社会保険負担金の5ヵ月分割払いを認める−インフルエンザ感染の影響緩和策を拡充−

(メキシコ)

メキシコ発

2009年05月14日

カルデロン大統領は5月13日、新型インフルエンザの感染拡大で売り上げが減少して流動性危機に陥っている企業を支援するため、5〜6月分の社会保険負担額の50%について5ヵ月間の分割払いを認める政令に署名した。カルステンス蔵相も5月11日、金融業界の協力を得て中小企業の債務再編を支援する40億ペソの追加融資を発表し、流動性危機に陥っている企業の救済に乗り出している。

<4月分の社会保険負担不履行に対する罰金も免除>
カルデロン大統領は5月13日、大統領官邸に経済界や労働組合の代表などを招き、売り上げが減少した企業の流動性を支援するための政令署名式を行った。大統領が署名し、数日中にも官報公示される政令の内容は以下のとおり(大統領府5月13日プレスリリース)。

(1)すべての企業の5〜6月の社会保険庁(IMSS)負担金(雇用者負担および労働者からの源泉徴収分)の50%分について、5ヵ月間の均等分割払いを可能にする
(2)4月分のIMSS負担金の支払い不履行に対する罰金(通常は負担額の40%)を免除
(3)5月5日に発表した年金を除くIMSS雇用者負担の20%軽減措置は変更しない

今回の措置は、5月5日に発表された社会保険雇用者負担の20%軽減とは異なり、軽減措置ではなく、支払い繰り延べによる流動性の支援だ。また、4月分の負担金支払い不履行に対する罰金を免除することで、新型インフルエンザ感染による影響で売り上げが激減し、現時点で流動性危機に陥っている中小企業の資金繰りを緩和するのが狙いだ。

今回の措置を産業界は評価している。署名式典に参加した全国工業会議所連合会(CONCAMIN)のサロモン・プレスブルガー会長は「措置の適用は容易かつ速やかに行われるため、売り上げが減少して流動性が欠如しているすべてのビジネス・産業にプラスに働く」と評価している。

<債務返済に苦しむ中小企業のリスケを支援>
大蔵公債省は5月5日に最初のインフルエンザ感染被害救済措置を発表したが、産業界からは対策内容が不十分との声があがっていた(2009年5月8日記事参照)。大統領によるIMSS負担金の支払い繰り延べ措置や罰金の免除は批判に応えたものだが、大蔵公債省も産業界の要請に応え、5月5日に発表した緊急融資プログラムの拡充を発表している。

カルステンス蔵相は5月11日、メキシコ銀行協会(ABM)のイグナシオ・デスチャンプス会長、国立開発銀行(NAFIN)と国立貿易銀行(BANCOMEXT)の総裁を兼任するエクトル・ランヘル総裁とともに記者会見を行い、NAFINとBANCOMEXTの保証の下で実施される5月5日発表の総額100億ペソの緊急融資の内容詳細を明らかにするとともに、現時点で債務返済に苦しむ企業の債務を再編するために、総額40億ペソの融資を民間金融機関に対して行うと発表した。

100億ペソの緊急融資のうちの50億ペソは、NAFINの保証の下で民間金融機関を通じてメキシコ市とインフルエンザ感染の被害を受けた観光地の企業に融資される。1企業が受けられる融資額上限は200万ペソで、担保は必要とせず、元本の返済が一定期間(当地報道では3ヵ月間)猶予され、市場金利よりも低い金利が適用される。

残りの50億ペソのうち20億ペソは、BANCOMEXTの保証の下で民間金融機関を通じてカンクンやリビエラマヤ、ロスカボスなど観光客の減少に苦しむ観光地の企業に融資される。1企業が受けられる融資額上限は200万〜3,000万ペソで、元本と金利の返済が一定期間(当地報道では元本が6ヵ月間,金利が3ヵ月間)猶予され、市場金利よりも低い金利が適用される。

残りの30億ペソは、BANCOMEXTが航空業界に対して直接融資を行うか、民間企業を通じた融資の保証に用いられる。

これに加えて、現時点で債務返済が難しくなっている中小企業が民間金融機関に対して負っている既存債務を再編(リスケ)させるプログラムが発表された。NAFINが民間金融機関に40億ペソを融資する代わりに、民間金融機関は現時点で回収が難しくなっている債権を不良債権とせず、債務再編を望む中小企業に対して一定の返済猶予期間を設けた新たな返済期日を設定することになる。

「レフォルマ」紙(5月12日)によると、新規融資を希望する企業、債務再編を希望する企業は、自社が被った影響の度合いを申告した上で、5月15日〜8月15日の間に申請する必要がある。また、債務再編は、09年3月31日時点で不良債権化していない債務でなければならない。

ABMのデスチャンプス会長は「民間金融機関と政府系開発銀行が協力して行うこの取り組みは、1万2,000の零細企業、5,000の中小企業に有益だ。この部門が抱える多くの雇用を保護することが最大の目的だ」と語っている。

<メキシコ市は小規模零細企業に対して給与税を還付>
新型インフルエンザの被害が最も大きいメキシコ市(連邦区)も、小規模零細企業に対する支援を行っている。同市政府は5月11日、従業員30人までの企業が08年中に支払った給与税(雇用者が従業員に支払う給与総額の2%に相当する州税)を還付する措置を開始した。

同措置は国際金融危機による景気悪化に苦しむ零細企業への対策として、メキシコ市政府が従業員10人以下の企業に対して09年2月から実施していた措置の対象を拡大したものだ。

メキシコ市政府財務省によると、同還付措置を申請できる企業の条件は、a.従業員数が30人まで、b. 08年第4四半期と比べて従業員数を削減していない、c. 08年のすべての月の給与税を定められた期間内に支払った、d.土地税と水道料金を不足・遅延なく支払っている、の4つ。

上記4条件をすべて満たす企業は、メキシコ州財務省のウェブサイトから還付申請登録を行うことができる。5月11日時点で1,092社が同プログラムに申請登録済みだ。

メキシコ市のマリオ・デルガド財務長官は、今後支払う給与税の免除ではなく08年中に支払った給与税の還付を行う理由として、流動性が乏しく税を支払うことも困難な企業にとっては、これから支払う金額の減少より現時点での手元現金の増加の方が助けとなるためだと説明している

また、中小零細企業は市内全企業の98%に当たる33万1,000社に及び、メキシコ市の全正規雇用の42%に当たる100万人以上の雇用を抱える重要な部門だとしている。

なお、メキシコ市は新型インフルエンザ感染被害対策として、4月28日〜5月5日まで市の命令により営業を停止したレストランの従業員に対し、1人1日当たり50ペソを支給するプログラムを行っている。支援金が受けられるレストランは従業員が30人までで、従業員の給与は最低賃金の3倍以下でなければならない。

同プログラムも企業(レストラン)からの申請により、支援金が支給される。5月11日までに1,020社から申請があり、2万282人の従業員が恩恵を受けている(メキシコ市政府プレスリリース5月11日)。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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