ベトナムの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • GDP成長率は8.0%と、2000年代で最高率。ただし、第4四半期から減速。
  • 輸出入はともに過去最高額を更新も、年後半から鈍化。2023年上半期も低調。
  • 対内直接投資は件数が増加、認可額は減少。
  • 政治の混乱、電力インフラ開発遅れなどは、足下のみならず中長期的にベトナムの成長に悪影響を与える恐れ。

公開日:2023年11月24日

駐在員による3分解説動画

動画再生のためのモーダルウィンドウを開く

マクロ経済 
2022年はコロナ禍からの反発で高成長率を達成も、終盤に減速

2022年、ベトナムは新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)禍からの反動もあり、力強い経済回復を見せた。実質GDP成長率は8.0%で、年初に公表した政府目標6.0~6.5%を達成し、1997年以来となる8%超えの成長率となった。1人当たりGDPは4,087ドル(前年から334ドル増加)相当と推定され、4,000ドルに到達した。特に第3四半期のGDP成長率は前年同期比13.7%で、前年同期のマイナス6.0%の反動から一段と高い数字を記録した。しかし、世界的なインフレ、ロシアによるウクライナ侵攻による経済の不透明感の高まりなどを受け、第4四半期は5.9%に減速した。

小売り・サービスの売上高は前年比21.7%増で、内需は年間を通じて好調を保ったものの、外需の変動が経済に影響した。2022年上半期は欧米向けの輸出が大幅に伸びたが、下半期は外需の減少で輸出が落ち込み、電子機械やアパレル、鉄鋼などの製造会社では生産の縮小や従業員の解雇などがみられた。

消費者物価指数(CPI)上昇率は前年比3.2%だった。ベトナム政府が、付加価値税(VAT)および石油製品の環境保護税の引き下げによる税負担の軽減、ガソリン価格の上限の統制を図ったことなどが物価上昇の抑制に効果を示した面もあり、上昇率4%以内という政府目標に収まった。しかし、ウクライナ侵攻などを受けた原油価格の高騰、物価の上昇などを背景に、年後半にかけてインフレが加速し、第4四半期は前年同期比4.4%となった。財別にみると、交通(ガソリンを含む)は通年で11.3%上昇したが、食品・飲食業や住居・建築材など多くの品目は2~3%台の上昇にとどまった。

表1 ベトナムの産業別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2
実質GDP成長率 2.6 8.0 5.1 7.8 13.7 5.9 3.3 4.1
階層レベル2の項目農林水産業 3.3 3.4 2.5 3.1 3.7 3.9 2.9 3.3
階層レベル2の項目鉱工業・建設業 3.6 7.8 6.4 8.7 12.2 4.2 △ 0.4 2.5
階層レベル2の項目サービス業 1.6 10.0 4.6 8.9 19.3 8.1 6.6 6.1

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕ベトナム統計総局

2023年は経済成長が低迷、出口見えず

政府は2023年の実質GDP成長率目標を6.5%に設定した。しかし、第1四半期のGDP成長率は3.3%、第2四半期は4.1%にとどまった。2022年後半から続く輸出不振の影響が、多くの産業に波及している状況だ。世界銀行は8月に発表した「世界経済見通し」で、2023年のベトナムのGDP成長率を4.7%と予測した。6月発表の見通しと比べて、6.0%から1.3ポイント下方修正した。

英国の調査会社IHSマークイットによる2023年上半期(1~6月)の製造業購買担当者景気指数(PMI)は、2月を除き、改善と悪化の境目となる50を下回っている。

1~6月の小売り・サービスの売上高は前年同期比10.9%増で比較的好調に見えるが、第2四半期は8.7%増、6月単月は6.5%増と伸び率は縮小し、減速の兆しが見える。

1~6月のCPI上昇率は前年同期比3.3%だった。単月では1月の4.9%をピークに5カ月連続で低下し、6月単月の上昇率は前年同月比2.0%だった。2022年のコスト高の原因となったエネルギー価格の高騰が収まり、CPI上昇率は低下している。ただし、政策の影響を受けにくいコアCPIは依然として単月4%台で推移し、高い水準のままである。

景気減速を懸念するベトナム政府は、2023年7月1日から12月31日までVATと国産自動車登録料を引き下げる政策を実施した。さらに、ベトナム国家銀行(中央銀行)は3~6月にかけ、4カ月連続で政策金利を引き下げた。金融政策と財政政策の両面で景気の下支えを行う姿勢を示しているが、それによって現地通貨安(ドル高ドン安)やインフレが再度加速することが懸念される。

貿易 
2022年は欧米向け輸出と資源国からの輸入が増加

ベトナム税関総局によると、2022年の輸出(通関ベース)は3,717億1,500万ドル(前年比10.6%増)、輸入は3,595億7,500万ドル(8.0%増)で、輸出入ともに過去最高額を更新した。貿易収支は121億4,000万ドルで7年連続の黒字となった。

輸出を主要品目別にみると、1位は「電話機・同部品」で579億9,200万ドル(前年比0.8%増)、2位は「コンピュータ電子製品・同部品」で555億3,200万ドル(9.3%増)、3位は「機械設備・同部品」で457億4,700万ドル(19.4%増)だった。輸出総額の15.6%を占める「電話機・同部品」は、ベトナムに自社世界最大のスマートフォン生産拠点を持つサムスン電子が、下期に年内出荷目標台数の下方修正と減産調整をした影響もあり、0.8%の増加にとどまった。また、欧米や中国などの建設需要の減退を受けて、鉄鋼の輸出額は32.2%減と大幅に減少した。一方、主要品目で伸び率が高かったのは、縫製品(14.8%増)や履物(34.6%増)、水産物(22.9%増)などの消費財で、新型コロナ禍からの需要回復が寄与したものとみられる。

輸入を主要品目別にみると、1位は「コンピュータ電子製品・同部品」で818億6,700万ドル(前年比8.3%増)、2位は「機械設備・同部品」で451億3,800万ドル(2.5%減)、3位は「電話機・同部品」で211億2,700万ドル(1.6%減)だった。生産財となる上位品目の輸入は下期にかけて減速し、2022年終盤より低迷する製造業の生産状況を反映する結果となった。一方、資源高の影響で石油製品の輸入額は2倍以上となった。

表2-1 ベトナムの主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
電話機・同部品 57,531 57,992 15.6 0.8
コンピュータ電子製品・同部品 50,797 55,532 14.9 9.3
機械設備・同部品 38,326 45,747 12.3 19.4
縫製品 32,751 37,603 10.1 14.8
履物 17,750 23,895 6.4 34.6
木材・木製品 14,809 16,013 4.3 8.1
輸送機器・同部品 10,616 11,989 3.2 12.9
水産物 8,882 10,920 2.9 22.9
鉄鋼 11,789 7,989 2.1 △ 32.2
ビデオカメラ・同部品 5,216 6,374 1.7 22.2
合計(その他含む) 336,167 371,715 100.0 10.6
国内企業 91,036 98,115 26.4 7.8
外資企業 245,131 273,601 73.6 11.6

〔出所〕ベトナム税関総局

表2-2 ベトナムの主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
コンピュータ電子製品・同部品 75,559 81,867 22.8 8.3
機械設備・同部品 46,295 45,138 12.6 △ 2.5
電話機・同部品 21,471 21,127 5.9 △ 1.6
織布・布地 14,322 14,704 4.1 2.7
プラスチック原料 11,759 12,386 3.4 5.3
鉄鋼 11,568 11,921 3.3 3.1
金属類 8,622 9,256 2.6 7.4
化学品 7,646 9,144 2.5 19.6
石油製品 4,105 8,969 2.5 118.5
化学製品 7,777 8,740 2.4 12.4
合計(その他含む) 332,843 359,575 100.0 8.0
国内企業 114,362 126,417 35.2 10.5
外資企業 218,480 233,158 64.8 6.7

〔出所〕ベトナム税関総局

主要国・地域別にみると、輸出は米国が1,094億3,700万ドル(前年比13.7%増)で1位、次いで中国が579億3,600万ドル(3.6%増)、韓国が243億1,100万ドル(10.8%増)だった。欧米を中心に輸出上位国・地域の多くで2桁増の伸びとなった。ただし、中国と香港向けは両国・地域の「ゼロコロナ政策」で経済が停滞し、輸出が伸び悩んだ。下期は大幅に伸びが鈍化した国・地域が多かったが、日本への輸出はむしろ増加した。

輸入は、中国が1,184億8,500万ドル(前年比7.2%増)で1位、次いで韓国が622億4,400万ドル(10.5%増)、日本が233億8,600万ドル(2.6%増)だった。輸入額の伸びは、オーストラリア(27.0%増)とインドネシア(26.6%増)が顕著だった。両国からは石炭や鉱物の輸入が多く、ウクライナ侵攻などによる世界的な資源価格上昇が影響した。

表3-1 ベトナムの主要国・地域別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
米国 96,270 109,437 29.4 13.7
中国 55,926 57,936 15.6 3.6
韓国 21,948 24,311 6.5 10.8
日本 20,130 24,246 6.5 20.4
香港 11,995 10,939 2.9 △ 8.8
オランダ 7,685 10,433 2.8 35.8
ドイツ 7,288 8,969 2.4 23.1
インド 6,281 7,961 2.1 26.7
タイ 6,155 7,515 2.0 22.1
カナダ 5,270 6,329 1.7 20.1
合計(その他含む) 336,167 371,715 100.0 10.6

〔出所〕ベトナム税関総局

表3-2 ベトナムの主要国・地域別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 110,533 118,485 33.0 7.2
韓国 56,314 62,244 17.3 10.5
日本 22,801 23,386 6.5 2.6
台湾 20,780 22,633 6.3 8.9
米国 15,277 14,470 4.0 △ 5.3
タイ 12,586 14,093 3.9 12.0
オーストラリア 7,968 10,119 2.8 27.0
インドネシア 7,603 9,628 2.7 26.6
マレーシア 8,166 9,123 2.5 11.7
インド 6,964 7,104 2.0 2.0
合計(その他含む) 332,843 359,575 100.0 8.0

〔出所〕ベトナム税関総局

2023年上半期の貿易、米国への輸出や中国からの輸入が大幅減

ベトナム税関総局によれば、2023年上半期の輸出(暫定値)は1,646億8,100万ドル(前年同期比12.0%減)、輸入は1,518億3,700万ドル(18.4%減)だった。貿易収支は128億4,400万ドルの黒字となった。輸出1位の米国は前年同期比22.1%減、輸入1位の中国は19.5%減と、輸出入とも最大の貿易相手国が大きく落ち込んでいる。ベトナムは原材料や部品を輸入し、製品を輸出する加工貿易が中心のため、輸出需要の減少が輸入の大幅減にもつながっているとみられる。

通商政策 
15件目のFTA、RCEPが発効

ベトナムは多くの自由貿易協定(FTA)を締結しており、2022年の貿易額に占めるFTA締結国・地域の割合は73.4%だった。2022年1月には、ベトナムにとって15件目のFTA/経済連携協定(EPA)となる地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効し、同年4月にベトナム当局がRCEP協定の原産地証明書発給手続きを開始した。日本との貿易では、既に日本・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)をはじめ複数のFTA/EPAが活用可能なこともあり、日本への輸入では発効初年のRCEP利用は限定的だった。ただし、RCEPは、例えば累積規定で中国など他の締約国の原材料をベトナムの原材料と見なすことができるように、ベトナムで製造・加工を行う企業に有利に働く側面もある。今後活用の拡大が期待される。また、EU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)は2020年8月の発効から、2023年で3年が経過した。ベトナムのEUとの2022年の貿易額は、輸出が前年比16.3%増、輸入が49.0%増と堅調だ。

表4 ベトナムのFTA発効状況(単位:%)
FTA 発効日 ベトナムの貿易に占める構成比(2022年)
往復 輸出 輸入
(1)ASEAN自由貿易地域(AFTA) 1996年1月1日 11.1 9.2 13.1
(2)ASEAN‐中国自由貿易地域(ACFTA) 2005年7月1日 24.1 15.6 33.0
(3)ASEAN‐韓国自由貿易地域(AKFTA) 2007年6月1日 11.8 6.5 17.3
(4)日本・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP) 2008年12月1日 6.5 6.5 6.5
(5)日本・ベトナム経済連携協定(JVEPA) 2009年10月1日 6.5 6.5 6.5
(6)ASEANオーストラリア・ニュージーランド自由貿易地域(AANZFTA) 2010年1月1日 2.3 1.7 3.0
(7)ASEAN‐インド自由貿易地域(AIFTA) 2010年6月1日 2.4 2.1 2.7
(8)ベトナム・チリ自由貿易協定(VCFTA) 2014年1月2日 0.3 0.5 0.1
(9)ベトナム・韓国自由貿易協定(VKFTA) 2015年12月20日 11.8 6.5 17.3
(10)ベトナム・ユーラシア経済連合自由貿易協定(VN‐EAEUFTA) 2016年10月5日 0.5 0.4 0.6
(11)環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11) 2019年1月14日 13.9 13.9 13.9
(12)ASEAN香港自由貿易協定(AHKFTA) 2019年6月11日 1.8 2.9 0.5
(13)EU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA) 2020年8月1日 9.8 12.5 7.0
(14)英国ベトナム自由貿易協定(UKVFTA) 2021年5月1日 0.9 1.6 0.2
(15)地域的な包括的経済連携(RCEP)協定 2022年1月1日 52.8 36.8 69.4
合計 73.4 62.7 84.5

〔注1〕FTAを適用した貿易額は公表されていないため、「ベトナムの貿易に占める構成比」はFTA締結国との貿易額がベトナム全体の貿易額に占める割合を表示。
〔注2〕(4)(5)および(3)(9)は、それぞれ同じ締結国であるため、構成比は同じものとなる。
〔注3〕(11)は2022年までに発効済みのメキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア、ペルー、マレーシアの8カ国との貿易額合算を元に算出。
〔注4〕(15)は2022年までに発効済みの11カ国との貿易額合算を元に算出。
〔注5〕合計は全てのFTA締結国との貿易額がベトナム全体の貿易額に占める割合を示す。そのため、FTAごとの割合の合計とは一致しない。
〔出所〕ベトナム税関総局

対内直接投資 
2022年の投資認可件数は3年ぶりに増加も、認可額は減少

2022年の対内直接投資(認可ベース、出資・株式取得を除く)は、新規・拡張の合計で3,362件(前年比15.3%増)、認可額は238億4,700万ドル(24.9%減)だった。認可件数は3年ぶりに増加に転じた。認可額は大型のインフラ案件が複数あった2021年と比べると大きく減少したが、新型コロナ禍前の2019年とほぼ同水準を保っている。

業種別では、製造業が1,222件(2.6%減)、160億1,400万ドル(15.2%減)で、件数・金額ともに首位だった。大型案件ではデンマーク資本のレゴによる南部ビンズオン省の玩具工場の新規投資(約13億2,000万ドル)や韓国資本のサムスン電機による北部タイグエン省の半導体パッケージ基板工場の拡張投資(9億2,000万ドル)がけん引した。2位は不動産で29億4,100万ドル(12.9%増)、3位はライフラインで21億7,200万ドル(72.2%減)だった。

表5 ベトナムの業種別対内直接投資[新規・拡張合計、認可ベース(出資・株式取得を除く)](単位:件、100万ドル、%)(△はマイナス値)
業種 2021年 2022年
件数 認可額 構成比 件数 認可額 構成比 伸び率
製造 1,255 18,882 59.5 1,222 16,014 67.1 △ 15.2
不動産 96 2,606 8.2 118 2,941 12.3 12.9
ライフライン 36 7,815 24.6 17 2,172 9.1 △ 72.2
小売り・卸売り 641 720 2.3 808 709 3.0 △ 1.4
コンサルなど 395 432 1.4 473 607 2.5 40.5
情報通信 195 286 0.9 320 512 2.1 79.4
倉庫・運輸 72 421 1.3 97 417 1.7 △ 1.0
建設 42 290 0.9 64 192 0.8 △ 33.9
教育 41 30 0.1 56 149 0.6 397.0
金融・保険 2 35 0.1 9 54 0.2 54.1
合計(その他を含む) 2,915 31,746 100.0 3,362 23,847 100.0 △24.9

〔注1〕コンサルなど:税務、法務、ビジネスコンサル、建築・設計業務、R&D、広告・市場調査など。
〔注2〕構成比、伸び率はそれぞれ認可額についてのもの。
〔出所〕外国投資庁データを基に作成

国・地域別では、シンガポールが48億4,200万ドル(前年比38.6%減)で、前年に続き最大の投資国となった。日本は47億9,300万ドル(17.6%増)で2位となり、韓国は40億5,400万ドル(42.1%減)で3位だった。件数は韓国が817件(19.3%増)で最多、中国が432件(24.5%増)、シンガポールが415件(25.0%増)と続いた。

表6 ベトナムの国・地域別対内直接投資[新規・拡張合計、認可ベース(出資・株式取得を除く)](単位:件、100万ドル、%)(△はマイナス値)
2021年 2022年
件数 認可額 構成比 件数 認可額 構成比 伸び率
シンガポール 332 7,886 24.8 415 4,842 20.3 △ 38.6
日本 351 4,075 12.8 406 4,793 20.1 17.6
韓国 685 7,002 22.1 817 4,054 17.0 △ 42.1
中国 347 2,790 8.8 432 2,436 10.2 △ 12.7
香港 238 2,190 6.9 226 2,157 9.0 △ 1.5
デンマーク 8 38 0.1 13 1,350 5.7 3441.5
台湾 137 1,299 4.1 146 1,177 4.9 △ 9.4
英領バージン諸島 50 417 1.3 51 722 3.0 73.3
米国 109 697 2.2 118 593 2.5 △ 14.9
サモア 36 503 1.6 39 303 1.3 △ 39.8
合計(その他含む) 2,915 31,746 100.0 3,362 23,847 100.0 △24.9

〔注〕構成比、伸び率はそれぞれ認可額についてのもの。
〔出所〕外国投資庁データを基に作成

出資・株式取得は、件数が前年比4.3%減の3,756件、金額が23.5%減の54億4,100万ドルにとどまり、件数・金額とも3年連続で減少した。なお、直接投資の実行額(推計)は13.5%増の224億ドルで過去最高額を記録した。

2023年上半期は件数が大幅増、認可額は低調

2023年上半期の対内直接投資(認可ベース、6月20日時点の速報値、出資・株式取得を除く)は、新規・拡張の合計で1,925件(前年同期比55.4%増)、認可額は94億1,800万ドル(19.9%減)だった。新規投資は件数が1,293件(71.9%増)と大幅に増え、それに伴って認可額も64億9,200万ドル(31.3%増)に拡大した。一方、拡張投資を中心に大型案件が減少した。その理由について、外国投資庁は、大企業がグローバルミニマム課税による税制の変更を懸念し、投資の意思決定に慎重になっていると分析している。ベトナム政府は、グローバルミニマム課税制度がOECD加盟国をはじめ各国で適用予定の2024年に向けて、税務総局を中心に税制改正などを検討している。税制の変更が、大企業以外にも影響を及ぼす内容となるかなど、今後留意が必要だ。

対日関係 
対日貿易は輸出が大幅増

2022年のベトナムの対日輸出(通関ベース)は242億4,600万ドル(前年比20.4%増)、輸入は233億8,600万ドル(2.6%増)だった。貿易収支は8億6,000万ドルの黒字となった。輸出は、主力の「縫製品」や「履物」のほか、「木材・木製品」や「水産物」などの一次産品が前年比3割前後の伸びで好調だった。新型コロナ感染対策の規制が緩和され、ベトナムでの生産と日本での需要が回復したことが、消費財の輸出を増加させたとみられる。また、「木材・木製品」の増加は、バイオマス燃料として木質チップ・ペレットの需要が高まったことが背景にある。輸入は、主力の「コンピュータ電子製品・同部品」などが前年比2桁の伸び率となったが、全体では小幅な伸びにとどまった。

表7-1 ベトナムの対日主要品目別輸出(FOB) [通関ベース] (単位:100万ドル、%)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
縫製品 3,237 4,081 16.8 26.1
機械設備・同部品 2,565 2,761 11.4 7.6
輸送機器・同部品 2,473 2,533 10.4 2.4
木材・木製品 1,437 1,889 7.8 31.5
水産物 1,326 1,707 7.0 28.7
コンピュータ電子製品・同部品 996 1,143 4.7 14.8
履物 807 1,094 4.5 35.6
電話機・同部品 792 989 4.1 24.9
プラスチック製品 697 755 3.1 8.3
鉄鋼製品 542 641 2.6 18.3
合計(その他含む) 20,130 24,246 100.0 20.4

〔出所〕ベトナム税関総局

表7-2 ベトナムの対日主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
コンピュータ電子製品・同部品 6,226 6,977 29.8 12.1
機械設備・同部品 4,457 4,290 18.3 △ 3.7
鉄鋼 1,728 1,795 7.7 3.9
自動車部品 735 860 3.7 17.0
プラスチック製品 834 804 3.4 △ 3.6
織布・生地 636 682 2.9 7.2
化学製品 635 661 2.8 4.1
プラスチック原料 620 659 2.8 6.3
鉄スクラップ 1,076 658 2.8 △ 38.8
金属類 537 606 2.6 12.8
合計(その他含む) 22,801 23,386 100.0 2.6

〔出所〕ベトナム税関総局

日本企業の投資件数は復調傾向も、投資リスクが顕在

2022年の日本からの直接投資(認可ベース、出資・株式購入を除く)は、新規・拡張の合計で406件(前年比15.7%増)、47億9,300万ドル(17.6%増)と、件数・認可額ともに前年より増加した。日本からの投資案件をみると、丸紅と東京ガスが出資する北部クアンニン省でのLNG火力発電所案件(20億ドル)が最大で、日本の新規投資認可額の6割近くを占めた。また、太陽光発電関連事業を行うFUJI SOLAR(東京都)が出資する北部フート省での太陽電池研究・製造案件(2億ドル)、中部トゥアティエン・フエ省のイオンモ-ル Hue(フエ)の新規投資(約1億7,000万ドル)などの大型投資がみられた。イオンモールはベトナムの北部と南部で計6店舗を展開するが、本案件が初めての中部地域出店となる。製造業の投資件数は、拡張(100件)が新規(41件)を大きく上回った。既に進出している企業が、生産の強化やビジネスの拡大を図る傾向が強く表れた

2023年の上半期は、件数が219件(前年同期比50.0%増)、認可額が5億7,500万ドル(39.1%減)だった。目立った大型投資はないが、2022年から件数は増加傾向で、新型コロナ禍明けの日本企業のベトナム事業展開への関心の高さがうかがえる。

日本企業のベトナム事業への関心の高さはジェトロのアンケート調査にも表れている。2022年11~12月に日本企業を対象に実施したアンケート調査では、海外で事業拡大を図る国・地域として、ベトナムは6年連続2位になった。また、同年8~9月に在アジア・オセアニア地域の日系企業を対象に実施したアンケート調査では、在ベトナム日系企業の60%が同国での事業を今後1~2年で拡大する方針だと回答した。この割合はASEANの中で最も高かった。事業拡大の意欲が高い背景には、輸出拡大による売り上げ増加、現地市場での売り上げ増加の両方が見込める点にある。

一方、2023年前半は、政治の混乱や経済成長の低迷など、ベトナムでのビジネスリスクが顕在化した。2023年1月に副首相2人が解任され、グエン・スアン・フック国家主席(当時)が辞任した。新型コロナ感染拡大時の在外ベトナム人を対象にした帰国便の手配、新型コロナ検査キットの政府入札を巡る職権乱用・収賄などに、多数の政府高官らが関わった汚職事件の責任を取ったものと報じられている。一連の処分は、共産党の最高指導者で反汚職を強く主導するグエン・フー・チョン書記長の意向を受けた動きとみられ、摘発は民間企業幹部にも及んだ。結果、政府内で要職の空席に加え、処分を恐れて判断を避ける傾向が強まり、行政における各種許認可や手続きの遅延が発生した。これらの政治・行政の問題に加え、輸出不振に端を発する経済成長の低迷、電力インフラなどの開発遅延が、ベトナムの投資環境に影を落としている。

とりわけ北部の電力不足は進出日系企業の経営に影響を与えている。電源開発の遅れと猛暑による電力需要の増加などが相まって、2023年4~7月は例年以上に電力不足のリスクが深刻化した。5月下旬から約1カ月にわたり、ハノイ市街地や日系製造業が入居する工業団地でも停電が相次いだ。既存の発電所だけでは打開策に限りがあるため、大型の電源開発を待つほかなく、電力不足リスクは今後数年にわたって続く可能性がある。政治・行政の問題、これらに起因する投資認可や開発の遅れは、中長期的な経済成長や投資環境の向上に影響を及ぼす恐れがあり、速やかな改善が期待される。

基礎的経済指標

人口
9,946万人(2022年)
面積
33万1,346キロ平方メートル(2022年)
1人当たりGDP
4,087米ドル(2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) 2.9 2.6 8.0
消費者物価上昇率 (%) 3.2 1.8 3.2
失業率 (%) 3.9 4.3 2.8
貿易収支 (100万米ドル) 19,938 3,324 12,140
経常収支 (100万米ドル) 15,060 △ 7,871 △ 3,566
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 94,834 109,371 86,540
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 125,045 136,213 n.a.
為替レート (1米ドルにつき、ベトナム・ドン、期中平均) 23,208 23,160 23,271

注:
人口、1人当たりGDP:推計値
失業率:都市部
貿易収支:通関ベース
出所:
人口、面積、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:ベトナム統計総局
1人当たりGDP、経常収支、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF
貿易収支:ベトナム税関総局
対外債務残高(グロス):世界銀行