ベネズエラの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2024年のGDP成長率は5.3%とプラス成長継続。
  • 7月の大統領選の結果をめぐり、国交断絶など各国との外交関係が悪化。
  • トランプ大統領就任後、シェブロンの操業ライセンス終了など厳しい措置を発表。
  • エセキボ地域の領有権問題でガイアナとの対立も深まる。

公開日:2025年6月27日

マクロ経済 
経済の安定成長は継続も、大統領選後は国内情勢が不安定化

IMFの推計値では、ベネズエラの2024年の実質GDP成長率は5.3%と、2023年の4.0%からさらに伸び、プラス成長を維持した。OPECの資料によると、2024年のベネズエラの原油生産は日量平均86万7,000バレル(二次情報)と、前年比で14.1%増加した。年間の消費者物価上昇率は47.2%(IMF推定値)と、前年の190.0%からは落ち着いてきた。

2024年末時点の外貨準備高は102億6,600万ドルと、前年から4.6%増加したが、これは石油輸出の伸びによるものである。ベネズエラにおける原油生産の約4分の1を占める米国のシェブロン(Chevron)の活動により安定的なドル供給が図られる格好となった。しかし2024年7月の大統領選でニコラス・マドゥロ大統領の3選が発表されたことにより、国際的な制裁、国内政治情勢の不安定さがリスク視され、投資環境に陰りが生じることとなった。追い打ちをかけるように2025年1月、米国でドナルド・トランプ大統領が就任。シェブロンの操業ライセンス終了や不法移民の強制送還など対ベネズエラ制裁が続き、2024年第4四半期(9~12月)以降、ボリバル安が進行している。

対日貿易 
日本からの自動車関連輸出は引き続き好調

日本の貿易統計によると、2024年のベネズエラ向け輸出は前年比16.1%増の6,941万5,000ドルであった。最大の輸出品である乗用車は前年とほぼ同額であったが、貨物自動車が57.0%増、その他自動車部品、バス用シャシ、ゴム製タイヤなど、自動車関連製品はいずれも好調だった。

輸入は前年比13.9%増の1,547万9,000ドルとなった。半数以上を占めるカカオ豆は前年比28.3%増と好調を維持し、冷凍タコ、コーヒーなど農水産品が伸びた。金属品ではアルミニウムくずが全増となったが、前年急増した銅のくずは半減した。

表1-1 日本の対ベネズエラ主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
乗用車 33,671 33,837 48.7 0.5
貨物自動車 3,210 7,460 10.7 57.0
ピストン式火花点火エンジン 4,613 6,252 9.0 26.2
自動車用部分品及び附属品 2,276 2,968 4.3 23.3
原動機付きシャシ 1,290 1,948 2.8 33.8
二輪車 2,502 1,597 2.3 △ 56.7
特殊取扱品 1,231 1,500 2.2 17.9
ゴム製タイヤ(新品) 962 1,323 1.9 27.3
軸受箱、歯車及び歯車伝動機等 458 1,097 1.6 58.2
エンジン部分品 861 980 1.4 12.1
合計(その他含む) 58,253 69,415 100.0 16.1

〔出所〕財務省「貿易統計」(通関ベース)

表1-2 日本の対ベネズエラ主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
カカオ豆 6,311 8,800 56.9 28.3
アルミニウムインゴット 1,797 3,364 21.7 46.6
銅のくず 4,328 2,142 13.8 △ 102.1
冷凍タコ等軟体動物 162 466 3.0 65.2
アルミニウムくず 282 1.8 全増
コーヒー 31 158 1.0 80.4
ラム酒その他類似品 227 135 0.9 △ 68.1
灰及び残留物 363 66 0.4 △ 450.0
香料用、医療用、殺虫用、殺菌用その他これらに類する用途に供する植物及びその部分(1211) 2 31 0.2 93.5
緑豆 2 12 0.1 83.3
合計(その他含む) 13,333 15,479 100.0 13.9

〔出所〕財務省「貿易統計」(通関ベース)

その他(政治情勢) 
大統領選の結果を受け、外交問題が悪化

2024年7月28日に大統領選が行われ、選挙管理委員会によりマドゥロ大統領の再選が発表された。野党側はエドムンド・ゴンサレス候補が67%の票を得て勝利したと主張し抗議が続くも、8月22日に最高裁判所がマドゥロ大統領の当選を承認した。選挙の公正性、透明性に疑問の声が上がる中、マドゥロ氏の当選を認めないとする米国をはじめ、各国との外交関係が悪化した。チリ、ペルー、ドミニカ共和国などは直行便を停止し、大使館の閉鎖も相次いだ。また野党候補のゴンザレス氏は9月、スペインに亡命するなど政治的混迷が続いた。こうした中で、2025年1月10日、マドゥロ大統領の就任式が執り行われ、3期目がスタートした。

また、隣国ガイアナの国土の約7割を占めるエセキボ地域の領有権に関し、2023年12月に平和的解決での合意がなされたものの、ベネズエラ政府は2024年に入りエセキボ地域を自国領に組み入れるとする法律を公布するなど領有権の主張を強めており、二国間の対立が深刻化している。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2022年 2023年 2024年
実質GDP成長率 (%) 8.0 4.0 5.3
1人当たりGDP (米ドル) 3,307 3,829 4,511
消費者物価上昇率 (%) 234.0 190.0 47.2
失業率 (%) n.a. n.a. n.a.
貿易収支 (100万米ドル) n.a. n.a. n.a.
経常収支 (100万米ドル) 3,590 3,453 2,887
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 9,924 9,817 10,266
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) n.a. n.a. n.a.
為替レート (1米ドルにつき、ボリバル、期中平均) 6.76 28.71 38.41


実質GDP成長率、1人当たりGDP、経常収支は推計値。
外貨準備高(グロス):マクロ安定化基金(FME)を含む。
出所
実質GDP成長率、1人当たりGDP、消費者物価上昇率、経常収支:IMF
外貨準備高(グロス)、為替レート:ベネズエラ中央銀行