チリの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2022年のGDP成長率は2.4%、インフレ高進に伴う政策金利引き上げにより景気は下降傾向。
  • 燃料価格の上昇に伴う輸入増により、貿易収支が3年ぶりの赤字。
  • 国際価格下落と輸出数量減少などにより銅輸出額が減少。リチウム輸出は増加。
  • CPTPP発効で、日本向けチリ産品1,052品目が新たに関税撤廃・引き下げ対象に。
  • M&A案件数は62件、エネルギーとテクノロジー分野への投資が最多に。

公開日:2023年9月20日

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マクロ経済 
GDP成長率は2.4%も、景気は2022年後半から下降傾向

チリの2022年の実質GDP成長率は前年比2.4%で、過去最高を記録した2021年(11.7%)と比較すると大幅な鈍化がみられる。これは、政府が景気回復を後押しすべく行ってきた家計や企業を対象とする支援策の終了や、チリ中央銀行によるインフレ抑制を目的とした政策金利の継続的な引き上げにより、消費や投資が減少したことが影響している。需要項目別にみると、GDP成長率への寄与度が最も高かった内需は前年比で2.3%増加した。内需はコロナ禍からの回復によって2021年から増加傾向が続いたものの、2022年は一転して鈍化基調となり、2022年第3四半期以降は前年同期比でマイナスに転じている。内需の内訳では、民間最終消費支出が前年比2.9%増で、コロナ禍で停滞していた交通や、レストラン、ホテルなどのサービスへの支出が回復した。国内総固定資本形成は2.8%増で、主に住宅建設への投資や、トラックやバスの輸入増加による設備投資が増加した。財貨・サービスの輸出入は、共に前年比で増加したものの、輸入は第3四半期以降、前年同期比でマイナスに転じている。

年間の消費者物価指数(CPI)上昇率は、2022年12月に12.8%に達し、1992年以来30年ぶりとなる高い上昇率を記録した。しかし、中銀の金融引き締め策によって鎮静化に向かいつつあり、2023年5月には前年同月比8.7%まで低下している。中銀は、2023年6月に行われた政策金利決定会合において、2023年のCPI上昇率は4.2%、実質GDP成長率はマイナス0.5~0.25%になるとの予測を発表している。

貿易 
主力の銅輸出は減少、燃料価格高騰で貿易収支は3年ぶりの赤字

2022年の貿易(通関ベース)は、輸出(FOB)が前年比3.0%増の974億9,100万ドル、輸入(CIF)が13.2%増の1,044億700万ドルとなり、貿易収支は69億1,600万ドルの赤字だった。貿易収支が赤字となったのは2019年以来3年ぶりで、中銀が公表しているデータ(2003年以降)の中で、赤字がここまで拡大したのは初めてである。貿易収支の赤字には、国際価格の上昇に伴うディーゼル油や石炭などのエネルギー製品の輸入増加が寄与した。

輸出を品目別にみると、シェア5割近くを占める銅・鉄は前年比18.3%減の455億1,200万ドルだった。2022年の銅の採掘量は前年比5.2%減の533万トンで、干ばつによって利用可能な水が減少したことや、主要鉱山での鉱石の品質低下を主因とし、銅の採掘が軒並み減少した。加えて、銅の国際価格の平均が、前年比5.6%減の1ポンド当たり3.99ドルだったことも鉱産物輸出の減少に影響を与えた。チリ銅委員会(COCHILCO)は、2023年の国際銅価格の平均について1ポンド当たり3.85ドルとの予想を発表している。しかし、世界的なインフレ動向とマクロ経済リスクや、ロシアのウクライナ侵攻による地政学的リスクなどが、今後の銅価格に変動をもたらす可能性を指摘している。

農林水産物は前年比1.4%増の67億1,900万ドルで、サクランボは20.6%増、ブドウは13.3%増だった。農業政策調査庁(ODEPA)のデータによると、サクランボの輸出は9割以上が中国向けとなっており、2022年のサクランボ栽培面積は6万1,559ヘクタールで、10年前の2012年と比較して4.5倍に増加した。

工業品は18.9%増の326億2,000万ドルで、主要輸出品であるサーモンは、ポストパンデミックによる需要回復で2桁増となった。ボトルワインは、輸出量が前年比1.1%減の4億4,347万リットルとなり、主な輸出先の中国、ブラジル、英国向けで減少した。

輸入を品目別にみると、ロシアのウクライナ侵攻の影響で燃料価格が高騰し、石油やディーゼル油の輸入額が大幅に増加した(石炭・石油・天然ガス全体で前年比39.0%増)。構成比の9割を占める工業品は前年比12.0%増の933億1,200万ドルだった。基礎化学製品・石油派生品・ゴム・プラスチックは前年比で2桁増となった。

輸出を主要地域別にみると、アジア向けが構成比58.7%を占め、国別では中国(39.4%)、米国(13.9%)、日本(7.6%)の順だった。中国向けは輸出の4割を占めるが、主な輸出品は銅関連製品、炭酸リチウム、サクランボなどだった。

輸入を主要地域別にみると、米州からが47.2%を占め、国別では、中国(25.3%)、米国(20.9%)、ブラジル(9.7%)の順だった。中国からは携帯電話、テレビ、パソコンなどが主な輸入品だが、新型コロナ禍における「特需」が過ぎ去ったため、前年比で減少に転じた。

表1 チリの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1
実質GDP成長率 11.7 2.4 7.5 5.2 0.2 △ 2.3 △ 0.6
階層レベル2の項目民間最終消費支出 20.8 2.9 13.3 7.0 △ 1.4 △ 4.2 △ 4.8
階層レベル2の項目政府最終消費支出 13.8 4.1 11.1 6.8 2.8 △ 2.1 3.9
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 15.7 2.8 7.3 6.2 0.5 △ 1.7 △ 2.1
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 △ 1.4 1.4 △ 1.0 0.4 4.7 1.6 2.4
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 31.8 0.9 15.3 11.1 △ 2.6 △ 15.8 △ 17.4

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。一部暫定値を含む。
〔出所〕チリ中央銀行資料から作成

表2 チリの主要品目別輸出入 [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
農林水産物 6,624 6,719 6.9 1.4 1,960 2,093 2.0 6.8
階層レベル2の項目果物 5,914 5,951 6.1 0.6 354 289 0.3 △ 18.3
鉱産物 60,613 58,152 59.6 △ 4.1 6,931 9,002 8.6 29.9
階層レベル2の項目銅・鉄 55,724 45,512 46.7 △ 18.3
階層レベル2の項目石炭・石油・天然ガス 5,865 8,151 7.8 39.0
工業品 27,440 32,620 33.5 18.9 83,306 93,312 89.4 12.0
階層レベル2の項目加工食品類、飲料・アルコール類・たばこ 12,963 15,078 15.5 16.3 8,962 9,509 9.1 6.1
階層レベル2の項目繊維・衣類・革製品 403 508 0.5 26.1 5,408 6,548 6.3 21.1
階層レベル2の項目木材・木製家具 2,666 3,137 3.2 17.7 1,511 1,063 1.0 △ 29.7
階層レベル2の項目セルロース・製紙 3,294 3,490 3.6 6.0 1,275 1,847 1.8 44.8
階層レベル2の項目基礎化学製品・石油派生品・ゴム・プラスチック 4,029 6,328 6.5 57.1 22,878 31,245 29.9 36.6
階層レベル2の項目鉄・鉄鋼、非鉄基礎産業 1,538 1,708 1.8 11.1 3,416 3,305 3.2 △ 3.2
階層レベル2の項目金属製品・機械・機器類、電気機器類、輸送機器 2,337 2,130 2.2 △ 8.9 37,191 37,199 35.6 0.0
合計(その他含む) 94,677 97,491 100.0 3.0 92,197 104,407 100.0 13.2

〔注〕輸出申告および輸入申告の数値を使用。
(1):輸出額には、港での購入品が含まれる。
(2):果実、鉱産物の輸出額は、一部推定値を含む。
(3):中銀の統計では「農林水産物」に含まれる水産物は採取漁業によるもののみで、畜産物は工業製品に分類されている。
〔出所〕チリ中央銀行資料から作成

表3 チリの主要国・地域別輸出入 [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
アジア 54,123 57,273 58.7 5.8 36,684 36,969 35.4 0.8
階層レベル2の項目日本 7,238 7,419 7.6 2.5 2,140 2,717 2.6 27.0
階層レベル2の項目中国 36,524 38,447 39.4 5.3 27,515 26,413 25.3 △ 4.0
階層レベル2の項目韓国 4,826 6,054 6.2 25.4 1,878 1,938 1.9 3.2
階層レベル2の項目インド 1,288 1,238 1.3 △ 3.9 1282.3 1,459 1.4 13.8
欧州 11,059 9,944 10.2 △ 10.1 13,393 13,669 13.1 2.1
階層レベル2の項目EU27 8,414 7,558 7.8 △ 10.2 11,350 11,616 11.1 2.3
階層レベル2の項目ドイツ 1,076 911 0.9 △ 15.3 2,947 2,783 2.7 △ 5.6
階層レベル2の項目スペイン 1,554 1,378 1.4 △ 11.3 2,128 2,027 1.9 △ 4.7
階層レベル2の項目フランス 1,595 1,024 1.1 △ 35.8 1,216 1,346 1.3 10.7
米州 28,300 28,888 29.6 2.1 38,879 49,299 47.2 26.8
階層レベル2の項目米国 14,933 13,587 13.9 △ 9.0 16,028 21,790 20.9 35.9
階層レベル2の項目メルコスール 5,956 6,120 6.3 2.8 13,926 17,691 16.9 27.0
階層レベル3の項目ブラジル 4,582 4,514 4.6 △ 1.5 7,736 10,165 9.7 31.4
階層レベル3の項目アルゼンチン 787 909 0.9 15.4 4,914 6,042 5.8 23.0
階層レベル2の項目太平洋同盟 3,742 4,513 4.6 20.6 5,726 6,085 5.8 6.3
階層レベル3の項目メキシコ 1,391 1,756 1.8 26.3 2,531 2,315 2.2 △ 8.5
階層レベル3の項目ペルー 1,656 1,827 1.9 10.4 1,802 1,979 1.9 9.8
合計(その他含む) 94,677 97,491 100.0 3.0 92,197 104,407 100.0 13.2

〔注〕輸出申告および輸入申告の数値を使用。
(1):太平洋同盟には、メキシコ、ペルーに加え、コロンビアが含まれる。
〔出所〕チリ中央銀行資料から作成

表4 チリのFTA発効・署名・交渉状況(単位:%)
FTA 発効日 チリの貿易に占める構成比(2022年)
往復 輸出 輸入
発効済み 中国、FTA深化協定(2019年3月発効) 2006年10月 1日 31.7 38.9 24.6
米国 2004年 1月 1日 17.9 14.7 21.1
EU27 2003年 2月 1日 9.5 7.4 11.6
メルコスール〔経済補完協定(ACE35)〕 1996年10月1日 12.0 6.1 17.9
日本(EPA) 2007年 9月 3日 4.9 7.5 2.5
太平洋同盟、追加議定書 2016年 5月 1日 5.5 5.1 6.0
韓国 2004年 4月 1日 3.9 6.1 1.7
インド、部分到達協定、拡張協定(2017年5月発効) 2007年8月17日 1.6 1.7 1.4
エクアドル〔経済補完協定(ACE32)、(ACE65)、(ACE75)〕 2022年5月16日 1.0 0.6 1.3
カナダ、FTA深化協定(2019年2月発効) 1997年 7月 5日 1.2 1.3 1.0
タイ 2015年11月5日 0.8 0.7 0.8
ボリビア〔経済補完協定(ACE22)〕 1993年 4月 6日 0.4 0.5 0.4
ベトナム 2014年 1月 1日 0.9 0.4 1.3
EFTA 2004年12月1日 0.8 1.1 0.6
中米5カ国 〔注〕 0.5 0.7 0.2
トルコ 2011年 3月 1日 0.4 0.2 0.6
オーストラリア 2009年 3月 6日 0.5 0.2 0.9
P4(EPA) 2006年11月8日 0.2 0.3 0.2
マレーシア 2012年4月18日 0.3 0.3 0.3
パナマ 2008年 3月 7日 0.2 0.4 0.1
香港 2014年11月29日 0.1 0.2 0.0
ベネズエラ〔経済補完協定(ACE23)〕 1993年 7月 1日 0.1 0.1 0.0
キューバ〔部分到達協定(ACE42)〕、追加議定書 2008年6月27日 0.0 0.0 0.0
メキシコ 1999年7月31日 2.1 1.9 2.3
コロンビア 2009年5月8日 1.5 1.1 1.8
ペルー 2009年3月1日 2.0 2.1 1.9
ウルグアイ 2018年12月13日 0.2 0.2 0.3
アルゼンチン 2019年5月1日 3.5 1.0 6.0
インドネシア〔CEPA(包括的経済連携協定)〕 2019年8月10日 0.3 0.2 0.5
ブラジル 2022年1月25日 7.6 4.8 10.4
英国(EPA) 2021年1月1日 0.7 0.7 0.6
シンガポールとニュージーランド、デジタル経済デジタル経済連携協定(DEPA) 2021年11月23日
CPTPP 2023年2月21日 12.2 14.0 10.3
合計 33協定(65カ国) 95.5 95.4 95.6
署名済み パラグアイ
交渉中 EU、近代化協定
EFTA、近代化協定
インド、部分調達協定の拡大
韓国、近代化協定
インドネシア、CEPA(サービスの章)
トリニダード・トバゴ、部分調達協定
アラブ首長国連邦、〔CEPA(包括的経済連携協定)〕
英国、近代化協定

〔注〕構成比の算出には、輸出FOBと輸入CIF価格を使用。
(1):太平洋同盟には、メキシコ、コロンビア、ペルーが含まれる。
(2):追加議定書は既存の2国間FTAをベースとする広域FTA。
(3):中米5カ国には、コスタリカ(2002年2月14日発効)、エルサルバドル(2002年6月1日発効)、ホンジュラス(2008年7月19日発効)、グアテマラ(2010年3月23日発効)、ニカラグア(2012年10月19日発効)が含まれ、発効日は異なる。
(4):P4にはニュージーランド、シンガポール、ブルネイが含まれる。
(5):キューバとは2010年11月11日に追加議定書が発効した。
(6):EU27の構成比算出には、キプロスとスロバキアのデータが取得不可のため、25カ国のデータで算出している。
〔出所〕チリ国内法規、SUIBREI、チリ税関データなどから作成

対内・対外直接投資 
エネルギーとテクノロジー分野への投資が14件と最多

ここ数年の傾向として、チリへの投資案件は、エネルギー分野へ向けたものが中心となっている。M&Aの調査を行っているランドマーク(Landmark)の発表によると、2022年のM&A案件総数は62件で、昨年の104件から大幅減となった。投資の内訳は、エネルギーとテクノロジー分野がいずれも14件と最多で、次いで金融サービス(5件)、鉱業(4件)、食品・飲料(4件)、小売り(4件)の順となり、3年連続でエネルギー分野への投資が最多となった。チリの主要産業である鉱業分野では、オーストラリアのサウス32が住友金属鉱山および住友商事が所有していたシエラ・ゴルダ銅鉱山の権益45%を買収した。ほかにも電力分野では、イタリアの多国籍企業であるエネルグループが所有するエネル・トランスミシオン・チリを、サエサ・グループが15億2,600万ドルで買収した。テクノロジー分野では、米国のエクイニクスがエンテル所有のデータセンターを買収するなどの動きが見られた。金融分野においては、チリのサイド・グループが所有するスコシア・バンク・チリの株式16.76%を、カナダのノバ・スコシア銀行が10億1,900万ドルで追加取得し、持分を99.8%に増加させた案件などがあり、大型M&Aが続いた。

表5 チリの主な対内直接投資案件(2022年)(単位:100万ドル)
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
鉱業 サウス32 オーストラリア 2022年2月 1,550 住友金属鉱山と住友商事が所有していたシエラ・ゴルダ銅鉱山の権益45%を買収。
リチウム・チリ カナダ 2022年5月 非公開 チリ北部「ラグナ・ブランカ」リチウム生産プロジェクトの9,600ヘクタールを追加で取得。
小売業 フェムサ メキシコ 2022年2月 61 チリの小売り大手SMUが所有するコンビニ事業(OKMarket)を買収。
金融 ノバ・スコシア銀行 カナダ 2022年4月 1,019 チリのサイド・グループが所有するスコシアバンク・チリの株式16.76%を追加で取得。これにより同社の持分は99.8%に増加。
テクノロジー エクイニクス 米国 2022年5月 633 エンテルが所有するデータセンターを買収。
漁業 カーギル/三井物産 米国/日本 2022年5月 300 サーモン養殖を行うサルモネス・ムルティエクスポルトの株式24.5%を穀物メジャーのカーギルが新規取得、三井物産は1.13%を追加取得。これにより、出資比率はマルチエキスポート・フーズ51%、カーギル24.5%、三井物産24.5%に。
電力 エンジー・エネルヒア・チリ フランス 2022年12月 77 ロス・ラゴス州のサンペドロ風力発電所(252メガワット)を買収。
サエサ・グループ カナダ 2022年12月 1,526 イタリアのエネルグループが所有するエネル・トランスミシオン・チリを買収。

〔注〕 業種別に表示。
〔出所〕 各社発表および報道、一部ECLACの資料を基に作成

通商政策 
CPTPPが発効、日本向け1,052品目が新たに関税撤廃・引下対象

チリの2022年の通商協定による往復貿易カバー率は95.5%に達した。国会で長らく議論が停滞していた環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)の承認法案は、2022年10月に上院本会議で可決された。その後、寄託国のニュージーランドへ批准書が提出され、2023年2月21日にチリでもCPTPPが発効した。チリの2022年のCPTPP参加国向け輸出額は、輸出全体の14.0%、輸入額は輸入全体の10.3%を占めている。チリは全てのCPTPP参加国との間に既存の二国間の自由貿易協定(FTA)あるいは地域貿易協定(RTA)を締結済みであったが、カナダ、日本、ベトナム、マレーシアとの既存協定では、関税撤廃や関税引き下げの対象外となる品目が含まれていた。CPTPP発効により、新たに2,930品目のチリ産品が関税撤廃や関税引き下げの恩恵を受けることとなる。国別ではカナダが100品目、日本が1,052品目、ベトナムが1,115品目、マレーシアが663品目で、品目の内訳は48%が製造品、33%が農業品、15%が漁業・水産養殖品となっている。日本向けは、牛肉、蜂蜜、生鮮ミカン・その果肉・ジャム、トマトソースなどが対象となっている。

対日関係 
リチウム輸出額は前年比5.1倍に増加

チリ側の統計によると、対日貿易は輸出が前年比2.5%増の74億1,900万ドル、輸入が27.0%増の27億1,700万ドルで、日本はチリにとって国別で3位の輸出先、6位の輸入元だった。主な対日輸出品は銅鉱で、輸出全体の53.7%を占めた。ほかの上位品目では太平洋サケ(冷凍、頭・はらわた抜き)や、モリブデン精鉱がそれぞれ前年比10.1%増、14.5%増だった。また、世界的な電気自動車需要の増加に伴うリチウムの国際価格高騰により、リチウムの炭酸塩の輸出額が前年比4.8倍に増加し、輸出全体に占めるシェアを1.3%から5.9%に伸ばした。

主な対日輸入品は、軽油やディーゼル油に加え、乗用車、タイヤやシャシーなどの自動車関連製品であったが、関連して国内の新車販売台数が過去最高となる42万6,777台を記録した。

表6-1 チリの対日主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
銅鉱(精鋼を含む) 4,468 3,981 53.7 △ 10.9
太平洋サケ(冷凍、頭・はらわた抜き) 570 628 8.5 10.1
モリブデン精鉱(焼いたもの) 461 528 7.1 14.5
リチウムの炭酸塩(粒子が37ミクロン以下のもの) 92 439 5.9 376.0
太平洋サケ(冷凍、フィレ) 137 207 2.8 51.2
トラウト(冷凍、フィレ) 166 173 2.3 4.3
ウニ(冷凍) 74 107 1.4 45.7
大西洋サケ(冷凍、フィレ) 72 83 1.1 15.4
リチウムの炭酸塩(その他) 8 77 1.0 815.6
化学木材パルプ(針葉樹のもの) 58 70 0.9 20.4
豚肉(冷凍、骨なし) 82 67 0.9 △ 18.3
木材チップ(ユーカリ・グロビュラス) 83 59 0.8 △ 29.0
木材(松、針葉樹) 58 57 0.8 △ 2.2
木材チップ(ユーカリ・ニテンス) 62 56 0.8 △ 10.2
鉄鉱 66 52 0.7 △ 21.1
合計(その他含む) 7,238 7,419 100.0 2.5

〔出所〕チリ中央銀行資料から作成

表6-2 チリの対日主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
軽油、ディーゼル油 294 755 27.8 157.1
乗用車(1500cc超3000cc以下) 352 375 13.8 6.6
タイヤ(建設、産業車両用) 155 5.7 全増〔注〕
シャシー(トラック用、有効積載量2トン超) 88 110 4.1 25.1
硫酸及び発煙硫酸 33 101 3.7 202.5
その他車両(1000cc以下) 142 64 2.4 △ 54.9
乗用車(1000cc超1500cc以下) 23 63 2.3 171.5
鉄・非合金鋼のフラットロール製品(厚さ3mm未満) 98 60 2.2 △ 38.7
パラモーター用燃料 57 2.1 全増〔注〕
魚の油脂及びその分別物(肝油を除く) 8 31 1.1 311.2
フロントエンド型ショベルローダー(上部構造が360度回転するもの) 25 0.9 全増〔注〕
ターボジェット、ターボプロペラその他のガスタービン(その他のもの) 1 24 0.9 2,532.9
乗用車(3000cc超) 16 24 0.9 43.8
ダンプカー(オフロード用) 0 22 0.8 12,286.9
その他車両(1000cc超1500cc以下) 45 20 0.7 △ 56.8
合計(その他含む) 2,140 2,717 100.0 27.0

〔注〕全増は、HSコードの分類変更が行われたことによるものと判断される。
〔出所〕チリ中央銀行資料から作成

基礎的経済指標

人口
1,983万人(2022年6月、推定値)
面積
75万6,227平方キロメートル(2022年)
1人当たりGDP
1万5,095米ドル (2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △ 6.1 11.7 2.4
消費者物価上昇率 (%) 3.0 7.2 12.8
失業率 (%)(10~12月) 10.3 7.2 7.9
貿易収支 (100万米ドル) 18,917 10,470 3,807
経常収支 (100万米ドル) △ 4,952 △ 23,193 △ 27,102
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 39,151 51,238 39,088
対外債務残高(グロス) (100万米ドル、期末値) 208,485 237,690 233,325
(11) 為替レート ( 1 米ドルにつき、チリ・ペソ、期中平均) 792.73 758.96 873.31

出所:
人口、消費者物価上昇率、 失業率:チリ統計局(INE)
面積:チリ国会図書館データから算出
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、 為替レート:IMF
実質GDP成長率、貿易収支、経常収支、 対外債務残高(グロス):チリ中央銀行