ベネズエラの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2022年のGDP成長率は8.0%の大幅な伸びを記録。
  • 米国による経済制裁で引き続き自由な原油生産や輸出ができないが、友好国との協力による原油輸出などで得た外貨の市中投入を大幅に増加させ、通貨の下落率は前年を下回った。
  • 経済のドル化の進展で経済活動が安定を取り戻したことから、輸出、輸入とも前年比で大幅に増加。
  • ロシアのウクライナ侵攻以降の情勢変化から制裁が一部緩和され、少量ながら欧米向けの原油輸出が再開。
  • 政治面では、与野党対話が行われたものの再度決裂し、制裁緩和のさらなる進展はみられなかった。

公開日:2023年9月4日

駐在員による3分解説動画

マクロ経済 
原油価格の高騰で8.0%の大幅成長

IMFの統計によると、2022年の実質GDP成長率は予想値で8.0%と、前年の0.5%と比較すると大幅な成長を記録した。国際的な原油価格が前年と比べ4割程度高騰したこと、民間部門を中心とする消費、投資が回復したことなどが主因である。また同統計によると、2020年に1,567ドルまで下落していた1人当たり名目GDPは3,459ドルまで回復している。米国による経済制裁は継続し、最大の外貨獲得源である石油部門では、生産および輸出の足枷となっているが、友好国であるイランなどの協力により、原油生産とアジア向けの販売が継続している。また、2019年に為替の自由化が行われ、民間主導で進んだ経済のドル化の進展により、米ドルへのアクセスが可能な富裕層を中心とした国民の旺盛な消費、また、それに伴う商業・サービス部門向けの民間投資も活発化した。特に首都カラカス市では高級品の販売店、レストランの活況ぶりも目立つようになった。

ベネズエラ中央銀行によると外貨準備高は漸減傾向ではあったものの100億ドル前後を維持し、前年の年間平均である約76億ドルからは改善した。中銀は自国通貨ボリバルの価値下落を防ぐため、主に原油輸出で獲得した外貨を為替介入により市中に投入し続けた。81回にも及んだ投入額は年間で計54億ドルと、前年の15億3,500万ドルを大きく上回った。なお、政府は国民に対し多様な臨時的補助金を頻繁に支給したが、外貨準備の減少時には流動性を抑制するなどの措置も取った。こうした結果、ボリバルの対ドル為替下落率は280%と前年の315%を下回った。しかし、ロシアのウクライナ侵攻に伴う輸入原材料価格の高騰などインフレ圧力は強く、消費者物価上昇率は310.1%(IMF推定値)と前年ほどではないが高率だった。米ドルベースでも50%程度の物価上昇がみられている。高インフレから、消費活動は2022年末から陰りが見え始めたが、原油の増産と米国向け原油輸出の再開により2022年下半期の経済回復が期待され、2023年は年間で4~6%のGDP成長が予想されている。

貿易 
還元鉄などの輸出が大幅増、中国が再び最大の市場に

2022年の石油部門以外の輸出(通関ベース)は、6億2,700万ドルと前年比2.2倍の大幅増となった。品目別に見ると、最大の輸出品である鉄鋼が1億3,100万ドルと23.2%増加した。トルコ向けの還元鉄輸出が5,000万ドルと2021年から10倍に増加したことが大きく寄与している。また、2021年に輸出実績がほぼなかった貴石、貴金属類が1億1,100万ドルと二番目に金額が大きかった。ほとんどが金インゴットだが、統計上は輸出先が「不明」に分類されている。このほか、メタノールを中心とする有機化学品が3倍、インゴットなどアルミニウムが99.8%増とそれぞれ好調だった。また鉄鉱石の輸出が再開され、鉱石類が全体の8.0%を占めるに至った。一方、国別では中国が9,300万ドルと前年比3.9倍、再び輸出相手国の第一位となった。中国向け輸出のうち約半分がメタノール、25%が鉄鉱石である。米国向けも7,400万ドルと94.0%の大幅増となった。電気ケーブルが大幅に伸び、米国向けの約4割を占めたほか、魚介類等ほとんどの商品が増加した。しかし、2021年に最大の輸出品目だったメタノールは13%減少した。

OPEC資料によると、2022年の年平均原油生産は日量67万3,000バレルと前年比21.6%増加した。米国より制裁措置を受けるなか、友好国であるイランの石油部門に対する協力は輸出グレード原油の生産に必要な超軽質油やコンデンセートといった希釈剤の供給、タンカーの建造、製油所の改修など非常に幅広い内容に及んだ。原油の輸出統計は公表されていないが、2022年の輸出量は平均で日量45万バレル程度と想定されており、その大半が債務返済のため中国向けとみられている。

ロシアのウクライナ侵攻以降、米国によるベネズエラの原油輸出に対する姿勢にも変化が表れた。2022年6月に欧州向けの原油輸出が認められたイタリアのエニ、スペインのレプソルは少量ながら出荷を行った。同年の現地側統計によると、それぞれ4億9,000万ドル、6,600万ドルの輸入実績がある。2022年11月にメキシコでベネズエラ政府と反政府派との対話が再度行われたことを受け、米国財務省外国資産管理局(OFAC)は同月、シェブロンに対し石油の生産、米国向け輸出、希釈剤の輸入などを6カ月間許可する一般ライセンス41号を交付した。これにより、同社およびベネズエラ国営石油会社(PDVSA)との合弁会社ペトロピアルから米国向けに4年ぶりとなる出荷が実現した。同時に、オリノコ超重質油のアップグレード用希釈剤として50万バレル以上のナフサが2023年1月初めにベネズエラに到着した。米シェブロンはベネズエラにおける合弁プロジェクトにおいて日量10万バレルの生産を行っていることを公表していたが、2023年5月、同年中に16万バレルまで拡大する計画を発表している。なお、2007年に撤退した米コノコフィリップスも債権回収のためのベネズエラ原油出荷に向け、OFACなどと協議を行っていると報じられている。

2022年の輸入(通関ベース)は、前年比で3倍以上となる74億9,500万ドルだった。ただし10年前と比較すると約6分の1の水準である。品目別でみると、小麦、トウモロコシ、コメなど穀物が2.3倍の5億9,600万ドル、軸受など機械類が85.9%増の5億5,500万ドルなどのほか、ヒューズなど電気機器類、プラスチック製品など主要商品がいずれも大きく伸びた。一方、国別では機械類、電気機器類が大きく増えた中国が、前年比5倍以上となる17億8,600万ドルと再び最大の輸入国となった。また米国も、大豆油かす、穀物などが増加し2.8倍の13億800万ドルとなった。このほか大豆油や穀物など農産品中心のブラジルが3.3倍、8月に国交を回復したコロンビアが3.2倍など周辺国を中心に大きく増加した。

表1-1 ベネズエラの主要品目別輸出(FOB) [通関ベース] (単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
鉄鋼 106 131 20.9 23.2
貴石、貴金属類 0 111 17.8 2,885,737.1
有機化学品 30 88 14.1 198.3
アルミニウム 27 53 8.5 99.8
鉱石、スラグおよび灰 0 50 8.0 85,081.7
魚、甲殻類、軟体動物 56 44 6.9 △ 22.0
船舶、浮き構造物 0 34 5.4 20,928.0
電気機器 11 32 5.1 194.7
食用野菜類 1 9 1.5 885.8
銅およびその製品 7 9 1.4 24.7
合計(その他含む) 289 627 100.0 116.6

〔注〕輸出は非石油部門のみ。
〔出所〕SENIAT(Global Trade Atlas)

表1-2 ベネズエラの主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万ドル、%)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
穀物 263 596 8.0 126.4
ボイラーおよび機械類、同部品 299 555 7.4 85.9
電気機器、音響機器、テレビ等 137 464 6.2 237.9
プラスチックおよび同製品 146 460 6.1 214.7
動植物性油脂 105 445 5.9 321.9
食品工業残留物・くず、調製飼料 87 319 4.3 266.3
自動車・同部分品 78 262 3.5 235.5
医療用品 56 245 3.3 338.9
有機化学品 73 219 2.9 200.9
紙および同製品 40 189 2.5 366.4
合計(その他含む) 2,326 7,495 100.0 222.2

〔出所〕SENIAT(Global Trade Atlas)

表2-1 ベネズエラの主要国・地域別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 24 93 14.8 286.1
米国 38 74 11.8 94.0
トルコ 5 56 8.9 972.7
オランダ 43 36 5.8 △ 15.0
キュラソー 0 28 4.5 14,058.2
ブラジル 41 27 4.2 △ 34.7
トケラウ 25 4.0 全増
ドミニカ共和国 6 21 3.4 234.2
メキシコ 3 17 2.8 433.1
ポーランド 14 2.2 全増
ポルトガル 5 13 2.1 152.7
コロンビア 16 12 2.0 △ 21.9
キューバ 4 9 1.5 115.2
パナマ 1 9 1.5 796.4
スペイン 15 8 1.3 △ 42.9
スウェーデン 0 8 1.2 226,222.2
グアテマラ 22 7 1.2 △ 66.5
フランス 16 6 1.0 △ 62.2
タイ 4 5 0.8 36.8
ベトナム 1 5 0.7 558.7
合計(その他含む) 289 627 100.0 116.6

〔注〕輸出は非石油部門のみ。
〔出所〕SENIAT(Global Trade Atlas)

表2-2 ベネズエラの主要国・地域別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 349 1,786 23.8 412.3
米国 462 1,308 17.5 183.3
ブラジル 323 1,069 14.3 231.3
コロンビア 160 507 6.8 217.6
パナマ 71 362 4.8 409.7
メキシコ 101 328 4.4 223.0
トルコ 72 257 3.4 259.8
アルゼンチン 79 255 3.4 222.4
インド 37 186 2.5 397.6
ロシア 3 137 1.8 5,354.4
カナダ 69 135 1.8 95.8
スペイン 44 99 1.3 125.2
チリ 31 89 1.2 189.1
ペルー 40 79 1.1 97.0
イタリア 52 76 1.0 46.2
ドイツ 212 66 0.9 △ 68.8
ウルグアイ 4 64 0.9 1,713.8
アラブ首長国連邦 18 51 0.7 188.9
エクアドル 18 50 0.7 174.1
日本 13 44 0.6 233.7
合計(その他含む) 2,326 7,495 100.0 222.2

〔出所〕SENIAT(Global Trade Atlas)

対日貿易 
自動車関連商品の好調で輸出大幅増、メタノール減少で輸入半減

日本の貿易統計(通関ベース)によると、2022年のベネズエラ向け輸出は3,372万ドルと前年比86.7%の大幅増となった。最大の輸出品である乗用車が91.7%増加したほか、エンジン、貨物自動車、新品タイヤなども好調に伸びた。輸入は2,792万ドルと2021年から約半減した。2021年に輸入の8割を占めたメタノールが63.5%減少したほか、カカオ豆も24.8%減少した。一方、アルミニウムインゴットやアルミニウムくずが大きく伸びたことが目立っている。

表3-1 ベネズエラの対日主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
乗用車 7,313 14,021 41.6 91.7
ピストン式火花点火エンジン 2,999 3,703 11.0 23.5
貨物自動車 1,567 3,699 11.0 136.1
ゴム製タイヤ(新品) 623 1,683 5.0 170.4
自動車用部分品及び附属品 722 1,544 4.6 113.9
二輪車 1,498 1,080 3.2 △ 28.0
フォークリフト 912 2.7 全増
原動機付きシャシ 322 791 2.3 146.0
エンジン部分品 190 501 1.5 163.5
医療機器 152 387 1.2 154.5
合計(その他含む) 18,059 33,721 100.0 86.7

〔出所〕財務省「貿易統計」(通関ベース)

表3-2 ベネズエラの対日主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
メタノール 42,195 15,423 55.2 △ 63.5
カカオ豆 8,036 6,040 21.6 △ 24.8
アルミニウムインゴット 1,073 3,922 14.0 265.5
銅のくず 503 951 3.4 89.1
アルミニウムくず 167 866 3.1 418.9
ラム酒その他類似品 398 377 1.3 △ 5.4
冷凍タコ等軟体動物 145 0.5 全増
ロブスター等冷凍甲殻類 73 0.3 全増
鉄鋼くず 57 0.2 全増
木製品 37 0.1 全増
合計(その他含む) 53,254 27,924 100.0 △ 47.6

〔出所〕財務省「貿易統計」(通関ベース)

その他(政治情勢) 
経済制裁のカギとなる与野党対話が実現するも再び対立

経済制裁で凍結された、合計240億ドルと想定される対外資産の回復を求めるベネズエラ政府と、公正な選挙等を求める反政府派のいわゆる与野党対話は2021年10月以降、決裂していた。2021年以降、与野党は2021年1月に成立した国会を反政府側が承認すること、制裁解除や海外資産の回復、迅速なワクチン接種や人道危機への対応、一時的な司法組織の設置などについて対話を重ねてきたが、なかなか進展はみられなかった。しかし、ロシアのウクライナ侵攻以降、米国が制裁緩和姿勢を示し始めたことで、2022年5月ごろから対話再開の機運が高まった。その後2022年11月末にメキシコで行われた対話では、教育、保健、食料、電力、災害対策のために凍結資産の一部を充当すること、そのための基金設立を国連に付託することなどが合意された。ニコラス・マドゥロ大統領は制裁解除や資産の凍結解除を米国に求めたが、米国政府から具体的な動きがないことに反発し、反政府派は再び対話の扉を閉ざした。なお、反政府派で構成される「統一プラットフォーム」は2024年中に実施が予定される大統領選挙に照準を合わせ、野党統一候補を選出すべく2022年11月に予備選挙委員会(CNP)を設立した。2023年10月22日に、大統領選に向けた候補者一本化のための予備選挙が行われることになっており、2月以降、候補者の予備登録など選挙のための各プロセスが開始されている。

基礎的経済指標

人口
2,830万人(2022年)
面積
91万6,445平方キロメートル
1人当たりGDP
3,459米ドル(2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △ 30.0 0.5 8.0
消費者物価上昇率 (%) 2,959.8 686.4 310.1
失業率 (%) n.a. n.a. n.a.
貿易収支 (100万米ドル) n.a. n.a. n.a.
経常収支 (100万米ドル) △ 1,529 △ 619 3,225
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 6,364 10,914 9,921
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) n.a. n.a. n.a.
為替レート (1米ドルにつき、ボリバル、期中平均) 335,028 3.238 6.74

注:
人口、1人当たりGDP、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、経常収支:2021年および2022年は推計値。
外貨準備高(グロス):米ドルのみ、マクロ安定化基金(FME)を含まず。
為替レート:2021年10月、6桁を切り下げるデノミを実施。
出所:
人口:国連
面積:国家統計院(INE)
1人当たりGDP、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、経常収支:IMF
外貨準備高(グロス)、為替レート: ベネズエラ中央銀行