他産業・建設 194 1,319 △ 8,876 500
階層レベル2の項目繊維・アパレル n.a. n.a. △ 2 142
サービス △ 136,604 △ 67,822 △ 137,198 △ 67,920
階層レベル2の項目商業 △ 2,129 11,209 △ 6,306 4,367
階層レベル2の項目運輸・通信 481 △ 1,996 △ 16,611 △ 28,792
階層レベル2の項目保険 517 △ 305 6,909 5,884
階層レベル2の項目銀行 80 △ 494 △ 8,668 △ 19,218
階層レベル2の項目金融持株会社 △ 144,406 △ 70,135 △ 103,289 △ 25,960
階層レベル2の項目その他サービス 8,853 △ 6,101 △ 9,232 △ 4,200
合計(その他含む) △ 133,139 △ 57,578 △ 115,827 △ 71,060

〔出所〕スイス国立銀行

M&Aおよびコーポレートファイナンスのコンサルティングを手掛けるTCFGによると、2022年にスイス企業が関わったM&Aは、件数が前年より23%減少し512件となった一方で、取引額は33%増加して812億CHFを記録した。取引件数のうち17%が対外投資案件、39%が対内投資案件、35%がスイス企業同士のM&Aだった。

2022年および2023年上半期の主な対内投資案件には、2022年10月のメキシコの大手小売・飲料メーカーFEMSAによるスイスのコンビニ・フードサービス企業ヴァロラの買収や、2023年5月のオランダの化学メーカーDSMと香料メーカー・フィルメニッヒの合併などがあった。全体の傾向として、案件数ではIT・メディア・通信、ヘルスケア分野の案件が特に多かった。M&A以外の主な対内投資案件には、11月にアマゾン ウェブ サービス(AWS)による「AWS欧州地域(チューリッヒ)」の立ち上げがある。AWSにおける「地域(リージョン)」とはAWSが世界各国にサービスを提供するために分割している地域単位で、チューリッヒの追加は欧州で7番目となる。これにより、企業や行政などのAWSのユーザーは、スイス国内でデータ処理・保管ができるとともに、エンドユーザーに対して通信処理の遅延時間がより短い(低レイテンシー)サービスが提供できる。同社は2036年までに59億CHFの投資を計画しており、社外のデータセンターのサプライチェーンにおいて年間平均2,500人以上のフルタイム雇用の創出・維持に貢献すると試算している。

2022年および2023年上半期の主な対外投資案件には、2023年2月の旅行関連小売大手のデュフリーによる旅行関連飲食大手オートグリルの買収などがあった。M&A以外の主な対外投資案件には、半導体製造のSTマイクロエレクトロニクスが、2022年7月に米国の半導体製造受託大手グローバルファウンドリーズと共同でフランス・クロール市における300mmウエハー製造工場の新設を発表したほか、10月にイタリア・カターニャにおける統合型SiC(炭化ケイ素)ウエハー工場を新設するとの発表があった。

表7 スイスの主な対内直接投資案件(2022年1月~2023年5月)[M&A]
被買収企業(事業) 買収企業 時期 投資額 概要
業種 企業名 企業名 国籍
食品 ヴァロラ・ホールディング フォメント・エコノミコ・メヒカノ(FEMSA) メキシコ 2022年10月 最大11億CHF メキシコの大手小売・飲料メーカーFEMSAによるスイスのコンビニ・フードサービス企業ヴァロラの買収が完了。FEMSAの中南米でのコンビニ事業の知見を活かし、FEMSAが未展開の欧州において、ヴァロラブランドを維持しつつ、コンビニ・フードサービス領域で成長を加速させていく。
香料 フィルメニッヒ DSM オランダ 2023年5月 非公表 オランダの化学メーカーDSMとスイスの香料メーカー、フィルメニッヒの合併が完了し、栄養・健康・美容の領域で世界最大級のメーカーの1つとなるdsm-firmenichが誕生。スイスとオランダの両国に本社機能を置き、全世界に約3万人の従業員を擁する。業界のイノベーションを加速させ、事業を拡大する。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表8 スイスの主な対外直接投資案件(2022年1月~2023年5月)[M&A]
買収企業 被買収企業(事業) 時期 投資額 概要
企業名 業種 企業名 国籍
デュフリー
(2023年11月アボルタに改名)
旅行関連飲食 オートグリル イタリア 2023年2月 非公開 旅行関連小売大手のデュフリーが旅行関連飲食大手のオートグリルを買収。戦略的な補完関係がある両社の合併により、75カ国以上の約1,200空港の5,500店舗で、23億人の旅客が利用するサービスを展開するグループが誕生した。主要地域での事業機会を拡大する。
パートナーズ・グループ 保険ブローカー ファウンデーション・リスク・パートナーズ 米国 2022年8月
(発表)
非公開 プライベート・マーケット投資運用会社のプライベート・パートナーズが保険ブローカーのファウンデーション・リスク・パートナーズの過半数以上の株式を取得。新しい地域への拡大を目指す。
MSC 病院経営 メディクリニック・インターナショナル 南アフリカ 2023年5月 非公開 海運大手MSCの子会社が、ヨハネスブルク株式市場に上場する投資会社レムグロ(既にメディクリニック・インターナショナルの株式を約44.6%保有)と5割ずつ出資する合弁会社を通じて、スイスや南部アフリカ、中東で病院経営を行うメディクリニック・インターナショナルを買収。MSCとレムグロのコンソーシアムによる非上場の長期投資で成長機会を捉えていく。
スイス・ライフ・アセット・マネジャーズ 光ファイバープロバイダー リンティア・ネットワークス スペイン 2023年1月 非公開 スイス・ライフ・アセット・マネジャーズは、フランスのAXA IM Altsなどからなるコンソーシアムで、スペインの光ファイバープロバイダー大手のリンティア・ネットワークスを買収。光ファイバーネットワークの成長を通し、投資家への長期的な支援につなげる。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

対日関係 
記録的なCHF高と円安、しかし対日輸出と貿易黒字は過去最高に

2022年は急速にCHF高と円安が進み、スイス国立銀行のデータによると年間の平均為替相場は前年比14.1%CHF高の1CHF=137.08円の記録的な水準となった。同基準で比較できる2018年比では21.4%CHF高が進んでいる。そのような状況下で2022年の対日貿易は、輸出が前年比22.5%増の92億8,800万CHF、輸入が5.5%増の41億5,400万CHFとなった。輸出および貿易黒字(51億3,300万CHF)は、統計が入手できる1988年以降最大となった。

主な対日輸出品目をみると、最大品目の医薬品(構成比53.6%)が前年比31.3%増と大きく伸びた。次いで、構成比が大きい腕時計(17.5%)も20.0%増と拡大した。どちらも統計が入手できる1988年以降最高を記録した。一方、輸入をみると、最大品目である医薬品(38.8%)は10.4%増と好調で、過去最高を記録した。宝飾品(4.3%)が49.4%増と大きく拡大したことも輸入の増加に貢献した。

表9-1 スイスの対日主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万CHF、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
医薬品 3,794 4,981 53.6 31.3
腕時計 1,351 1,621 17.5 20.0
宝飾品 403 588 6.3 46.0
医療機器 479 456 4.9 △ 4.7
一般機械 290 292 3.1 1.0
検査・測定機器 126 153 1.6 21.5
飲料 95 127 1.4 33.6
金属部品 117 121 1.3 3.8
化学原材料 131 117 1.3 △ 10.6
電気・電子製品 100 113 1.2 12.5
インスタント食品 61 70 0.8 14.1
時計・腕時計部品 60 68 0.7 12.1
合計(その他含む) 7,582 9,288 100.0 22.5

〔出所〕スイス連邦財務省関税局

表9-2 スイスの対日主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万CHF、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
医薬品 1,461 1,613 38.8 10.4
乗用車 408 445 10.7 9.2
一般機械 282 290 7.0 2.6
電気・電子製品 217 237 5.7 8.9
化学原材料 209 204 4.9 △ 2.5
宝飾品 120 179 4.3 49.4
光学機器 114 123 2.9 7.2
腕時計 98 111 2.7 13.0
未加工プラスチック 90 70 1.7 △ 22.4
検査・測定機器 62 69 1.7 11.5
建設機械 81 66 1.6 △ 19.0
自動車部品 56 61 1.5 9.8
合計(その他含む) 3,936 4,154 100.0 5.5

〔出所〕スイス連邦財務省関税局

日本の対スイス投資、スイスの対日投資、ともに引き揚げ超過に

スイス国立銀行によると、2022年の日本からスイスへの対内直接投資は67億6,500万CHFの引き揚げ超過、スイスから日本への対外直接投資は11億8,600万CHFの引き揚げ超過と、ともに前年のプラスから引き揚げ超過に転じた。日本企業によるスイスへの主なM&A案件には、9月に日立製作所による、それまで連結子会社だった日立エナジーの完全子会社化があった。スイスのABBが保有する19.9%の株式を16.79億米ドルで取得し、12月に完全子会社化を完了した。そのほか、2月には、リコーが企業の業務プロセスの自動化(デジタルプロセスオートメーション)を支援するプラットフォームやアプリケーションを開発・販売するアクソン・アイビーの全株式を取得。顧客である企業が、オフィスや現場をデジタルでつなぐことでワークプレイスを変革できるよう、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援を強化する。9月には、SBIインベストが、屋内外の危険を伴う場所での検査、点検などを行うドローンの開発、販売、保守サービスを提供する2014年設立のスタートアップのフライアビリティに、シリーズCの投資ラウンドでリードインベスターとして投資を行った。12月には、イベントチケット販売大手のぴあが、スポーツ、音楽、イベントなどのVIP向けホスピタリティ事業を展開する2018年設立のスタートアップのダイマニに対し、約2.4億円で5%の株式を取得し、2023年2月に両社合弁による日本の新会社を設立した。出資・業務提携により、ぴあは本格的にホスピタリティ事業に参入し、チケット事業との親和性の高いホスピタリティ事業の国内、およびアジア市場の開拓・普及、集客エンタテイメント事業における新たな収益の柱の構築と、海外事業領域の拡大を進める。

日本企業によるM&A以外のスイスへの投資案件には、3月にセイコーエプソンによる、欧州でのインクジェットヘッド外販ビジネス強化のためのスイス支店の設立があった。西スイス応用科学芸術大学(HES-SO)のインクジェットに関する公的研究機関であるアイプリント(iPrint)との協業により、インクジェット技術をさまざまな新しい分野に応用するため、フリブールにある同研究機関と同じ研究棟に拠点を構えた。6月には、ホソカワミクロンのドイツ子会社で粉体機器やプラスチック薄膜製造装置などの製造販売を行うホソカワアルピネが、販売拠点をザンクト・ガレンに設立した。また同月、JSRの米国子会社JSRライフサイエンスのグループ会社がジュネーブでバイオ医薬品製造施設を拡張。9月には、野村ホールディングスが、デジタル・アセット関連のサービスを提供する子会社を設立した。11月には、近鉄エクスプレスのスイス法人が、スイス国内3番目の営業所として、輸送サービス提供のための海上営業所を開設した。

スイス企業による日本へのM&Aとしては、エーザイが11月に発表した筋緊張改善剤「ミオナール®」、めまい・平衡障害治療剤「メリスロン®」のアジア9カ国・地域における権利を、DKSHホールディングの子会社に譲渡した案件があった(金額は非公表)。

スイス企業によるM&A以外の対日投資案件では、日本法人の開設が相次いだ。1月には、ESG関連リスク分析のデータベースを提供するレプリスクと、組み込みハード・ソフトウェアを提供するトラデックス、また、会社設立や会計・給与計算などの管理業務サービスを提供するアルパディスが日本法人を開設。8月には、ライフサイエンス業界に特化したコンサルティング会社のテンスピンが日本法人を設立した。11月には、空港グランドハンドリング事業を展開するスイスポートの日本法人(丸紅との共同出資により設立)が、日本国内 3 拠点目となる航空貨物上屋を中部国際空港に開設した。

日本企業とスイスのスタートアップの連携事例も引き続き見られた。4月には、浜松ホトニクスが、原画像圧縮技術を開発したドットフォトンとの提携を発表した。浜松ホトニクスのカメラで撮影できる定量的な高品質の画像が、ドットフォトンのソフトウェアによって高速圧縮できる。これにより産業や研究界において、高品質なまま迅速に原画像データを送信するニーズを満たし、保存量やコストに係る課題を軽減する。7月には、ヤマハ・ミュージック・ヨーロッパが、革新的な音楽教育のアプリを開発したトムブックスとの提携を発表。欧州でヤマハの対象となる楽器を購入した顧客は、4万曲以上の楽曲で、プロの音楽家の音源を背景に演奏でき、自動でスクロールする楽譜などの機能を備えたアプリ「トムプレイ」を、3カ月間無料で利用することができる。

(注1)輸出入額は貴金属・宝石、芸術品、骨董品を除いた合計値。スイス税関は、金額の変動が大きく、貿易推移の把握を困難にするとして、それらの取引量・金額を一般的な貿易統計から除外している。

(注2)特恵関税の適用対象となり得る品目の輸入額のうち、実際に特恵関税が利用された輸入額の割合。

基礎的経済指標

人口
881万人(2022年)
面積
4万1,285平方キロメートル
1人当たりGDP
92,371米ドル(2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △ 2.5 3.9 2.0
消費者物価上昇率 (%) △ 0.7 0.6 2.8
失業率 (%) 3.2 3.0 2.2
貿易収支 (100万スイス・フラン) 25,695 51,224 41,663
経常収支 (100万スイス・フラン) 2,944 64,435 77,702
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 1,020,172 1,048,963 863,028
対外債務残高(グロス) (100万スイス・フラン) 2,002,294 2,164,421 2,122,806
為替レート ( 1 米ドルにつき、スイス・フラン、期中平均) 0.9 0.9 1.0

注:
人口:暫定値
実質GDP成長率:季節、スポーツイベント調整値
貿易収支:通関ベース
出所:
人口、面積、消費者物価上昇率:スイス連邦統計局
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF
実質GDP成長率、失業率:スイス連邦経済省経済事務局
貿易収支:スイス連邦関税局
経常収支、対外債務残高(グロス):スイス国立銀行