ミャンマーの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2021/22年度の実質GDP成長率は2.0%、前年の大幅マイナスからプラスに。
  • 2022年の貿易は輸出入額ともに増加。自国通貨の下落とエネルギー価格の上昇で、輸入が輸出を上回り貿易赤字に。
  • 2022/23年度の外国直接投資認可額(ティラワ経済特区を除く)は前年度比2.6倍。
  • 深刻な外貨不足に伴う各種金融規制措置の導入により、在ミャンマー企業の事業運営環境は厳しい。
  • ビジネス環境の悪化や消費者物価指数の継続的な上昇は、国民生活に大きな影響。

公開日:2023年11月24日

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マクロ経済 
2021/22年度実質GDP成長率はプラス2.0% と微増

国際通貨基金(IMF)によると、2021/22年度(注1)(2021年10月~2022年9月)のミャンマーの実質GDP成長率は2.0%増であった。17.9%減となった前年度からプラス成長に転じた。新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大や、2021年2月の国軍による政権掌握(以下、政変)による影響で低迷していた経済が2020/21年度に底を打ち、ひと段落した結果と考えられる。IMFは、2022/23年度の成長率を2.6%、また2024/25年度まで継続して2.5~2.6%程度と予想している。しかし、外貨の不足と外国直接投資の流入低迷、その背景にある非常事態宣言はなお継続しており、2010年から2019年まで続いた5%以上の高成長回帰への道のりは遠く、引き続き厳しい情勢が続くと予想されている。

ミャンマーの消費者物価指数(CPI)上昇率は2021/22年度(2021年10月~2022年9月)が16.2%となり、前年度の3.6%から大きく増加した。特に、燃料をはじめとした輸入品価格の上昇が国民生活に大きな影響を与えている。CPI上昇率が2桁を超えたのは2008年以来で、2022/23年度も14.2%と2桁の上昇が続くと予測されている。

ミャンマーでは、新型コロナの感染拡大で減少した観光客が、その後の政変の影響によって回復の見込みが立っていない。ただ、各国の入国規制が緩和されたことや、ミャンマー国内での雇用情勢が経済低迷によって悪化していることもあり、外国への出稼ぎ労働者の派遣が増加し、海外からの送金増は期待される。しかし、政変以降、諸外国や国際機関からの援助停止、外国企業による新規投資の低迷により、国内の外貨不足は深刻となっている。こうした深刻な外貨不足に対応するために、ミャンマーでは、輸入時の輸入ライセンス取得を義務付ける品目の断続的な拡大(2021年11月以降)、輸入ライセンスの有効期間の短縮(2022年7月以降)など厳しい輸入制限が実施されている。また、輸出で得た外貨収入についても、2022年4月から強制的な現地通貨への兌換が開始された。この点、2022年4月に施行された規制では、外貨収入の100%を現地通貨へ兌換することが求められたが、同年8月以降は外貨の65%を現地通貨に(35%は外貨保有可)、2023年7月以降は50%の兌換(50%は外貨保有可)と、一部外貨保有が認められてきている。しかし、引き続き厳しい外貨管理が行われている。これらの制限措置により、原材料などの輸入調達ができず、ミャンマーでの生産活動に支障が生じているケースもある。

貿易 
鉱物性燃料の輸入が大幅に増加し、貿易赤字に転じる

2022年の輸出額(通関ベース)は前年比12.8%増の170億8,500万ドル、輸入は21.5%増の174億300万ドルと、ともに前年を上回った。輸出では、主力品目の天然ガスと衣類などが大幅に回復した。一方、輸入では、輸入総額の30.0%を占める鉱物性燃料(天然ガス、石油)が国際的なエネルギー価格の高騰によって大幅に増加した。結果、貿易収支は2021年の8億2,300万ドルの黒字から、2022年は3億1,800万ドルの赤字に転じた。

表1-1 ミャンマーの主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料(天然ガス、石油)(27) 3,207 4,014 23.5 25.2
衣類・付属品(布帛製品)(62) 2,495 3,577 20.9 43.4
衣類・付属品(ニット製品)(61) 1,388 1,984 11.6 42.9
食用の野菜・根など(07) 1,467 1,569 9.2 7.0
穀物(10) 1,290 1,448 8.5 12.2
魚介類(03) 730 731 4.3 0.1
履物(64) 382 617 3.6 61.5
ゴム及びその製品(40) 466 448 2.6 △ 3.9
革製製品(42) 277 300 1.8 8.3
食用の果実およびナッツなど(08) 452 271 1.6 △ 40.0
合計(その他含む) 15,145 17,085 100.0 12.8

〔注〕品目欄の括弧内数値はHSコード。
〔出所〕グローバルトレードアトラスより作成

表1-2 ミャンマーの主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料(天然ガス、石油)(27) 2,903 5,219 30.0 79.8
一般機械・部品 (84) 1,210 897 5.2 △ 25.9
人造繊維の短繊維・織物 (55) 714 789 4.5 10.5
動物性または植物性油脂 (15) 919 718 4.1 △ 21.9
プラスチック製品(39) 614 684 3.9 11.4
電気機械 (85) 721 672 3.9 △ 6.8
鉄鋼 (72) 529 666 3.8 25.9
医療用品(30) 533 604 3.5 13.3
肥料(31) 389 587 3.4 50.9
人造繊維の長繊維並びに人造繊維の織物及び人造繊維製品(54) 177 522 3.0 194.9
合計(その他含む) 14,322 17,403 100.0 21.5

〔注〕品目欄の括弧内数値はHSコード。
〔出所〕グローバルトレードアトラスより作成

輸出を品目別にみると、1位は引き続き鉱物性燃料(天然ガス、石油)で、前年比25.2%増の40億1,400万ドルとなった。輸出先の99.2%をタイと中国が占めており、両国向けの天然ガスと考えられる。2位は衣類・付属品(布帛製品)で、43.4%増の35億7,700万ドルとなった。ミャンマーでは、縫製業を中心に原材料を外国から免税で調達し、安価な労働力を活用して加工し輸出する、CMP(Cutting, Making and Packing)と呼ばれる委託加工業が盛んである。また、3位の衣類・付属品(ニット製品)も42.9%増の19億8400万ドル、履物(61.5%増、6億1,700万ドル)なども急増した。世界経済の新型コロナ禍からの回復に伴う需要増で、縫製品の主要輸出先であるEU、日本向けで過去最高額を記録した。

輸入では、輸出と同様、1位は鉱物性燃料(天然ガス、石油)で、前年比79.8%増の52億1,900万ドルであった。エネルギー価格の高騰によって、政府の輸入抑制政策の効果を打ち消す結果となっている。

表2‐1 ミャンマーの主要国・地域別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
タイ 3,493 3,848 22.5 10.2
中国 4,471 3,687 21.6 △ 17.5
日本 908 1,212 7.1 33.5
インド 858 900 5.3 4.9
米国 593 761 4.5 28.3
ドイツ 456 680 4.0 49.1
英国 393 623 3.6 58.5
スペイン 425 622 3.6 46.4
オランダ 379 543 3.2 43.3
ポーランド 277 470 2.8 69.7
合計(その他含む) 15,145 17,085 100.0 12.8

〔出所〕グローバルトレードアトラスより作成

表2‐2 ミャンマーの主要国・地域別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 4,206 5,587 32.1 32.8
シンガポール 2,739 4,322 24.8 57.8
タイ 2,068 2,154 12.4 4.2
マレーシア 853 1,140 6.6 33.6
インドネシア 1,205 1,038 6.0 △ 13.9
インド 574 562 3.2 △ 2.1
ベトナム 337 395 2.3 17.2
日本 300 277 1.6 △ 7.7
韓国 304 274 1.6 △ 9.9
UAE 151 181 1.0 19.9
合計(その他含む) 14,322 17,403 100.0 21.5

〔出所〕グローバルトレードアトラスより作成

国・地域別でみると、輸出では前年1位の中国が17.5%減少(36億8,700万ドル)したのに対して、前年2位のタイが10.2%増加(38億4,800万ドル)したため、両国の順位が逆転した。国境を接する両国がミャンマーの二大輸出相手国となっているが、新型コロナの収束後、早期に国境貿易を再開したタイ(2021年9月~)と、ゼロコロナ政策により国境再開が遅れた中国(2022年2月~)との違いなどが貿易の伸びに表れたと考えられる。3位は前年に続き日本だった。タイ、中国、日本への輸出は輸出総額の51.2%を占めた。一方、輸入は、前年に引き続き中国(32.8%増、55億8,700万ドル)、シンガポール(57.8%増、43億2,200万ドル)、タイ(4.2%増、21億5,400万ドル)が上位3カ国で、全体の69.3%を占めた。

対内直接投資 
2022/23年度の対内直接投資認可額、前年度比大幅増

2021年2月の国軍による政権掌握(以下、政変)は、外国企業のミャンマーへの投資マインドを冷え込ませた。ミャンマー投資企業管理局(DICA)が発表した2022/23年度(2022年4月~2023年3月)の統計によると、対内直接投資認可額(ティラワ経済特区を除く)は前年度比2.6倍の16億4,066万ドルと大幅に増加した。政変前の2020/21年度(2020年10月~2021年9月(注2))の投資認可額(37億9,100万ドル)と比べると56.7%と大幅減少だった。

国・地域別にみると、投資認可額の上位3カ国・地域は、シンガポール(11億5,874万ドル)、香港(1億6,956万ドル)、中国(1億2,116万ドル)だった。4位はタイで9,835万ドルだった。シンガポールは投資認可額全体の70.6%と圧倒的に大きく、同国を含む上位3カ国・地域の投資認可額合計は全体の88.4%を占めた。

業種別にみると、電力セクターが8億2,027万ドル(認可件数11件)で1位となった。2位は「その他サービス業」(注3)が5億412万ドル(5件)、3位は製造業で2億7,180万ドル(64件)、4位は不動産開発で2,900万ドル(1件)となった。製造業は投資認可件数の73.6%を占め、最多であった。

表3 ミャンマーの国・地域別対内直接投資[認可ベース](単位:件、100万ドル、%)
国・地域 2021/2022年度
(2021/10~2022/3)
2022/2023年度
(2022/4~2023/3)
件数 金額 件数 金額 構成比
シンガポール 2 297 17 1,159 70.6
香港 9 104 13 170 10.4
中国 27 142 43 121 7.4
タイ 0 7 2 98 6.0
韓国 4 63 5 53 3.2
日本 1 5 1 21 1.3
台湾 1 9 2 4 0.2
サモア 0 2 1 2 0.1
ベリーズ 0 0 1 2 0.1
英国 0 0 1 2 0.1
ベトナム 0 0 1 0 0.0
合計(その他含む) 49 642 87 1,641 100.0

〔注1〕 ティワラ経済特区への投資は含まれない。
〔注2〕 ミャンマーの会計年度は10月~翌年9月だったが、2021/2022年度の6カ月間(10月~翌年3月)を移行期間として、2022/2023年度から4月~翌年3月までを会計年度とする変更が行われた。
〔注3〕 追加投資は件数にカウントされず、金額のみ計上されている。
〔出所〕 ミャンマー投資企業管理局

表4 ミャンマーの業種別対内直接投資[認可ベース](単位:件数、100万ドル、%)
国・地域 2021/2022年度
(2021/10~2022/3)
2022/2023年度
(2022/4~2023/3)
件数 金額 件数 金額 構成比
電力 1 21 11 820 50.0
その他サービス 3 220 5 504 30.7
製造業 40 203 64 272 16.6
不動産開発 0 39 1 29 1.8
鉱業 0 0 1 7 0.4
農業 1 0 2 4 0.2
ホテル・観光業 1 30 2 3 0.2
畜産・水産業 2 19 1 2 0.1
建設 1 65 0 0 0.0
運輸・通信 0 46 0 0 0.0
合計(その他含む) 49 642 87 1,641 100.0

〔注1〕 ティワラ経済特区への投資は含まれない。
〔注2〕 ミャンマーの会計年度は10月~翌年9月だったが、2021/2022年度の6カ月間(10月~翌年3月)を移行期間として、2022/2023年度から4月~翌年3月までを会計年度とする変更が行われた。
〔注3〕追加投資は件数にカウントされず、金額のみ計上されている。
〔出所〕ミャンマー投資企業管理局

投資環境 
ドルを中心とした外貨流動性が回復せず

2021年2月の政変以降、米ドルと現地通貨チャットの流動性が著しく低下している。ミャンマー政府は2021年8月以降、ドル高・チャット安に歯止めをかけるために管理変動相場制を採用している。市中の銀行や両替商は、中央銀行が公表する参考レートから、上下0.3%以内の為替レートでの取引が義務付けられている。しかし、実態は市中の両替商が提示する実勢レートと中央銀行の参考レートは乖離している。

具体的には、中央銀行は2022年4月より参考レートを1ドル=1,850チャットに固定するも、8月8日から2,100チャットに切り下げた。また、2023年6月22日より開始された、民間銀行を通じた外貨取引を中央銀行に報告・承認するオンライン取引の仕組みでは、レートが1ドル=2,920チャット程度に設定された。これに伴い、市中の両替商が提示する実勢レートは、1ドル=2,900チャット前後で推移してきたが、同年6月下旬以降、3,000チャットを超えるレートで推移している(2023年7月時点)。

対日関係 
対日貿易、5年連続で黒字を維持

2022年のミャンマーの対日輸出は12億1,200万ドル(前年比33.5%増)と大きく回復した。輸入は2億7,700万ドル(7.7%減)と2年続けて減少した。結果、対日貿易黒字額は9億3,500万ドル(前年比53.8%増)で、5年連続黒字を維持した。品目別でみると、輸出は、衣類・附属品と履物が10億6,000万ドルで全体の87.5%(43.2%増)を占めた。輸入は1位の電気機械が5,000万ドル(15.8%減)、2位の鉄道用機関車・車両が4,100万ドル(6倍)、3位の一般機械(建設機械など)が3,200万ドル(15.0%減)となった。前年1位だった輸送機械は、政府の輸入抑制政策で完成車の輸入が認められないなどの影響を受け、1,500万ドル(76.8%減)と大幅に減少し、5位に転落した。

不透明な政治・経済情勢の中で、進出日系企業の多くは様子見の姿勢を継続しているとみられる。ジェトロが実施した「2022年度海外進出日系企業実態調査」(2022年8~9月実施)によれば、現地日系企業の51.1%が今後1~2年の事業展開について、「拡大」と回答した企業の割合は11.7%、「現状維持」が51.1%となり、全体の62.9%が拡大または現状維持と回答した。「縮小」は30.9%、「第三国(地域)へ移転・撤退」は6.4%であった。しかし、2021年2月に発出された非常事態宣言が、2023年8月に4回目の延長となり、事業環境の先行き不透明感は今後も長期化すると想定されることから、ミャンマーでのビジネスを停止、中断する企業も出ている。今後もミャンマー国内経済およびビジネス環境を巡る動向は、予断を許さない厳しい状況が継続していくとみられる。

(注1)ミャンマーの会計年度は4月から翌3月だが、IMFのデータは年度の対象期間を10月から翌9月としている。
(注2)ミャンマーの会計年度は2020/21年度は10~9月だったが、2021年10月~2022年3月の移行期を経て、その後4月~3月に変更された。
(注3)運輸通信、ホテル・レストラン、不動産、工業団地を除く

基礎的経済指標

人口
5,797万人(2023年)
面積
67万6,578平方キロメートル
1人当たりGDP
1,053米ドル(2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2019/20年度 2020/21年度 2021/22年度
実質GDP成長率 (%) 3.2 △17.9 2.0
消費者物価上昇率 (%) 5.7 3.6 16.2
失業率 (%) 11.5 n.a. n.a.
貿易収支 (100万米ドル) △1,035 823 △318
経常収支 (100万米ドル) △2,749 △836 △96
外貨準備高 (100万米ドル) 7,228 n.a. n.a.
対外債務残高 (100万米ドル) n.a. n.a. n.a.
為替レート (1米ドルにつき、チャット、年平均) 1,381 n.a. n.a.

注:
ミャンマーの会計年度は4月から翌3月だが、IMFのデータは年度の対象期間を10月から翌9月としている。
人口、1人当たりGDP :推計値
実質GDP成長率、経常収支:2021年および2022年は推計値。
貿易収支:対象期間は1~12月、通関ベース。
出所:
人口:米国中央情報局
面積:ミャンマー中央統計局
1人当たりGDP 、実質GDP成長率 、消費者物価上昇率、失業率、経常収支、外貨準備高、対外債務残高、為替レート:IMF
貿易収支:グローバルトレードアトラス