パキスタンの貿易投資年報
要旨・ポイント
- 2023/2024年度の実質GDP成長率は2.4%とプラス成長に回復。
- 外貨逼迫、通貨安が依然続くなか、インフレは落ち着きを見せ緊縮財政を緩和傾向。
- 貿易赤字は若干改善するも、繊維製品一辺倒の輸出と構造的な赤字体質からの脱却が課題。
- 対内直接投資は復調の兆し。日本からの投資は低調。
公開日:2024年11月26日
マクロ経済
インフレ鎮静化と為替の安定で経済は緩やかな回復軌道へ
パキスタン経済は、為替の安定化やインフレの鎮静化、政策金利引き下げなどにより、緩やかに回復軌道に乗りつつある。2023/2024年度(2023年7月~2024年6月)の実質GDP成長率は、前年度のマイナス0.2%から2.4%へとプラスに回復した。
2022/2023年度の経済は、前年度の好景気から一変した。輸入急増で外貨準備高が逼迫し、政府とパキスタン中央銀行(SBP)は2022年4月から矢継ぎ早に輸入制限策を導入。同時に通貨パキスタン・ルピー(以下、ルピー)は対米ドルで急落し、輸入インフレが高進した。同年6月には消費者物価指数(CPI)が前年同月比21.3%上昇を記録。追い打ちをかけるように、同年8月には国土の3分1が浸水したといわれる未曾有の大洪水が発生し、洪水による被害も経済への大きなダメージとなった。
CPIはその後も上昇を続け、2023年5月には前年同月比38.0%上昇と史上最高値を記録した。SBPは2023年6月にかけて、段階的に政策金利を22.0%まで引き上げて物価抑制を図ったものの、2022/2023年度の実質GDP成長率はマイナス0.2%に落ち込み、経済はスタグフレーション状態となった。
経済の早急な立て直しを図りたい第2次シャバズ・シャリフ政権(2024年3月発足)は、財務・歳入大臣に国際金融業界で35年以上のキャリアを持つ、ムハンマド・オーラングゼーブ氏を抜擢し、経済の安定と回復を目指した。その効果もあってか、経済は最悪期を脱して緩やかな回復軌道に入りつつある。一方で、同年6月に発表した新年度予算案は、財政支援を受けるIMFからの改革要求を盛り込んだ結果、税収を前年度比37.8%増とするなど国民にとって極めて厳しい内容となった。特に直接税は48.0%の大幅な増税となった。予算案可決後に大幅な電気料金の引き上げなども実施され、全国的な抗議運動が頻発した。
なお、直近のCPIはSBPの利上げにより、2024年9月には6.9%にまで低下した。為替についても、2023年12月から2024年10月までは1ドル=278ルピー前後で極めて安定した状態を保っている。
「パキスタン経済のアキレス腱」ともいえる外貨準備高は、政府やSBPが実施する輸入規制の効果も乏しく、同年1月に輸入の1カ月分にも満たない31億1,100万ドルと危機的な水準にまで低下した。政府は2023年6月、IMFの融資プログラムである拡大信用供与措置(EFF)の最終レビューをクリアできなかったが、同時期に30億ドル規模のつなぎ融資プログラム〔スタンドバイ取り決め(SBA)〕への合意にかろうじて成功した。SBAが終了した2024年4月時点の外貨準備高は、91億2,700万ドルにまで回復した。また同年7月には、IMFから新たに70億ドル規模のEFF(期間:37カ月)を受けることに実務レベルで合意した。同措置を受けることで、政府は今後約3年間にわたりデフォルト(債務不履行)のリスクを低減することができる。その一方で、納税者数拡大と増税による財政基盤強化、電気ガス料金の累積債務削減、金融および為替政策によるインフレ抑制、国営企業改革など、国内企業と国民の痛みを伴う改革を実行する必要があり、政府はIMFと企業・国民の間で板挟み状態になりながら、政策運営を行うこととなる。
また、詳細な貿易状況については後述の通りであるが、輸入依存度の高さはパキスタン経済にとり慢性的な課題となっている。実質GDP成長率が5~6%の好景気時には輸入が増加し、貿易赤字が拡大する傾向にあるが、輸入増に伴う外貨流出を防ぐため、今度は輸入制限を行い景気後退が起こる「ブームバスト・サイクル(好不況の循環)」を繰り返している状況だ。海外労働者による郷里送金で相殺できる程度の貿易赤字であれば経済への影響は少ないものの、入超が拡大し過ぎることで経常収支が赤字に陥り、外部からの借入に頼らざるを得なくなる。2023/2024年度の政府の歳出に占める利払いの割合は51.8%(金額ベースで前年度比33.8%増)であり、政府の財政余力を奪っている。今後、どのように財政余力を回復していくかという点も政策面での重要な視点となろう。
貿易
貿易赤字は若干の改善、輸出は食品分野で大きな伸びあり
2023/2024年度の貿易は、輸出が310億9,000万ドル(前年度比11.5%増)、輸入が531億6,700万ドル(0.9%増)で、貿易収支は220億7,700万ドルの赤字となった。2022/2023年度は外貨準備高逼迫を背景に政府が厳しい輸入規制を敷いたため、輸入が前年度比で27.3%と大きく減少した。輸入規制継続の影響により、輸入総額はおおむね前年度比同等レベルを維持した。輸出額は食品を中心に増加したため、結果として貿易赤字は前年度の248億1,900万ドルから11.0%縮小した。
輸出については、外貨獲得の筆頭手段である繊維製品が、前年度比2.0%の微減となった。輸出全体構成比をみても、2021/2022年度の69.4%に比して、2022/2023年度の59.6%、そして2023/2024年度には52.4%と減少している。同分野の輸出減少の要因として、ひとつは2022年に発生した大洪水による綿花畑への被害があげられる。2022/2023年度の綿花生産量が前年度比41.0%減と供給がタイトになり、綿製品の輸出が大きく落ち込んだ。2023/2024年度には綿素材の供給は回復の方向に向かい輸出額が微増したものの、まだ本格的な回復には至っていない。加えて、経済リスクへの不安を背景として、欧米をはじめとした海外ブランド企業からの繊維製品発注が低調傾向にあったことも要因といえる。2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻に端を発した世界的なエネルギー価格の高騰を背景に、パキスタンの外貨準備高が2023年には一時的に輸入額1カ月分を下回り、これに伴い通貨が下落した。2023年にはデフォルトの可能性も叫ばれる中、パキスタン国内製造業のエネルギー不足や素材調達力不足が予見されたため、既製服等の繊維製品を委託生産する欧米ブランド企業によるパキスタンからの調達需要が低下した。その後、IMFによる2024年1月のつなぎ融資や、同年9月にはIMFの新規融資プログラムが確定したことで、外貨不足の先行き不安が徐々に解消されつつある。国内業界関係者からは、海外企業からの発注は回復傾向にあるという声も聞かれた(同年10月ジェトロによるヒアリング)。同年10月に開催された国内最大級のテキスタイル関連展示会で傘下企業を束ねて出展したパキスタン既製服生産輸出協会(PRGMEA)の幹部は、「米中貿易摩擦やバングラデシュ情勢の外的要因の影響もあり、パキスタンへ発注シフトの傾向が見られる」と言及した。
主要品目の輸出の中では、食品の増加が前年度比49.5%増と顕著である。なかでもコメの輸出は前年度比74.8%上昇した。2023/2024年度にコメが豊作であったことに加え、2023年7月にインドが国内コメ相場価格を抑制する目的で、白米(バスマティ米以外)の輸出を全面禁止したことがパキスタンにとって有利に働き、これまでインドからコメを輸入していたバングラデシュや湾岸諸国、アフリカ諸国の需要を大幅に取り込む結果となった。
輸入については、総額の28.5%を占める「石油・同製品」が、原油価格の低下を背景に前年度比19.7%減となった。機械や自動車関連部品を含む輸送機器は、2022/2023年度には厳しい輸入規制の影響で54.1%減と大きく落ち込んだ。日系を含む自動車メーカーは、2022年から2023年にかけて、完全現地組み立て(CKD)用の部品が輸入できず、一時的に生産停止に追い込まれていたが、2023年6月に輸入規制が全面撤廃されたことで7月以降の輸入が一気に回復した。機械(一般機械)・機器の輸入は前年度比67.1%増、自動車を含む輸送機器は28.0%増と、その影響は統計結果にも表れた。
品目 | 2022/23年度 | 2023/24年度 | ||
---|---|---|---|---|
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
繊維製品 | 16,633 | 16,301 | 52.4 | △ 2.0 |
ニットウエア | 4,243 | 4,017 | 12.9 | △ 5.3 |
既製服 | 3,496 | 3,471 | 11.2 | △ 0.7 |
寝具類 | 2,802 | 2,789 | 9.0 | △ 0.5 |
綿布 | 2,155 | 1,898 | 6.1 | △ 11.9 |
タオル | 931 | 955 | 3.1 | 2.6 |
綿糸 | 870 | 1,051 | 3.4 | 20.8 |
食品 | 4,737 | 7,082 | 22.8 | 49.5 |
コメ | 2,107 | 3,684 | 11.8 | 74.8 |
水産物・同加工品 | 484 | 424 | 1.4 | △ 12.4 |
食肉 | 388 | 522 | 1.7 | 34.5 |
野菜 | 172 | 400 | 1.3 | 132.6 |
化学品・医薬品 | 1,430 | 1,421 | 4.6 | △ 0.6 |
革製品 | 628 | 606 | 1.9 | △ 3.5 |
スポーツ用品 | 461 | 439 | 1.4 | △ 4.8 |
手術用具・医療機器 | 455 | 457 | 1.5 | 0.4 |
合計(その他含む) | 27,876 | 31,090 | 100.0 | 11.5 |
〔出所〕パキスタン中央銀行(SBP)
品目 | 2022/23年度 | 2023/24年度 | ||
---|---|---|---|---|
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
石油・同製品 | 18,882 | 15,162 | 28.5 | △ 19.7 |
石油製品 | 8,975 | 5,995 | 11.3 | △ 33.2 |
原油 | 5,824 | 5,094 | 9.6 | △ 12.5 |
LPGおよびLNG | 3,909 | 3,855 | 7.3 | △ 1.4 |
化学製品(農業用含む) | 8,254 | 8,944 | 16.8 | 8.4 |
機械・機器 | 4,431 | 7,405 | 13.9 | 67.1 |
携帯電話・同機器 | 734 | 1,896 | 3.6 | 158.3 |
電気機械 | 1,039 | 2,730 | 5.1 | 162.8 |
食品 | 7,968 | 7,111 | 13.4 | △ 10.8 |
パーム油 | 3,363 | 2,681 | 5.0 | △ 20.3 |
金属・同製品 | 3,450 | 4,668 | 8.8 | 35.3 |
鉄・鋼鉄 | 1,686 | 2,195 | 4.1 | 30.2 |
繊維・同製品 | 4,565 | 3,890 | 7.3 | △ 14.8 |
原綿 | 2,430 | 1,278 | 2.4 | △ 47.4 |
輸送機器・同部品 | 1,266 | 1,621 | 3.0 | 28.0 |
自動車(四輪・二輪) | 1,074 | 1,366 | 2.6 | 27.2 |
合計(その他含む) | 52,695 | 53,167 | 100.0 | 0.9 |
〔出所〕パキスタン中央銀行(SBP)
国・地域 | 2022/23年度 | 2023/24年度 | ||
---|---|---|---|---|
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
米国 | 5,932 | 5,433 | 17.5 | △ 8.4 |
中国 | 2,026 | 2,707 | 8.7 | 33.6 |
英国 | 1,968 | 2,013 | 6.5 | 2.3 |
ドイツ | 1,600 | 1,512 | 4.9 | △ 5.5 |
オランダ | 1,446 | 1,383 | 4.4 | △ 4.4 |
スペイン | 1,375 | 1,449 | 4.7 | 5.4 |
アラブ首長国連邦(ドバイのみ) | 1,329 | 1,711 | 5.5 | 28.7 |
イタリア | 1,151 | 1,122 | 3.6 | △ 2.5 |
バングラデシュ | 768 | 667 | 2.1 | △ 13.2 |
日本 | 202 | 184 | 0.6 | △ 8.9 |
合計(その他含む) | 27,876 | 31,090 | 100.0 | 11.5 |
〔出所〕パキスタン中央銀行(SBP)
国・地域 | 2022/23年度 | 2023/24年度 | ||
---|---|---|---|---|
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
中国 | 9,663 | 13,506 | 25.4 | 39.8 |
アラブ首長国連邦(ドバイのみ) | 5,369 | 5,030 | 9.5 | △ 6.3 |
カタール | 3,870 | 3,347 | 6.3 | △ 13.5 |
サウジアラビア | 4,507 | 4,493 | 8.5 | △ 0.3 |
シンガポール | 2,763 | 2,463 | 4.6 | △ 10.9 |
インドネシア | 2,644 | 2,418 | 4.5 | △ 8.5 |
クウェート | 2,546 | 1,785 | 3.4 | △ 29.9 |
米国 | 2,217 | 1,877 | 3.5 | △ 15.3 |
マレーシア | 1,021 | 948 | 1.8 | △ 7.1 |
日本 | 889 | 1,009 | 1.9 | 13.5 |
合計(その他含む) | 52,695 | 53,167 | 100.0 | 0.9 |
〔出所〕パキスタン中央銀行(SBP)
対内直接投資
IMFの新規融資、政治の落ち着きから海外投資が復調の兆し
2023/2024年度の国・地域別の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は、新政権の発足やインフレの落ち着きにより経済リスクが軽減したことを背景に、23億4,600万ドルと前年度比44.2%増となった。経済は、時系列的には、国民からの期待が高かったパキスタン正義運動党(PTI)政権は、2020年の新型コロナウイルス感染症禍による世界的な経済停滞と輸出の減少、2022年には南部での大洪水による綿花や農作物への大打撃、同年のロシアのウクライナ侵攻を発端とするエネルギー価格の高騰などに見舞われ経済は大きく失速した。さらにはPTIの内部統制に問題が発覚し、国民からの信託を失った結果、2022年4月の不信任案可決に至った。これら国内政治の不安定さに対して、友好国のアラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビアをはじめとする湾岸諸国は、PTI政権、当時のイムラン・カーン首相の手腕を推し量りかね、パキスタン向け投資は様子見の状態が続いた。湾岸諸国の姿勢は、2021/2022年度の対内直接投資19億3,600万ドルに比して、2022/2023年度が16億2,700万ドルの16.0%減と低調気味に推移した要因のひとつである。
PTI政権の間に発生したパキスタンの金融リスク(外貨準備高不足、輸入制限、製造業への輸出義務化、為替安、高インフレとこれに伴う緊縮財政)はあったが、2023/2024年度には新たなIMFの融資が決定し、インフレの落ち着き、政策金利引き下げ、通貨の下げ止まりなど経済安定化が進み投資環境に好材料が揃い始めた。インフレ率は2023年に40%に届く勢いであったが、2024年9月現在では6.9%まで落ち着きを見せている。インフレの落ち着きにともない、政府は政策金利を22.0%から段階的に引き下げ、9月には19.5%から17.5%へ、11月4日には17.5%から15%まで引き下げることを発表した。2024年2月の総選挙では、パキスタン・ムスリム連盟ナワーズ派(PLM[N])を主軸にした連立政権が勝利した。PLM[N]は2022年のイムラン・カーン内閣退陣後に政権を運営してきた連立政権であり、今後5年間の政治の安定が予見できる状況にもなった。UAEやサウジアラビアの湾岸諸国は様子見の姿勢から翻ってエネルギー・インフラ関連への投資に関心を表明した。対内直接投資は、回復基調を示している。
パキスタン特別投資円滑化評議会(SIFC)の10月28日発表によると、DPワールド(DP World)(ドバイに本拠地を置く海運を中心とした物流全般・港湾の運営企業)の幹部一行が来訪し、パキスタンの物流・海運インフラの改善について議論した。同社幹部らは、カラチ港を起点とした貨物専用回廊の具現化に資する投資や、その他の物流ハブや物流連結プロジェクトへの投資に関心を表明している。
最大投資国の中国は、2014年に中国パキスタン経済回廊(CPEC)計画が二国間で合意されて以降、高速道路や港湾に係るインフラ建設関連の投資が継続されており、引き続き他国を引き離して投資額6億4,300万ドルで1位である(前年度比7.2%減)。日本は、2022/2023年度は自動車関連の大型投資を反映して1億4,300万ドル(暫定値1億8,300万ドルから改訂)となり5位に食い込んだものの、2023/2024年度は500万ドルの引き揚げ超過となった。UAEは13億2,000万ドルで26.9%増と回復基調を示した。
国・地域 | 2022/23年度 | 2023/24年度 | ||
---|---|---|---|---|
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
中国 | 693 | 643 | 27.4 | △ 7.2 |
日本 | 143 | △ 5 | △ 0.2 | — |
アラブ首長国連邦(UAE) | 104 | 132 | 5.6 | 26.9 |
スイス | 14 | 228 | 9.7 | 1,528.6 |
香港 | 250 | 212 | 9.0 | △ 15.2 |
米国 | 180 | 110 | 4.7 | △ 38.9 |
フランス | 39 | 107 | 4.6 | 174.4 |
英国 | 270 | 239 | 10.2 | △ 11.5 |
カナダ | 1 | 95 | 4.0 | 9,400.0 |
シンガポール | 35 | 104 | 4.4 | 197.1 |
合計(その他含む) | 1,627 | 2,346 | 100.0 | 44.2 |
〔出所〕パキスタン中央銀行(SBP)
国・地域 | 2022/23年度 | 2023/24年度 | ||
---|---|---|---|---|
金額 | 金額 | 構成比 | 伸び率 | |
電力 | 899 | 650 | 27.7 | △ 27.7 |
石炭 | 439 | 96 | 4.1 | △ 78.1 |
水力 | 395 | 428 | 18.2 | 8.4 |
石油・ガス探査 | 138 | 351 | 15.0 | 154.3 |
金融 | 276 | 625 | 26.6 | 126.4 |
輸送機器 | 80 | △ 9 | △ 0.4 | — |
鉱業 | △ 220 | 103 | 4.4 | — |
情報通信 | △ 177 | △ 5 | △ 0.2 | — |
IT〔注〕 | 45 | 39 | 1.7 | △ 13.3 |
貿易 | 73 | 49 | 2.1 | △ 32.9 |
電子 | △ 2 | △ 6 | △ 0.3 | — |
合計(その他含む) | 1,627 | 2,346 | 100.0 | 44.2 |
〔注〕ソフトウエア・ハードウエア開発およびITサービス
〔出所〕 パキスタン中央銀行(SBP)
投資環境
望まれる政治と治安の安定
ジェトロが行った「2023年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」では、パキスタンへの投資環境上のリスクとして「不安定な政治・社会情勢」と答えた割合が93.3%と最多であった。
不信任決議により、2022年4月に首相の座を追われたパキスタン正義運動(PTI)元議長イムラン・カーン氏は、その後汚職や機密漏洩などの複数の罪で有罪となり収監された。しかし、同氏は元クリケット選手で国民的英雄であることから、若者を中心とした一般大衆からの支持は根強い。2024年2月に実施された連邦総選挙では、パキスタン・ムスリム連盟ナワーズ派〔PML(N)〕とパキスタン人民党(PPP)などからなる前与党連合が軍の支持を得たことで勝利確実とみられたが、結果は多数の無所属候補を含むPTI系候補が101議席を獲得して勝利した。PML(N)とPPPの獲得議席はそれぞれ75議席、54議席だった。同年3月には、PML(N)とPPPを中心とした連立内閣が発足したが、現在(2024年10月時点)でもPTI支持者による政府への抗議活動が断続的に行われており、不安定な政治状況が続いている。
パキスタンの治安状況をみると、2021年後半からテロの発生件数が顕著に増加している。2022年は前年比27%増の262件であった。テロは、アフガニスタン国境に近い北西部ハイバル・パフトゥンハー(KP)州と西部バロチスタン州に集中している。日本人ビジネスパーソンが出張する可能性のあるカラチ、イスラマバード、ラホールでは非常に少ないものの、2024年4月にはカラチで日系企業の車列が通勤途上でテロ攻撃を受け、現地在住の日本人に衝撃を与えた。また、カラチ警察が2023年の犯罪統計を非公開としたため詳細は不明だが、報道ベースでは、経済が低迷する中でカラチ市内での路上犯罪は増加傾向で、治安が悪化しているといわれる。
他方で、若年層の人口割合が高い点はパキスタン市場の魅力といえるであろう。パキスタンでは毎年約600万人の新生児が生まれるといわれ、これは人口が毎年約2.5%増加することを意味する。つまり、パキスタンは人口ボーナスによる潜在成長力が非常に高い。この成長力を引き出すためにも、政治、経済、治安の三本柱を安定させ、年3~4%の中成長を安定的に達成することが、社会経済の発展に寄与することは論をまたない。
対日関係
経済低迷を背景に2国間貿易は大幅減、自動車市場は回復へ
日本側の統計で、2023年(暦年)のパキスタンとの貿易を確認すると、日本からパキスタンへの輸出は1,469億2,984万円で前年比29.3%減。主要品目は、中古乗用車を含む輸送用機器、鉄鋼、繊維機械を含む一般機械、電気機器などだった。また、日本のパキスタンからの輸入は337億3,791万円で17.0%減。主要品目は、織物用糸および繊維製品、衣類および同附属品、有機化合物を含む元素および化合物、クロム鉱を含む金属鉱およびくず、えびを含む魚介類および同調整品などだった。貿易収支は、日本側の1,131億9,193万円の黒字だった。パキスタン経済の低迷を反映して、日本からの輸送用機器、鉄鋼、繊維機械などの輸出が大幅に減少し、パキスタンからの揮発油の輸入が急減したかたちだ。
2023/2024年度の日本の対パキスタン直接投資については、日本からパキスタンへの流入額は1,360万ドル、パキスタンから日本への引き揚げは1,850万ドルで、ネットで500万ドルの引き揚げ超過となった。前年度の1億8,300万ドルからは大幅な減少となった。なお、パキスタンの経済、政治、治安状況を反映してか、ジェトロ・カラチ事務所として、製造業およびサービス業の新規企業進出の報には接しなかった。
在パキスタン日系企業の主力産業は自動車だが、2023/2024年度の乗用車販売台数(多目的車、バン含む)は10万3,827台〔スズキ、トヨタ、ホンダを含むパキスタン自動車工業会(PAMA)加盟メーカーのみ〕と非常に厳しい結果となった。これはピークだった2021/2022年度の27万9,267台の約3分の1の水準に当たる。景気低迷、インフレと高金利で市場が激しく冷え込んだかたちだ。しかし、年度が変わった2024年7~9月の乗用車販売台数(多目的車、バン含む)は合計2万7,585台で前年同期比31.5%増となり、インフレ鎮静化とそれにともなう金利低下を背景に、最悪期は脱したとみられる。
市場は全体的に低調だった中で、2023年12月にインダス・モーター・カンパニー(IMC、トヨタ自動車の合弁会社)が販売を開始した国内初の現地生産ハイブリッド車(HEV)カローラクロスの売れ行きが好調だ。IMCによると、毎月600~800台の販売を記録している。充電インフラが未整備で電気料金が高いパキスタンでは電気自動車(EV)の普及には時間がかかるとみられるが、2024年6月には国内製HEVの売上税率を25%から8.5%へ低減するという強力なインセンティブの継続が発表された。今後、他の日系メーカーによるHEV関連投資、関連部品メーカーによる投資が期待される。
2024年5月に和田充広在パキスタン日本大使、在パキスタン日本商工会(JACI)会員企業、ジェトロが合同で、イスラマバードでシャリフ首相を訪問した。首相訪問は、2022年に次いで2回目となる。JACIからはシャリフ首相へ経済産業改革に向けた政策提言を行うと同時に、税の還付など個社の抱える課題解決を要請した。首相は同席した財務大臣、商業大臣、産業大臣、SBPに対して、担当部署との対話を促し、早急に日系企業の課題を解決するよう指示した。また、日本とは引き続き良好なパートナーシップを継続していきたいとの意思を示すなど、日本企業のパキスタン経済への貢献を理解し、非常に協力的な姿勢を示している。JACIも継続的に首相と対話の場を設ける方針だ。トップダウンが意思決定の主流であるパキスタンにおいて、首相の指示や発言は非常に大きな意味を持つため、首相との対話を通じて、日系企業の課題が徐々に解決されることが期待される。
基礎的経済指標
項目 | 単位 | 2021/22年度 | 2022/23年度 | 2023/24年度 |
---|---|---|---|---|
実質GDP成長率 | (%) | 6.18 | △0.21 | 2.38 |
1人当たりGDP | (米ドル) | 1680.00 | ||
消費者物価上昇率 | (%) | 12.2 | 29.2 | 23.4 |
失業率 | (%) | n.a. | n.a. | n.a. |
貿易収支 | (100万米ドル) | △ 39,050 | △ 24,819 | △ 22,077 |
経常収支 | (100万米ドル) | △ 17,481 | △ 3,275 | △681 |
外貨準備高(グロス) | (100万米ドル、期末値) | 19,028 | 6,159 | 9,443 |
対外債務残高(グロス) | (100万米ドル、期末値) | 130,320 | 124,296 | 130,502 |
為替レート | (1米ドルにつき、パキスタン・ルピー、期中平均) | 162.9 | 204.9 | 283.2 |
注:
年度は7月~翌年6月、(3)(4)は2022/23年度暫定値。
為替レートは2021、2022、2023暦年値。
出所:
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率: パキスタン統計局 (PBS)
貿易収支、外貨準備率(グロス)、経常収支、外貨準備高(グロス)、対外債務残高(グロス):パキスタン中央銀行 (SBP)
1人当たりGDP、為替レート:IMF