知的財産情報(知財関連法律改正の動き) 【法案提出】特許法の一部改正法律案(議案番号:2210890)
2025年06月17日
議案番号:2210890
提案日:2025年6月17日
提案者:ソン・ジェボン議員(共に民主党)外13人
提案理由
現行法では、特許権者及び専用実施権者の権利保護のために差止請求権、損害賠償請求権及び資料提出命令制度等様々な手段を設けている。しかし、特許権にかかる侵害訴訟において侵害行為の立証及び損害額の算定に関する証拠資料は一般的に侵害者が保有することが多く、それを棄損して侵害訴訟において証拠として活用できないようにすることがあるため、権利者は侵害に関する証拠の確保や被害の立証が難しい現状である。
反面、米国では証拠開示制度(Discovery)及び証言録取(Deposition)制度により、侵害事実及び損害額の立証に関する証拠を効果的に確保できるように定めており、ドイツは専門家調査制度(Inspection)を設けて裁判所が指定する専門家が侵害立証又は損害額の算定に必要な証拠について調査するように定めていることから、これらを参考にして証拠確保のための手続きを設ける必要があるとの意見が提起されている。
従って、証拠調査及び証拠保全制度を導入することで、技術紛争に関する実体的真実を確保することにより、特許権者及び専用実施権者の権利保護を強化し、紛争の迅速な解決を図る目的である。
主要内容
- 特許権又は専用実施権にかかる侵害訴訟において侵害の証明又は侵害による損害額の算定に必要な証拠等を専門家に対し調査できるようにする(案第128条の3の新設)。
- 特許権又は専用実施権にかかる侵害訴訟において必要な証拠を予め保全できるようにする(案第128条の5の新設)。
- 特許権又は専用実施権にかかる侵害訴訟において当事者が関連事実や資料の検証のために当事者を含む者を相互で尋問できるようにし、その手続きを定める(案第128条の6の新設)。
- 特許権又は専用実施権にかかる侵害訴訟において当事者相互間による尋問の円滑な進行のために法院が当事者に対し弁護士を選任するよう命ずることができるようにし、これに応じない場合は尋問許容の決定を取り消すか、若しくは、制裁を科すことができる(案第128条の7の新設)。
- 特許権又は専用実施権にかかる侵害訴訟においての秘密保持義務を強化・補完する(案第225条の2の新設等)。
- 当事者が陳述人の場合(法定代理人が陳述人の場合を含む。以下、同一):嘘の陳述に対する制裁
- 当事者ではない第三者が陳述人の場合:偽証の罪 5.その他法官が第1項の尋問に関して告示が必要だと認めた事項
特許法の一部改正法律案
特許法の一部を次のように改正する。
第128条の3から第128条の7までをそれぞれ次のように新設する。
第14条の8(専門家による証拠調査)①法院は特許権又は専用実施権にかかる侵害訴訟において侵害の証明又は侵害による損害額の算定に必要だと認める場合には職権又は当事者の申請により次の各号の事項を考慮して調査する証拠と関連する分野の専門家(以下、「専門家」とする)を指定し、その専門家に対し相手側当事者の事務室、工場及びその他の場所に出入りして調査を受ける当事者等に質問をするか、資料の閲覧・複写、装置の作動・計測・実験等必要な調査をするよう決定できる。この場合、法院は訴訟関係を明確にするか調査手続を円滑に行うために職権により専門家を訴訟手続きに参加させることができ、専門的な知識を要する訴訟手続きにおいて専門家は裁判長の許可を得て当事者、証人又は鑑定人等訴訟関係者に質問をすることができる。
1.相手側の当事者が特許権又は専用実施権を侵害している相当な可能性があるか否か
2.調査の必要性に比べて相手側の当事者に過度な負担を与えるか否か
3.当事者が他の手段で証拠を容易に収集できるか否か
4.損害賠償請求が不適法であるか理由がないことが明確であるかどうか
②法院は技術の難易度・複雑性を考慮して次の各号のいずれかに該当する者のうち1名以上を第1項に基づく専門家に指定できる。
1.「法院組織法」第54条の2・第54条の3に基づく技術審理官若しくは調査官
2.「民事訴訟法」第164条の2又は同法第154条の2に基づく専門審理委員
3.「弁護士法」第4条に基づく弁護士の資格を有する者
4.「弁理士法」第3条に基づく弁理士の資格を有する者
5.その他大法院規則で定める者
③法院は第1項に基づく調査の決定の前に弁論準備期日を指定して当事者及び相手側の当事者に対し技術の説明又は意見を陳述する機会を与え、必要な場合はその具体的な範囲を定めて相手側の代理人又は相手側当事者の代理人に対し専門家による調査の全部又は一部への参加を許可することができる。
④第1項に基づき指定された専門家は法院が指定した期日内に調査結果を記載した報告書(以下、「調査結果報告書」とする)を法院に提出しなければならない。この場合、専門家は調査により知った事実を秘密として保持しなければならない。
⑤法院は調査を受けた相手側の当事者に対し第4項の調査結果報告書を優先して閲覧させなければならない。この場合、調査を受けた相手側の当事者が訴訟の対象ではない営業秘密が調査結果報告書に含まれていることを主張する際にはその主張の当否について判断するために資料の提示を命ずることができる。
⑥法院は第5項に基づき資料の提示を命ずる場合、その資料を他の者に見せてはならない。
⑦第5項後段に基づき相手側の当事者が訴訟の対象ではない提出の対象になる資料に該当するとしても、調査結果報告書上の営業秘密を主張する内容が損害の証明又は損害額の算定に必ず必要な場合に法院は目的を超えない範囲で閲覧できる範囲又は閲覧できる者を指定しなければならない。
⑧法院は第5項に基づく相手側の当事者の主張が妥当だと認められれば、侵害の証明若しくは損害額の算定に必ず必要ではない営業秘密に関する内容を調査結果報告書から削除して提出することを専門家に命じなければならない。この場合、法院は申請人に対しその削除の趣旨を知らせ、該当の内容に関する証拠を確保する必要性について意見を陳述する機会をも与えなければならない。
⑨当事者は第4項から第8項までに基づく手続きを経て提出された調査結果報告書を閲覧・謄写して証拠として申請することができる。但し、法院が第7項に基づき調査結果報告書を閲覧できる者を指定した場合にはその者に限り調査結果報告書を閲覧できる。
⑩第1項に基づき調査を受ける相手側の当事者は専門家が要請する資料を提供しない等、調査を拒否・妨害又は忌避してはならず、調査に誠実に協調しなければならない。この場合、相手側の当事者が第1項に基づく調査を拒否・妨害又は忌避した際には法院は資料の記載により証明しようとする事実に関する相手側の主張を真実なものだと認めることができる。
⑪法院は必要な場合、第1項に基づく調査を申請した当事者に対し担保額と担保提供期間を決めて担保を提供するよう命ずることができ、当事者がそれに従わない際にはその調査申請を却下できる。この場合、その担保に関しては「民事訴訟法」第122条、第123条、第125条及び第126条を準用する。
⑫法院は調査の対象・方法・範囲・手続き及び期間を具体的に特定しなければならず、その他第1項に基づく調査の範囲及び手続等に必要な事項は大法院規則で定める。
⑬第1項に基づく調査は「民事訴訟法」の証拠保全手続きにも活用できる。
⑭第1項に基づく調査を命ずる法院の決定に対し異議を申し立てることができる。この場合、異議申立に関する法院の決定については独立して不服することができない。
⑮第1項に基づく調査にかかる費用は訴訟費用の一部とする。
第128条の4(専門家の除斥等)①第128条の3第2項に基づき法院により指定された専門家に「民事訴訟法」第41条から第45条まで及び第47条を準用する。
②除斥又は忌避の申請を受けた専門家はその申請にかかる決定が確定するまでその申請のあった事件の訴訟手続きには参加することができない。この場合、専門家は当該の除斥又は忌避の申請について意見を陳述できる。
第128条の5(資料保全命令及びその効果)①法院は特許権又は専用実施権の侵害にかかる訴訟が提起されたか、提起されることが合理的に予想され、次の各号の事由を疎明する場合は当事者の申請により、侵害の証明又は侵害による損害額の算定に必要な資料を占有、管理、保管する者がそれを棄損するか、若しくは、使用できなくさせることがないよう、1年の範囲で期間を定めて資料保全を命ずることができる。法院は必要な場合、大法院規則で定めるところによりその期限を延長することができる。
1.資料保全命令の対象になる資料を特定するに十分な事実
2.資料保全を命じなければ申請人に回復できない損害が発生し得る恐れがあるとの事実
3.必要な証拠を予め保全しなければその証拠を確保することが難しい事情
②当事者が第1項に基づく資料保全命令を申請する場合には次の各号の事項を明かさなければならない。
1.資料を占有、管理、保管する者
2.証明する事実
3.保全しようとする資料
4.資料保全の事由
③法院は第1項に基づく資料保全命令に先立ち、資料を占有、管理、保管する者に対し意見を陳述できる機会を与えることができる。
④法院は必要な場合、第1項の資料保全命令を申請した当事者に対し担保額と担保提供の期間を決めて担保を提供するよう命ずることができ、当事者がそれに従わない際にはその申請を却下することができる。この場合、担保に関しては「民事訴訟法」第122条、第123条、第125条及び第126条を準用する。
⑤資料を占有、管理又は保管する者が第1項の資料保全命令に従わない際には法院は資料の記載により証明しようとする事実に関する当事者の主張を真実なものだと認めることができる。
⑥相手側の当事者は第1項の資料保全命令の対象になった資料を電子的形態で管理しており、業務上の理由等によりその資料を更新する必要がある場合、法院の許可を得てその命令が下された際の現状通りその資料の写本を作成して法院に提出後、その資料を更新することができる。
⑦資料保全を命ずる法院の裁判に対して異議を申し立てることができる。異議申立に対する法院の決定については独立して不服することができない。
⑧第1項に基づく訴訟が提起される前に資料保全命令があった後にも当事者が本案の訴を提起しない場合、法院は相手側の申請により相当な期間を決めて当事者に本案の訴を提起してそれを証明する書類を提出するよう命じなければならない。
⑨当事者が正当な事由なしに第8項に基づく法院の命令に従わない場合、法院は職権又は相手側の申請による決定で資料保全命令を取り消し、相手側に対し資料保全命令にかかる費用を負担するよう命ずることができる。
⑩第9項の決定に対して即時抗告することができる。
⑪第1項の管轄法院に関しては「民事訴訟法」第376条を準用する。
第128条の6(当事者による尋問等)①法院は特許権又は専用実施権にかかる侵害訴訟において当事者の申請による決定により両当事者に対し訴訟上の攻撃又は防御方法に関連する事実や資料の検証に必要な者(当事者を含む)を対象に陳述人の数、範囲、方法及び場所を決めて相互間で尋問させることができる。この場合、次の各号の事項を考慮しなければならない。
1.相手側の当事者に過度な負担をかけるか否か
2.資料や当事者が主張する事実の検証又は資料の保全のために必要な事項であるか否か
②法院は第1項に基づく尋問に関連して陳述人の数、範囲、方法及び場所等を決めるために必要な場合弁論準備期日を指定することができる。
③法院は第1項に基づき両当事者に対し尋問をさせる場合、次の各号のいずれかに該当する者(以下、同条において「法院事務官等」とする)に対し陳述人による陳述を録音装置又は映像録画装置を使用して録音又は映像録画をさせなければならない。
1.法院書記官・法院事務官・法院主事又は法院主事補
2.「公証人法」第1条の2第1号に基づく公証人
3.第1号又は第2号で定める者に準ずる者として第1項の尋問に関する業務を遂行する上で適合した者
④法院事務官等は陳述人に対し第1項に基づく尋問に先立ち宣誓をさせなければならず、宣誓の前に次の各号の事項について告示しなければならない。但し、特別な事由がある際には尋問後に宣誓をさせることができる。
1.事件番号及び事件名
2.法院事務官等の氏名
3.宣誓の義務及び趣旨
4.次の事項についての警告
⑤法院事務官等は第1項に基づく尋問の完了後、滞りなく次の各号の事項について記載された書面である陳述手続要約書を作成して法院に提出しなければならない。
1.事件の表示
2.法院事務官等の氏名
3.出席した当事者・代理人・通訳と、出席しなかった当事者の氏名
4.尋問の期日及び場所
5.陳述人の個人情報
6.尋問の内容、方法及び手続きに関する当事者の異議の要旨
7.陳述拒否及び宣誓拒否があった際にはその内容の要旨
8.宣誓をさせてなく、当事者ではない陳述人を尋問した場合はその要旨
9.その他尋問の進行経過を確認するために必要な事項
⑥第1項に基づく尋問の進行中、尋問の内容、方法及び手続き等に関して異議のある当事者は異議内容を明確に陳述する方法で異議を申し立てることができ、法院事務官等はその異議の要旨について陳述手続要約書に記載しなければならない。相手側が相当ではない方法で陳述人又は当事者をいじめるか陳述を強要する際には陳述人又は当事者は法院に対し尋問手続きの終了又は中止を申請することができ、それに対する決定があるまで尋問は中止される。
⑦両当事者は第3項に基づき録音又は映像録画された陳述人に対する尋問内容の中で必要な部分を特定して録音物又は映像録画物とそれに関する録取書を証拠として提出することができる。法院は必要だと認める場合には、当事者に尋問の内容全体を記録した録音物又は映像録画物とそれに関する録取書を提出するよう命ずることができる。
⑧両当事者の中で片方が第1項に基づく尋問手続きを妨害した際には法院は職権又は当事者の申請により次の各号のうち一つ以上の制裁を科すことができる。
1.陳述人が陳述する内容に対する相手側の当事者の主張を真実なものだと認めること
2.陳述人が陳述する内容について具体的に主張することが顕著に困難であり、陳述人により証明する事実について他の証拠で証明することを期待することが難しい事情を疎明した場合には証明する事実に関する相手側の当事者による主張を真実なものだと認めること
3.敗訴判決
4.訴訟費用の全部又は一部の負担
5.1千万ウォン以下の過料の賦課
⑨同法に特別な規定がある場合を除き、当事者ではない陳述人を第1項に基づき尋問する場合には「民事訴訟法」第303条から第309条まで、第311条、第312条、第314条、第315条、第321条から第324条まで、第327条第1項、第327条の2及び第328条の規定を、当事者である陳述人を第1項に基づき尋問する場合には第309条、第321条、第322条、第327条第1項、第327条の2、第369条及び第370条の規定を準用する。
⑩当事者ではない陳述人が陳述を拒否又は宣誓を拒否する場合、陳述人は拒否する理由を疎明しなければならない。この場合、当事者は法院に陳述拒否又は宣誓拒否に関する裁判を申請することができ、この裁判に関しては「民事訴訟法」第317条及び第318条を準用する。
⑪第4項により宣誓した当事者ではない陳述人は「刑法」第152条、第153条及び第155条の適用を受ける証人とする。
⑫第1項に基づく尋問に関してその他必要な事項は大法院規則で定める。
第128条の7(弁護士の選任命令)①法院は第128条の6第1項に基づく尋問の円滑な進行のために当事者が弁護士を訴訟代理人に選任する必要性が認められる場合、その当事者に期間を決めて弁護士を選任するよう命ずることができる。
②法院は当事者が第1項の規定に基づく命令を受けたにもかかわらず、決められた期間内に弁護士を選任しない場合は第128条の6第1項に基づく尋問を認める決定を取り消すことができる。
③法院は第128条の6第1項に基づく申請の相手側の当事者が第1項の規定に基づく命令を受けたにもかかわらず、正当な事由なしにそれに応じず、第128条の6第1項に基づく尋問が実施されなかった場合、第128条の6第8項に基づく制裁を科すことができる。
第225条の2を次のように新設する。
第225条の2(資料保全命令の違反罪)第128条の5第1項に基づく資料保全命令を違反して資料を故意に棄損するか使用できなくした者は5年以下の懲役又は1億ウォン以下の罰金に処する。
第226条の2第2項の中「専門審理委員は」を「次の各号のいずれかに該当する者は」に、「規定を」を「規定及び『公職者の利害衝突防止法』の規定を」に改め、同条に各号を次のように新設する。
1.第128条の3第2項に基づき指定された専門家の中で公務員ではない者
2.第128条の6第3項に基づき陳述人による陳述を調書に記載する者の中で公務員ではない者
3.第154条の2に基づき指定された専門審理委員
第227条第2項を第3項に改め、同条に第2項及び第4項をそれぞれ次のように新設する。
②同法に基づき宣誓した当事者ではない陳述人が嘘の陳述をした場合には5年以下の懲役又は1千万ウォン以下の罰金に処する。
④第2項に基づく罪を犯した陳述人が陳述した事件の裁判が確定される前に自白又は自首した場合にはその刑を減軽又は免除することができる。
第229条の2の題目の中「違反罪」を「等違反罪」に改め、同条第1項の中「秘密保持命令を」を「秘密保持命令及び第128条の3第4項後段に基づく秘密保持義務を」に改め、同条第2項を削除する。
第232条に第3項及び第4項をそれぞれ次のように新設する。
③正当な理由なしに第128条の3第10項を違反して調査を拒否・妨害又は忌避する場合法院は決定により次の各号の区分に基づく金額の過料を科す。
1.法人の場合:1億ウォン以下
2.法人の役員・従業員とその他利害関係人の場合:5千万ウォン以下
④第3項に基づく過料は大統領令で定めるところにより、法院が賦課・徴収する。附則
第1条(施行日)この法律は、公布後6か月が経過した日から施行する。
第2条(訴訟に関する適用例)第128条の3から第128条の7まで、第225条の2及び第232条第3項・第4項の改正規定は同法施行以降提起される訴訟に適用する。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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