ベトナムの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 実質GDP成長率は7.1%と前年から回復。
  • 製造業が堅調、輸出入はともに前年から増加し、2年ぶりに最高額を更新。
  • 対内直接投資は件数、認可額ともに2年連続で増加。
  • 新たな共産党指導部の下、経済成長加速を目指す。

公開日:2025年7月18日

マクロ経済 
2024年のGDP成長率は7.1%、後半は成長が加速

ベトナム統計局によると、2024年の実質GDP成長率は7.1%だった。5.1%と低迷した2023年から回復し、内需と外需のバランスが取れた安定的な成長をみせ、政府目標を達成した。1人当たりGDPは4,536ドル(前年より219ドル増、IMF推計)とされる。

2024年の四半期別成長率をみると、第1四半期(1~3月)は6.0%と力強さを欠いたものの、第2四半期(4~6月)以降は3四半期連続で加速し、第4四半期(10~12月)には7.6%だった。製造業購買担当者景気指数(PMI)は多くの月で景況改善・悪化の境目となる50を上回った。9月は台風11号(国際名:ヤギ)が北部を直撃し47.3まで低下したが、製造業への影響は限定的だった。内需は、小売り・サービスの売上高が前年比9.0%増と堅調な伸びを示した。四輪車の新車販売台数は前年比約2割増の49万台超で、過去最高を記録した2022年に迫る水準だった。

消費者物価指数(CPI)上昇率は前年比3.6%だった。国会が定めた4.0~4.5%以内という目標に収まり、急激なインフレは抑制された。CPI上昇率は4~7月に前年同月比4%超で推移したが、エネルギー価格の落ち着きやドル高ドン安の一服を受け、8月は3.5%に低下し、9~12月は2%台で推移した。財別にみると、政府による医療サービス価格の改定などを受けて、薬・医療は7.2%上昇し、最も伸び率が高かった。交通(ガソリンを含む)は燃油価格の下落により、0.8%の上昇にとどまった。また、寄与度が大きい食品、飲食業は、全体の指数を1.4ポイント押し上げた。コメの輸出価格の上昇や、消費者の需要増加などが影響した。住居(費)、建築材は、電力需要の増加や電力価格の引き上げ、家賃の高騰などで全体の指数を1.0ポイント押し上げた。

実質GDP成長率は2024年後半にかけて加速したが、2025年もこのまま回復基調が続くかは不透明だ。2025年について、ベトナム政府と国会はGDP成長率目標を8%以上に設定した。しかし、GDPの4分の1近くを占める製造業の生産活動は、世界経済の減速、外需の低迷などの外部環境の影響を受けやすい。特に、輸出額の約3割を米国向けが占めることから、米国の関税政策がベトナム経済に与える影響は大きい。輸出が減少すれば、雇用の悪化や国内景気の減速へと波及する恐れがある。

表1 ベトナムの産業別実質GDP成長率(単位:%)
項目 2022年 2023年 2024年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 8.5 5.1 7.1 6.0 7.3 7.4 7.6
階層レベル2の項目農林水産業 3.7 3.9 3.3 3.5 3.8 3.0 3.0
階層レベル2の項目鉱工業・建設業 8.2 3.7 8.2 6.9 8.6 9.0 8.4
階層レベル2の項目サービス業 10.7 6.9 7.4 6.2 7.4 7.5 8.2

〔注1〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔注2〕2024年Q4は推計値。
〔出所〕ベトナム統計局

貿易 
輸出入とも2年ぶりに最高額を更新、課題は輸出品目の多様化

ベトナム税関局によると、2024年の輸出は4,059億3,500万ドル(前年比14.4%増)、輸入は3,809億9100万ドル(16.7%増)だった。輸出入ともに前年を上回り、2年ぶりに過去最高を更新した。貿易収支は249億4,500万ドルの黒字で、9年連続の黒字となった。月別にみると、2月と11月を除く10カ月で輸出額の増加率が前年同月比10%を上回っており、通年で輸出が好調に推移した。

輸出を主要品目別にみると、1位はコンピュータ・電子製品・同部品で725億9,500万ドル(前年比26.6%増)、2位は電話機・同部品で538億9,100万ドル(2.9%増)、3位は機械設備・同部品で521億7,200万ドル(21.0%増)だった。上位10品目の全てが前年比で増加した。特に、コンピュータ・電子製品・同部品の最大の輸出先である米国向けは36.3%増の232億130万ドルとなり、同品目の輸出額の約3割を占めた。また、4位の縫製品を含めた上位4品目が輸出額全体に占める割合は53.1%に達している。ベトナム統計局は、輸出がコンピュータ・電子製品や電話機、縫製品といった一部の品目に依存しているため、国際市場での価格変動や需要減少といったリスクが高まっていると指摘している。

輸入を主要品目別にみると、1位がコンピュータ・電子製品・同部品で1,071億1,900万ドル(前年比21.8%増)、2位が機械設備・同部品で488億9,700万ドル(17.6%増)、3位が織布・生地で149億1,300万ドル(14.5%増)だった。輸入でも上位10品目は全て前年を上回った。輸入品目の多くは、生産活動に必要な生産材が占めている。そのため、輸出拡大に伴い、生産活動に必要な原材料や部材を中心に輸入が伸びたものとみられる。

表2-1 ベトナムの主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
コンピュータ・電子製品・同部品 57,325 72,595 17.9 26.6
電話機・同部品 52,376 53,891 13.3 2.9
機械設備・同部品 43,127 52,172 12.9 21.0
縫製品 33,321 37,040 9.1 11.2
履物 20,236 22,875 5.6 13.0
木材・木製品 13,469 16,280 4.0 20.9
輸送機器・同部品 14,157 15,243 3.8 7.7
水産物 8,970 10,040 2.5 11.9
鉄鋼 8,347 9,078 2.2 8.8
ビデオカメラ・同部品 7,619 8,022 2.0 5.3
合計(その他含む) 354,721 405,935 100.0 14.4
国内企業 97,548 116,638 28.7 19.6
外資企業 257,173 289,297 71.3 12.5

〔出所〕ベトナム税関局

表2-2 ベトナムの主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万ドル、%)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
コンピュータ・電子製品・同部品 87,965 107,119 28.1 21.8
機械設備・同部品 41,575 48,897 12.8 17.6
織布・生地 13,020 14,913 3.9 14.5
鉄鋼 10,430 12,584 3.3 20.7
プラスチック原料 9,759 11,786 3.1 20.8
電話機・同部品 8,748 10,404 2.7 18.9
金属類 7,627 9,564 2.5 25.4
プラスチック製品 7,508 8,856 2.3 17.9
化学原料 7,725 8,285 2.2 7.2
原油 7,080 8,116 2.1 14.6
合計(その他含む) 326,358 380,991 100.0 16.7
国内企業 117,298 140,237 36.8 19.6
外資企業 209,060 240,754 63.2 15.2

〔出所〕ベトナム税関局

輸出を主要国・地域別にみると、1位が米国で1,195億2,300万ドル(前年比23.2%増)、2位が中国で613億7,100万ドル(0.1%増)、3位が韓国で256億7,700万ドル(9.3%増)だった。中国向け輸出は横ばいに近いものの、上位10カ国・地域の全てで前年を上回った。輸出額に占める米国の割合は29.4%にのぼる。ベトナムは米国に対する貿易黒字が拡大しているため、2025年4月、米国はベトナムに対して相互関税46%を課すと発表した。両国間の協議を経て、7月には関税率46%の引き下げで合意しているが、米国の関税政策の影響を引き続き注視する必要がある。

輸入は、1位が中国で1,442億300万ドル(前年比30.3%増)、2位が韓国で559億8, 800万ドル(6.6%増)、3位が台湾で227億4,600万ドル(23.5%増)だった。中国からの輸入では、コンピュータ・電子製品・同部品が346億4,571万ドル(48.0%増)と、ベトナムの同品目の輸入額全体の約3割を占めた。中国からの輸入額は過去10年間で3倍以上に拡大した。

表3-1 ベトナムの主要国・地域別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
米国 97,017 119,523 29.4 23.2
中国 61,316 61,371 15.1 0.1
韓国 23,490 25,677 6.3 9.3
日本 23,337 24,608 6.1 5.4
オランダ 10,239 12,991 3.2 26.9
香港 9,607 12,424 3.1 29.3
インド 8,497 9,062 2.2 6.6
ドイツ 7,398 7,951 2.0 7.5
タイ 7,186 7,808 1.9 8.7
英国 6,345 7,544 1.9 18.9
合計(その他含む) 354,721 405,935 100.0 14.4

〔出所〕ベトナム税関局

表3-2 ベトナムの主要国・地域別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 110,651 144,203 37.8 30.3
韓国 52,510 55,988 14.7 6.6
台湾 18,421 22,746 6.0 23.5
日本 21,641 21,622 5.7 △ 0.1
米国 13,822 15,102 4.0 9.3
タイ 11,785 12,452 3.3 5.7
インドネシア 8,732 10,517 2.8 20.4
マレーシア 7,808 9,070 2.4 16.2
オーストラリア 8,528 7,595 2.0 △ 10.9
クウェート 5,857 7,252 1.9 23.8
合計(その他含む) 326,358 380,991 100.0 16.7

〔出所〕ベトナム税関局

通商政策 
FTA/EPA締結国・地域との貿易は全体の7割強

ベトナムは特定の国・地域に依存せず、各国・地域と柔軟に付き合う全方位外交を掲げている。通商政策では多くの自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を締結し、輸出入の増加や投資機会の創出を図ることで、経済成長を促進してきた。2024年の貿易額に占めるFTA/EPA締結国・地域の割合は71.1%だった。

環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)は、2024年で発効から6年目を迎えた。ベトナム政府によると、輸出でのCPTPP利用率は2019年の1.7%から2023年の6.3%と5年間で約4倍に拡大した。特にCPTPP発効前には貿易協定を結んでいなかったカナダ・メキシコ・ペルーとの取引で、企業は恩恵を得ているとみられる。

地域的な包括的経済連携(RCEP)協定は発効から3年目を迎えた。RCEPは他のFTA/EPAに比べて後発の協定であるため、輸出における活用率が2023年は1.3%にとどまっている。品目によっては他の協定よりも有利な場合もあるが、企業の実務レベルでの認知がまだ追い付いてない点が課題だ。

ジェトロが2024年8~9月に実施した「2024年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」(以下、日系企業調査)によると、在ベトナム日系企業が日本との貿易で活用するFTA/EPAのうち、輸出・輸入ともに上位3つは、ASEAN物品貿易協定(ATIGA)、日本・ベトナム経済連携協定(JVEPA)、日本・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)だ。これらを活用していると回答した企業の割合は約40~50%で、前回2023年の調査結果と同水準だった。一方、RCEPを輸出入で活用する企業の割合は、発効直後の2022年度が輸出19.0%、輸入19.6%だったのに対し、2024年度は輸出28.3%、輸入24.3%と着実に増加している。

イスラエルとの自由貿易協定が発効

2024年は貿易関連協定で3件の動きがあった。ベトナム・イスラエル自由貿易協定(VIFTA)は2024年11月に発効し、イスラエルが東南アジアの国と締結する初のFTAとなった。イスラエルからベトナム向けの輸出では、食品や医療用工学機器、自動車用品などの関税が発効から最長で7年以内に撤廃され、ベトナムからイスラエル向けの輸出では、食品や自動車などが発効から最長で10年以内に関税撤廃となる。最終的にはベトナムの輸出品の86%、イスラエルの輸出品の93%に対する関税が撤廃される計画だ。イスラエルはベトナム産のマグロやイカ、エビなどの水産物の輸入国で、FTA発効による関税の段階的な撤廃で、ベトナムからの水産物の輸出増加が期待される。

また、2024年10月にはアラブ首長国連邦(UAE)との包括的経済連携協定(CEPA)に署名した。現在は国内の批准手続きを進めているとみられ、アラブ諸国との初めての自由貿易協定となる。発効後はUAEの輸出品の99%、ベトナムの輸出品の98.5%に対する関税が段階的に撤廃される見込みだ。UAEからの主要輸入品目であるプラスチック原料や石油製品、液化石油ガス(LPG)の関税も段階的に引き下げられる。ベトナムの主要輸出品である農産物(カシューナッツ、胡椒、はちみつ)や魚介類(エビ、魚製品)、消費財(繊維、履物、電子機器)、木製品(家具、建築資材)などの関税は即時撤廃される。UAEは中東やアフリカ市場へのゲートウェイとしての役割も果たすことから、ベトナム製品の新規市場開拓が期待される。

さらに、2024年6月にはインド太平洋経済枠組み(IPEF)のサプライチェーン協定に署名した。同協定は同年2月に発効していたが、ベトナムは参加14カ国の中で唯一署名が遅れていた。現在は国内の批准手続きを進めているものとみられるが、米国がドナルド・トランプ政権となったことで、協定の実効性に関する見通しは難しくなっている。

表4 ベトナムのFTA発効状況(単位:%)
FTA 発効日 ベトナムの貿易に占める構成比(2024年)
往復 輸出 輸入
発効済み (1)ASEAN物品貿易協定(ATIGA) 1996年1月1日 10.7 9.1 12.3
(2)ASEAN・中国自由貿易地域(ACFTA) 2005年7月1日 36.8 24.2 50.2
(3)ASEAN・韓国自由貿易地域(AKFTA) 2007年6月1日 21.0 15.4 27.0
(4)日本・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP) 2008年12月1日 16.5 15.2 18.0
(5)日本・ベトナム経済連携協定(JVEPA) 2009年10月1日 5.9 6.1 5.7
(6)ASEANオーストラリア・ニュージーランド自由貿易地域(AANZFTA) 2010年1月1日 12.6 10.9 14.5
(7)ASEAN・インド包括的経済協力枠組み協定 2010年6月1日 10.7 9.1 12.3
(8)チリ・ベトナム自由貿易協定(VCFTA) 2014年1月2日 0.2 0.3 0.1
(9)韓国・ベトナム自由貿易協定(VKFTA) 2015年12月20日 10.4 6.3 14.7
(10)ベトナム・EAEU自由貿易協定(VN‐EAEUFTA) 2016年10月5日 0.7 0.8 0.6
(11)環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP) 2019年1月14日 13.1 13.7 12.3
(12)ASEAN・香港自由貿易協定(AHKFTA) 2019年6月11日 14.3 13.9 14.7
(13)EU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA) 2020年8月1日 8.7 12.7 4.4
(14)英国・ベトナム自由貿易協定(UKVFTA) 2021年5月1日 1.1 1.9 0.2
(15)地域的な包括的経済連携協定(RCEP) 2022年1月1日 54.9 38.3 72.6
(16)ベトナム・イスラエル自由貿易協定(VIFTA) 2024年11月17日
合計 71.1 62.4 80.3

〔注1〕FTAを適用した貿易額は公表されていないため、「ベトナムの貿易に占める構成比」はFTA締結国との貿易額がベトナム全体の貿易額に占める割合を表示。
〔注2〕(4)(5)および(3)(9)は、それぞれ同じ締結国であるため、構成比は同じものとなる。
〔注3〕(11)は2024年までに発効済みのメキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア、ペルー、マレーシア、チリ、ブルネイの10カ国との貿易額合算を基に算出。2024年12月に英国も発効したが、英国との貿易額は算入していない。
〔注4〕(15)は2024年までに発効済みの13カ国との貿易額合算を元に算出。
〔注5〕(16)は発効が11月であるため、算出していない。
〔注6〕合計は全てのFTA締結国との貿易額がベトナム全体の貿易額に占める割合を示す。そのため、FTAごとの割合の合計とは一致しない。
〔出所〕ベトナム税関局

対内直接投資 
2024年の対内直接投資は件数・金額ともに増加

2024年の対内直接投資(認可ベース、出資・株式取得を除く)は、新規・拡張の合計で4,914件(前年比4.6%増)、認可額は336億8,800万ドル(10.0%増)だった。直接投資の実行額は9.4%増の253億5,100万ドルで、過去最高額を更新した。

業種別(認可ベース)でみると、製造業が2,151件(前年比12.9%増)、246億8,200万ドル(4.2%増)で、件数・金額ともに首位だった。米国アムコー・テクノロジー(Amkor Technology)による北部バクニン省での半導体後工程受託製造(OSAT)のメモリー工場の拡張(10億7,000万ドル)や、韓国LGエレクトロニクス(LG Electronics)による北部ハイフォン市での有機ELディスプレー製造工場の拡張(10億ドル)など、電気・電子機器分野の大型案件が製造業の投資を牽引した。認可額の2位は不動産で50億9,100万ドル(2.4倍)、3位はライフラインで12億8,200万ドル(43.6%減)だった。

国・地域別では、シンガポールが89億5,100万ドル(前年比65.2%増)で、5年連続の首位となった。シンガポールの投資の中には、グローバル企業がシンガポール拠点から投資をしているケースが多くあるとみられる。例えば、上述のアムコー・テクノロジーのほか、台湾フォックスコン(Foxconn)の8億ドル近い投資や中国トリナソーラー(Trina Solar)の4億5,400万ドルの投資もシンガポール経由だ。2位は韓国で67億8,900万ドル(44.1%増)、3位は香港で42億3,500万ドル(9.4%減)だった。件数は中国が1,185件(26.6%増)で2年連続の首位だった。2位の韓国が761件(10.9%減)、3位のシンガポールが644件(10.5%増)と続いた。日本は認可額・件数ともに5位で、25億7,700万ドル(32.3%減)、444件(5.5%減)だった。

ベトナムの省・市別にみると、北部のバクニン省、ハイフォン市、クアンニン省の3地域への投資が認可額全体の4割近くを占めた。近年、北部に大型投資が相次ぐ傾向が続いている。

出資・株式取得は、件数が3,502件(前年比2.4%減)、認可額が45億3,812万ドル(48.1%減)と件数・金額ともに減少した。国・地域別の認可額では、シンガポールが首位で、日本は2位だった。

表5 ベトナムの業種別対内直接投資 [新規・拡張合計、認可ベース(出資・株式取得を除く)](単位:件、100万ドル、%)(△はマイナス値)
業種 2023年 2024年
件数 認可額 構成比 件数 認可額 構成比 伸び率
製造業 1,905 23,687 77.3 2,151 24,682 73.3 4.2
不動産 123 2,155 7.0 135 5,091 15.1 136.3
ライフライン 13 2,271 7.4 9 1,282 3.8 △ 43.6
小売り・卸売り 1,195 713 2.3 1,362 1,053 3.1 47.6
コンサルなど 519 569 1.9 458 501 1.5 △ 11.9
倉庫・運輸 159 338 1.1 148 434 1.3 28.3
情報通信 376 230 0.8 304 153 0.5 △ 33.3
建設 91 322 1.1 91 100 0.3 △ 68.9
農林水産 31 58 0.2 19 74 0.2 27.7
業務サポート 79 30 0.1 96 61 0.2 100.8
合計(その他含む) 4,698 30,638 100.0 4,914 33,688 100.0 10.0

〔注1〕コンサルなど:税務、法務、ビジネスコンサル、建築・設計業務、R&D、広告・市場調査など。
〔注2〕構成比、伸び率はそれぞれ認可額についてのもの。
〔出所〕ベトナム外国投資庁

表6 ベトナムの国・地域別対内直接投資 [新規・拡張合計、認可ベース(出資・株式取得を除く)](単位:件、100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2023年 2024年
件数 認可額 構成比 件数 認可額 構成比 伸び率
シンガポール 583 5,420 17.7 644 8,951 26.6 65.2
韓国 854 4,712 15.4 761 6,789 20.2 44.1
香港 448 4,675 15.3 554 4,235 12.6 △ 9.4
中国 936 4,416 14.4 1,185 3,974 11.8 △ 10.0
日本 470 3,809 12.4 444 2,577 7.6 △ 32.3
台湾 329 2,653 8.7 303 1,836 5.4 △ 30.8
ケイマン諸島 12 33 0.1 8 1,037 3.1 3,048.3
サモア 74 889 2.9 79 800 2.4 △ 10.1
トルコ 5 182 0.6 9 763 2.3 318.2
オランダ 42 516 1.7 44 523 1.6 1.3
合計(その他含む) 4,698 30,638 100.0 4,914 33,688 100.0 10.0

〔注〕構成比、伸び率はそれぞれ認可額についてのもの。
〔出所〕ベトナム外国投資庁

対日関係 
対日輸出は微増、輸入は横ばい

2024年の対日輸出(通関ベース)は246億800万ドル(前年比5.4%増)、輸入は216億2,200万ドル(0.1%減)、貿易収支は29億8,600万ドルの黒字だった。輸出は電子機器やスマートフォンに関連するコンピュータ・電子製品・同部品(37.7%増)と電話機・同部品(23.5%増)の伸び率が高かった。輸入額はほぼ横ばいだが、品目別では鉄スクラップ(46.4%増)、プラスチック原料(12.6%増)、化学製品(10.0%増)といった生産財に比較的高い伸びがみられた。

表7-1 ベトナムの対日主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
縫製品 4,055 4,329 17.6 6.8
輸送機器・同部品 2,941 3,027 12.3 2.9
機械設備・同部品 2,748 2,766 11.2 0.6
木材・木製品 1,671 1,746 7.1 4.5
水産物 1,515 1,532 6.2 1.1
コンピュータ・電子製品・同部品 1,060 1,460 5.9 37.7
電話機・同部品 1,116 1,378 5.6 23.5
履物 1,048 1,088 4.4 3.8
プラスチック製品 687 731 3.0 6.4
鉄鋼製品 590 613 2.5 3.9
合計(その他含む) 23,337 24,608 100.0 5.4

〔出所〕 ベトナム税関局

表7-2 ベトナムの対日主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
コンピュータ・電子製品・同部品 7,341 6,728 31.1 △ 8.3
機械設備・同部品 4,017 4,016 18.6 0.0
鉄鋼 1,442 1,506 7.0 4.5
鉄スクラップ 677 991 4.6 46.4
プラスチック製品 789 812 3.8 2.9
織布・生地 673 668 3.1 △ 0.7
化学製品 576 633 2.9 10.0
自動車部品 581 578 2.7 △ 0.5
プラスチック原料 487 549 2.5 12.6
化学品 538 517 2.4 △ 3.9
合計(その他含む) 21,641 21,622 100.0 △ 0.1

〔出所〕 ベトナム税関局

日本企業の事業拡大意欲は高く、生産移管も進む

2024年の日本からの直接投資(認可ベース、出資・株式取得を除く)は、新規・拡張の合計で444件(前年比5.5%減)、25億7,700万ドル(32.3%減)と、件数と認可額いずれも減少した。認可額の減少は、インフラ分野の大型投資案件がなかったことが挙げられる。2022年と2023年には、約20億ドルの液化天然ガス(LNG)火力発電所案件がそれぞれ認可された。この大型インフラ案件を除けば、2022年~2024年の認可額はほぼ同じ水準で推移している。2024年の大型案件では、イオンモールによる北部クアンニン省と中部タインホア省での新規投資(約2億1,400万ドル、約1億7,000万ドル)、大手化学メーカーの東ソーによる南部バリア・ブンタウ省での化学プラント案件(1億7,600万ドル)などがあった。イオンモールはこれらの省で新たにショッピングモール開発を進める。東ソーはスポーツシューズやフィットネスウエア、断熱材などに幅広く使用されるポリウレタン原料を製造する。

2024年度の日系企業調査によると、今後1~2年の事業展開の方向性について、「拡大」と回答した在ベトナム日系企業は56.1%で、ASEANで最も高い割合だった。事業を拡大する理由の上位には、製造業・非製造業ともに、「現地市場ニーズの拡大」と「輸出の増加」が挙がった。内需・外需とも売り上げ増加を見込めることが、事業拡大意欲につながっているとみられる。また、日系企業調査によると、直近5年間(2019~2024年)に他国・地域からの生産機能の移管があったと回答した企業は、ベトナムが件数・割合ともにアジア・オセアニア地域全体で最多だった。移管元は日本と中国が中心で、日本の人材不足や人件費の差、米中貿易摩擦などによる中国事業の不確実性などが背景にある。 日系以外の外国企業によるベトナムへの投資も拡大しており、近年は特に中国系企業の投資が顕著だ。ベトナムでの事業展開では、それらの外資系企業の動向により、人材のひっ迫や賃金の高騰、市場での競争激化などが起きることも念頭に入れる必要がある。

その他 
新たな共産党指導部が行政改革を主導、経済成長の加速を目指す

2024年は、ベトナムの政治指導体制に大きな変化があった。グエン・フー・チョン前書記長の死去に伴い、共産党の最高指導者である書記長が13年ぶりに交代し、新書記長には、トー・ラム氏が就任した。ラム氏は、公安相として汚職捜査の中心的役割を担い、2024年5月~8月までの3カ月間、国家主席を務めたのち、書記長に就任した。就任当初は、権力を掌握したラム書記長による専制的統治への懸念もあったが、新指導部への移行は円滑に進められた。外交面では従来通りの全方位外交を継続し、米国や中国、日本など、各国との友好関係のバランスを維持した。内政面では行政改革を推進し、組織の合理化・効率化を目指した。政治・行政機構再編に関する議論は、2024年秋ごろから急ピッチで進められ、2025年には、中央省庁と地方省・中央直轄市の再編という、南北統一以来の大規模な改革が行われることとなった。この再編により、短期的には行政の混乱が生じる可能性があるが、中長期的には行政運営の効率化や迅速化、コスト削減などが期待される。

一連の行政改革は、2026年初めに予定される共産党大会以降を見据えた統治基盤整備の側面があるとみられる。ベトナムは今後さらなる経済成長の加速も重視する考えで、2026~2030年はGDP成長率10%超えを目指す方針を掲げた。2025年は、その助走期間と位置づけ、8%以上の成長を目標とした。成長率が8%を超えたのは過去20年間で2022年のみであり、野心的な目標といえる。この高成長を確実なものにしていくには、従来の加工貿易型の外国企業誘致にとどまらない施策が求められる。内需振興(国内市場の需要喚起、公共投資の執行加速、地域経済の活性化)や中小企業育成、多様なFTA/EPAを利用した輸出の多角化など、構造転換の推進は欠かせないだろう。米国の関税政策や、各地での紛争などにより世界経済の見通しの不透明感が高まる中、こうした外部要因に左右されない成長の加速に向け、党・政府の指導力が問われる。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2022年 2023年 2024年
実質GDP成長率 (%) 8.1 5.1 7.1
1人当たりGDP (米ドル) 4,133 4,317 4,536
消費者物価上昇率 (%) 3.2 3.3 3.6
失業率 (%) 2.8 2.8 2.5
貿易収支 (100万米ドル) 12,140 28,363 24,945
経常収支 (100万米ドル) 1,404 25,575 28,047
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 86,540 92,238 n.a.
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 146,627 141,850 n.a.
為替レート (1米ドルにつき、ベトナム・ドン、期中平均) 23,271 23,787 24,165


実質GDP成長率(2024年)、1人当たりGDP、消費者物価上昇率(2023年)、失業率(2024年)、経常収支:推計値
失業率:都市部
貿易収支:通関ベース
出所
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:ベトナム統計局
貿易収支:ベトナム税関局
1人当たりGDP、経常収支、外貨準備高(グロス)為替レート:IMF
対外債務残高(グロス):世界銀行