知的財産情報(知財関連法律改正の動き) 特許法の一部改正法律案(議案番号:2107978)

2021年02月08日

議案番号:2107978

提案日:2021年2月8日

提案者:イ・ジュファン議員外14人

提案理由

特許侵害に対する損害賠償制度を運営する目的は、狭い意味では、単純に特許権者の損害を塡補することに意義があるが、広い意味では、特許権侵害を抑制して特許技術を適正な価格で取引する市場環境を造成ことで、産業のイノベーションと発展を導くためのものである。
ここ2年間、特許法には懲罰賠償制度の導入、損害額算定方式の改善(従前は権利者の生産能力限度以内の数量のみを損害額として認めていたものを侵害者が譲渡した全ての侵害品の数量に対して損害額算定が可能になるように損害額算定方式を大幅に改善)等、損害賠償制度の実効性を確保するための制度改善が行われた。
それにも関わらず、特許庁が実施した実態調査によると、訴訟経験のある企業の80%以上が 訴え提起前・後の証拠収集に困難を感じたと(2020年1月、特許庁)される等、侵害及び損害額算定に必要な証拠が侵害者に偏在されて訴訟が空転するという、根本的な問題点を解消できなかったと指摘されている。
一方、企業の立場からも、特許侵害訴訟のように紛争が発生することは、経営上のリスクが高まることであり、このような不確実性を迅速に除去し、経営の安定を図る必要がある。しかし、特許侵害訴訟の場合、侵害及び損害額算定に対する証拠収集が難しいため、大法院の判決を基準に訴訟期間が一般民事訴訟(平均2年4ヶ月)に比べて、平均8ヶ月以上かかり(2020年司法年鑑及び国家知識財産委員会の資料)、企業経営に負担として作用している。
したがって、特許権侵害を防止し、企業の訴訟費用や侵害の立証に対する負担を軽減する一方、終局的には、迅速に紛争が解決できるよう、特許権侵害訴訟制度を改善する必要がある。
米国の場合、当事者における相互間の証拠を幅広く交換する証拠開示(Discovery)制度の方法の中で代表的な手段として証言録取(Deposition)制度を運営している。これは、当事者間の提出された証拠に基づいて、必要な証人を選定し、法院ではない場所で両当事者の代理人が、法官の前でするのと同じく、証人を尋問する制度である。この制度は、両当事者に同じ攻撃の防御方法を提供して武器対等の原則を実現し、本案訴訟の前に重要な証人に対する尋問を通じて事件の争点と当事者間の訴訟上の有利・不利を明確にし、紛争の早期終結を誘導する肯定的な効果がある。実際に米国では、特許侵害訴訟が提起された事件の80%以上が証拠開示の過程で合意をし、終結されている。
そこで、米国の証言録取制度を参考にし、法院は当事者が裁判進行中に提出したか、又は提出すべき資料に記載された事実の真偽等を確認して証拠として使用するために必要な場合、指定した場所で必要な者を対象に、当事者が直接証人尋問を行い、それを法院の職員が録取、又は録画して証拠として活用できる制度を導入しようとするものである。これにより、企業の訴訟負担は軽減させ、法院の効率的な訴訟手続の進行を図ろうとするものである。

主要内容

  1. 特許権又は専用実施権の侵害訴訟手続が行われている中、当事者が提出すべき資料の滅失、毀損又は提出された資料に記載された事実の真偽を確認する必要がある場合、法院資料の検証に必要な対象者数、範囲、方法及び場所を指定して、当事者にとって証人尋問をすることができる根拠を設ける(案第128条の3新設)。
  2. 法院は資料提出命令をする前に、資料の範囲等に関して、当事者の協議が必要であると認められる場合、当事者の出席を命ずることができるように根拠規定を定め、制度の運営の効率性を図る(案第132条第6項新設)。
  3. 法院が決定した資料提出命令について独立して不服を申し立てることができないようにし、裁判の遅延等の副作用を解消する(案第132条第7項新設)。

  4. 法律第     号

    特許法の一部改正法律案

    特許法の一部を次のように改正する。
    第128条の3を次のように新設する。
    第128条の3(資料の検証等)①法院は、特許権又は専用実施権の侵害訴訟の証拠として使用するために、当事者が提出すべき資料の滅失、毀損又は提出された資料に記載された事実の真偽を確認する必要がある場合、職権又は当事者の申請により、両当事者にとって資料の検証に必要な者を対象に、証人数、範囲、方法及び場所を決めて、相互間の尋問を行うことができるようにする。この場合、次の各号の事項を考慮しなければならない。
    1. 裁判が遅延する恐れがあるかどうか
    2. 出席の困難な場合等を勘案して、ビデオ等の中継装置による尋問が必要かどうか
    3. その他の資料の検証又は補填のために必要な事項及びその範囲であるかどうか
    4. ②法院は、第1項の規定による尋問に関連して、証人数、範囲、方法及び場所等を決めるために必要な場合、期日を定めることができる。
      ③法院は、第1項の規定により、両当事者にとって尋問させる場合、法院書記官・法院事務官・法院主事又は法院主事補(以下この条では、「法院事務官等」という。)にとって、第1項により尋問した証人の陳述を調書に記載するようにしなければならない。この場合、法院事務官等は、証人の陳述を録音装置又は映像録画装置を使用して録音又は映像録画しなければならない。
      ④法院は、必要であると認める際には、法院事務官等に第3項の後段により録音又は映像録画された内容について録取書の作成を命ずることができる。
      ⑤法院事務官等は、第1項により尋問を受ける証人に証人宣誓をさせ、次の各号の事項を告知しなければならない。
      1. 法院事務官等の身分と勤務地
      2. 尋問期日及び場所
      3. 証人の個人情報
      4. 宣誓の義務
      5. 偽証に対する警告
      6. 証言拒否権
      7. その他、法官が第1項の証人尋問について告知が必要であると認めた事項
      8. ⑥第5項により証人宣誓をした証人の尋問は証人が法廷に出席して行われた証人尋問とみなす。
        ⑦第1項による証人尋問については、この法律に特別な規定がある場合を除いては、「民事訴訟法」第303条から第332条までの規定を準用する。
        ⑧第1項による尋問の方法及び手続き、費用の予納等に必要な事項は、大法院規則で定める。
        第132条第6項及び第7項をそれぞれ次のように新設する。
        ⑥法院は、第1項の申し立てに関連して、当事者の協議が必要であると認める場合には、期日を開いて当事者が出席するように命ずることができる。
        ⑦第1項について、相手方当事者は、独立して不服することができない。

        附     則

        この法律は、公布後6ヶ月が経過した日から施行する。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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