オーストリアの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2024年の実質GDPは前年に続きマイナス成長。第2次世界大戦以降、最長の不況が続く。
  • 輸出入ともに前年を下回ったが、貿易収支は黒字に転換。
  • 対内・対外直接投資ともに前年比で増加。
  • 対日貿易は輸出入ともに前年から2桁減。貿易赤字は縮小。

公開日:2025年8月4日

マクロ経済 
2024年もマイナス成長、工業生産の低迷も深刻

2024年のオーストリア経済は、工業生産をはじめ多くの経済分野で前年を下回り、実質GDP成長率は前年比1.2%減となった。2022年下半期から2024年第4四半期まで10四半期にわたりマイナスあるいはゼロ成長が続き、第2次世界大戦以降、最長の不況となった。新型コロナ流行期ほどの落ち込みではないものの、経済の低迷が長期化している。

不況の原因は個人消費の低迷と工業生産の不振とみられる。個人消費のうち、特に耐久消費財が減少した。高い賃上げ率で家計所得は継続的に上昇しているが、労働市場の先行きが不透明なため購買意欲が弱く、貯蓄率を上昇させた。一方、工業生産については、政府の金融引き締め政策、主要貿易相手国の需要減、競争力の低下や関税問題など国内外のリスクの上昇が引き続き成長の足かせになるとみられている。

経済の低迷にも関わらず、労働市場の悪化は最小限にとどまっている。2024年の就業者数は前年より0.2%増加した。同時に失業率も0.6ポイント増の7.0%に上昇し、2025年には7.3%でピークアウトする見通し(オーストリア経済研究所・WIFO)だ。

2024年の消費者物価上昇率は2.9%とユーロ圏の平均まで下がり、2022年来の高インフレが終息に近づいている。主な要因はエネルギー価格の低下で、食品・飲料品価格の上昇も一定範囲で収まった。

2025年第1四半期、オーストリア経済は前期比0.2%増とプラスに転じた。成長の原動力は工業生産の回復(前期比0.6%増)だ。個人消費は微増(0.1%増)、政府支出は0.4%増となり、貿易も改善の兆しを見せ輸出は1.4%増、輸入は1.1%増と成長を支えた。もっともWIFOは、2025年通年では前年比0.3%減のマイナス成長を見込む。

表1 オーストリアの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年 2024年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 5.3 △ 1.0 △ 1.2 △ 1.8 △ 1.3 △ 0.8 △ 0.1
階層レベル2の項目民間最終消費支出 4.9 △ 0.5 0.1 0.3 △ 0.7 0.1 1.7
階層レベル2の項目政府最終消費支出 △ 0.6 1.2 1.6 1.0 1.6 1.5 1.7
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 0.4 △ 3.2 △ 3.4 △ 4.6 △ 2.1 △ 0.6 △ 1.3
階層レベル2の項目財・サービスの輸出 10.0 △ 0.4 △ 4.3 △ 5.2 △ 4.1 △ 2.2 △ 2.2
階層レベル2の項目財・サービスの輸入 7.1 △ 4.6 △ 5.0 △ 7.3 △ 5.5 △ 1.5 1.2

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕年間データはオーストリア経済研究所(WIFO)、四半期データはオーストリア国立銀行(OeNB)。

貿易 
輸出入ともにマイナス成長、貿易収支は17年ぶりの黒字

経済の低迷は貿易動向にも反映されている。2024年の貿易(通関ベース)は、輸出が前年比4.8%減の1,910億400万ユーロ、輸入も前年に続いて減少し、6.1%減の1,892億6,400万ユーロとなった。輸入の減少幅が輸出を上回ったため、貿易収支は前年の10億9,000万ユーロの赤字から、17億4,000万ユーロの黒字に転じた。貿易収支の黒字は2007年以来17年ぶりとなる。

輸出を品目別にみると、構成比37.2%で最大の機械・輸送機器は前年比5.6%減となった。うちシェアの大きい道路輸送機器(9.2%)は6.6%減、特に乗用車(3.9%)が9.8%減と落ち込んだ。国際自動車工業連合会(OICA)の発表によると、国内の自動車生産量が2024年に37%減となったことが要因の1つと考えられる。オーストリアの完成車メーカーはマグナ・シュタイヤー(Magna Steyr)が唯一だ。電気・電子機器(7.1%)は7.5%減、産業用機械(6.1%)は10.9%減、原動機(4.0%)は4.6%減と、それぞれ減少幅が大きかった。次に構成比が大きい原料別製品(19.8%)は3.6%減で、うち鉄製品(5.2%)は7.1%減。金属製品(5.1%)は4.2%減だった一方、紙パルプ(2.4%)は2.5%増と当該品目類で唯一プラスになった。化学品(17.3%)は有機化学品(1.1%)の69.8%減などが響き4.2%減となったが、医薬品(10.4%)は20.7%増、プラスチック原料(1.4%)は10.3%増と輸出を伸ばした。国連標準国際貿易分類(SITC)1桁の品目で輸出が拡大したのは、食料品(6.7%、4.6%増)と原料(3.0%、6.4%増)のみだった。後者では金属くず(0.6%、14.5%増)とパルプ・廃紙(0.2%、22.7%増)の伸びが貢献した。

輸出を国・地域別でみると、EU(構成比67.0%)は前年比6.7%減となった。最大の相手国であるドイツ(29.7%)は3.0%減だった。最大品目の道路輸送機器(37.8%)が3.9%減、原料別製品(21.3%)は5.1%減、雑製品(10.3%)は9.5%減となった一方、化学品(12.7%)は9.8%増、食料品(9.0%)は6.6%増、原料(2.5%)は6.2%増で輸出を下支えした。続くイタリア(6.1%)も、主要品目〔原料別製品(27.6%)2.3%減、機械・輸送機器(19.6%)15.2%減、化学品(14.7%)1.6%減、食料品(13.3%)1.7%減など〕のほとんどがマイナスになったため、5.4%減となった。非ユーロ圏で最大の相手国であるポーランド(3.8%)はほぼ前年から横ばいだったが、ハンガリー(3.6%)は5.9%減、チェコ(3.5%)は5.7%減、ルーマニア(1.8%)は11.2%減とそれぞれ減少した。

EU域外向け輸出のシェアは前年比1.4ポイント増の33.0%に拡大した。域外で最大の相手国である米国(構成比8.5%)は10.1%増で、個別の国では最大の伸びを記録した。米国向けの最大品目である機械・輸送機器(46.9%)は0.1%増でほぼ横ばいだったが、化学品(31.4%)は67.5%増となった。うち特に医薬品(28.1%)が82.9%増と顕著に伸びた。対米貿易の黒字は前年比24.6%増の85億400万ユーロに拡大したため、ドナルド・トランプ大統領の打ち出した追加関税の行方が注目される。続くスイス(5.0%)は4.8%減だったが、輸入が30.8%減と大きく減少し、貿易収支は23億6,600万ユーロの黒字に転じた。輸出減の主因は燃料・エネルギー(3.8%)の大幅減(65.6%減)で、特に電力(3.2%)の減少(68.8%減)が大きく影響した。一方、同国向け最大品目である化学品(28.4%)は4.4%増になった。アジア大洋州向け(7.3%)は3.0%減となった。中国(2.8%)とASEAN(1.2%)はそれぞれ4.9%増、7.9%増となったが、日本(0.8%)、韓国(0.6%)、オーストラリア(0.5%)はそれぞれ、11.0%減、15.4%減、24.6%減と2桁の減少に終わった。中国向けの最大品目は機械・輸送機器(58.6%)で3.9%増、そのうち最も増加した特殊産業用機械(21.8%)は41.7%増だった。

輸入を品目別でみると、SITC分類1桁の品目では、食料品(構成比8.0%)と飲料品・たばこ(0.8%)のみが増加し、それぞれ前年比8.8%増、8.6%増となった。最大の輸入品目である機械・輸送機器(34.7%)は5.5%減、続く原料別製品(14.9%)は4.5%減、3番目の雑製品(14.8%)は1.4%減、化学品(14.1%)は7.5%減となった。減少幅でみると、燃料・エネルギー(7.4%)が41億7,200万ユーロ減少し22.9%減と最も大きかった。そのうち、天然ガス(1.5%)の輸入額は43.1%減少し、輸入量も24.2%減となった。原油・石油製品(4.9%)の輸入額も7.3%減となったが、輸入量はほぼ前年並(0.4%減)だった。

輸入を国・地域別でみると、EU(構成比66.5%)は前年比3.4%減となり、うちユーロ圏(53.3%)、非ユーロ圏(13.2%)ともにそれぞれ3.2%減、4.3%減となった。最大の相手国のドイツ(32.3%)は4.1%減と、2023年に続いて減少した。品目別では主力の機械・輸送機器(36.1%)が5.6%減、そのうち電気・電子機器(16.1%)は14.0%減、一般機械(18.4%)は8.1%減と大きく落ち込んだ。金額の減少幅では燃料・エネルギー(7.0%)の13億8,200万ユーロの減少(24.5%減)が最も大きかった。対ロシアはガスの大幅な減少のため40.3%減となった。輸入国上位10カ国のうち、2位の中国(8.2%)のみが2.2%増と拡大した。中国からは、機械・輸送機器(53.6%)が4.0%減となったものの、これに続く靴、洋服、玩具などの雑製品(30.4%)は20.4%増と大きく増加した。原料別製品(9.9%)も9.3%増だった。貿易赤字の相手国としては中国が最大(101億9,800万ユーロ)で、2位のドイツ(44億5,000万ユーロ)に大差をつけている。

表2 オーストリアの主要品目別輸出入(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 輸出 輸入
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
機械・輸送機器 75,218 71,038 37.2 △ 5.6 69,553 65,731 34.7 △ 5.5
階層レベル2の項目道路輸送機器 18,893 17,651 9.2 △ 6.6 20,944 20,474 10.8 △ 2.2
階層レベル3の項目乗用車 8,317 7,505 3.9 △ 9.8 10,441 10,781 5.7 3.3
階層レベル3の項目自動車部品 4,930 4,637 2.4 △ 5.9 5,564 5,237 2.8 △ 5.9
階層レベル2の項目電気・電子機器 14,641 13,537 7.1 △ 7.5 15,590 13,409 7.1 △ 14.0
階層レベル2の項目一般機械 12,172 12,029 6.3 △ 1.2 10,342 9,858 5.2 △ 4.7
階層レベル2の項目産業用機械 13,089 11,658 6.1 △ 10.9 6,826 6,113 3.2 △ 10.4
階層レベル2の項目原動機 8,058 7,686 4.0 △ 4.6 5,315 4,861 2.6 △ 8.5
階層レベル2の項目通信機器 2,357 2,242 1.2 △ 4.9 4,642 4,768 2.5 2.7
原料別製品 39,237 37,821 19.8 △ 3.6 29,550 28,216 14.9 △ 4.5
階層レベル2の項目鉄製品 10,665 9,907 5.2 △ 7.1 5,261 4,586 2.4 △ 12.8
階層レベル2の項目金属製品 10,173 9,749 5.1 △ 4.2 8,460 8,296 4.4 △ 1.9
化学品 34,553 33,110 17.3 △ 4.2 28,863 26,686 14.1 △ 7.5
階層レベル2の項目医薬品 16,505 19,925 10.4 20.7 14,076 11,748 6.2 △ 16.5
雑製品 19,847 18,959 9.9 △ 4.5 28,366 27,977 14.8 △ 1.4
燃料・エネルギー 7,349 5,606 2.9 △ 23.7 18,251 14,079 7.4 △ 22.9
階層レベル2の項目電力 4,159 2,850 1.5 △ 31.5 2,181 1,349 0.7 △ 38.1
階層レベル2の項目原油・石油製品 2,388 2,420 1.3 1.3 9,918 9,197 4.9 △ 7.3
階層レベル2の項目ガス 776 331 0.2 △ 57.4 5,093 2,916 1.5 △ 42.7
階層レベル3の項目天然ガス 720 280 0.1 △ 61.1 5,030 2,860 1.5 △ 43.1
食品・動物・飲料・たばこ 15,847 16,096 8.4 1.6 16,098 17,442 9.2 8.3
原料 5,416 5,761 3.0 6.4 7,327 7,128 3.8 △ 2.7
階層レベル2の項目コルク・木材 1,908 1,954 1.0 2.4 1,651 1,533 0.8 △ 7.2
その他製品 3,081 2,611 1.4 △ 15.2 3,628 2,005 1.1 △ 44.7
階層レベル2の項目金・金貨 3,009 2,539 1.3 △ 15.6 3,454 1,756 0.9 △ 49.2
総額(その他含む) 200,547 191,004 100.0 △ 4.8 201,637 189,264 100.0 △ 6.1

〔注〕EU 域外貿易は通関ベース、EU 域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
〔出所〕オーストリア統計局

表3 オーストリアの主要国・地域別輸出入(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出 輸入
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
EU 137,163 127,984 67.0 △ 6.7 130,213 125,801 66.5 △ 3.4
階層レベル2の項目ユーロ圏 107,153 99,433 52.1 △ 7.2 104,141 100,844 53.3 △ 3.2
階層レベル3の項目ドイツ 58,504 56,759 29.7 △ 3.0 63,848 61,209 32.3 △ 4.1
階層レベル3の項目イタリア 12,362 11,701 6.1 △ 5.4 12,905 12,266 6.5 △ 4.9
階層レベル3の項目フランス 7,247 6,944 3.6 △ 4.2 5,320 5,107 2.7 △ 4.0
階層レベル3の項目スロバキア 3,922 3,752 2.0 △ 4.3 3,410 3,623 1.9 6.3
階層レベル2の項目非ユーロ圏 30,010 28,402 14.9 △ 5.4 26,072 24,952 13.2 △ 4.3
階層レベル3の項目ポーランド 7,345 7,342 3.8 △ 0.0 6,647 6,174 3.3 △ 7.1
階層レベル3の項目ハンガリー 7,272 6,845 3.6 △ 5.9 5,019 4,773 2.5 △ 4.9
階層レベル3の項目チェコ 7,156 6,746 3.5 △ 5.7 8,327 8,146 4.3 △ 2.2
階層レベル3の項目ルーマニア 3,920 3,480 1.8 △ 11.2 2,238 2,294 1.2 2.5
アジア大洋州 14,341 13,906 7.3 △ 3.0 27,538 26,548 14.0 △ 3.6
階層レベル2の項目中国 5,057 5,303 2.8 4.9 15,162 15,500 8.2 2.2
階層レベル2の項目ASEAN 2,069 2,232 1.2 7.9 4,400 4,566 2.4 3.8
階層レベル2の項目日本 1,777 1,582 0.8 △ 11.0 2,804 2,488 1.3 △ 11.3
階層レベル2の項目インド 1,278 1,309 0.7 2.4 1,391 1,497 0.8 7.7
米国 14,744 16,228 8.5 10.1 7,917 7,724 4.1 △ 2.4
スイス 9,957 9,476 5.0 △ 4.8 10,276 7,110 3.8 △ 30.8
英国 5,447 4,933 2.6 △ 9.4 3,061 2,331 1.2 △ 23.8
アフリカ 2,269 2,159 1.1 △ 4.9 2,753 2,384 1.3 △ 13.4
ブラジル 1,029 1,059 0.6 3.0 380 355 0.2 △ 6.6
ロシア 1,297 992 0.5 △ 23.5 4,061 2,426 1.3 △ 40.3
合計(その他含む) 200,547 191,004 100.0 △ 4.8 201,637 189,264 100.0 △ 6.1

〔注1〕EU 域外貿易は通関ベース、EU 域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
〔注2〕アジア大洋州はASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港および台湾を加えた合計値。
〔出所〕オーストリア統計局

対内・対外直接投資 
対内・対外投資ともに増加、対ユーロ圏の投資が3倍増

オーストリア国立銀行(OeNB、中央銀行)によると、2024年の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は前年の62億7,500万ユーロから106億5,700万ユーロ(前年比69.8%増)、対外直接投資も107億9,200万ユーロから116億3,000万ユーロ(7.8%増)にそれぞれ増加した。

2024年の対内直接投資を国・地域別でみると、EUのうちユーロ圏は前年比71.1%減の10億5,400万ユーロに減少した一方、非ユーロ圏は3.2倍の14億4,800万ユーロに増加した。ユーロ圏では、ドイツ(18億6,400万ユーロ)とルクセンブルク(10億3,700万ユーロ)からの投資の流入が大きかった。

オーストリア経済振興会社(ABA)が2024年に誘致した外国企業は、前年比16社減の309社で、総投資額は11億ユーロと前年の13億7,200万ユーロを下回った。雇用創出は203人減の2,216人となった。誘致案件を国別で見ると、ドイツは7社増の102社でこれまで同様最も多く、続くイタリアは前年と同じ23社、2社減のスイスとハンガリーはそれぞれ20社だった。欧州以外では米国が13社、中国は7社だった。業種別では情報通信技術(ICT)分野が前年比2社減の66社で最も多く、企業向けサービス(44社)、小売り(25社)、ライフサイエンス(21社)、エネルギー環境技術(17社)が続いた。ソフトウエア部門では、間接税関連サービスを提供する米国のバーテックス(Vertex)が2024年8月に、ウィーン工科大学のスピンオフ企業で電子データ交換(EDI)と電子インボイス専門のエコシオ(ecosio)を1億8,000万ドルで買収した。ライフサイエンス部門では、米国のバイオ医薬品企業ライガンド(Ligand)が7月にバイオテック企業アペイロン・バイオロジクス(APEIRON Biologics)の1億ドルでの買収合意を発表した。

2024年の対外直接投資を国・地域別でみると、対EUはユーロ圏が前年比3.2倍の135億200万ユーロとなった一方、非ユーロ圏は13億8,000万ユーロの引き揚げ超過となった。前者は特に対ドイツとオランダへの投資が大幅に増え、後者はルーマニアとチェコからの引き揚げが多かった。ドイツでは、包装技術大手のアルプラー(ALPLA)が2024年6月に同業のハインライン・プラスチック・テクニック(Heinlein Plastik-Technik)の買収合意を発表したほか、7月にはエンジン技術大手AVLリスト(AVL List)がシミュレーションソフト開発のスタートアップであるフィフティーツー(FIFTY2)を買収。オランダでは、5月に建設資材大手ウィーナーベアガー(wienerberger)が同業のグレインプラスチックス(GrainPlastics)の買収を完了。同月にはオーストリア国鉄(ÖBB)の子会社であるレールカーゴ(ÖBB Rail Cargo)が鉄道輸送のキャプトレインオランダ(Captrain Netherlands)の買収を完了した。また、農業用機械のペッティンガー(Pöttinger)は10月にオランダで子会社を設立した。

表4 オーストリアの国・地域別対内・対外直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万ユーロ)(△はマイナス値)
国・地域 対内直接投資 対外直接投資
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
EU 4,098 2,502 23.5 △ 38.9 6,585 12,122 104.2 84.1
階層レベル2の項目ユーロ圏 3,648 1,054 9.9 △ 71.1 4,232 13,502 116.1 219.0
階層レベル3の項目ドイツ 625 1,864 17.5 198.2 1,593 7,671 66.0 381.5
階層レベル3の項目ルクセンブルク 677 1,037 9.7 53.2 722 827 7.1 14.5
階層レベル3の項目オランダ 179 63 0.6 △ 64.8 364 3,053 26.3 738.7
階層レベル3の項目フランス 1,260 △ 1,247 122 825 7.1 576.2
階層レベル3の項目キプロス 39 65 0.6 66.7 56 65 0.6 16.1
階層レベル2の項目非ユーロ圏 450 1,448 13.6 221.8 2,353 △ 1,380
階層レベル3の項目ポーランド 36 167 1.6 363.9 △ 154 126 1.1
階層レベル3の項目チェコ 238 118 1.1 △ 50.4 △ 320 △ 766
米国 43 3,887 36.5 8,939.5 1,967 1,375 11.8 △ 30.1
ロシア 1,180 2,181 20.5 84.8 △ 617 △ 444
スイス △ 139 1,010 9.5 957 △ 2,254
アフリカ 318 262 2.5 △ 17.6 △ 102 △ 96
インド 34 122 1.1 258.8 △ 62 △ 25
中国 112 94 0.9 △ 16.1 △ 398 △ 199
トルコ 19 49 0.5 157.9 123 △ 30
英国 △ 1,211 △ 58 △ 361 38 0.3
日本 1,065 △ 83 △ 133 23 0.2
アラブ首長国連邦 392 △ 455 △ 334 183 1.6
ブラジル △ 1,181 △ 1,134 △ 38 △ 49
合計(その他含む) 6,275 10,657 100.0 69.8 10,792 11,630 100.0 7.8

〔注〕2023年は改定値、2024年は暫定値
〔出所〕 オーストリア国立銀行(OeNB)

表5-1 オーストリアの主な対内直接投資案件(2024年~2025年5月)[M&A以外]
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
包装技術 シーシーエル(CCL) カナダ 2024年1月 5,000万ユーロ カナダの包装大手CCLはオーストリア西部のドルンビルン市での新工場稼働と、ホーエネムス工場からの移転完了を発表した。移転前の工場と比較すると面積を倍に広げ、持続可能性の観点にも配慮した設計とした。
自動車部品・電動工具 ボッシュ(BOSCH) ドイツ 2024年通年 3,200万ユーロ ドイツの自動車部品・電動工具大手ボッシュは、オーストリアに3,200万ユーロを投資した。投資の例としては、リンツにある拠点での水素インフラの拡充など。
建設 シクラ(Sikla) ドイツ 2025年2月 3,000万ユーロ 建設技術大手のシクラは、2025年2月にオーバーエースタライヒ州のウェルス=ウンターライテン工業団地でオーストリア・中東欧本部(事務所およびロジスティックスセンター)の起工式を実施。この新拠点への投資額は約3,000万ユーロ。2026年末までに建設が完了する予定。
IT ジェネテック(Genetec) カナダ 2024年4月 非公表 カナダのセキュリティーマネジメント企業ジェネテックは、中欧でのプレゼンス強化のためにウィーンで事務所兼R&Dセンターを設立した。
ロボット スパイラル(Spiral) 日本 2024年9月 非公表 屋内型ドローン自立飛行システム開発のスタートアップ「スパイラル」は、欧州市場での拡大を狙い現地法人をウィーンに設立した。
イントラロジスティックス トヨタ・マテリアル・ハンドリング(Toyota Material Handling) 日本 2025年5月 非公表 イントラロジスティックスのトヨタ・マテリアル・ハンドリングは2025年5月、ウィーン南部の郊外に設立した新本社に移転したことを発表した。オフィス機能や顧客向けサービス、倉庫などの主要機能を1つの拠点に集約した。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表5-2 オーストリアの主な対内直接投資案件(2024年~2025年2月)[M&A]
被買収企業(事業) 買収企業 時期 投資額 概要
業種 企業名 企業名 国籍
入退場管理・制御システム スキーデータ(SKIDATA) アッサ・アブロイ(ASSA ABLOY) スウェーデン 2024年7月 3億4,000万ユーロ 入退場管理・制御システムのスキーデータはスウェーデンの同業のアッサ・アブロイにより買収されたと発表した。ザルツブルク連邦産業院によると、買収額は3億4,000万ユーロ。
医薬品 QPS ニューロファーマコロジー(QPS Neuropharmacology) スキャントクス(Scantox) デンマーク 2024年4月 非公表 デンマークの医薬品開発のスキャントクスは神経変性、希少疾患および精神障害を専門とするQPS ニューロファーマコロジーの買収を完了したと発表した。
半導体 ピエゾクリスト・アドバンスト・センソリクス(Piezocryst Advanced Sensorics) スペクトリス(Spectris) 英国 2024年9月 非公表 AVLリスト(AVL List)は子会社でピエゾセンサー(圧電素子)ソリューションを提供するピエゾクリスト・アドバンスト・センソリクスを英国のスペクトリスに売却したと発表した。
環境技術 ぺスルインスツルメンツ(Pessl) リンゼー(Lindsay) 米国 2025年1月 非公表 米国の灌漑(かんがい)・インフラ向け技術ソリューションを提供するリンゼーは同業のぺスルインスツルメンツの株式の49.9%を取得完了したと発表。
医療教育 SIMキャラクターズ(SIMCharacters) レールダル・メディカル(Laerdal Medical) ノルウェー 2025年2月 非公表 ノルウェーの医療教育大手レールダル・メディカルは、オーストリアの同業で新生児シミュレーター開発のSIMキャラクターズの買収を発表した。レールダルはこれまでSIMキャラクターズの販売代理店を務めていた。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表6-1 オーストリアの主な対外直接投資案件(2024年~2025年2月)[M&A以外]
業種 企業名 投資先国 時期 投資額 概要
化学品 スターリム(starlim) 中国 2024年10月 3,000万ユーロ シリコン製品のスターリムは中国で自動車、ライフサイエンス用のシリコン部品を製造する工場を開設した。
機械 パルフィンガー(Palfinger) スロベニア 2024年11月 非公表 クレーン大手のパルフィンガーによるスロベニアでの2番目の工場建設予定が発表された。公共放送「オーストリア放送協会(ORF)」によると、投資額は7,000万ユーロの計画。
金属加工 ベンテラー(BENTELER) 米国 2024年11月・12月 非公表 自動車部品大手ベンテラーは、11月に米ルイジアナ州シュリーブポート市で新工場を開設した。投資額は2,000万ユーロ。12月にはミシガン州ワイオミング市での電気自動車(EV)用部品工場の建設を開始。2026年からの生産開始を目指す。投資額は非公表。
機械 アントンパール(Anton Paar) マレーシア 2025年1月 非公表 計測機器のアントンパールはマレーシアの首都クアラルンプールに新しい販売拠点・技術センターを開設した。
運搬・ロジスティックス ゲブリューダー・ワイス(Gebrüder Weiss) 米国 2025年2月 非公表 ロジスティックス大手のゲブリューダー・ワイスは米国アリゾナ州フェニックス市で北米で17番目のロジスティックス拠点を開設した。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表6-2 オーストリアの主な対外直接投資案件(2024年~2025年1月)[M&A]
買収企業 被買収企業(事業) 時期 投資額 概要
企業名 業種 企業名 国籍
RHIマグネシタ
(RHI Magnesita)
耐火材 レスコ・グループ
(Resco Group)
米国 2025年1月 3億9,000万ユーロ 耐火材大手のRHIマグネシタは、米国の同業のレスコ・グループを買収した。同社の2017年以降での最も重要な投資案件と位置付けている。
ウィーナーベアガー(wienerberger) 建設資材 テレアル(Terreal)、クレアトン(Creaton) フランス、ドイツ 2024年3月 非公表 建設資材大手ウィーナーベアガーはフランスの同業のテレアルとドイツのクレアトンを買収。買収の目的は建物(特に屋根)の改築、修復市場でのビジネスの強化。投資額は非公表だが、同社は過去最大の投資と発表。
アルプラー(ALPLA) 包装技術、プラスチック ハインライン・プラスチック・テクニック(Heinlein Plastik-Technik) ドイツ 2024年6月 非公表 包装大手のアルプラーはドイツの同業のハインライン・プラスチック・テクニックを買収すると発表。本買収により医薬品包装部門のアルプラーファルマー(ALPLApharma)を拡大する。
レールカーゴ(ÖBB Rail Cargo) 運搬・鉄道 キャプトレインオランダ(Captrain Netherlands) オランダ 2024年5月 非公表 オーストリア国鉄の子会社であるレールカーゴはオランダの鉄道オペレーターのキャプトレインオランダの買収を完了した。同社はベネルクス諸国へのネットワーク拡大により国際化戦略を進めている。
アンドリッツ(ANDRITZ) 紙・パルプ向けウェブモニタリング プロシメックス(Procemex) フィンランド 2024年6月 非公表 テクノロジー大手アンドリッツは、フィンランドの紙パルプ産業の製造工程モニタリング用の装置を開発するプロシメックスを買収した。アンドリッツのオートメーション、デジタル化部門の強化を図る。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

対日関係 
対日貿易は輸出入ともに2桁のマイナス、貿易赤字は11.7%減

2024年の対日輸出は前年比11.0%減の15億8,200万ユーロ、対日輸入は11.3%減の24億8,800万ユーロとなり、対日貿易赤字は前年の10億2,700万ユーロから11.7%減の9億600万ユーロに縮小した。オーストリアにとって日本は、輸出では21位、輸入では17位の相手国で、順位は前年から変わらない。欧州以外に限ると、輸出では米国、中国、トルコ、メキシコに続く5位、輸入についても中国、米国、トルコ、カザフスタンに続く5位の相手国となる。

対日輸出を品目別でみると、最大の機械・輸送機器(構成比48.2%)は前年比5.5%減の7億6,300万ユーロだった。うち5割以上を占める道路輸送機器(25.7%)は5.8%増だったが、産業用機械(6.7%)、通信機器(0.9%)、事務用機械(0.6%)はそれぞれ21.8%減、21.7%減、33.7%減といずれも大きく減少した。化学品(11.4%)は51.6%減と半減し、うち最大品目である医薬品(4.8%)は69.4%減、続く有機化学品(1.5%)も18.4%減と低調だった。依然として主要品目であるコルク・木材製品(4.9%)とコルク・木材(4.3%)はそれぞれ5.2%増、15.8%増と順調に輸出を伸ばした。

日本からの輸入を品目別でみると、全体の59.5%を占める機械・輸送機器は前年比10.6%減の14億8,200万ユーロだった。うち1.4%増の通信機器(1.5%)を除いて、電気・電子機器(8.5%)の22.0%減を筆頭に大半の品目が減少した。道路輸送機器も3.4%減となったが、2024年の日本車の新車登録台数は20.9%増となっており、円安に伴うユーロ建て輸入金額の圧縮によるものと考えられる。続く化学品(19.3%)は8.2%増で好調だった。有機化学品(3.7%)は3.7%減となったが、医薬品(7.0%)は33.2%増と大幅に増加した。雑製品(11.4%)の27.8%減は、主として前年の美術品輸入(約9,000万ユーロ)の反動減が影響した。食料品(0.4%)はシェアこそ小さいが、32.8%増と顕著に伸びた。全体に占める金額は大きくないものの、醤油が3.2倍、その他調味料ソースが35.7%増のほか、ホタテなど軟体動物(冷凍および調製品)が33.1%増、同・加工品は約9倍になった。一方、ここ数年伸びていたウイスキーの輸入は48.0%減とほぼ半減し、ジンも44.0%減となった。

OeNBによると、日本からの直接投資は2024年、前年の10億6,500万ユーロの流入から8,300万ユーロの引き揚げ超過に転じた。具体的な案件として、2024年5月に大和証券の子会社であるDCアドバイザリー(DC Advisory)がウィーンで事務所を開設したと発表。6月にロート製薬がオーストリアの同業モノ・ケムファーム・プロドゥクト(Mono chem-pharm Produkte)の株式51%を3,000万ユーロで取得する株式譲渡出資契約を締結した。屋内型ドローン自律飛行システム開発のスタートアップ「スパイラル」(Spiral)は9月に現地法人を設立。トヨタ・マテリアル・ハンドリング(Toyota Material Handling)は2025年5月、ウィーン郊外に設立した新本社に移転したと発表した。

一方、オーストリアの対日直接投資は2023年の1億3,300万ユーロの引き揚げ超過から2024年に2,300万ユーロの純増に転じた。2024年12月、産業用ソフトウエアのコパ・データ(COPA-DATA)は韓国、インドに続いて3番目の現地法人を日本で設立した。

表7 オーストリアの対日主要品目別輸出入[通関ベース](単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
機械・輸送機器 808 763 48.2 △ 5.5 1,657 1,482 59.5 △ 10.6
階層レベル2の項目道路輸送機器 384 407 25.7 5.8 534 516 20.7 △ 3.4
階層レベル2の項目産業用機械 136 106 6.7 △ 21.8 388 364 14.6 △ 6.2
階層レベル2の項目電気・電子機器 71 73 4.6 3.7 271 211 8.5 △ 22.0
階層レベル2の項目通信機器 19 15 0.9 △ 21.7 37 38 1.5 1.4
階層レベル2の項目事務用機械 15 10 0.6 △ 33.7 142 137 5.5 △ 3.4
原料別製品 239 247 15.6 3.4 257 183 7.4 △ 28.7
階層レベル2の項目金属製品 95 118 7.4 23.5 39 35 1.4 △ 8.5
階層レベル2の項目コルク・木材製品 73 77 4.9 5.2 0 0 0.0 △ 57.4
階層レベル2の項目鉄製品 20 11 0.7 △ 42.7 126 60 2.4 △ 52.6
雑製品 147 158 10.0 7.6 393 283 11.4 △ 27.8
階層レベル2の項目計測機器 76 81 5.1 6.4 153 145 5.8 △ 5.2
階層レベル2の項目カメラ、光学機器 6 5 0.3 △ 20.0 48 46 1.8 △ 4.9
階層レベル2の項目雑工業製品 45 54 3.4 21.8 186 85 3.4 △ 54.3
化学品 373 181 11.4 △ 51.6 444 480 19.3 8.2
階層レベル2の項目医薬品 247 76 4.8 △ 69.4 131 175 7.0 33.2
階層レベル2の項目有機化学製品 30 24 1.5 △ 18.4 97 93 3.7 △ 3.7
原料 71 82 5.2 15.8 6 6 0.3 8.4
階層レベル2の項目コルク・木材 59 68 4.3 15.8 0 0 0.0 △ 66.1
食料品 61 69 4.4 14.2 7 9 0.4 32.8
飲料品・たばこ 5 7 0.4 22.4 7 4 0.2 △ 43.0
合計(その他含む) 1,777 1,582 100.0 △ 11.0 2,804 2,488 100.0 △ 11.3

〔出所〕 オーストリア統計局

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2022年 2023年 2024年
実質GDP成長率 (%) 5.3 △ 1.0 △ 1.2
1人当たりGDP (米ドル) 52,609 56,290 56,915
消費者物価上昇率 (%) 8.6 7.8 2.9
失業率 (%) 6.3 6.4 7.0
貿易収支 (100万ユーロ) △ 20,593 △ 2,022 1,740
経常収支 (100万ユーロ) △ 3,862 6,345 11,665
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 16,763 12,647 11,919
対外債務残高(グロス) (100万ユーロ) 351,131 371,520 394,131
為替レート (1米ドルにつき、ユーロ、期中平均) 0.95 0.92 0.92


貿易収支:国際収支ベース(財のみ)、2024年は暫定値
出所
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:オーストリア経済研究所(WIFO)
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF
貿易収支:オーストリア統計局
経常収支、対外債務残高(グロス):オーストリア国立銀行(OeNB)