フィリピンの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2022年の実質GDP成長率は7.6%の大幅な伸びを記録。
  • 原油価格の上昇を受け、鉱物性燃料・鉱物油の輸入額が大幅増。
  • 対内直接投資は前年比で25.8%拡大。日系企業による不動産投資が相次ぐ。
  • マルコス政権下で経済政策運営は比較的安定。

公開日:2023年11月24日

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マクロ経済 
2022年の実質GDP成長率は7.6%

2022年のフィリピン経済は、国内需要の拡大によって、7.6%の実質GDP成長率を記録した。同数値は、1976年の8.8%に次ぐ高い成長率となった。需要項目別にみると、2022年の実質GDPのうち72.0%と大きなシェアを占める民間最終消費支出は8.3%増、国内総固定資本形成は13.8%増と顕著な伸びを示した。フィリピン政府は、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)禍での経済活動規制の緩和がペントアップ需要(繰越需要)を生み出したとしている。GDP成長率を産業別内訳でみると、経済活動規制の緩和によって、特に宿泊・飲食業が前年比で32.1%の増加、運輸・倉庫業が23.9%の増加と伸び率が上昇した。

フィリピン政府は2021年から段階的に、経済活動制限の緩和措置を実施してきた。例えば、2020年3月19日から導入してきた水際措置については、日本を含む入国査証の免除国・地域を対象に、2022年2月10日から新型コロナワクチン接種完了者が査証なしでの入国を認める措置を導入した。さらに、2022年4月から、ワクチン接種を完了している場合、無査証・入国時隔離なしでの入国を可能とし、同年11月にはワクチン接種完了者は渡航前の検査を不要とした。こうした段階的な水際措置の緩和によって、フィリピンへの観光・ビジネスを目的とした渡航のハードルは大幅に低下した。

一方、2022年のフィリピンは急速な物価高騰に悩まされた。ロシアのウクライナ侵攻を受けて世界的にインフレが急伸する中、フィリピンの消費者物価上昇率は2022年3月以降加速し、同年11月には前年同月比8%に至った。通年では2021年の3.9%から2022年は5.8%まで上昇した。

インフレ率が高まった要因として、フィリピン統計庁は2022年6月、食品・非アルコール飲料や交通・輸送費が高騰したことを挙げた。フィリピン・サプライチェーンマネジメント協会(SCMAP)は同月、輸送費の高騰について、ロシアによるウクライナ侵攻と新型コロナ禍に起因した経済制限が物流にマイナスの影響を及ぼしていると指摘した。また、物流供給が制約されているために、複数の事業分野でサプライチェーンの混乱が生じ、主要な商品に価格上昇圧力を発生させていると付け加えた。さらに、2022年12月には供給制約とともにクリスマス休暇関連の支出による需要増が加わり、インフレ率は前年同月比8.1%の増加まで達した。

物価高騰への対応として、フィリピン中央銀行(BSP)は2022年5月の金融政策会合から9回連続で政策金利を引き上げた。2023年のインフレ率は1月の8.7%をピークに、その後減速傾向となった。これを受けて、BSPは2023年5月18日の金融政策会合で、政策金利を前回会合から変更せず、翌日物借入金利を6.25%、翌日物預金金利を5.75%、翌日物貸出金利を6.75%と据え置くことを決定した。

表1 フィリピンの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1
実質GDP成長率 5.7 7.6 8.0 7.5 7.7 7.1 6.4
階層レベル2の項目民間最終消費支出 4.2 8.3 10.0 8.5 8.0 7.0 6.3
階層レベル2の項目政府最終消費支出 7.1 4.9 3.5 10.9 0.7 3.3 6.2
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 20.3 13.8 17.7 17.2 18.2 3.8 12.2
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 8.0 10.9 10.6 4.9 13.6 14.6 0.4
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 13.0 13.9 16.2 14.5 18.5 7.0 4.2

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕フィリピン統計庁(PSA)

貿易 
エネルギー価格の上昇により貿易赤字が拡大

2022年のフィリピンの貿易(通関ベース)は、輸出が前年比5.8%増の789億3,000万ドル、輸入は17.6%増の1,379億7,700万ドルであった。輸入が急増したことで、貿易赤字は590億4,700万ドルと、前年比で38.2%増加した。

輸出を品目別にみると、輸出総額の45.1%を占める電気・電子機器・同部品は前年比17.4%増加した。同品目のうち、集積回路は27.2%と増加率が特に大きかった。その理由として価格上昇が挙げられる。フィリピンから世界へ輸出する集積回路の単価について、2022年は前年比で23.9%の増加があった。他方、フィリピンから世界への輸出量の増加は2.6%にとどまる。新型コロナ禍を契機としたサプライチェーン混乱や消費者の需要パターンの変化により、集積回路が世界的に不足し、大幅な価格上昇が発生した。

また、やし(コプラ)油・同分別物は47.9%増の21億2,416万6,000ドルと急拡大した。同品目の輸出量は前年比で39.5%の増加、品目単価は6.0%の増加であった。輸出先は金額ベースでオランダが34.3%と同品目で最も高い割合を占め、米国が20.4%、マレーシアが12.9%と続いた。やし油の輸出拡大について、フィリピン貿易投資センターは、米国市場においてオーガニック製品に対する需要が高まっていることを挙げ、健康な生活習慣への意識向上などがやし油への需要拡大につながっていると分析した。

輸入を品目別でみると、鉱物性燃料・鉱物油が前年比68.7%増の247億100万ドルとなり、電気・電子機器・同部品を抜いて最大の輸入品目となった。このうち、「石油および歴青油(原油を除く)、これらの調製品」は55.5%増(139億2,100万ドル)、石炭は2.2倍(56億9,200万ドル)と大きく増加した。一方、鉱物性燃料・鉱物油の輸入数量は前年比で1.7%しか増加しておらず、輸入額の急拡大は資源価格の高騰を受けたものであることがわかる。原油価格については、ウクライナ情勢の影響もあって一時高騰し、以降、高止まりの水準が続いた。鉱物性燃料・鉱物油の価格高騰は輸送費へと価格転嫁され、物価高騰の一因となった。

表2-1 フィリピンの主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
電気・電子機器・同部品 30,343 35,620 45.1 17.4
階層レベル2の項目集積回路 17,485 22,241 28.2 27.2
階層レベル2の項目電気絶縁線、ケーブルその他の電気導体 2,674 2,759 3.5 3.2
階層レベル2の項目トランスフォーマー、スタティックコンバーター 1,696 1,699 2.2 0.2
階層レベル2の項目半導体デバイス 1,360 1,519 1.9 11.7
一般機械・同部品 8,521 6,709 8.5 △ 21.3
階層レベル2の項目自動データ処理機械等 3,334 2,172 2.8 △ 34.9
階層レベル2の項目印刷機、その他のプリンター、複写機およびファクシミリ 2,451 2,002 2.5 △ 18.3
光学・精密・医療機器等 2,102 2,323 2.9 10.5
銅およびその製品 2,582 2,270 2.9 △ 12.1
動物、野菜または微生物の油脂・製品 1,488 2,200 2.8 47.8
鉱石、スラグおよび灰 1,903 1,966 2.5 3.3
果実・ナッツ 1,887 1,917 2.4 1.6
プラスチックおよびその製品 1,256 1,099 1.4 △ 12.5
合計(その他含む) 74,569 78,930 100.0 5.8

〔出所〕グローバル・トレード・アトラス(原データはフィリピン統計庁(PSA))

表2-2 フィリピンの主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料・鉱物油 14,640 24,701 17.9 68.7
階層レベル2の項目石油および歴青油(原油を除く)、これらの調製品 8,951 13,921 10.1 55.5
階層レベル2の項目石炭 2,589 5,692 4.1 119.9
電気・電子機器・同部品 20,048 20,996 15.2 4.7
階層レベル2の項目集積回路 7,851 9,272 6.7 18.1
階層レベル2の項目電話機およびその他の機器 2,869 2,203 1.6 △ 23.2
階層レベル2の項目電気絶縁線、ケーブルその他の電気導体 1,249 1,382 1.0 10.6
階層レベル2の項目半導体デバイス 908 1,133 0.8 24.8
一般機械・同部品 10,564 10,367 7.5 △ 1.9
車両(鉄道以外)・同部品 6,733 8,473 6.1 25.8
鉄鋼 4,574 4,929 3.6 7.8
プラスチックおよびその製品 3,973 4,173 3.0 5.0
穀物 3,135 3,981 2.9 27.0
医薬品 3,458 2,537 1.8 △ 26.6
合計(その他含む) 117,308 137,977 100.0 17.6

〔出所〕グローバル・トレード・アトラス(原データはフィリピン統計庁(PSA))

輸出を国・地域別にみると、米国が前年比5.3%増の124億6,100万ドルと、前年に続き最大の輸出相手国であった。中国は4.8%減の109億6,600万ドルとなったのに対して、日本は3.6%増の110億9,400万ドルとなったことから前年から順位が逆転した。香港は5.5%増の104億8,000万ドル、ASEAN(10カ国)向けは10.8%増の134億5,700万ドルだった。域内最大の輸出先であるシンガポールが17.0%増加したほか、マレーシア向けも29.2%増加した。また、EU(27カ国)向けは8.0%増の87億100万ドルだった。

輸入では、中国が5.8%増の281億8,800万ドルと輸入総額の20.4%を占め、引き続き最大の輸入相手国となった。インドネシアは前年比56.9%の131億8,900万ドルと大幅に増加し、前年の4位から2位に浮上した。鉱物性燃料・鉱物油や鉄鋼の輸入増加が要因である。以下、日本(11.6%増)、韓国(32.1%増)、米国(15.8%増)と続いた。鉱物性燃料・鉱物油の価格高騰によって、湾岸協力会議(GCC)諸国(44.8%増)やオーストラリア(76.7%増)からの輸入も大きく伸びた。

表3 フィリピンの主要国・地域別輸出入[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
アジア大洋州 51,492 54,261 68.7 5.4 97,076 115,123 83.4 18.6
階層レベル2の項目日本 10,709 11,094 14.1 3.6 11,068 12,347 8.9 11.6
階層レベル2の項目中国 11,523 10,966 13.9 △ 4.8 26,647 28,188 20.4 5.8
階層レベル2の項目韓国 2,571 3,127 4.0 21.6 9,323 12,316 8.9 32.1
階層レベル2の項目香港 9,931 10,480 13.3 5.5 3,247 3,099 2.2 △ 4.6
階層レベル2の項目台湾 2,525 2,965 3.8 17.4 5,747 6,799 4.9 18.3
階層レベル2の項目ASEAN 12,148 13,457 17.0 10.8 32,328 40,214 29.1 24.4
階層レベル3の項目マレーシア 1,891 2,444 3.1 29.2 5,286 6,378 4.6 20.7
階層レベル3の項目インドネシア 862 726 0.9 △ 15.8 8,407 13,189 9.6 56.9
階層レベル3の項目タイ 3,450 3,374 4.3 △ 2.2 6,916 7,333 5.3 6.0
階層レベル3の項目ベトナム 1,639 1,722 2.2 5.1 4,164 4,459 3.2 7.1
階層レベル3の項目シンガポール 4,194 4,909 6.2 17.0 6,930 8,117 5.9 17.1
階層レベル2の項目インド 734 719 0.9 △ 2.0 2,244 2,101 1.5 △ 6.4
階層レベル2の項目オーストラリア 530 557 0.7 5.1 1,587 2,805 2.0 76.7
欧州 9,255 9,945 12.6 7.5 9,582 10,101 7.3 5.4
階層レベル2の項目EU27 8,055 8,701 11.0 8.0 7,628 7,777 5.6 2.0
階層レベル2の項目ドイツ 2,937 2,779 3.5 △ 5.4 2,041 1,931 1.4 △ 5.4
中東 602 694 0.9 15.3 4,055 6,588 4.8 62.5
階層レベル2の項目湾岸協力会議(GCC)諸国 433 483 0.6 11.5 3,593 5,202 3.8 44.8
北米 12,345 13,084 16.6 6.0 8,468 9,809 7.1 15.8
階層レベル2の項目米国 11,837 12,461 15.8 5.3 7,696 8,915 6.5 15.8
アフリカ 231 192 0.2 △ 16.9 267 388 0.3 45.3
中南米 1,246 1,440 1.8 15.6 1,914 2,555 1.9 33.5
階層レベル2の項目ブラジル 191 217 0.3 13.6 1,165 1,462 1.1 25.5
合計(その他含む) 74,569 78,930 100.0 5.8 117,308 137,977 100.0 17.6

〔注〕アジア大洋州は、ASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔出所〕グローバル・トレード・アトラス(原データはフィリピン統計庁(PSA))

通商政策 
RCEPが発効

フィリピンでは2023年6月2日、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効した。国内では、RCEP協定が農業部門にマイナスの影響を与えるとの懸念があり、上院での同協定の批准手続きに時間がかかった。そのため、2020年11月の署名から2年以上を経て発効に至り、締約国15カ国のうちフィリピンは14番目となった。なお、フィリピンのRCEP協定締約国との貿易(2022年)は、輸出で49.7%、輸入で69.9%を占める。全ての締約国との間では、従来のASEAN物品貿易協定(ATIGA)およびASEANと他国・地域とのFTA(ASEAN+1FTA)などが先行している。しかし、RCEPはFTAによる特恵関税の適用条件となる原産地規則をはじめ、運用しやすい制度となっているため、利用者にとっては調達先や販売先の選択肢を広げることが可能となる。

また、2023年9月7日、フィリピンは韓国との間で自由貿易協定(FTA)に署名した。フィリピンにとって、2006年に署名された「日本・フィリピン経済連携協定(JPEPA)」に次ぐ2番目の二国間FTAとなる。韓国とのFTA締結により、韓国への輸出品の94.8%が関税撤廃となり、韓国からの輸入品はフィリピン側で96.5%が撤廃となる。関税撤廃のスケジュールは品目によって異なるが、例えば、韓国産自動車のフィリピンへの輸入はFTA発効後、即時撤廃となる。

表4 フィリピンのFTA発効・署名・交渉状況(単位:%)
FTA 発効年月 フィリピンの貿易に占める構成比(2022年)
往復 輸出 輸入
発効済み ASEAN・中国自由貿易協定(ACFTA) 2005年7月 42.8 30.9 49.6
ASEAN・韓国自由貿易協定(AKFTA) 2007年6月 31.9 21.0 38.1
日本・フィリピン経済連携協定(JPEPA) 2008年12月 10.8 14.1 8.9
日本・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP) 2008年12月 35.6 31.1 38.1
ASEAN物品貿易協定(ATIGA) 2010年1月 24.7 17.0 29.1
ASEAN・オーストラリア・ニュージーランド自由貿易協定(AANZFTA) 2010年1月 26.6 17.8 31.6
ASEAN・インド自由貿易協定(AIFTA) 2011年5月 26.0 18.0 30.7
EFTA・フィリピン自由貿易協定(PH-EFTA FTA) 2018年6月 0.5 0.7 0.3
香港・ASEAN自由貿易協定(AHKFTA) 2019年6月 31.0 30.3 31.4
地域的な包括的経済連携(RCEP)協定 2023年6月 62.6 49.7 69.9
合計 70.6 64.7 74.0
署名済み 韓国・フィリピン自由貿易協定 7.1 4.0 8.9
交渉中 EU・フィリピン自由貿易協定 7.6 11.0 5.6
カナダ・ASEAN自由貿易協定 25.4 17.8 29.8

〔出所〕グローバル・トレード・アトラス(原データはフィリピン統計庁(PSA))

対内直接投資 
情報・通信産業が業種別投資首位、日系企業は不動産に注目

2022年のフィリピンへの対内直接投資額(認可ベース)は2,418億9,100万ペソで、前年比で25.8%増加した。

国・地域別では、シンガポールが全体の54.0%を占める最大の投資国となり、日本(構成比21.5%)、オランダ(8.5%)、英国(4.7%)、米国(2.1%)が続いた。シンガポールからの投資は62.9%増の1,306億3,100万ペソ、日本からの投資は2.1倍の519億8,000万ペソで、ともに急増した。上位国・地域では、オランダや英国からの投資認可額が減少したが、米国(32.3%増)、韓国(64.1%増)、英領バージン諸島(4.6倍)、インド(18.5倍)などが増加した。一方、中国からの投資は33.5%減の14億2,600万ペソと低迷し、投資認可額全体の0.6%にとどまった。

表5 フィリピンの国・地域別対内直接投資[認可ベース](単位:100万ペソ、%)(△はマイナス値)
国・地域 対内直接投資
2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
シンガポール 80,169 130,631 54.0 62.9
日本 24,469 51,980 21.5 112.4
オランダ 26,901 20,661 8.5 △ 23.2
英国 13,375 11,249 4.7 △ 15.9
米国 3,824 5,061 2.1 32.3
韓国 3,008 4,937 2.0 64.1
英領バージン諸島 698 3,216 1.3 360.7
インド 96 1,780 0.7 1,754.2
中国 2,144 1,426 0.6 △ 33.5
台湾 1,194 929 0.4 △ 22.2
オーストラリア 664 723 0.3 8.9
香港 203 651 0.3 220.7
スイス 193 591 0.2 206.2
ケイマン諸島 1,389 247 0.1 △ 82.2
ドイツ 988 73 0.0 △ 92.6
カナダ 372 55 0.0 △ 85.2
マレーシア 508 53 0.0 △ 89.6
デンマーク 214 4 0.0 △ 98.1
フランス 57 1 0.0 △ 98.2
タイ 8 0 0.0
合計(その他含む) 192,342 241,891 100.0 25.8

〔出所〕フィリピン統計庁(PSA)

業種別では、情報・通信部門の投資認可額が1,144億1,300万ペソと全体の47.3%を占め、他の業種を圧倒したが、前年比では20.7%減少した。また、不動産部門は前年の8.6倍の571億5,400万ペソへと急増し、全体の23.6%を占めた。その他の業種では、製造業部門が42.4%増の378億400万ペソ(構成比15.6%)、輸送・倉庫部門は47.2倍の145億8,400万ペソ(6.0%)と続いた。これら上位4業種で投資認可額全体の92.6%を占めた。

表6 フィリピンの業種別対内直接投資[認可ベース](単位:100万ペソ、%)(△はマイナス値)
業種 対内直接投資
2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
情報・通信 144,324 114,413 47.3 △ 20.7
不動産 6,655 57,154 23.6 758.8
製造業 26,557 37,804 15.6 42.4
輸送・倉庫 309 14,584 6.0 4,619.7
管理・サポート 7,285 11,950 4.9 64.0
電力・ガス・空調 2,163 3,766 1.6 74.1
農林水産 104 1,309 0.5 1,158.7
卸・小売り・修理業 308 559 0.2 81.5
金融・保険 63 167 0.1 165.1
ホテル・外食 302 124 0.1 △ 58.9
水道 0 37 0.0
教育 0 8 0.0
建設 3,633 7 0.0 △ 99.8
専門・科学・技術 561 1 0.0 △ 99.8
鉱業・資源採掘 74 1 0.0 △ 98.6
芸術、芸能、レジャー 3 0 0.0 △ 100.0
公共サービス 0 0 0.0
健康・社会福祉 0 0 0.0
合計(その他含む) 192,342 241,891 100.0 25.8

〔出所〕 フィリピン統計庁(PSA)

対内直接投資の事例として、フィリピン経済特区庁(PEZA)の投資優遇認可案件リストを見ると、情報・通信部門では、米国企業などを中心にコールセンターの新・増設の動きが相次いだ。具体例を挙げると、米国系のアロリカ・フィリピンによるコールセンターの拡張、アロリカ・テレサービシーズによる新規設立、コンセントリクス・CVG・フィリピンによる新設などである。また、グーグル・サービシーズ・フィリピンはITに関するテクニカル・サポートなどの情報通信サービス事業が優遇措置案件として登録された。

不動産部門では、日系企業による投資が目立つ。2022年1月に野村不動産が現地大手財閥グループであるGTキャピタルホールディングス傘下のフェデラルランドとともに合弁会社を設立し、長期にわたりフィリピンで不動産開発事業に取り組むことを発表した。また、西日本鉄道は2022年7月、マニラ首都圏郊外に位置するアンティポロにおいて、フィリピンの住宅デベロッパーであるアクセイア・デベロップメントと共同で、低層マンションを開発することを発表した。日系企業によるフィリピンでの不動産開発は、将来的に同国の経済成長や労働人口の増加が長期間にわたると見込まれており、不動産市場として有望なマーケットの一つであるとの期待が背景にある。

投資環境・外資政策 
マルコス政権の高支持率続く、投資環境は安定化の見込み

2022年5月、故フェルディナンド・マルコス元大統領の長男、フェルディナンド・マルコス・ジュニア氏が大統領選挙にて他候補に大差をつけて勝利し、同年6月30日に第17代大統領に就任した。マルコス大統領は選挙キャンペーン期間中、経済政策運営については具体的な指針を示さず、財界や有識者を中心にその政権運営が注視されていた。しかし、財務相やBSP総裁などの要職に、過去に行政経験を有する経済分野の専門家が登用されると、フィリピン商工会議所(PCCI)は2022年5月30日、「経験豊かで、有能な経済指導者たちだ」と新政権の顔ぶれを評価する声明を発表した。

政権への支持率は政権発足当初よりは低下したものの、2023年4~6月は60%と高水準を維持している。政治的な安定性を背景に、新政権が掲げる「雇用機会の拡大」や「高付加価値分野での雇用創出」といった社会経済上の重点政策に注力して取り組むことができる環境にある。

外資規制緩和については、ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領が任期終盤に関連法案を矢継ぎ早に成立させた。ドゥテルテ大統領(当時)は2021年12月に小売り自由化法(2000年施行)の改正法案に署名し、同法は2022年1月21日に発効した。これまで国内事業者保護の観点から、厳しい外資規制が設けられていた小売業において投資を活発化させるため、従来は250万ドルと規定していた外資系企業の最低払込資本金を2,500万ペソ(43万9,367ドル、1ドル=56.9ペソ)に引き下げた。また、外資系企業が実店舗を運営する場合、各店舗への最低投資額を83万ドルと規定していた要件を、1,000万ペソに引き下げた。また、小売業で5年以上の実績を有することや、世界で小売店舗もしくはフランチャイズを5件以上展開していること、親会社の純資産が一定金額以上であることといった外資系企業に課していた要件も撤廃された。

2022年4月には公共サービス法の改正法を発効させた。1936年に成立したこれまでの公共サービス法は、フィリピン人もしくはフィリピン人が60%以上出資する企業だけに「公益事業」の運営・管理業務への参入を認めていた。しかし、同法では「公益事業」の定義が明確でなかったため、これまで幅広い分野が「公益事業」と見なされ、外資系企業がフィリピンでビジネスを行う上で参入障壁となっていた。改正法では、「公益事業」の定義を明確化するとともに、外国資本を40%以下に制限する「公益事業」を電力の送配電、石油および石油製品のパイプライン輸送システム、上下水道、港湾、公共交通車両に限定した。また、それ以外の分野については、外資の出資比率の上限が撤廃されたことにより、通信、鉄道、高速道路、空港、運送については、外国資本100%での投資が可能となった。

さらに、2022年3月には、外国投資法の改正法が成立、施行した。外国投資法は、外国資本の投資に関して制度面での基礎的なフレームワークを提供する法律である。フィリピン政府は、今回の改正法によって外資規制をより緩和し、フィリピンへの国外からの投資を活発化させることが狙いと発表している。具体的には、改正小売り自由化法やその他の関連法が効力を有するケースを除き、原則として、払込資本金が20万ドル未満の国内市場向け企業をフィリピン人の所有とする一方、(1)フィリピン科学技術省(DOST)が先進的な技術を駆使していると認可した場合、(2)「スタートアップ」もしくは「スタートアップ支援機関」と見なされる場合、もしくは(3)直接雇用する従業員の大半がフィリピン人で、フィリピン人従業員数が15人以上の場合については、最低払込資本金10万ドルで外国人による所有を認めた。なお、今回の改正によって、外国人による所有が認められる会社において、直接雇用するフィリピン人従業員の最少人数を従前の50人から15人に緩和した。

対日関係 
日本との貿易は輸出・輸入ともに拡大

2022年の日本との貿易(通関ベース)をみると、輸出は前年比3.6%増の110億9,400万ドル、輸入は11.6%増の123億4,700万ドルとなった。対日貿易赤字は12億5,300万ドルと、前年の3億5,900万ドルから拡大した。フィリピンにとって日本は輸出で2位、輸入で3位の相手国である。

品目別でみると、輸出では、電気・電子機器・同部品が前年比13.4%増の48億9,800万ドルとなり、全体の44.1%を占めた。とりわけ集積回路は55.9%増(18億6,100万ドル)と急増し、電気絶縁線、ケーブル・その他電気導体も3.3%増加した(13億9,200万ドル)。ニッケルおよびその製品は 30.2%増の6億5,500万ドルとなり、伸び率が比較的高かった。一方、輸出量では5.3%減少しており、価格高騰が輸出額増加の要因となった。フィリピンニッケル産業協会(PNIA)は2023年7月、クリーンエネルギーや脱炭素、スマートシティへの転換が世界的に進む中で、電気自動車(EV)、太陽光パネル、送配電網、風力タービンなどニッケルの需要が今後も高まることを見込んでいるとした。

輸入では、主要品目である電気・電子機器・同部品は前年比0.3%増(29億5,300万ドル)と横ばいで、一般機械・同部品は8.9%減(19億5,300万ドル)となった。一方、鉱物性燃料・鉱物油は5倍と急増し、対日輸入額増加の大きな要因となった。同品目の輸入量は前年比で3倍となり、また、品目単価は68.3%の増加となっている。

表7-1 フィリピンの対日主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
電気・電子機器・同部品 4,319 4,898 44.1 13.4
階層レベル2の項目集積回路 1,194 1,861 16.8 55.9
階層レベル2の項目電気絶縁線、ケーブルその他の電気導体 1,347 1,392 12.5 3.3
階層レベル2の項目レーダー、航行用無線機器および無線遠隔制御機器 311 283 2.6 △ 9.0
階層レベル2の項目半導体デバイス 229 193 1.7 △ 15.7
ニッケルおよびその製品 503 655 5.9 30.2
果実・ナッツ 606 628 5.7 3.6
一般機械・同部品 634 568 5.1 △ 10.4
階層レベル2の項目印刷機、その他のプリンター、複写機およびファクシミリ 209 156 1.4 △ 25.4
階層レベル2の項目空気/真空ポンプ、空気/ガスコンプレッサーおよびファン 44 68 0.6 54.5
階層レベル2の項目自動データ処理機械等 87 57 0.5 △ 34.5
階層レベル2の項目タイプライターや事務機器関連部品 50 49 0.4 △ 2.0
プラスチック・同製品 521 460 4.1 △ 11.7
木材・同製品 524 458 4.1 △ 12.6
鉱石、スラグおよび灰 414 426 3.8 2.9
船舶および浮き構造物 472 385 3.5 △ 18.4
合計(その他含む) 10,709 11,094 100.0 3.6

〔出所〕 グローバル・トレード・アトラス(原データはフィリピン統計庁(PSA))

表7-2 フィリピンの対日主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
電気・電子機器・同部品 2,943 2,953 23.9 0.3
階層レベル2の項目集積回路 1,313 1,353 11.0 3.0
階層レベル2の項目印刷回路 230 250 2.0 8.7
階層レベル2の項目電気絶縁線、ケーブルその他の電気導体 140 234 1.9 67.1
階層レベル2の項目電気回路の切替、保護、接続のための電子機器 175 165 1.3 △ 5.7
一般機械・同部品 2,144 1,953 15.8 △ 8.9
階層レベル2の項目タイプライターや事務機器関連部品 608 511 4.1 △ 16.0
階層レベル2の項目機械類(固有の機能を有するものに限る) 234 214 1.7 △ 8.5
階層レベル2の項目半導体ボール等の製造に専らまたは主として使用する
機器
169 194 1.6 14.8
鉱物性燃料・鉱物油 224 1,128 9.1 403.6
車両(鉄道以外)・同部品 843 964 7.8 14.4
階層レベル2の項目10人以上の人員の輸送用の自動車 199 251 2.0 26.1
階層レベル2の項目貨物自動車 257 238 1.9 △ 7.4
鉄鋼 506 682 5.5 34.8
プラスチック・同製品 627 572 4.6 △ 8.8
有機化学品 332 280 2.3 △ 15.7
光学・精密・医療機器等 254 272 2.2 7.1
合計(その他含む) 11,068 12,347 100.0 11.6

〔出所〕 グローバル・トレード・アトラス(原データはフィリピン統計庁(PSA))

基礎的経済指標

人口
1億903万人 (2020年)
面積
30万平方キロメートル(2022年)
1人当たりGDP
3,623ドル (2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △9.5 5.7 7.6
消費者物価上昇率 (%) 2.4 3.9 5.8
失業率 (%) 10.3 7.8 5.4
貿易収支 (100万米ドル) △33,775 △52,806 △69,393
経常収支 (100万米ドル) 11,578 △5,943 △17,832
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 98,512 99,462 86,850
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 98,488 106,428 111,268
為替レート ( 1米ドルにつき、フィリピン・ペソ、期中平均) 49.6 49.3 54.5

注:
失業率、貿易収支、経常収支:推計値
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所:
人口、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:フィリピン統計庁(PSA)
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF
面積、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):フィリピン中央銀行(BSP)