マレーシアの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2024年のGDP成長率は5.1%、堅調な内需により前年から回復
  • 貿易総額は過去最高を記録、貿易摩擦受け米中向け輸出に変化
  • 2024年の対内直接投資は史上2位の高水準、データセンターブーム続く
  • 日本から堅調に投資流入も、ビジネスコスト増への懸念も

公開日:2025年7月23日

マクロ経済 
内需と年後半の輸出回復で成長率はV字回復

2024年のマレーシアの実質GDP成長率は5.1%だった。2025年国家予算案発表時(2024年10月)に財務省が出した予測値4.8~5.3%の範囲におさまり、2023年の成長率(3.6%)から加速した。年間を通じて内需の拡大が続くほか、輸出もおおむね好調に推移した。

需要項目別にみると、民間最終消費支出は2024年を通じて安定的に推移し、前年比5.1%増で経済を下支えした。個人消費については、小売売上が6.1%増の7,649億リンギへと、4年連続で拡大した。堅調な消費は同年の新車販売台数にも表れ、2.1%増の81万6,747台と過去最高、かつ初の80万台超えを記録した。好調な国内経済に加え、政策金利(OPR)の3%への据え置きによる良好なローン環境、安定した社会政治環境、低水準の失業率が、消費者の信頼感と購買力を押し上げた。電動車(xEV)の売り上げも、19.2%増の4万5,562台と好調で、全販売台数に占めるシェアは前年の4.8%から5.6%に拡大した。政府消費も、第4四半期にかけ減速したが、通年では4.7%増と堅調だった。国内総固定資本形成は、民間部門の牽引により通年で12.0%と、3年連続のプラス成長となり、2012年以来12年ぶりの2桁成長を記録した。マレーシア中央銀行(以下、中銀)によれば、新型コロナ禍からの本格回復後、インフラ整備やデジタル化推進関連政策が企業の投資マインドを刺激したことに加え、堅調な世界経済、金融市場の安定、外国直接投資の増加も相まって、2023年下期に投資の好循環が本格化した。特にインフラや機械設備への投資が高成長を記録した。純輸出は、第4四半期に輸出の伸びが輸入を上回ったことで、通年で2.2%増と5年ぶりにプラスに転じた。

表1 マレーシアの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年 2024年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 8.9 3.6 5.1 4.2 5.9 5.4 5.0
階層レベル2の項目民間最終消費支出 11.3 4.7 5.1 4.7 6.0 4.8 4.9
階層レベル2の項目政府最終消費支出 5.1 3.3 4.7 7.3 3.6 4.9 3.3
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 6.8 5.5 12.0 9.6 11.5 15.3 11.7
階層レベル2の項目財・サービスの輸出 14.5 △ 8.1 8.5 5.2 8.4 11.8 8.5
階層レベル2の項目財・サービスの輸入 16.0 △ 7.4 8.9 8.0 8.7 13.5 5.7

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕マレーシア統計局「四半期別GDP統計」から作成

産業別に見ると、2024年のGDPの59.3%を占めるサービス業の成長率が、前年の5.1%から5.4%へとわずかに加速した。シェアの大きい小売り、卸売り、情報通信は前年からやや減速したが、金融がプラスに転じたほか、輸送・倉庫は3年連続で2桁増を記録し、ビジネスサービスも好調だった。GDPの23.2%を占める製造業の成長率は、前年の0.7%から4.2%へと大きく加速し、電子部品・通信機器・家電、石油製品、ゴムなどで成長率がプラスに転じた。このほか、構成比4.0%の建設業も17.5%と高い成長率を記録し、2025年も2桁の伸びが予測されている。

中銀は、2025年通年の実質GDP成長率を4.5~5.5%と予測している。世界経済の不透明感が高まる中でも、堅調な内需や輸出の緩やかな拡大に下支えされ、2024年並みの成長率を達成できると見込む。中銀は、経済成長へのプラス要因として、各国・地域とのFTA交渉含む貿易多角化や成長戦略による外需の増加、テクノロジー部門の復調とその波及効果、観光活動の活発化、投資事業の実施加速などがあると予測した。一方、リスク要因としては、貿易制限的措置の増加、地政学的緊張の激化、企業の信頼感や消費者心理の低下、予想より低調な一次産品生産を挙げた。2025年のインフレ率は2.0~3.5%に収まると予測される。

投資環境・外資誘致政策 
産業高度化策に本腰、シンガポールとの特区設立も

アンワル・イブラヒム政権は、2023年に発表した「マダニ(MADANI)経済政策」の下、2024年中も高付加価値産業の誘致に向けた政策を進めた。特に2024年5月に発表した国家半導体戦略外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(NSS)では、同分野における企業誘致や新たな企業創出、研究開発や人材育成のため250億リンギ以上の予算措置を行うとした。NSSを通じ、6万人規模のエンジニア育成に取り組むとともに、5,000億リンギの半導体関連投資を誘致したい考えだ。NSSに呼応し、政府は2024年8月、スランゴール州プチョン市に東南アジア最大級の半導体設計拠点「マレーシア半導体ICデザインパーク外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を開所した。ペナン州も9月、同州バヤンレパス工業団地の半径5キロ圏内のIC設計企業を対象とした新たな投資優遇策を発表した。設計や研究開発向けの支援設備を拡充するとともに、人材育成にも注力する。さらに2025年3月に政府は、半導体設計能力向上と産業人材育成に向け、英・半導体設計大手アーム・ホールディングス(Arm Holdings)と提携外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、同社の設計システムと設計情報利用サービスに対し今後10年で2億5,000万ドルを投じると発表した。

脱炭素に関しては、2024年9月に国家気候変動政策2.0を発表し、2050年までのネットゼロに向けた取り組みを再確認した。同政策は、気候変動に関するマレーシアのあらゆる政策を統括し、低炭素経済への明確な道筋を取り決めたものだ。さらに、2023年の国家エネルギー移行ロードマップで重点分野に指定した、二酸化炭素の回収・有効利用・貯留(CCUS)については、同事業に関する枠組みを定めた初の法律が2025年3月末に成立した。国際基準に準拠したCCUS運用を確保するための環境保護、リスク管理、事業運営者の責任、その一環として炭素注入税の導入も盛り込み、経済成長の源としてCCUS産業の発展を促進する狙いがある。

マダニ経済政策の実施に向け、2025年国家予算案では、歳出額としては過去最高となる4,210億リンギを計上した。2021~2025年の国家中期計画(第12次マレーシア計画)の下で最後の年となる本予算では、「経済活性化、変化の創造、国民の繁栄」をテーマに、生活の底上げと成長力強化に注力する。これを反映した税制改正案では、売り上げサービス税(SST)の課税対象を拡大することを盛り込んだ(2025年7月に実施)。また、2025課税年度から、10万リンギ超の配当所得に2%の配当税を課すほか、2026年までに鉄鋼とエネルギー産業を対象に、炭素税の導入を目指す。企業活動に対する優遇措置としては、スマート物流施設への税制優遇、2026年7月に完全導入する電子インボイス制度(注1)に関する設備投資への減税を拡充する。

高付加価値産業の誘致も主眼に、マレーシア政府は2025年1月、シンガポール政府との間で、ジョホール・シンガポール経済特別区(JS-SEZ)設立に関して最終合意した。今後5年以内に50件の高付加価値プロジェクトの組成達成と、2万人の熟練雇用創出を目指す。JS-SEZでは、9つの重点エリアに対し、11の主要経済セクターへの投資を誘致する狙いで、法人税減免を柱とする優遇措置も導入された(2025年1月9日付ビジネス短信参照)。マレーシア投資貿易産業省(MITI)によれば、2025年第1四半期(1~3月)のジョホール州の投資認可額のうち、9割近くがJS-SEZへの投資だった。

(注1)
2024年8月より、企業の売り上げ規模に応じて段階的に導入を開始。2026年7月以降、中小零細企業も含め原則として義務化される。

貿易 
貿易総額は過去最高を記録、米国向け輸出が中国抜く

2024年の貿易総額(通関ベース)は前年比9.2%増の2兆8,786億リンギだった。輸出入ともに前年から回復したことで、4年連続で2兆リンギを超え、過去最高を記録した。輸出額は5.7%増の1兆5,077億リンギ、輸入額は13.2%増の1兆3,708億リンギだった。貿易収支は27年連続で黒字を維持したが、輸入額の伸びが大きかったことから黒字幅は36.4%減の1,369億リンギに縮小した。

輸出を品目別にみると、全体の39.9%を占める電気・電子製品が6,012億リンギで、前年から微増した。同品目の52.1%を占める集積回路は4.8%増の3,131億リンギだった。次いで、石油製品が12.1%減の1,176億リンギと前年割れした。一方、パーム油・同製品は12.0%増となり、液化天然ガスや専門・科学・制御機器もともに増加した。

輸出を国・地域別でみると、最大の仕向け先シンガポールが前年比5.3%増の2,309億リンギで、これに米国が23.2%増の1,986億リンギで続いた。上位5カ国・地域のうち、電気・電子製品の輸出が好調だった両国のみが、前年を上回った。特に米国向けの輸出が中国を上回るのは、2008年以来16年ぶりだ。HSコード4桁でマレーシアの対米輸出を見ると、首位の集積回路が42.4%増、4位の記憶装置・記録装置も2.8倍に急増した。米トランプ政権発足前の駆け込みで、特に年末にかけ米国向け輸出が加速した。一方、対中輸出は総額ではほぼ横ばいだったものの、首位の集積回路が15.6%減と落ち込んだ。中でも半導体部品は半減以上となった。中国産半導体の対米輸出規制がマレーシアから中国への部材輸出にも波及したとみられる。このほか、台湾向け輸出が54.4%増へと急増した。輸出の57.5%を占める集積回路が66.2%増、2位の測定・検査機器が2.7倍に膨らんだ。同国からの輸入も、15.6倍となったコンピュータ・同部品を中心に好調だったことから、台湾との貿易総額は過去最高を記録し、初めて日本を抜き4位の貿易相手に浮上した。

輸入を品目別にみると、33.2%を占める電気・電子製品が、前年比28.0%増の4,557億リンギに拡大した。次いで石油製品は微減の1,215億リンギ、原油は微増の632億リンギだった。国・地域別では、全体の21.6%を占める中国からの輸入が前年比14.8%増の2,965億リンギと好調で、首位を維持した。次いでシンガポール、米国、台湾からの輸入がいずれも2桁増となった。特に米国からの輸入は42.1%増と大幅に拡大し、中でも2位のコンピュータ・同部品が11.8倍、3位の半導体製造装置が2.7倍に急増した。マレーシアにおけるデータセンター建設ブームが影響したと考えられる。

表2-1 マレーシアの主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万リンギ、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
電気・電子製品 575,455 601,183 39.9 4.5
階層レベル2の項目電子管・電子部品 387,403 387,947 25.7 0.1
階層レベル3の項目集積回路 298,853 313,101 20.8 4.8
階層レベル2の項目通信機器・部品 48,087 46,930 3.1 △ 2.4
金属・鉱物 227,736 209,133 13.9 △ 8.2
階層レベル2の項目石油製品 133,870 117,619 7.8 △ 12.1
階層レベル2の項目液化天然ガス(LNG) 60,231 60,844 4.0 1.0
パーム油・同製品 102,160 114,381 7.6 12.0
階層レベル2の項目パーム油 59,450 65,819 4.4 10.7
専門・科学・制御機器 50,329 54,805 3.6 8.9
合計(その他含む) 1,426,199 1,507,725 100.0 5.7

〔出所〕マレーシア統計局

表2-2 マレーシアの主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万リンギ、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
電気・電子製品 355,945 455,678 33.2 28.0
階層レベル2の項目電子管・電子部品 221,166 267,183 19.5 20.8
階層レベル3の項目集積回路 159,163 202,637 14.8 27.3
階層レベル2の項目通信機器・部品 29,641 35,833 2.6 20.9
階層レベル2の項目電気機器・部品 33,049 34,022 2.5 2.9
階層レベル2の項目事務機器・自動データ処理機械・部品 9,085 20,598 1.5 126.7
石油製品 130,253 121,470 8.9 △ 6.7
原油 60,972 63,167 4.6 3.6
特殊機械・同部品 21,948 31,196 2.3 42.1
測定・分析・制御機器 19,102 20,271 1.5 6.1
合計(その他含む) 1,211,044 1,370,841 100.0 13.2

〔出所〕マレーシア統計局

表3 マレーシアの主要国・地域別輸出入[通関ベース](単位:100万リンギ、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2023年 2024年 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
アジア大洋州 990,598 1,025,780 68.0 3.6 852,492 944,271 68.9 10.8
階層レベル2の項目日本 85,830 82,616 5.5 △ 3.7 70,917 70,142 5.1 △ 1.1
階層レベル2の項目中国 191,885 187,671 12.4 △ 2.2 258,127 296,451 21.6 14.8
階層レベル2の項目香港 89,836 88,837 5.9 △ 1.1 15,250 16,663 1.2 9.3
階層レベル2の項目台湾 43,377 66,989 4.4 54.4 83,795 109,116 8.0 30.2
階層レベル2の項目韓国 56,387 53,953 3.6 △ 4.3 55,298 55,389 4.0 0.2
階層レベル2の項目ASEAN 420,465 437,916 29.0 4.2 300,346 327,173 23.9 8.9
階層レベル3の項目シンガポール 219,295 230,863 15.3 5.3 143,726 165,363 12.1 15.1
階層レベル3の項目タイ 58,913 58,984 3.9 0.1 54,457 55,572 4.1 2.0
階層レベル3の項目インドネシア 50,910 54,405 3.6 6.9 60,301 61,882 4.5 2.6
階層レベル3の項目ベトナム 52,012 53,862 3.6 3.6 27,412 29,249 2.1 6.7
階層レベル2の項目インド 45,533 52,131 3.5 14.5 29,852 31,364 2.3 5.1
階層レベル2の項目オーストラリア 49,899 49,395 3.3 △ 1.0 34,739 33,526 2.4 △ 3.5
北米 165,448 205,154 13.6 24.0 93,151 131,076 9.6 40.7
階層レベル2の項目米国 161,272 198,647 13.2 23.2 88,850 126,260 9.2 42.1
南米 31,744 31,998 2.1 0.8 30,611 42,018 3.1 37.3
欧州 147,238 153,384 10.2 4.2 125,590 133,756 9.8 6.5
階層レベル2の項目EU27 112,873 115,776 7.7 2.6 93,912 103,072 7.5 9.8
階層レベル3の項目ドイツ 30,562 32,320 2.1 5.8 32,980 32,298 2.4 △ 2.1
階層レベル3の項目オランダ 35,850 35,667 2.4 △ 0.5 5,096 5,591 0.4 9.7
階層レベル2の項目英国 8,781 8,610 0.6 △ 2.0 8,517 8,191 0.6 △ 3.8
湾岸協力会議(GCC)諸国 25,079 25,719 1.7 2.6 79,454 76,087 5.6 △ 4.2
アフリカ 31,957 31,858 2.1 △ 0.3 22,241 35,133 2.6 58.0
合計(その他含む) 1,426,199 1,507,725 100.0 5.7 1,211,044 1,370,841 100.0 13.2

〔注〕アジア大洋州は、ASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔出所〕マレーシア統計局

通商政策 
米国関税策を受け多角化加速、EUとも12年ぶりに交渉再開

マレーシアが締結する自由貿易協定(FTA)は16件あり、貿易総額に占めるFTAカバー率は65.0%に上る。FTAを締結していない米国との貿易額が前年比で29.9%増加したことから、カバー率は前年から微減した。一方、2024年12月に英国でも環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)が発効したことで、マレーシアにとってのFTA締約国が1カ国増えた。英国の加盟に向けマレーシアは、同年9月に7番目の原加盟国として、英国のCPTPP加入議定書を批准した。MITIによれば、CPTPP発効によりマレーシアの対英輸出の94%を占める品目で関税が即時撤廃され、とりわけパーム油、ココア、ゴム、電気・電子製品、化学品、機械設備の市場アクセス改善が期待される。

表4 マレーシアのFTA発効・署名・交渉状況(単位:%)
FTA 発効日 マレーシアの貿易に占める構成比(2024年)
往復 輸出 輸入
発効済み ASEAN物品貿易協定(ATIGA) 1993年1月 26.6 29.0 23.9
ASEAN・中国自由貿易協定(ACFTA) 2005年7月 43.4 41.5 45.5
日本・マレーシア経済連携協定(JMEPA) 2006年7月 5.3 5.5 5.1
ASEAN・韓国自由貿易協定(AKFTA) 2007年6月 30.4 32.6 27.9
マレーシア・パキスタン自由貿易協定 2008年1月 0.3 0.4 0.2
日本・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP) 2008年12月 31.9 34.5 29.0
ASEAN・インド包括的経済協力枠組み協定(AIFTA) 2010年1月 29.5 32.5 26.2
ASEAN・オーストラリア・ニュージーランド自由貿易協定(AANZFTA) 2010年1月 29.8 32.7 26.7
マレーシア・ニュージーランド自由貿易協定 2010年8月 0.4 0.4 0.3
マレーシア・インド包括的経済連携協定 2011年7月 2.9 3.5 2.3
マレーシア・チリ自由貿易協定 2012年2月 0.1 0.0 0.1
マレーシア・オーストラリア自由貿易協定 2013年1月 2.9 3.3 2.4
マレーシア・トルコ自由貿易協定 2015年8月 0.8 1.4 0.3
ASEAN・香港自由貿易協定 2019年6月 30.3 34.9 25.1
環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP) 2018年12月 38.3 43.4 32.7
地域的な包括的経済連携(RCEP)協定 2022年1月 55.8 54.2 57.5
合計 65.0 67.1 62.6
署名済み マレーシア・UAE包括的経済連携協定 2025年1月 1.5 1.0 2.0
交渉妥結 マレーシア・EFTA経済連携協定 2025年4月 0.5 0.3 0.8
交渉中 マレーシア・韓国自由貿易協定 3.8 3.6 4.0
マレーシア・EU自由貿易協定 7.6 7.7 7.5
ASEAN・カナダ自由貿易協定 27.0 29.5 24.3

〔注1〕FTAを適用した貿易額ではなく、FTA締結国との貿易額がマレーシア全体の貿易額に占める割合。
〔注2〕「合計」算出に当たっては、重複する国・地域の構成比は除く。
〔注3〕特恵関税協定は除く。
〔注4〕複数国間協定の場合、発効日は最初の発効国を基準とする。
〔出所〕マレーシア統計局、ジェトロ「世界のFTAデータベース」から作成

日本との間では、日本・マレーシア経済連携協定(JMEPA)、日本・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)、CPTPP、および地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の4つが併存する。マレーシアでは、CPTPPの発効が2022年11月と比較的遅かった。そのため、自己申告に基づく特定原産地証明書の取り扱いに税関担当官が不慣れなこともあり、日本からの輸入において同協定を適用する貨物の通関に時間を要するとの報告が、2025年初にかけてジェトロにも数件寄せられた。プトラジャヤ税関による指導が進展しつつあることから、同様のトラブルは今後減っていくことが期待される。

マレーシアはこのほかにも、5つのFTAで交渉を続けていたが、2025年以降の米国の関税政策の影響も受け、貿易相手国多角化の観点から交渉を加速させている。中でもインパクトが大きいのが、EUとのFTA交渉再開だ。マレーシア政府は2025年1月、12年間の中断を経てEUとのFTA交渉を再開すると公式発表した。MITIは、パーム油由来のバイオ燃料など持続可能性に関する条項の取り扱い含め、核心的部分で課題が残っていることを認めつつ、交渉妥結に至れば、EUへの電気・電子製品やパーム油・同製品、光学機器・科学機器の輸出拡大のほか、グリーンエネルギーや先端技術分野でEUからの投資誘致が見込まれるとしている。ジェトロの「2024年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」(以下、日系企業調査)において、在マレーシア日本企業がFTA発効を期待する相手として、EUは66.7%と最多であり、特に欧州向けに輸出する製造業は長らく交渉再開を待ち望んでいた。このほか欧州との関係では、長年交渉が続いていた欧州自由貿易連合(EFTA)との経済連携協定(MEEPA)が2025年4月に妥結した。FTAカバー率は0.5%にとどまるものの、マレーシアにとっては初の欧州とのFTAであり、米国との関税問題の先行きが見通せない中、11年越しに妥結した意義は大きい。

さらに、中東市場への足掛かりとして、2025年1月にアラブ首長国連邦(UAE)との包括的経済連携協定(CEPA)に署名した。湾岸協力会議(GCC)加盟国としては初めてのFTA締結となる。マレーシアからUAEへの主要輸出品目は身辺用細貨類、いわゆるアクセサリーが23.1%を占める。次いで、通信機器やパーム油・同製品などが続く。これらに現状では最大5%課されている関税が即時、または段階的に撤廃される。2023年1月に対象品目を拡大させたトルコとのFTA改定に続き、UAEとの協定は中東市場への展開に追い風となる。MITIとしては、UAEとの協定締結を契機に、GCC全体とのFTA交渉を推進したい考えだ。このほかマレーシアは、2024年3月に交渉を再開した韓国とのFTAも、2025年中の妥結を目指している。

マレーシアは等距離外交を自らの強みと位置付けている。2024年7月にはBRICS(注2)への加盟を申請し、その後2025年1月にパートナー国として正式に認定された。一方でOECDへの加盟の意向もアンワル首相が表明しており、貿易相手の多角化とともに、全ての国・地域との良好な通商関係を継続すべきとの立場を維持している。

(注2)
BRICS加盟国はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国、UAE、サウジアラビア、イラン、エチオピア、エジプト、インドネシア(2025年6月時点)。

対内直接投資 
対内投資は過去2番目の高水準、データセンターブーム続く

2024年のマレーシア対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は前年比33.4%増の515億リンギだった。投資額は2022年に次ぐ高水準だった。また、投資実行額(グロス)は、前年比28.6%増の3,359億リンギと過去最高を記録した。

業種別では、76.4%を占めるサービス業が13.5%増の394億リンギへ拡大した。投資総額の50.8%を占める情報通信業が2.2倍に拡大し、卸・小売・自動車修理業も前年の引き揚げ超過からプラスに転じた一方、金融・保険が20.9%減と落ち込んだ。情報通信業については、前年に続きデータセンターの建設計画拡大が、投資額増加の背景にあるとみられる。他方、製造業への投資は2.0倍の91億リンギへと堅調に拡大。中でも電気電子への投資は2.1倍の87億リンギへと急増した。

国・地域別にみると、シンガポールからの投資が2.9%減の214億リンギに上り、最大の投資元だった。統計上の制約から内訳が不明だが、実質的には中国を含む第三国による投資が大半を占めるとみられる。シンガポールに続くのは、香港(6.0%増、184億リンギ)、米国(全増、114億リンギ)、日本(8.5%増、62億リンギ)、フランス(96.6倍、56億リンギ)だった。中国からの投資はほぼ全減(ぜんげん)したが、2024年末時点の対内直接投資残高では、前年の7位から5位まで順位を上げた。米国からの投資は過去2番目の高水準であり、オラクル(Oracle、65億ドル相当)やアマゾン・ウェブ・サービス(AWS、62億ドル相当)などによる情報通信関連の大型案件が同年中に報じられた。上位案件を見ると、各社がマレーシアにおいて過去最大規模の投資を行ったことが分かる。また、フランスからの投資額が急増した背景には、石油大手トタルエナジーズ・ホールディングス(Total Energies)による、石油ガス産業向けサービス企業サプラ・エナジー(Sapura Energy)の子会社の株式取得(9億300万ドル相当)がある。同案件により、フランスからの投資額は過去最高を記録した。一方、オランダは同国としては過去最多額の資金を引き揚げたため、欧州全体としては76億リンギの引き揚げ超過となった。

表5 マレーシアの業種別対内直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万リンギ、%)(△はマイナス値)
業種 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
農林水産業 △ 19 166 0.3
鉱業(石油ガス含む) 1,337 5,261 10.2 293.5
製造業 4,470 9,070 17.6 102.9
階層レベル2の項目電気電子 4,206 8,700 16.9 106.9
階層レベル2の項目非金属鉱物、基礎金属、金属加工 2,925 3,175 6.2 8.5
階層レベル2の項目食品、飲料、たばこ 619 2,593 5.0 319.0
階層レベル2の項目輸送機器、その他製造業 2,215 620 1.2 △ 72.0
階層レベル2の項目木製品、家具、紙製品、印刷 312 444 0.9 42.5
階層レベル2の項目繊維、衣類、皮革、履物 △ 307 △ 316
階層レベル2の項目石油、化学、ゴム、プラスチック △ 5,500 △ 6,146
建設業 △ 1,858 △ 2,352
サービス業 34,690 39,380 76.4 13.5
階層レベル2の項目情報通信 11,984 26,195 50.8 118.6
階層レベル2の項目金融、保険 10,632 8,407 16.3 △ 20.9
階層レベル2の項目卸小売、自動車修理 △ 1,891 3,831 7.4
階層レベル2の項目輸送、倉庫 △ 325 1,185 2.3
階層レベル2の項目ヘルスケア、社会福祉 5,907 485 0.9 △ 91.8
階層レベル2の項目電力・ガス 1,863 △ 2,207
階層レベル2の項目その他サービス業 6,520 1,485 2.9 △ 77.2
合計(その他含む) 38,619 51,526 100.0 33.4

〔出所〕マレーシア統計局

表6 マレーシアの国・地域別対内直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万リンギ、%)(△はマイナス値)
国・地域 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
東アジア 32,491 28,416 55.1 △ 12.5
階層レベル2の項目香港 17,315 18,359 35.6 6.0
階層レベル2の項目日本 5,691 6,172 12.0 8.5
階層レベル2の項目中国 4,173 41 0.1 △ 99.0
階層レベル2の項目韓国 2,797 2,243 4.4 △ 19.8
階層レベル2の項目台湾 2,503 1,549 3.0 △ 38.1
東南アジア 22,148 22,464 43.6 1.4
階層レベル2の項目シンガポール 21,993 21,353 41.4 △ 2.9
階層レベル2の項目タイ 970 519 1.0 △ 46.5
大洋州 △ 2,794 △ 4,128
階層レベル2の項目オーストラリア △ 3,311 △ 3,889
欧州 △ 8,122 △ 7,599
階層レベル2の項目スイス 998 1,824 3.5 82.7
階層レベル2の項目ドイツ △ 324 2,798 5.4
階層レベル2の項目フランス 58 5,585 10.8 9,560.7
階層レベル2の項目オランダ △ 12,566 △ 20,316
階層レベル2の項目英国 △ 753 1,511 2.9
北米 △ 1,354 10,932 21.2
階層レベル2の項目米国 △ 1,475 11,389 22.1
中南米 △ 1,817 1,121 2.2
階層レベル2の項目ケイマン諸島 1,785 4,573 8.9 156.2
合計(その他含む) 38,619 51,526 100.0 33.4

〔出所〕マレーシア統計局

投資の先行指標と位置付けられるマレーシア投資開発庁(MIDA)の投資認可額統計では、2024年の外国投資認可額は前年比14.9%増の3,785億リンギで過去最高を記録した。内訳は、サービス業が66.8%、製造業が31.8%、第一次産業が1.4%だった。また、認可投資総額は国内投資が55.0%、海外投資が45.0%とほぼ二分された。MIDAによると、マレーシアは2025年2月時点で1,049件、総額588億リンギ相当の投資案件が審査中で、このうち製造業が54件、270億リンギを占める。さらに、全業種で追加的に635億リンギ相当の投資案件が認可準備段階にあり、MIDAは2025年中も堅調な投資実施を見込んでいる。

製造業の外国投資認可額(前年比30.8%減の889億リンギ)の内訳は、拡張・多角化投資が563億リンギで全体の63.4%を占め、残りが新規投資だった。業種別にみると、全体の60.0%を占める電気・電子製品への投資が、前年比35.3%減の533億リンギへと大幅に落ち込んだ。前年に3.0倍へ急増した反動もあった。一方、輸送機器が2.4倍の123億リンギ、化学・同製品が3.2%増の64億リンギと前年を上回った。これらに加え、機械機器や非金属鉱物製品と合わせて上位5業種で全体の90.2%を占めた。

国・地域別では、オーストリアが301億リンギで首位だった。2024年第1四半期に計上された、301億リンギ相当の電気・電子製品関連の投資案件が寄与した。次いで、シンガポールが17.1%増の151億リンギだった。また、香港は3.4倍の128億リンギで、前年の9位から3位に上昇した。とりわけ、輸送機器、電気・電子製品、化学・同製品関連の投資が牽引した。このほか、米国、中国、台湾が続いた。同年の主な投資案件として、米国の半導体製造関連企業MKSインスツルメンツ(MKS Instruments)による工場建設(22億リンギ相当)、中国のリチウムイオン電池メーカー、EVEエナジー(EVE Energy)による新工場開設(68億リンギ相当)、台湾のプリント基板(PCB)メーカー、エルナープリンテッドサーキット(Elna Printed Circuits)による工場設立(10億リンギ以上)などが報じられた。なお、MIDAは2025年以降、投資を実施する最終親会社の所在国・地域別を基準とした統計発表を開始した。それによると、2024年の製造業の外国投資認可額ではドイツが308億リンギ(シェア34.6%)で首位に立ち、中国(25.6%)と米国(8.2%)がそれに続いた。日本はシェア1.4%で8位だった。

マレーシア政府は投資誘致策の一環として、2024年12月に「マレーシア・サイト・セレクション・ポータル外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を立ち上げた。MIDAが運営管理する本プラットフォームでは、マレーシア全国の工業団地の最新情報を入手できる。マレーシアでは工業団地に関する直近の正確な情報を網羅的に把握するのが難しかったが、同ポータルが随時更新されることで、企業の立地戦略立案への大きな貢献が期待される。これに先立つ同年6月には、投資円滑化措置の一環として、MIDAの下に他の投資誘致機関の機能を集約した。具体的には、半島マレーシア側経済回廊の所轄官庁である東海岸経済地域開発委員会(ECERDC)、北部回廊実行庁(NCIA)、イスカンダル地域開発庁(IRDA)との間で投資戦略を合理化したほか、首都圏への投資誘致推進機関であるインベストKLをMIDAの一部局として統合した。投資促進に対する各施策をMIDAの下でより効率的かつ体系的に整備した。

表7 マレーシアの主な対内直接投資案件(2024年)(金額上位20件)(単位:100万ドル)
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
IT オラクル(Oracle) 米国 10月2日 6,500 マレーシアでクラウドサービスを提供する「パブリック・クラウド・リージョン」を開設。
IT アマゾン・ウェブ・サービス(AWS) 米国 8月21日 6,200 2038年までに、クラウドコンピューティングのインフラ整備に62億ドルを投資。同社のマレーシアへの投資としては最大規模。
データセンター マイクロソフト(Microsoft) 米国 5月2日 2,200 クラウドおよびAIの変革支援のため、今後4年間で22億ドルを投資。同社のマレーシアへの投資としては最大規模。
半導体 インフィニオン・テクノロジー(Infineon Technologies) ドイツ 8月8日 2,100 クダ州クリムに、世界最大規模となる8インチの炭化ケイ素(SiC)ウエハ工場を開所。
データセンター グーグル(Google) 米国 5月30日 2,000 スランゴール州の「エルミナ・ビジネスパーク」にデータセンターを設置。同社の対マレーシア投資としては最大規模。
データセンター デイワン(Day One)(旧:GDSインターナショナル) 中国 3月4日 1,495 ジョホール州の工業団地ヌサジャヤ・テックパークとケンパス・テックパークにデータセンターを拡大。
半導体 シリコンウェア・プレシジョン・インダストリーズ(SPIL) 台湾 5月24日 1,278 ペナン州で新工場起工。半導体封止・検査事業を手がける。同社がマレーシアに工場を設けるのは初めて。
石油・ガス トタルエナジーズ・ホールディングス(Total Energies) フランス 12月10日 903 トタルエナジーズは、マレーシアの石油・ガス産業向けサービス企業サプラ・エナジー(Sapura Energy)の完全子会社を通じ、同社とオーストリアの原油・天然ガスOMVとの合弁会社の株式50%を取得。
不動産 イオンモール(AEON Mall) 日本 11月11日 586 ジョホール州で運営する商業施設「イオンモール・テブラウシティ」をリニューアルオープン。書店「ツタヤ・ブックストア」や日系飲食店を含む20店舗が新規出店。
不動産 イオン(AEON) 日本 6月4日 586 新モール建設のため、ヌグリ・スンビラン州で土地取得。
データセンター AIMSグループ(AIMS Data Centre) 米国 7月22日 538 クアラルンプールに2番目のデータセンター開設。
データセンター ACTIS 英国 6月20日 538 アジアを中心とした新しいデータセンタープラットフォーム「Epoch Digital」立ち上げ。うち一つがジョホール州。
データセンター エクイニクス(Equinix) 米国 7月29日 501 スランゴール州サイバージャヤに新たなデータセンター用地を取得。同地およびジョホール州に続き3カ所目。
データセンター ネクゼラ(Nxera) シンガポール 6月18日 501 シンガポール・テレコムのデータセンター事業会社であるネクゼラが、テレコム・マレーシアと合弁で、ジョホール州に人工知能(AI)対応の大型データセンターを開設。
電子部品 上海恩捷新材料科技(Semcorp) 中国 9月24日 284 ヌグリ・スンビラン州に新子会社設立。リチウム電池用セパレーターを製造。
電子部品 エルナープリンテッドサーキット(ELNA PCB) 台湾 9月10日 237 台湾のプリント基板メーカー、精成科技(GBM)の子会社エルナープリンテッドサーキット(滋賀県)が、ペナン州で新工場開所。
電子部品 珠海冠宇電池(Zhuhai COSMX) 中国 8月30日 237 クダ州に、同社としてはマレーシア初のリチウムイオン電池製造工場を建設。
電子部品 プレクサス(Plexus) 米国 7月27日 215 EMS(電子機器の受託製造サービス)を手がける。ペナン州で第6工場を起工。向こう3年で総額10億リンギ以上を投じる。
半導体 日月新集団(ATX) 中国 4月26日 200 半導体封止・検査事業を手がける。マラッカ州の工場を開所。同社が国外に工場を設置するのは初めて。
電子部品 アメリカン・エナジー・ストレージ・イノベーションズ (AESI) 米国 9月12日 199 クダ州に、バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)の新たな製造施設を建設。

〔注〕 投資額は推計値も含む。
〔出所〕ワークスペース(Refinitive)、fDi Markets(Financial Times)、各社プレスリリース、報道などから作成

対日関係 
堅調に投資流入も、ビジネスコスト増への懸念高まる

2024年の対日貿易総額は前年比2.5%減の1,528億リンギだった。マレーシアにとって日本は、中国、シンガポール、米国、台湾に次ぐ5位の貿易相手国・地域だ。2015年に3位の座を米国に譲って以降、一貫して4位だったが、2024年に初めて台湾を下回った。貿易収支は16.4%減の125億リンギへと縮小したものの、15年連続で対日黒字となった。輸出額は3.7%減の826億リンギ、輸入額は1.1%減の701億リンギと、いずれも2年連続で減少した。

対日輸出を品目別(HSコード4桁ベース)にみると、天然ガスが全体の31.1%を占めた。前年からほぼ横ばいであるが、一貫して最大の輸出品目だ。マレーシアにとって、日本は液化天然ガス(HS271111)の最大の輸出先であり、日本にとってもマレーシア(シェア15.1%)は、オーストラリア(同38.7%)に次ぐ重要な供給国だ。これに次いで、集積回路、石油および歴青油、パーム油・同製品、映像機器など、上位品目には資源関連や電気・電子機器が並ぶ。ただ、主力の集積回路と石油および歴青油がともに、前年比で2桁減に落ち込んだ。対日輸入では、集積回路が前年比12.6%減少したのとは対照的に、金額としてこれに次ぐ半導体製造装置が61.6%増の39億リンギへと、2年連続で急拡大した。過去数年にわたるマレーシアへの好調な半導体関連投資や前述のデータセンター投資過熱も受け、製造装置への需要が高まったと考えられる。

表8‐1 マレーシアの対日主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万リンギ、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
天然ガス(HS2711) 25,831 25,660 31.1 △ 0.7
集積回路(HS8542) 8,039 6,091 7.4 △ 24.2
石油および歴青油(HS2709) 6,177 4,732 5.7 △ 23.4
パーム油・同製品(HS1511) 2,319 2,295 2.8 △ 1.0
映像機器(HS8528) 2,459 2,219 2.7 △ 9.8
合計(その他含む) 85,830 82,616 100.0 △ 3.7

〔出所〕 マレーシア統計局

表8‐2 マレーシアの対日主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万リンギ、%)(△はマイナス値)
品目 2023年 2024年
金額 金額 構成比 伸び率
集積回路(HS8542) 14,722 12,861 18.3 △ 12.6
半導体製造装置(HS8486) 2,432 3,930 5.6 61.6
自動車部品(HS8708) 3,523 2,979 4.2 △ 15.5
乗用車(HS8703) 2,576 2,894 4.1 12.3
石油および歴青油(原油を除く)(HS2710) 2,289 2,451 3.5 7.1
合計(その他含む) 70,917 70,142 100.0 △ 1.1

〔出所〕 マレーシア統計局

日本からの直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年比8.5%増の62億リンギへと微増し、2年ぶりに増加に転じた。投資実行額(グロス)は緩やかな増加基調が続き、2024年には前年比14.4%増の215億リンギと、2022年と2019年に次ぐ過去3番目の水準に上った。この結果、2024年末時点の対内直接投資残高は1,017億リンギと総額の10.2%を占め、シンガポール、香港、米国に次ぐ第4位だった。統計局によれば、2024年の日本からの投資のうち、製造業は23.8%を占めた。

またMIDAによると、2024年の日本による製造業投資認可額は、90.8%減の9億3,796万リンギで、国・地域別では9位(前年6位)だった。日本の投資による推定雇用創出数は、全業種で2万8,464人(全体に占める割合:13.7%)、製造業では1,319人(同1.5%)だった(注3)。製造業の内訳をみると、全体の50.5%を占める輸送機器が、5.0倍の4億7,375万リンギだった。ダイハツ工業が出資するプロドゥアによる投資が大きく寄与したと見られる。これに、化学・同製品、プラスチック製品、食料品、石油製品が続いた。報道によれば、主な投資案件として、鉄鋼商社阪和興業による、金属シリコン・アルミニウム製品製造販売OMBテクノロジー(OMB Technology)のシリコン独占販売権取得(1,300万リンギ相当)や、長谷川香料による工場増設(1億9,600万リンギ相当)、不二製油による工場設立(5億リンギ)などがあった。非製造業でも、イオンによるジョホール州での店舗展開拡大や、同州におけるNTTデータによるデータセンター用地取得、同社による決済サービスプロバイダー、GHLシステムズ(GHL Systems)の株式取得案件などがあった。

ジェトロの日系企業調査によると、在マレーシア日系企業の48.9%が、今後1~2年の事業展開を拡大すると回答した。製造業では特に食料品や一般機械、化学・医薬、電気・電子機器で、非製造業では小売業や販売会社、不動産・賃貸業などで事業拡大意欲が高く、現地市場ニーズの拡大や輸出の増加を背景にマレーシアでの事業展開を積極化しようとしている。別途、マレーシア日本人商工会議所(JACTIM)とジェトロが共同実施した2025年度日系企業アンケート調査(調査期間2025年1月22日~2月21日、有効回答数200社、回答率36.0%)によれば、過去3年以内に新規進出した企業がマレーシアを選んだ理由として、市場規模(52.4%)や顧客(納入先)の集積(47.6%)を挙げる比率が圧倒的に高かった。今後の有望分野として、製造業では「高付加価値製造業」や「ハラール産業」、非製造業では「脱炭素分野」や「デジタルトランスフォーメーション」、「高齢化を見据えたヘルスケア分野」を挙げる割合が高く、マレーシア政府が近年注力する分野に可能性を感じる傾向が表れている。

他方、マレーシアにおける競争環境は5年前と比べ顕著に激化しており、ジェトロの日系企業調査において44.1%の企業が、競争相手の数が増加したと回答した。具体的な相手として地場企業を挙げる割合が69.5%、次いで日本企業が62.3%、中国企業が57.3%だった。製造業、中でも電気・電子産業において、中国企業が最も強い競争相手として認識されている。地場企業同士の強力なコネクションの存在や、中国企業に関しては価格面のみならず品質の向上も顕著であることから、日本企業にとっての競争環境が厳しさを増す状況が浮き彫りとなった。

こうした状況下、前記JACTIM・ジェトロ共同調査によれば、2024年下期の業況判断指数はマイナス11.5ポイントと、3期連続で改善するもマイナスが続いた。最低賃金の引き上げや財政健全化を目的とした増税、補助金見直しによるコスト増が見込まれることから、先行きに不透明感が漂う。オペレーションにおける現状の課題としては、前年に続き従業員の賃金上昇を挙げる企業が76.4%と8割に迫った。特に、マレーシアでは最低賃金に関して2年ごとの改定が法定されており、2025年2月の引き上げも賃金上昇に大きく影響した。引き上げ幅は1,500リンギから1,700リンギ(13.3%)と、前回の上げ幅25.0%と比べると緩やかであったが、10年前(マレー半島部900リンギ)と比べて約2倍の賃金上昇は企業にとっては深刻なコスト増と捉えられている。これ以外では、為替レートの変化(リンギ安による原材料調達コストの高騰)や受注減といったビジネス環境上の変化、次いで高度人材の不足や質に課題を感じる企業が、とりわけ製造業に多く見られた。業種別の差異として、物流料金や電気代の上昇などコスト面の問題を訴える製造業が多い一方、非製造業では駐在員ビザ・就労許可手続きやライセンス・許認可で問題を抱える割合が相対的に多い。

従来、人材関連の課題が主たる投資リスクとして挙げられるマレーシアにおいて、前記共同調査によれば、人材確保に向けた対策では、全体として、昇給・昇格、職場環境改善、福利厚生の改善、各種手当の充当といった取り組みが多くの企業でなされており、採用時よりも採用後の定着率向上や人件費抑制に重きを置く傾向が強い。また、製造業では機械化・自動化の推進、非製造業では現地化推進による駐在員削減も広く取り入れられている。インターンシップを採用する企業も日系企業の4割程度を占める中、マレーシア政府は2025年1月、外国人を雇用する企業に対し、発給雇用パス1件につき最大3人の学生インターン採用を有給で義務付ける「1:3ポリシー」の試験導入を発表した。人材不足への根本的な解消に繋がらないとする産業界からの反発も出る中、2026年以降の本格実施が予定されている。製造業企業においてはこのほか、外国人労働者の新規枠凍結が人手不足に拍車をかける状況が長期化している。2025年中にも導入が予定される、外国人雇用比率に応じて税率を調整する多層型人頭税については、55.0%の企業が更なるコスト増を懸念し、政府に対しては産業界からの十分なヒアリングや、適切な猶予期間をもった告知を求める声が上がっている。

(注3)
2024年の製造業投資認可額が多い国は、例えば中国が1万5,550人、香港が1万209人、シンガポールが7,211人など。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2022年 2023年 2024年
実質GDP成長率 (%) 8.9 3.6 5.1
1人当たりGDP (米ドル) 12,483 12,091 12,541
消費者物価上昇率 (%) 3.0 3.0 1.8
失業率 (%) 3.9 3.4 3.3
貿易収支 (100万リンギ) 256,198 215,155 136,841
経常収支 (100万リンギ) 57,223 28,203 32,799
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 112,393 110,885 112,968
対外債務残高(グロス) (100万リンギ) 1,145,691 1,242,555 1,345,381
為替レート (1米ドルにつき、リンギ、期中平均) 4.40 4.56 4.58

〔注〕
実質GDP成長率:2015年基準
消費者物価上昇率:2010年基準
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
〔出所〕
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率、貿易収支、経常収支:マレーシア統計局
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF
対外債務残高(グロス):マレーシア中央銀行